第94話
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ハルたちは、恐竜人基地の中を、誰にも見つからないように素早く移動して行く。
どの道、チビ恐竜人たちに宣戦布告をして戦闘状態に入ったため、その準備で忙しく、ハルたちの姿を見てもいちいち気に留めるような恐竜人は1人もいなかった。
かつての監視部屋を通り抜け、長い通路を通って広い洞窟へ出る、そこから傍らのレールを辿るようにして進んで行くと、そこには金属の格子で作られた檻があった。
人間と恐竜人との戦いで使用した檻であり、撤去を予定していたが、急遽、先の戦闘で捕虜となったチュロンボ親子を収容していたのだ。
どれだけ説得しても考えを変えないチュロンボは、中立地帯へ送られ、協力的なチュロンビはここに残されたのだ。
「チュロンビさん、お願いがあります。
チュロンビさんたちがいた基地には、チビ恐竜人たちとの間の転送装置があったって言っていましたね。
その転送装置で、僕たちをチビ恐竜人たちの円盤の中へ送っていただけませんか?」
ハルが檻の中で、差し入れられた本を読んでいるチュロンビに向かって話しかける。
「ああ、ハル君って言ったよね。
それとナンバーファイブさんとゴローさん・・・。
転送装置は確かにあったけど、あれは小さな恐竜人様向けのものよ。
だから、君たちには無理・・・・、体の大きさが違うもの。」
そう言ってチュロンビは、読んでいた本を膝の上に置いて首を振る。
「体が小さかったら、送ってもらえるんだよね。
だったら大丈夫。一緒に来てくれるかい?」
何時になく積極的なゴローが、前に出る。
「え・・・ええ・・・・、そりゃ、小さくなれるっていうのなら・・・。」
チュロンビは、言われている意味が飲み込めないまま頷いた。
「チュロンビさんが担当していたのは、どこですか?」
ハルが尋ねる。
「うーん、あなたたちの地名でなんていう場所かは分らないけど、あたしが操った巨石像は、大きな亀と出くわして動けなかったのよ。
もともと、人間たちを傷つけるつもりはなかったから、巨石像を見せて驚かせようと思っていただけだったけど、そっちも大きな奴をぶつけて来たから、そいつと戦っていればよかったから、ほっとしたわね。
その後、更にきれいな9色の尻尾を持っている大きな狐まで現れて、これはもう帰っていいと言う事だなって思って、そのまま元の基地まで戻ったのよ。」
チュロンビは、過去の襲撃時を思い出すように答える。
「ネスリー君の召喚獣がいて、ミリンダちゃんが行ったところだから、仙台市の北の村だよ。」
やはり、今日のゴローは冴えている様子だ。
「じゃあ、行きましょう。」
ハルが、檻の格子を手で触れると、そのまま扉が開いた。
傀儡の術を使って、直接鍵のフックを動かしたのだ。
そうして4人は、そのまま破壊された木枠をくぐって、鬼たちの居住区を抜け、黄泉の国へ入って行く。
鬼たちは、地上世界が戦争状態に入ろうとしているにもかかわらず、不可侵を決め込んでいるのか、いつも通りに平静なものだった。
人間や魔物に加えて恐竜人たちも、全ての住民が戦闘か降伏か選択に思案していた為、黄泉の国への修業に訪れるものはなく、閑古鳥が鳴いていることをいい事に、鬼たちは束の間の休日を謳歌しているようだった。
誰一人として事務所に詰めているものはなく、更に地獄ステージから遡っても、鬼の姿は見えなかった。
ハルたちは、そのまま黄泉の国のダンジョンをさかのぼって行き、富士の風穴へ出た。
そこから、北の村まで瞬間移動する。
「チュロンビさんの基地はどこにあるのですか?」
ハルが、破壊された村の残骸を眺めながら尋ねる。
北の村の住民は、巨石像によって村が破壊されたため、全員仙台市へ一時避難しているのだ。
「えーとね、こっちよ。」
チュロンビが勢いよく駆け出した。
ハルたちが、その後をついて行く。
やがて2つほど山を越えた辺りに、土が掘り返されむき出しとなった場所に、立っている魔人像の姿があった。
「ここよ。」
チュロンビが、魔人像が座る傍らの石垣をまさぐると、石垣の一部が開いた。
中へ入って行くと、そこには大きなモニター画面と操作盤があり、更に蛍光色に輝く小さな箱があった。
「これが転送装置よ・・・、と言ってもサイズが小さすぎて、あたしは入れないから使ったことはないけど・・。
小さな恐竜人様が基地へいらっしゃる時の為に準備したもので、通常は紙に書かれた指令所が送られて来たわね。」
そう言いながらチュロンビは傍らの小さな箱を指さす。
「へえ、これが転送装置・・・、本当に小さいね・・・。」
ゴローがまじまじとその箱を見つめる。
「じゃあ、行きましょう。」
ハルがナンバーファイブに目で合図をする。
「いや、行くのは僕一人で良いよ。
僕なら、蝙蝠になれるから、こんな小さな箱にでも余裕で入ることができる。
ハル君も、ナンバーファイブさんも、貴重な戦力だから、残った方がいい。
ミリンダちゃんの事は、僕に任せてくれれば良いよ。」
ゴローは自信ありげに胸をドンと叩く。
「駄目ですよ、ぼく・・・も・・・いきます・・・。」
ハルが頑固に首を振る。
「小さくなれるのなら転送は出来るけど、転送先は小さな恐竜人様の司令室よ。
そんなところに直接送られて、味方ならいいだろうけど、敵なんでしょ?
生きてはいられないわよ・・・。」
チュロンビは、チビ恐竜人たちの円盤の中へと、転送されていく者達の気がしれないとばかりに、顔を引きつらせる。
「大丈夫です。小槌がありますから・・・、ちいさ・・く・・・。」
ハルはそう言いながら、そのまま倒れ伏した。
「は・・・ハル君?大丈夫?」
ナンバーファイブが、すぐにハルの体を抱き起して声を掛ける。
息がすごく弱い。
「やっぱり・・・、あの灼熱の玉・・・あんなに大きなのを出すから・・・、オーラを使い切ったのでしょ。
それなのにミリンダちゃんが心配だから無理をして・・。」
ナンバーファイブは、ハルの体をぎゅっと抱きしめる。
「僕は蝙蝠になれるから、小槌なんかなくても平気です。
やっぱり僕一人だけの方がいいでしょう。
ナンバーファイブさんは、申し訳ないけどハル君をミッテランさんの元へ連れて行って、介抱してあげてください。」
そう言いながらゴローは蝙蝠に姿を変え、小さな箱の周りをひらひらと回った。
チュロンビが箱の扉を開け、蝙蝠が中へと入って行く。
チュロンビが装置のボタンを押すと、箱はまばゆい光に包まれた。
「これで大丈夫、あの蝙蝠は円盤の中に転送されたわ。
でも・・・、本当に大丈夫なの?円盤の司令室だから、小さな恐竜人さまたちが、たくさんいる部屋の中よ?」
チュロンビが心配そうな顔をする。
「まあ、大丈夫でしょ、あの人は不死身だから・・・。」
そう言ってナンバーファイブは微笑んだ。
「じゃあ、あたしはハル君を連れて行って治療しなければならないから、チュロンビちゃんは、悪いけどここに残ってくれる?
恐竜人基地の檻の中に戻るのもいやでしょ?」
ナンバーファイブが、ハルに肩を貸して起き上がらせながら、チュロンビに確認する。
「あ・・・あたしは・・・、父さんが中立地帯に行ってしまったから・・・、本当は一緒でも良かったんだけど、ここに残れっていうのなら、ここに居るわ。」
中立地帯が攻撃されたことを知らないチュロンビは、少しほっとしたように明るい笑顔で答える。
「そう、じゃあ、ここに居てね。」
そう言いながらナンバーファイブは、チュロンビを残したままハルを抱えて基地を出て、瞬間移動した。
「は・・・ハル君・・・、一体どうしたんだい?」
釧路の学校のグラウンドへ瞬間移動すると、丁度グラウンド中央で支度をしているジミーと出くわした。
「は・・・はい・・・、実は・・・ミリンダちゃんを助けようと、ハル君と一緒にチュロンビちゃんにお願いして、チビ恐竜人たちの円盤の中に転送装置で転送してもらおうと、彼女と一緒に基地まで行ったのですが、ハル君が突然倒れて・・・、魔力の限界に近い大きさの灼熱の玉を出して、円盤にぶつけたせいでしょう。
結局ゴローさんだけが蝙蝠となって円盤の中へ転送されました。」
ナンバーファイブが、顛末を要約して説明する。
「そうか・・・、やっぱりあの円盤が墜落したのは、ハル君の魔法のせいだったんだね。
銀河警察を名乗っていた方の円盤が、墜落して恐竜人大陸の地面にめり込んでいる。
所長が、カーボンナノチューブで強化したロープを捕獲用円盤で運んで、墜落した円盤を括りつけようと、ミッテランさんにお願いして恐竜人大陸へ、瞬間移動したところだ。
残るは、強電磁波の檻を無理して抜けたため、推進装置に異常をきたしている円盤だけだ。
ここで一気に攻勢に出ようと、部隊を再編成している所だ。
基本的には、恐竜人たちと戦った時の部隊の構成で行くが、ミリンダちゃんの代わりにナンバーファイブ君が入ってくれ。
ムーリーさんの代わりに神田と神尾を入れる予定だったんだが、ハル君がだめとなると、彼らを一人ずつにして組み込む必要性があるね。」
ジミーは部隊構成が記入された編成表を手直しし始めた。
「だ・・・大丈夫です・・・、僕は戦います・・・。」
ナンバーファイブに肩を借りているハルが、意識を取り戻したのか、荒い息で告げる。
「は・・・ハル君・・・、そうは言っても苦しそうだけど・・・。」
ジミーが心配そうにハルの顔を覗き込む。
「いいえ・・・、問題ありません・・・。
ちょっと疲れたみたいで・・・、もう平気です。
すぐにでも、チビ恐竜人たちの動きを封じ込めないと、ミリンダが・・・、はぁはぁはぁはぁ。」
ハルはフラフラの足取りながら、ナンバーファイブの介助を離れて、自分一人で立った。
「そ・・・そりゃ、ハル君だったら、どれだけ疲れていても、神田達2人分以上の力はあるとは思うんだが・・・、無理はしない方がいいぞ。」
ジミーは尚もハルの体を気づかう。
しかし、ジミーはハルの頑固さも同時に理解していたので、恐らく何を言おうと引かないだろうと、予想していた。
「とりあえず、治癒魔法で少しでもオーラを分け与えておいた方が、回復が早いのよね。」
ナンバーファイブはそう言いながら、ハルの体に治癒魔法を施してやる。
「オーライ、オーライ・・・。」
大きな掛け声とともに、捕獲用円盤から太いワイヤーが垂らされる。
その端を地面のアンカーに括り付けると、円盤はその先で、ワイヤーのもう一端を放して落下させた。
すぐに数人の恐竜人たちが寄って行って、その端をアンカーに固定する。
「カーボンナノチューブで強化されたワイヤーだから、そう簡単には切ることは出来ないはずだ。
1本が2キロの長さだから、5本しか用意できなかったがそれでも放射線状に括り付ければ、チビ恐竜人の円盤を補足できると考えている。
なにせ、地面にめり込んだままくくってしまえば、加速度を発生させることも出来ないから、奴らの推進装置がどれだけの力を持っていたとしても、その根元を抑えてしまえば、身動きは取れないという訳だ。」
所長が、自信満々にミライに告げる。
ハルに撃墜されて地面にめり込んだ円盤を、括り付けてしまおうとしているようだ。
本来はパワードボディスーツ用に準備していたカーボンナノチューブだったが、兵隊の訓練をしている時間的余裕がないため、即効性のある円盤の捕捉に使用されることになったものだ。
そう言っている先にも、別のワイヤーが捕獲用円盤から垂らされてくる。
「最初に飛来した円盤は、恐らく推進装置が故障しているのだろう、未だに出力装置から煙が上がっている。
攻撃を仕掛けてこないところを見ると、攻撃の装置も故障しているか、もしくは攻撃を仕掛けても移動がままならないから、標的にされるのを恐れて、そのまま浮かんでいるだけなのかもしれない。
恐らく、自分たちから攻撃を仕掛けない限りは、こちらから攻撃されることはないと踏んでいるのだろう。
イオンビーム砲も破壊されてしまったので、有効な火器がこちらにない事も、理解しているのかも知れないしね。」
ミライが、憎々しげに上空を見上げる。
すると、空の左側に文字が浮かび始めた。
見ると、ファモスタと1行目に記載され、死亡・・・0名、負傷・・・45679名と続いた。
その反対側には、人類と記載され、死亡・・・1名、負傷・・・0名と続き、魔物 死亡、負傷ともに0名
更に、フェスタ 死亡、負傷ともに0名。鬼 死亡1名、負傷0名と記載された。
どうやら、現状までの戦況報告が、空に記載される様子だ。
人類側はムーリーが、鬼はチュロンボが死亡という事なのだろう。
ファモスタがチビ恐竜人種族の名称で、フェスタがミライ達恐竜人の事だろうと想定される。




