第97話
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「仕方がないわね、レオン、姿を現していいわ。」
ミリンダの命令で、レオンはトカゲ系魔物の姿に戻る。
「お・・・お前は、農業指導者のセンティア・・・、それと情報処理技能1級のレーナ・・・、二人ともエリート候補生ではないか。
そのまま功績を上げれば、元老院にも上がることができただろうに、どうして捕虜の人間に加担するようなことを・・・。」
囲みの先頭でメガホンを持って降伏を呼びかけていた恐竜人が、驚いた表情でセンティア達を眺める。
「ふん、エリート候補生って言って、実際にエリート・・・、つまり元老院に上り詰めた者がいるか?
平民からは1人もいないはずだ。
上がれるのはいつも、元老院の家族、つまり皇族だけだ。
彼らは特権階級だからな、それはなぜだと思う?我々は占領民だからだ。」
センティアは、メガホンを持った恐竜人に対して叫ぶ。
「それは違うぞ、元老院に上がるには試験を受けて、公正な評価の元にその人物がふさわしいか判定される。
たまたま皇族がこれまでに多く採用されていただけだ。
なにせ狭き門だからな、一部分だけ見れば偏った評価がされているように見えても仕方があるまい。
そう言った厳しい試験についていけなくなった輩が、世を憂えて反政府活動に身を投じるとは、本当に嘆かわしい事だ。」
メガホンを持った恐竜人の影から、毛色の違った太めの恐竜人が顔を出す。
ライゼルではないが、元老院メンバーだろう、厭味ったらしく、魔封じのペンダントを首から下げている。
「ふん、あんたたちは他の星から地球にやってきて、地球に住むことを許されたにもかかわらず、反対に土着の恐竜人たちを征服して支配したんでしょ。
そうして奴隷扱いして、自分たちは都合が悪くなったら、別次元に逃げ込んだのよ。
一部の土着恐竜人たちに、地上を監視させるようにしてね。
その時に、たくさんの奴隷扱いの土着恐竜人たちも円盤で連れて行ったのよ。
代替わりしているかも知れないけど、その奴隷たちがあなたたち平民なのよ。
目を覚まして。」
ミリンダが、周りを取り囲んでいる兵士たちに向かって、必死に叫ぶ。
「馬鹿な事を言うな、我々は平民だが奴隷ではない。
元老院には皇族出身者が多いのは事実だが、それは皇族の方々が優秀だからであって、決して優遇されている訳ではない。
なにせ、皇族の方たちに我々の祖先は、危うく絶滅しかけたところを救われたのだからな。」
メガホンを持った恐竜人は、すぐ後ろに元老院メンバーがいることを知ってか、尚更、言葉に力を込める。
「そんな歴史は、都合よく作られた歴史だ。
大体、我々の祖先が絶滅しかけた時に、救ってくれた皇族の祖先たちはどうして平気でいられたんだ?
地球規模の災害という事だから、恐らく気候変動や火山の爆発による粉じんなどで太陽が遮られたか何かで、作物が収穫できなくなって、飢饉になったと推測される。
それなのにどうして、彼らだけは気候変動にも負けずに収穫を維持できたんだ?
確かに、地域によって収穫の差は生じるから、その年の豊作不作が分れることはあり得る。
しかし、地球規模の天候不順ということにもかかわらず、歴史によると皇族の祖先は、我々の祖先を援助して豊かな実りを与えたとなっている。
つまり、我々の祖先はその状況をただ見ているしか出来なかったというのに、皇族の祖先はその様に悲惨な状況をも解消できる技術を持っていたことになる。
おかしいだろう、同じ星に住んでいて、それだけ科学力に差がついてしまうなんて、どう考えてもあり得ない。
武力による侵略行為ならともかく、圧倒的な科学力の差によって相手を屈服させるなんて、同じ星に誕生した部族間の違いとしては、考えられないじゃないか?
それぞれの地域で発展した文明だとしても、初期の段階から交流はあるだろうし、お互いを知ってそれなりに発展していくものだろ?
ところが、我が祖先の歴史にはそう言った交易の記録も一切なく、ある日突然、我らの祖先が絶滅しかけた時になって、現れたという事になっている。
つまり、彼らは地球外からやって来たんだ。
そうして、地球土着の我々の祖先を征服し支配したんだ。」
センティアが負けじと叫ぶ。
「何をいっておる、わしらの祖先がお前たちの祖先を救ったのは紛れもない事実だ。
その歴史がなければ、お前たちなどこの世に生まれていなかったのかも知れんのだぞ。
この星は、大陸同士が離れていて繋がっていないから、太古の時代には大陸間の交流がなかったとしても、やむを得ん事だろう?」
太めの元老院メンバーが、拡声器を受け取って反論する。
「確かに、今も大陸間での往来は禁止されている。
というより、科学進歩に伴い大気汚染が発生し、公害により一般地域には居住できなくなったのが原因だ。
その為、各大陸の一部に居住区のドームを設け、生存しているという事になっているが、本当にそうかな?
我々の食料は工場で生産された肉や野菜などとなっているが、僕は農業指導者という立場から、この星の大地を使った農法で作物を育てるよう指令を受けて、ここから出たことがある。
ここはドームの中なんかじゃない、元老院メンバーや皇族の方々が、遠くの地域を視察する時に使う、円盤という乗り物を巨大化させたものだ。
この円盤で、今までは全く別の世界に滞在していて、つい最近になって地球上に着陸したんだ。
外には、我々よりもはるかに巨大な恐竜人たちが生息していた。
たまに、彼女のような人間の姿を見ることもあった。
その時は、もっと巨大化していたがね。
彼女の姿が何よりの証拠だろ?
今の地球に住む、人間という種族という事だ。
我々は、数千万年間もの長きにわたって、地球上を離れていて、つい最近舞い戻ってきたようだ。」
センティアがなおも叫ぶ。
『え・・・円盤?』『外の世界って・・・、大気は毒となっているんじゃ・・・』『いや、俺達は騙されていたんだ。』
センティアの言葉で、包囲している兵士たちに、動揺が広まる。
「そ・・・そんなはずはない。
か・・・彼女は・・・、そう・・・、大気汚染された地上でも生きられる、下等な生物なのだよ。
たまたま、ドーム近くで餌でも探していて、迷い込んだのだろう。
どんな環境でも生きて行けるような、ふてぶてしい面構えをしておるわ。」
元老院メンバーが、焦って取り繕う。
「まあ、なんですって・・・、そりゃどんな環境でも寝られるし、食べ物はその辺から調達するから、生きて行ける自信はあるけど、下等って何よ、下等って・・・。
あたしは、その辺に落ちている食べ物を拾い歩きしたことなんか一度もないし、ここに来たのだって、あんたたちを神とあがめる、鬼の家族に無理やり送られて来たんだからね。
危うく肉にされて食べられるところを、何とか逃げだしたんだからね。
言葉も話せば文明レベルも高い種族を食べようとするなんて・・・、一体どっちが下等なの?」
ミリンダが、余りの言われ方に怒りをあらわにする。
「ふん、下等な生物は、我が種族の血となり肉となることを、ありがたく受け入れる定めなのだ。
生物の食物連鎖というものは、我が種族を頂点として、裾へと広がっている。
お前たちが、上から何番目の所属に値するのか、わしにはわからんが、どの道我が種族の食肉でしかないことを認識しろ。」
元老院メンバーは、人間を食べると言う事を、少しも悪びれずに反論してくる。
『そうだそうだ』『素直に食べられろ』『人造肉ばかりは飽き飽きだ』食べ物の話になった途端に、元老院側に傾く意見が多くなってしまった。
『カチャ』『ガチャッ』一旦は下げた銃を構え直す兵士たち。
「仕方がないわね、こうなったら強行突破よ。
モンブランタルトミルフィーユ・・・・・極大寒・・・・」
ミリンダの唱える魔法の語尾が、なぜか間延びして流される。
「ふん、精神感応干渉装置にかかれば、おまえ程度の魔法力など無効にできるわ。」
先ほどの元老院メンバーが、胸を張って自慢げに後方の巨大な装置に手を掛ける。
らせん状に細い金属の板がラッパのように広がった装置の様で、らせんの板が回転している。
どうやらその装置がミリンダの魔法力に対抗するエネルギーを出力している様子だ。
『ガチャ』その時、奥の方のドアが開き、そこから黒く大きな布状のものが飛び出してきた。
ひらひらと舞うそれは、通路の半分ほどに広がりながら、先ほどの元老院メンバーに襲い掛かる。
「お・・・お前は・・・、転送装置で送られてきた・・・。
お前にやられてライゼル議長は病院送りに・・・。」
元老院メンバーが、その黒い布を振り払おうとするが、逆に通路の壁まで吹き飛ばされてしまう。
『ビョーン』すぐにレオンが長く伸びて、精神感応干渉装置を操作している恐竜人兵士を突き飛ばし、巨大化すると装置を持ち上げて、通路の壁にぶつけて破壊する。
「良くやったわ・・・、今度こそ、モンブランタルトミルフィーユ・・・・・極大寒波!!!」
一瞬で通路は真白く凍りつき、元老院メンバー始め、包囲していた恐竜人たちは凍りついてしまった。
「だ・・・大丈夫なの?」
レーナが、心配そうに凍りついた兵士たちを気づかう。
「うん、凍っただけだから、融ければ元に戻るわ。
ここは暖かいから、温風を当ててあげなくても、数時間で融けると思うわ。
でも、風邪をひいてしまうかも知れないけど・・・。」
ミリンダはそう言いながら、舌を出した。
黒い布が、ひらひらとミリンダの頭の上を舞う。
「ゴロー、助けに来てくれたのね、ありがとう。
いつもは非力なゴローだけど、このサイズの恐竜人に対してなら、蝙蝠になってもゴローの方が大きいから、力では負けないのね。」
ミリンダが笑顔で見上げる。
「こ・・・これも数千万年後の生き物なのかい?」
センティアが、蝙蝠になったゴローの姿をまじまじと見つめる。
「そうね・・・、蝙蝠は蝙蝠だけど・・・、ゴローはちょっと特別かもね。」
ミリンダが笑顔で答える。
「じゃあ、行きましょう。」
レーナに急かされて、ミリンダ達は転送装置のある部屋へ入って行く。
先ほど、ゴローが出てきた部屋だ。
どうやら、ミリンダが脱出する時に備えて、この部屋に立てこもって居たのだろう。
中には、壁一面に投影された映像と、巨大な操作パネルがあり、その傍らに人が入れる大きさの装置が置かれている。
「どうやら、この映像一つ一つが、各円盤の居住区の管理映像の様ね。
4つに区分けされているから、円盤は2機あってそれぞれ上下2つずつの居住区に分れているという事になるわね。」
レーナが、操作パネルに映し出される各画像を切り替えながら呟く。
「ああ、1台は捕まえて強電磁波で囲った円盤と、もう1台は銀河警察と名乗ってやって来た方の円盤ね。
銀河警察の方の円盤は、一旦は地球を離れたはずなんだけど、また戻って来たのかしらね。」
自分が捕まってからの状況を知らないミリンダが、首をかしげる。
「いえ、このモニターに映し出されるのは、恒星間通信映像だから、例え数十光年離れていたとしても、受信は可能よ。
でも・・・そうね、電波の強さから判断すると、2機ともすぐ近くに居るようね。
戦闘でも始まったのかしら、一機はどうやら墜落して、地表に斜めに突き刺さっているようね。
まあ、乗っている住民は強固な防振装置と反重力装置のおかげで、わずかな揺れにしか感じてはいないのだろうけど。」
レーナが、各円盤の状態表示をチェックして教えてくれる。
「じゃあ、この円盤自体は今どうなっているの?
さっき見た限りじゃ、地面から相当高い地点に留まっているんでしょ?」
ミリンダも一緒にモニターを眺めながら尋ねる。
しかし、彼女にはモニターに映し出される、3Dマッピング画像の意味はとんと理解できないでいた。
「そうね、地表から1万メートルの位置に浮いているわ。
恐らく、地表からの攻撃を避けようと、浮上したのでしょうね。」
レーナが円盤の現状をモニターに映し出す。
「ふうん・・・、この円盤には武器とか積んであるの?
それらを使えなくすることは出来る?」
ミリンダがなおも尋ねる。
「うーん、今でもエンジンの一部が故障しているから、火器の使用は出来ないみたいね。
それでも、修理さえ終われば攻撃可能となってしまうから・・・、ちょっと待っていてね・・・。」
レーナが自分の左腕につけている装置から、ワイヤーを伸ばして、操作パネルの下側のソケットに差し込む。
「うまい事、アクセスできればいいのだけれど・・・。」
そう言いながら、彼女は何度も右手で左腕の装置をタッチし始めた。




