第96話
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「まずは、ミリンダちゃんに地上の様子と、我々の子孫とも言える土着の恐竜人たちの事を話してもらおう。」
地上への帰還が怪しくなったのだが、とりあえず予定通りにビデオメッセージの撮影が始められた。
「あたしはミリンダ、あなたたち恐竜人が以前住んでいた、地球という星の住人よ。
あなたたちが住んでいた時から、今では数千万年もの時間が経過していて、その時にはあたしたちの祖先である哺乳類などは非常に少なかったらしいんだけど、今では地上には恐竜人はいなくて哺乳動物である人間が、広く世界中で生活しているわ。
それでも、ミライさんたちこの地球の太古に住んでいた恐竜人たちの存在を知って、今では共存生活を営もうとしている所。
その土着の恐竜人たちとは違って、他の星からやって来た・・・。」
ミリンダが、撮影カメラに向かって、語り始める。
主な内容は、スタットやセンティア達と打ち合わせて決めた内容だが、自分たちが地上を離れてから実に数千万年もの時が経過していたことには、スタットも驚きを隠せなかった。
「ありがとう、このメッセージを空に映しだせば、みんなの目を覚めさせる事が出来るかも知れない。
でも、困ったのはミリンダちゃんの脱出方法だね。
何とかして地上に着陸させることができれば・・・。」
センティアが腕を組んで考え込む。
「あたしは、転送装置のような物でこの円盤の中へ送られてきたのよ。
それはあたしが出てきた建物の中の、上の方の階にあったわ。
そこへ行けば、転送装置で地上へ帰れると思うのよ。
連れて行ってくれる?」
ミリンダが、センティアに提案する。
「ああ、元老院本部の建物の事だね。
でも、あそこは警備が厳重だから、中へ入り込む事なんてとても出来っこないよ。
すぐに見つかって捕まってしまうのが落ちさ。」
センティアは、残念そうに首を振る。
「大丈夫よ、周りから見えないように出来るから。
そうやって、あの建物を脱出したのよ。
だから、装置のある部屋までなら行けるわ。
あたしは、装置の操作方法なんか分らないけど、何とかできない?」
ミリンダが、センティアの顔を覗き込むようにする。
「ああ、装置の扱いならレーナが一緒に行けば何とかなるだろう。
しかし、姿を見せずにって一体どうやって・・・。」
スタットは、ミリンダの言葉の意味が分かりかねていた。
「それは、こういう事よ、レオン、出てきなさい。」
ミリンダが胸を張って、周りを見回しながら声を掛ける。
「は・・・はい、レオン、ただいま参上・・・というか、ずっとそばに居ましたよ。」
トカゲ系の魔物が、突然何もない空間から姿を現した。
「こ・・・これは・・・。」
スタットもセンティアも、突然の事に目を見開いたまま固まってしまった。
「最初のうちは信用できないから、姿を隠したままで居させたのよ。
薄く伸びて体を包み込むと、あたしたちの姿も見えなくなるのよ。」
ミリンダの言葉通り、レオンが薄く伸びてミリンダを覆い隠すと、すぐに周りと同化して、どこに居るのか見えなくなってしまった。
「すごいわね、これなら元老院本部にだって、気づかれずに入って行けるわ。」
レーナも驚嘆の声を上げる。
「さ・・・流石に数千万年の時が経つと、生物も色々と進化するものだな・・・。」
スタットも感心しきりの様子だった。
「まあ、レオンの場合は魔物だから、生物の進化とは別物だとは思うけど・・・。」
ミリンダが申し訳なさそうに笑顔を見せる。
「目立たずに移動できるのなら、何も彼女が立ち去ってから、彼女の映像を流す必要性はないな。
すぐに今の内容を、大空のスクリーンに映し出そう。
そうすれば、彼女が脱出した後は、その混乱に乗じて建物から逃げ出せるかもしれない。」
センティアが笑顔で頷く。
「分ったわ、ここから直接だと発信元がばれてしまうから、いくつかの中継点を経由しながら、放送局に侵入して・・・。」
レーナはそう言うと、自分の左腕に巻き付けた、アームバンドを右手でなぞり始めた。
すると、肘を直角に曲げた腕部分の上方にキューブ状の光の箱が投影される。
彼女は右手でアームバンドをなぞると同時に、左手の指も空中でタイプを始める。
「ようし、潜入成功。
すぐに放送を開始するわよ・・・、多分、1時間くらいは頑張れると思う。
7重くらいのロックを掛けておいたから。」
レーナが右手の人差し指をクリックすると、左腕の上に現れていた光のキューブが消えた。
「じゃあ、出発しよう。
まずは、エレバーターで地上へ行かなくちゃね。」
センティアとレーナと共に、エレバーターへ乗り込む。
勿論今度は、姿を現したレオンも一緒だ。
『チン』途中で反転して上下の向きを変え、エレベーターが地上に到着する。
「じゃあ、行こうか。道は判るかい?」
センティアがエレベータドアの閉ボタンを押したまま、レオンの方に向き直る。
「い・・・いえ、右へ行ったり左へ行ったり、随分と色々曲がりくねったので、皆目・・・。」
レオンが申し訳なさそうに頭を掻く。
「まあ仕方がない、監視装置に見つからないように、裏道ばかり歩いたからね。
元老院本部は、この建物の前の道を真っ直ぐ行って、広い道に出たら左へ曲がる。
そこから広い道をまっすぐ進んで、大きな交差点2つ目を右に曲がると元老院本部さ。
堂々と大通りを歩くことができれば、すごく簡単な道さ。」
センティアが笑顔で説明する。
「分りました、じゃあ、参りましょう。」
レオンが薄く伸びて、3人の体を包み込んで見えなくなる。
同時にセンティアがボタンを放して、エレベーターのドアが開くが、中には人影も見当たらない。
そのまま、誰もいないのにビルのドアが開き、又閉じる。
ビルの外は騒然としていた。
『あたしはミリンダ・・・』
先ほど録画したビデオが、大空のスクリーンに映されているようだ。
レオンに包まれているので、映像は見られないが、声だけは聞こえる。
『なんだなんだ?』『哺乳類ってなんだ?人間とは何者?』『数千万年もの時を経たって・・・』『ここが地球じゃないって?そんな訳あるか。』
同時に、大勢の人いきれとそれぞれの叫ぶ声が・・・。
恐らく、各建物の中から、外の様子が気になって飛び出してきた人々だろう。
だれもが、ミリンダの証言に衝撃を受けている様子だ。
「いいぞ、やっぱり我々とは全く別の姿をした、人間のミリンダちゃんの映像は効果が大きい。
洗脳とも言える睡眠学習で得られた知識が、間違っていると認識できれば、教わってきたことの矛盾点なんかが、浮き彫りになってくるはずさ。
チビ恐竜人たちがどこからやって来たのか?とか、どうして絶滅寸前までの飢饉になったのか?とかね。
嘘で塗り固められた歴史は、少し突っつくだけで、崩れてしまうさ。」
センティアは、満足そうに小声で囁く。
「じゃあ、行こうか。」
センティアの号令で、3人はゆっくりと歩きはじめる。
「大きな通りに出るたびにレオンがお教えしますので、お間違えの無いように、進んでください。」
中にレオンの囁く声が響き渡る。
「まずは、最初の大通りです。
左へ曲がると言う事でしたが、道には人があふれているようです。
少し大きく曲がって、それから縦に1列で進んだ方がいいでしょう。」
レオンの指示通り、センティアを先頭に1列縦隊で進んで行く。
大通りの喧騒は、もっと大きいようで、
『不審な映像に惑わされないよう、それぞれの職場に戻ってください。
繰り返します、不審な・・・。』
放送されるミリンダの声を遮るように、右側から拡声器を通した声が響いている。
『ああ、不審者なのね・・・』『戻ろう、戻ろう』警察車両の車の声だろうか、その声を信じて、ビルの中へと戻って行く声に加えて、『うるせえ、もっとちゃんと聞かせろ!』『お前たちだって、俺達と同じ平民だろうが。お前たちの先祖も同じ運命にあったのかも知れないぞ!』などと、段々と自分たちの境遇に、気づき始めてきた人の声も聞こえてきた。
「元老院本部についたようです。」
レオンが、囁く。
「正面玄関を入って、右側のエレベーターホール横の階段を上がって3階にいき、右から3番目の部屋が転送室よ。
丁度、作戦本部室の隣だから、警備も厳重だから気を付けてね。」
レーナが左腕の上に発生した、キューブ状の映像を眺めながらレオンに説明する。
「分りました、このまま真直ぐで、3段ほど階段がありますから気を付けてください。
上がったすぐ前が、ガラスのドアですが、人が来るまで待ちましょう。」
レオンの指示通り、3段ステップを上がり、そのまま立ち止まる。
「来た、来ました、正面を恐竜人が歩いてきます。
少し左へ寄りましょう、そうして少し待ちます。」
その言葉通り、一歩左へずれる。
『シャー』風を切る音が聞こえてくる。
「今です、扉が開きました。急いで前へ進んでください。」
レオンに言われるがまま、3人はそっと駆け込む。
「10歩ほど歩いて右側がエレベーターホールのようですね。
そこで少し待ちましょう。」
レオンがまたまた指示を出す。
「だめよ、さすがにエレベーターは空間が狭いから、一緒に誰かと入ったら、ばれてしまうわ。
その横に階段があるから、誰かが降りてきて扉が開くのを待ちましょう。」
レーナが、大きく首を振る。
「分りました、では、もう3歩ほど進んで、右へ2歩。そこで止まってください。」
3人は言われた通りに立ち止まる。
しかし、待てど暮らせど、階段側の扉が開くことはない。
時々チンという音がして、風切音がする為、エレベーターの行き来はある様子だが、階段を使うものはいないようだ。
「どうするのよ、危険を承知でエレベーターに乗るのも手よ。
ばれたらばれた時で、あたしが倒すわ。」
ミリンダが焦れたように、足踏みを始める。
「駄目よ、危険すぎるわ。」
レーナはとても承知できないと、厳しい目つきでミリンダを睨みつける。
「皆さん!もう半歩ほど左へ寄ってください。
きた、来ましたよ、階段を使いそうな人が・・・。」
レオンの号令で、一斉に半歩左へずれる、同時にガチャリと金属音が・・・。
「今です、右へ2歩進んで前へ3歩、急いで!」
レオンの囁く声の通りに、3人が進む。
『バタン』後ろで、鋼鉄のドアが閉まる音がする。
『カツカツカツカツ』一緒に入った恐竜人だろう、階段を上がって行く靴音が反響している。
「中は相当音が響くようですから、ゆっくりと音を立てずに進んでくださいね。
右へ2歩進むと階段があり、えーと7段進むと踊り場で、Uターンしてまた階段です。」
「この先の8段上の左側にドアがあり、3と書いてありますから、3階のドアでしょう。
どうします、このドアを使う人が来るのを待ちますか?
それとも、一か八か廊下に人がいないことを祈って、開けてみますか?
階段を使う人は、さっきの人の後は誰もいないようで、この階のドアが開くのを待っていたら、いつの事になるか・・・。」
レオンが、不満気味に漏らす。
下からも上からも階段を使う足音は全く聞こえてこなくなった。
このようなビル内では、階段と言った非常用設備を使うものはほとんどいないのだろう。
「仕方がないわね、少々危険でもやむを得ないわ、そっとドアを開けてみましょう。」
誰もいないにもかかわらず、ゆっくりと扉が開く。
通路には明かりが灯っておらず、真っ暗だ。
「都合のいい事に、照明がついておりません、今のうちなら大丈夫でしょう。」
レオンの言葉を励みに、全員一気に通路へ飛び出す。
『カチッ』その瞬間、通路が一斉に照らされ明るくなる。
通路の向こう側からサーチライトを当てられているようだ。
「ステルス機能を使っても無駄だ、我々の生体感知機能を舐めるな。
お前たちの行動は、このビルに入った時点から監視していた。
おとなしく、降伏しろ。」
どうやら、潜入はばれていたようだ。




