神様に出会う
無価値。それが俺の、自分自身の自己評価だ。
大学まで剣道で大学まではいったが、大学の授業をどんどんサボるようになり、何の資格も取らずに結局4年間で卒業できなくて中退。その現実に向き合えなくてニートに至る。
そして、現在俺の年齢は25歳だ。もちろんのこと今もニートだ。
自業自得だ。俺の周りの人間はそう思っているだろう。俺もそう思う。でももう、動く踏ん切りがつかなくなってしまった。
『生まれ変われたら』
現在はこのことを考えながら毎日眠るようになってしまった。
そして今日も
で今、真っ白な空間にいる。
「……ここは、夢か」
とりあえず何もなさ過ぎて怖いとか、そういう感情もわかず、ただ歩いてみることにした。だが
「やあ、こんにちは」
「なっ!?」
いきなり後ろから若い男の人の声が聞こえてきた。振り向いてみると、
「誰だ!? てか顔白すぎだろ!!」
「いいね。いいよ!つかみは完ぺきだよ!」
「……つかみってなんだよ!」
いま目の前には、髪も肌も真っ白な人間もどきがこちらに向かって元気そうにサムズアップしている。夢だからあり得るのかもしれないが、心の奥から一発ぶん殴ってやりたいような気持ちがこみ上げてくる。
「つかみって、そりゃあ……神だからね!当たり前なことだけど!」
やばい!! 「この人やばい。この人かなり頭おかしいぞ! かな? 高橋一成君」
「なっ!! なんでわかった!?」
「そりゃあ、神だからだよ。ちょっとめんどくさくなりそうだから、まずは僕のお話を聞いてほしいかな。」
「はぁ、まぁそういうならいくらでも」
なんだかわけがわからないが、話したいことがあるなら聞いてやることくらい親切心は出してもいいと思う。決して、ボッチだからではない!
「で、なんでしょう?」
「生まれ変われたら。そのお話をしに君をよんだんだよ。いわゆる転生ってやつだね。といっても理解はしづらいと思うからそういうものだと思ってください!」
やっぱり夢みたいだ。確信できる。だって、『転生』なんてありえない言葉が出るはずもないし、現状の説明がつかない。
なら、自称神様のお話を聞くのも楽しいかもしれない。
「……夢ではないんだけどな……それで、これからの説明をさせてもらうね」
「ん? 最初のほう何て言ったのか?」
「あぁ、大丈夫。それで君には転生をしてもらうことになるんだけど、いわゆる異世界転生ってやつだね。剣と魔法のファンタジーってやつ」
「ゲームの世界みたいなものか。じゃあ、ステータスとかはそんざいするのか?」
こうやって話していくと少なからず妄想が膨らんでくる。転生したらやっぱりハーレムだろ! と思うのは俺だけではないはずだ。
「そういうステータスみたいなものは存在しないよ。ただ、君の元々の世界とは全く違う仕組みでできていると考えてもらったほうがいい。訓練すれば筋力だけでなく、見えない力、それこそ隠れステータスみたいなものがプラスされるようになっているよ。見た目にも強さは出るけど、それと同じかそれ以上に、内に秘めた力を持っている者は大勢いるよ」
「それと、もうひとつ。君が今から転生する世界には『ギフト』といわれる特殊な力を持つ人も存在する。ちなみに、ギフトを2つ持つ人は存在しないよ」
「じゃあ俺は、神様からそのギフトを授けてもらえると?」
「僕が授けてあげるわけじゃないんだけど、ギフトを授かる可能性は100人に1にのところを、確定させてあげることぐらいかな」
やっぱりチートか!? これが転生の得点というやつか!? それを聞いてみるとやっぱりわくわくしてくる。
「わくわくしてるところ申し訳ないんだけど、チートではないんだよ。なぜなら、そんなものがあったらそれだけで人生のルートが決定づけられてしまう可能性があるからね。だから、サポート程度だと思っていたほうがいいよ」
「まじか、てことはチートはなしってことか!?」
それを聞いただけで、異世界転生の興味が薄れてくる。だってそれじゃあ、ハーレムを作るための下地がないじゃないか! キャッキャ、ウフフなこともできないじゃないか! それよりも、なんか目の前の人物が最初の時に比べて真剣な話し方になってきているような気がする。
「まぁ記憶はそのままだから、それだけでチートなところもあるし、スタートラインが通常より先みたいなものだし」
「確かに、おれくらいの凡人でも0からスタートっていうわけじゃないんだもんな」
「そういうこと。そしてこれからが重要な話になるよ。ほんとは何も伝えなくてもいいんだけど……」
そう言い放つと、自称神様は俺を指さす。まるでこれからが本番で、これは夢なんかじゃないかと伝えるように。
「これは、高橋一成君。君を使ってのテストみたいなものだ。異論は認められない。社会の歯車から外れたままになってしまった人間が、死という言葉が隣にあるような世界でどのように生きるのか。君の中で変化が起きるのか、そのままで死んでしまうのか」
「!!??」
声が出ない!? 明らかにおかしい! 口を開けても声が出ない。それも、さっきまでの軽い雰囲気はなく、裁判所で判決と言い渡されるかのような雰囲気が俺自身にまとわりついてるかのようだ。
「少しは理解が追い付いたようだね。でもそこまで心配しなくても大丈夫だよ。これは君を試すようなものではないし、干渉もすることはなく、神の干渉の実例になるだけだ。」
「では、実りある異世界転生を」
そして俺の意識は暗転した。いきなりすぎる。そのことしか頭に入らない。だってそうだろ。俺みたいに生きていくようになったやつはいないわけはないはずだ。たぶん。やばい、全く自信がない。
そして、落ち着いてきたら、悲しみが少しずつ込み上げてきた。両親に親孝行できなかった。ずいぶん迷惑をかけてきたことだろう。ほんとは俺の存在のせいでいやな思いも多かっただろう。いまさらだけど
ごめんなさい。謝るに謝れない気持がこみ上げてきて、僕は泣き声をあげた。
そう、僕は転生をした。
僕は泣いた。あの後もあの世界の未練を断ち切るかのように泣き続けた。