第98話
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「うーん、なかなか強固なプロテクトね・・・、じゃあ、最近開発した新プログラムで・・・。
よし・・・、やっぱり新バージョンのOSを使っているようね。
悪いけど基幹部分は、私の友達がプログラミングしたのよね。
だから、抜け道は知っているのよ。
これで何とか、アクセスできそうよ。」
レーナは嬉しそうに笑顔を見せる。
やがて、10分ほど経過して・・・
「やったわ・・・、侵入成功・・・、これをこうしておけば・・・。」
凄まじいスピードで、レーナの右手の指が左腕の上で動き始めた。
一緒にリズムでもとるかのように、左手の指も同じくらいのスピードで動いている様子だ。
両手を使って高速でプログラムをタイプしているのだろう。
「これでいいわよ、火器使用プログラムは、通常でも誤射を防ぐためにパスワード管理されて、緊急時に資格のあるものにしか操作できないようになっているのだけど、そのパスワードをより強固で複雑なものに取り換えておいたわ。
しかもソフト上ではなく、OS自体に組み込んでおいたから、パスワードなしでこれを解消するには、円盤の出力を止めなければならないので、着陸するしかなくなるし、再インストールと調整まで含めると、下手をすると何ヶ月もかかるようになるわ。」
レーナは自慢げに胸を張る。
「良かったわ、チビ恐竜人たちの科学力じゃ、どんな破壊兵器があるのか心配だったから、無効にできれば最高ね。
じゃあ、そろそろ逃げないと。
転送装置の使い方は分る?」
ミリンダが、公衆電話ボックスを一回り大きくしたような、箱型の装置の様子を探りながら尋ねる。
「大丈夫よ、こっちでコントロールできるようにしたから。」
レーナが右手で左腕をタッチすると、ミリンダの目の前のドアが開く。
「3人なら一度に入れるわよ。
転送先は、円盤内が10ヶ所とき・・・、基地が4ヶ所となっているわね。
特別避難先っていうのもあるわよ、どれにする?」
レーナが左腕上のキューブ状のスクリーンを見ながら問いかける。
「うーん、地上は基地って書かれている場所なんだと思うんだけど・・・、あたしが送られてきたのは、四角く切り出した石を積み重ねて作られたような形をしているロボットが居た場所だったわ。
チビ恐竜人を神とあがめる鬼がいて、小さなままだと、とてもあいつには敵わないから、別の場所がいいわね。」
ミリンダが、転送先を検討する。
「そうね、今聞いたような形のロボットがいる基地には、今も人影があるわね。
基地に誰かがいてはまずいんだったら・・・、誰もいない基地が1つだけあるわよ。
そこへ送ってあげるわ。」
レーナに促されて、ゴローとレオンと共に転送ボックスの中へ入ろうとするミリンダ。
「あっ、ちょっと待って、レーナさんたちはどうするの?」
突然思い出したかのようにミリンダが尋ねる。
「あたしたちは、もう少しこの部屋の中を調べたら、天空ホール内の基地へ戻るわよ。
急がないと、凍らせた兵士たちが目覚めるのもあるでしょうけど、それよりも勤務に出向かなくてはいけないものね。
交代制の勤務だから、遅れるとまずいのよ。」
レーナは、このまま戻ることが当然のことのように答える。
「だめよ、あなたたちは包囲した兵士たちに顔を見られて身元も明らかにされてしまったんだから、逃げなくちゃ捕まっちゃうでしょ?
それとも、口封じで兵士たちをどうにかしてしまうつもり?」
ミリンダが、あきれた様子で、センティアとレーナの顔をまじまじと見つめる。
「あ・・・ああ、そうか・・・、彼らには名前まで知られていたんだよね。
まさか、彼らを傷つけるわけにはいかないし、あれだけの人数を我々の仲間で拘束し続けるなんて不可能だ。
第一、彼らを天空ホールまで連れて行く間に見つかってしまうよ。
どうしようか・・・、逃げるって言っても・・・、一体どこへ?
円盤の中では、場所は限られているから、逃げるにしても限界があるよ。
食料は配給制だから、隠れて過ごすにしても、食事でばれてしまうよね、かといって食べなくては死んでしまうし・・・。」
ミリンダに指摘されて、センティアがようやく状況を理解する。
「一緒に逃げましょう、地上へ行けば何とかなるわ。
なにせ、ミライさんたちと同じ種族な訳でしょ?
同胞同士、歓迎してくれるわよ。」
ミリンダが笑顔で答える。
「うーん、困ったわね・・・。ミリンダちゃんの映像も、定期的に発信経路を切り替えなければ、すぐに取り押さえられてしまうし・・・、かといって逃げなければ捕まってしまう。
どうしようか・・・、ちょっと連絡を取ってみるわね・・・。」
レーナはそう言いながら、左腕の上に映し出される映像を切り替え、何かを話しはじめた。
「父さんも、ミリンダちゃんと同意見の様ね。
身元がばれてしまったなら、ここへは戻って来るなって言っているわ。
かえって仲間を危険にさらすからって・・・。
自分たちだけなら、娘たちは馬鹿な事をしたもんだって、とぼけるって言っているわ。
まあ、そうしておけば、証拠はないんだし、警察もおいそれと手は出せないはずね。
なにせ父さんは、特級の農業指導者だから。
仕方がないわね、私たちもミリンダちゃん達と一緒に行く事にするわ。
そうであれば、少しやることがあるのよ、もう少しだけ時間を頂戴。」
レーナはそう言いながら、部屋の中の巨大な操作パネルの下へ潜り込み、配線をごちゃごちゃと操っていた。
その後、先ほど左腕の装置とつなげたケーブルを外し、それからもう一度、操作パネルのスイッチを押すと同時に、左腕のキューブ状の表示を切り替える。
すると、スクリーンに映される画像と同じものが、左腕上にも映し出された。
「やったわ、リンク成功。
これで、遠隔操作ができるようになったわ。
後はこの部屋へ入ってこられないようにするだけね。
扉にバリケードを築いて、塞いで頂戴。」
すぐにレオンが巨大化し、机や棚を集めて扉部分を塞ぐ。
「扉は外開きだから、いくら机や棚をつんでも、人海戦術で片付けてしまえるわ。
モンブランタルトミルフィーユ・・・・・局地寒波!!!
極大寒波の局地版よ。
さっきより強烈に凍らせておいたから、1日や2日は持つと思うわ。
これだけまとまって凍りついていれば、簡単には動かせないでしょ。」
ミリンダの魔法で、積み上げられた棚や机は、厚い氷に覆われて塊となってしまった。
「じゃあ、行きましょう。
まずはミリンダちゃん達が行って、私たちは後からすぐに行くわ。」
レーナに促され、ゴローとレオンが待つ転送装置にミリンダも入る。
すると、扉が閉じて目の前がまばゆい光に包まれる。
光が収まると、目の前の扉が自動的に開き、そこは先程とは違う部屋の中だった。
「ここは、どこの国かしらね。」
ミリンダが転送装置から出て、周りを伺う。
先ほどとは打って変わって、天井がはるか上方で、周りを見回しても壁までの距離が遠い。
体育館よりも巨大な、ドーム施設の中にでも迷い込んだような感じだ。
先ほどまではチビ恐竜人たちの円盤内に居たので周りの設備の大きさと違和感がなかったのだが、地上の施設に転送されて、改めて自分の体が縮んでいたことを認識させられる。
歩いて行くとすぐ先は断崖絶壁となっているのだが、よく見るとスチールデスクの上に転送装置があり、その上にミリンダ達がいる様子だ。
『バサッ』すぐにゴローが人間の姿に戻る。
レオンも続いて巨大化というか、元の大きさに戻る。
どうやら、1時的に縮小していただけの様で、体には欠けや異常は見られない。
「あんたたちは良いわね、自分でサイズを切り替えられて・・・。
あたしなんか小槌がなければ、ずっとこのサイズのままよ・・・。」
ミリンダは、小槌がチビ恐竜人たちの手に渡ってしまい、しかも次元金庫に保管されてしまったことを思い出していた。
もう一度円盤内に戻って、次元金庫のありかを調べて取ってくるしかないかとも考え始めた。
「みんなミリンダちゃんが誘拐されたことを知って、すごく心配しているよ。
特にハル君とナンバーファイブさんは、僕と一緒に円盤の中へ潜入しようとしていたんだけど、病み上がりのハル君は、また無理をしたのがたたって、転送装置に入る寸前で倒れてしまったんだ。
だから、僕だけ転送装置に入って、ナンバーファイブさんはハル君を介抱するために残った。
でも良かったよ、恐竜人の味方までできたんだね。
僕一人で助け出せるかどうか、結構不安だったんだ。」
ゴローが、少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら話す。
「ふうん、そうなの・・・・、ハルは大丈夫かしらね・・・、心配だわ。
早いところ、戻ってあげなくっちゃ・・・。
でも・・・まずは、腹ごしらえね・・・、脱出できてほっとしたら、お腹が空いて来たわ。」
ミリンダが、掌の中からバナナやリンゴなど果物を出現させる。
「ダロンボさんは焼き肉弁当とかを鬼の能力で出現させたけど、あたしにはそこまでは無理ね。
せいぜい果物を出現させる程度だわ・・・。」
そう言いながら、レオンにもバナナを一房与えて、リンゴにかじりつく。
「ちょっと外の様子を見て来るよ。」
ミニサイズのミリンダが出現させる果物は小さすぎて食べられないゴローは、そう言い残して、扉を開けて部屋を出て行く。
自分の指先ほどの大きさしかないバナナを貰ったレオンも、どうしていいのか分からずにそのまま見つめている。
『ピカッ』先ほど出てきた転送装置が眩く輝いて扉が開き、中からレーナとセンティアが出てきた。
「ここは・・・。」
レーナが初めて見る、巨大な施設に圧倒されながら、辺りをきょろきょろと見回す。
「地球上のどこかだとは思うけど、ここからじゃわからないわね。
いま、外の様子を見に行っているから、もうすぐわかると思うわ。」
ミリンダが、振り返って答えながら、両手に持ったバナナを一房ずつ、彼らに与える。
「うーん、困ったよ・・・。
どこか南の方の島みたいだね。
大きな石像が海岸線に並んでいるんだけど、来たことのない場所だから、一体どうすれば帰れるものか・・・。」
ゴローが戻ってきて頭を抱える。
「ええー・・・、ゴローも行ったことがない場所なの?
それじゃどうしようもないじゃない・・・、あたしが行ったことがある場所じゃなきゃ瞬間移動は使えないし・・・。
せめてある程度の位置関係さえ分れば、あてずっぽうで瞬間移動して見て、周りの様子を見ながら微調整も出来るんだけど・・・、それには中間地点が海じゃなきゃ危険なのよ。
途中の山の中なんて入ってしまったら、大変なことになってしまうわ。
第一、こんな小さな体になって、瞬間移動して思ったところに移動できるのかも、怪しいものだしね。」
大口を開けてバナナにかぶりついていたミリンダも、一緒に頭を抱える。
「えーとね・・・、ここの地名はイスタランドとなっているわよ。
その名前で、大体の位置が分らない?」
レーナが机の上から操作盤のテーブルに移って、自分よりはるかに大きなモニターを見つめながら話す。
「うーん、どうせチビ恐竜人たちがつけた、島の名前でしょ。
あたしたち人類の付けた名前でなければ・・・、というか、それでもあたしは地理に疎いから、分らないかも知れないしね。
日本がどっちの方向か、分る?」
ミリンダが、レーナを促す。
「日本・・・、日本っていうのは、どういった場所?」
今度は、レーナに日本が分らない様子だ。
「そうよね・・・、地名なんて、それぞれの土地に書いてあるわけじゃないものね・・・、鬼のダロンボさんだって、人間の付けた国名は全く分からないって言っていたくらいだものね。
ここで、調べても、何もわからないという訳よね。」
ミリンダが、がっくりと肩を落とす。
「じゃあ、こうしよう。
幸いにも、みんな小さいサイズだから、僕が少し大きめの蝙蝠になれば、みんなを乗せて飛べるよ。
あとは、どこかなじみのある景色が見つかったら、そこに降りればいいさ。」
ゴローが笑顔で提案する。
「うーん、ちょっと不安だけど・・・、他に手はなさそうね。
レオン、もう一度縮まりなさい。」
ミリンダの号令で、レオンが再びミニサイズに縮まる。
3人と1匹はゴローの手のひらの上に乗り、部屋を出て長い階段を昇り、外へ出る。
そこは、熱帯の日差しがまぶしい砂浜だった。
「ああっ・・・、この間九州を襲った、巨大石像よ。
だったら、九州が近いんじゃないの?」
ミリンダが、ゴローの手のひらの上で叫ぶ。
「うーん、どうかなあ・・・、恐らく熱帯地方だよ、すごく暑いしね。
とりあえず、太陽の方角を見て北へ飛んでみるよ。」
ゴローは蝙蝠に姿を変え、ひらひらと上空へと舞い上がった。
「き・・・君たち人間は・・・、このような羽を生やした形に変身できるのかい?
さっき一緒に居た、蝙蝠って言っていた生き物だよね。
そうだとすると、生物の進化というのは・・・、すごいね・・・。」
ゴローの背中の上で、センティアは羨望の眼差しで、周りの景色を眺める。
「違うわよ、ゴローは吸血鬼って言って・・・。
うーん、そうか・・・、恐竜人族には吸血鬼なんかいなかったかもしれないわね・・・。
説明が難しいわね・・・、昔々、人の生き血を啜って永遠の命を得る伝説の・・・。」
ミリンダは、吸血鬼伝説の説明から始めた。




