第92話
5
「空を使った映像は、我が国の上空にも映し出されました。
チビ恐竜人たちと、あなたたちとのやり取りも含めてね。
状況は呑み込めましたので、急遽、S国含めて近隣諸国の代表とも打ち合わせを計画したところです。」
マイキーの父である国王が、謁見室の席に座り、身を乗り出してきた。
「我らの身内の問題とも言える争いごとに、全世界を巻き込んでしまって申し訳ない。
しかも、奴らを抑え込むことができたなどと、身の程も知らない分際で、驕った考えを持ってしまったのが、そもそもの間違いだった。
不審な事が頻発した時点でも、まだ十分に対応できると過信し、自分たちだけで事を構えておきながら、最後にはどうしようもなくなったと報告に出向くとは、本当に情けない。
恐竜人を代表してお詫びする。」
最重要の案件を伝えるのに、無線連絡では失礼にあたるからと、マイキーの国までやって来たミライが、深く頭を下げる。
「いや、ミライさんたち恐竜人は、チビ恐竜人たちを十分に監視していましたよ。
ただ単に、奴らの方が1枚も2枚も上手だったという事だけです。
私なども相談役として、奴らの管理や恐竜人大陸の復興を支援してきた立場上、チビ恐竜人たちの監視に関しては、こちらにも責任はあります。
決してミライさんたちだけの、責任ではありません。」
通訳を兼ねて一緒にやって来た所長が、すかさずフォローする。
「まあまあ・・・、チビ恐竜人たちの監視に当たっては、我が国の魔術者たちも交替で行っておりましたから、監視が不十分なために彼らの水面下の活動を見抜けず、反撃の機会を与えたとするのであれば、我が国にも責任の一端はございます。
それは、監視業務に携わるはずであったS国軍や米軍に関しても同様でしょう。
ここはひとつ、責任の所在を明確にすることよりも、奴らの要求に対して、我々がどう対処するべきなのかという、今後の事を話そうではないですか。
その方がより建設的であり、現実的です。」
長いひげを蓄えた国王は、ゆっくりと、そして力強く提案した。
「ははあ・・・、ありがたきお言葉、感謝する。
我ら恐竜民族は、かつてだまし討ちのような支配を受け、奴隷として扱われてきた関係上、奴らとの主従関係を続けるつもりはない。
最後の一兵になってでも、戦うつもりだ。」
ミライは、頑なに言い放った。
「我々人類はどういたしますか・・・、ミライさんたち地球在来の恐竜人たちが、チビ恐竜人たちの支配下にあった時にでも、彼らはミライさんたちを捨て駒と称しておりました。
また、今回チビ恐竜人たちの円盤を強電磁波の檻から救い出した立役者である、鬼一家がわれわれの手に落ち捕虜となっても、救い出す気もなく、同じく捨て駒扱いをされておりました。
つまり、我々人類が降伏して奴らの奴隷となったとしても、恐らく生存していられるのは、地球の環境を整備するまでの、短い期間のみ。
それが過ぎてしまえば、種のサンプルとしてごく少数を残して、そのほかは虐殺されるでしょう。
なにせ、体が小さく力も弱い人類は、何をするにも、それなりの数が必要となるでしょうからね。
そう考えると、おとなしく奴らの傘下に下る意味はないでしょう。」
所長が、難しい顔でチビ恐竜人との関係を評価する。
「ふうむ・・そうなると・・・、全面戦争ですかな・・・。
折角、復興の兆しが見えてきたと言うのに、またもやこの星中が戦火に曝されると言う事ですね。」
国王は、複雑な表情をした。
S国含め永世中立を謳ってきた国でも、それはあくまでも人類同士の約束事でしかない。
ましてや、他星からの侵略者であるチビ恐竜人たちに対しては、戦うか降伏かしかないのだ。
「現在、わが国でも西日本の都市を中心に議論を戦わせている状況です。
我が国は、以前、強力な力を持った鬼たちに支配されかけた経緯もあり、そう言った外敵に関しては警戒心も強くなっております。
恐らく、戦うことを望むと考えますが、2,3日中に結論が出るでしょう。
米軍に対しても、十分に議論して結論を出すよう要請しております。
私からの提案ですが、人類サイドで、争いを好まず、支配下に下ると判断する地域があってもいいのではないかと考えております。
地域ごとに方針が異なれば、それぞれの結果をチビ恐竜人たちに告げ、地域ごとに考慮してくれる様依頼しましょう。
もし仮に、地域の中でも意見が分かれれば、降伏組と戦争組で分れて申し出ればいいのです。
戦いもしないで降伏するのは嫌だとか、あるいは戦い自体が嫌いだとか、考え方は人それぞれです。
強制することなく、それぞれの道を進めるよう配慮いたしましょう。
今の地球上には、人類と魔物と恐竜人の外に鬼たちもいますが、それぞれでの結論が異なっていても構わないし、また、それぞれの中でも意見が割れても構わないわけです。
お互いの意思を尊重し合いましょう。」
所長が、柔軟性のある対応を提案する。
「そうですね、国民一人一人すべてに意見を聞いて回ることは、実質不可能でしょうから、ある程度代表者間で議論をして、その上でどちらの道を取るのか、それらはそれぞれの人たちに選んでもらうのもいいのかも知れません。
どのような未来が待っていたとしても、自分が選んだ道であれば、後悔しないでしょうからね。
ヨーロッパ圏の中でも同様に配慮することにいたしましょう。
3日後には結論を出します。」
そう言って、国王は軽く会釈した。
それから2日間は、学校も仕事も休みとなり、各地で議論が続けられることとなった。
「ハル君はどうするの?」
とりあえず、結論を出すまでの期間に限っては、安全が保障されているため、近親者で集まって結論を出す事となり、釧路の村へ戻ってきたところ、いの一番にナンバーファイブが問いかけてきた。
彼女の場合は、肉親がいる訳ではないのだが、現在の生活拠点が釧路であるため、一緒に戻って来たのだ。
彼女も、相談相手が欲しいのだろうか。
「僕は・・・、戦う事は好きではないけれど・・・、やっぱり自由の為に戦うと思います。
おじいさんはどうするのか分からないけれど・・・、でもチビ恐竜人たちが望んでいるのは、荒れ果てた地球を復興させるための労働力なんだから、恐らくおじいさんたちはその役に見合わないと判定されるでしょう。
そんな理不尽な事はさせられない・・・、最終戦争でほとんどの生き物が死に絶えた世界で、生き残った少数が互いに助け合ってようやく生きて来たんです。
それが世界中の他の地域にも同じ様な生き残りの人たちがいることが分って、互いに手を取り合ってこの星を豊かにさせて行こうと、そうして素晴らしい未来にして行こうと、先行きを楽しみに活動し始めたところです。
それを後からやって来た人たちの自由にさせるつもりはありません。
戦ってでも、自由を勝ち取ります。」
ハルは毅然と答える。
「ふうん・・・、よかった・・・、平和主義のハル君の事だから、戦わずになんとか話し合いを続けようって主張するのかと思っていた。
戦いを選択するのだったら、これからも一緒に行動できるね、安心した。」
ナンバーファイブはほっとしたように笑顔を見せる。
「そりゃ・・・、話し合いができるのであれば、そっちの方がいいのですけどね・・・。
そんな手だてが残されているのなら、とっくに所長さんが皆を説き伏せて話し合いの場を設けようとしていますよ。
最早そういった段階でないのは、あれからミライさんがどれだけ呼びかけても、チビ恐竜人たちが通信に応じないことからも明らかですよ。
下手に交渉への期待感を持たせないよう、無視する態度を貫いているのだろうって、所長さんが言っていました。」
ハルが、力なく答える。
やはり、戦いとなると気が重い様子だ。
「おーい、ハルや・・・、皆もう集まっておるぞ。
お前も早く来い。」
校庭を歩いていると、グラウンドから、聞きなれた声に呼び止められた。
振り返ると、学校のグラウンドには、人だかりができていた。
「あっ、おじいさんだ。どうしたんだろう。」
ハルが、何事かと思っておじいさんの元へ駆けて行く。
「わしらも、チビ恐竜人たちとのやり取りは、空に映された映像で見ておった。
降伏か戦いか、返事をするまでに残された期間は残り2日間。
各地の意見を取りまとめて調整する時間が必要だからと、それぞれの地区で結論を出すのは明日と決められた。
じゃから、これから集会で、村人の意見を取りまとめることになったんじゃ。
まあ、話し合うまでもなく、わしらの結論は決まっておる。
戦いは好ましくはない事だが、戦わずして負けることもならん。
わしらの未来はわしらが作り出すものだ。
釧路は全員一致で、戦う事に決まるだろう。」
ハルじいさんはそう言いながら、皺皺の手を強く握りしめた。
ところが、いざ始まってみると、そう簡単に結論は出なかった。
「チビだかチョビだか知らないが、恐竜人なんか吹き飛ばしてしまえばいいんだ。」
グラウンド奥の壇上で、神尾が思い切り強風を作り出して、髪の毛を振り乱しながら叫ぶ。
「そうだ・・・、あんな奴らなんか、冷凍の氷漬けで、眠らせてやるさ。」
神田も巨大な氷の塊を出現させる。
元々は、ほとんど攻撃力の無い魔法だったのを、進化させて少しは攻撃魔法の形に仕上げたようだ。
『そうだそうだ・・・』『やっちまえー』威勢のいい掛け声がかかる。
中には、子供たちの歓声も。
神田達の影響もあり、初級魔法はほぼ習得したヒロ達だ。
彼らももう中学生だが、魔法を使う機会は魔法学校での授業でしかなく、しかも同じ中級クラスの仲間内での試技だけであり、とても魔法を使って戦うなどと言った高度な事は、まだまだ望めない。
小さなころから魔物たちと戦っていた、ハルやミリンダ達とは違うのだ。
ハルは、なまじ魔法を覚えたことにより、ヒロ達が無謀な戦いに巻き込まれないで済むよう願っていた。
「私たちには、先月生まれた娘がおります。
このような乳飲み子を抱えて、とても恐竜人と戦う事など出来そうもありません。
いかな恐竜人と言えど、生まれたばかりの子供を邪険に扱う事はしないでしょう。
私たちとしては、例え奴隷の身に落ちても、この子の命は守りたいと考えます。」
神田達が引き上げると、今度は小さな子供を抱えた若い夫婦が壇上に上がる。
どうやら、意見のある人たちが、壇上に上がってそれぞれの意見を述べる形式のようだ。
『パチパチパチパチ』若い夫婦が壇を下りる時、あちこちから拍手が起こった。
戦わないで、降伏するという意見も、少なからずあると言う事だろう。
その後も、あくまでも戦いを主張する人や、戦いを避けて従っていれば、悪いようにはされないだろうと主張する人、様々な意見が飛び交った。
わずか2000人規模の釧路ですらこれだけもめるのだ、仙台市や西日本の都市では、2日間で意見をまとめる事など、出来ないのではないかとハルもため息をついた。
「ハルよ、おまえは恐竜人たちとも戦って、勝利した。
そうしてチビ恐竜人たちの事も少なからず知っている。
ちょっとお前の意見も聞かせてくれ。
みんなも待っているはずじゃ。」
ハルじいさんに促されて、ハルが壇上に上がる。
「ハルです・・・、僕も戦いは好きではありません。
でも、皆さんも知っている通り、チビ恐竜人たちは、自分たちの為に働いてくれている人たちの事を、何とも思っていません。
従ってやっているんだから敬えと言うような、うがったことを言っているのではありません。
しかし、自分たちの為に働いているものは、仲間として認め助け合うべきものだと思います。
そのような感情が欠けているチビ恐竜人たちに協力するようなことは、僕にはとても出来ません。
ですから、仕方がありません・・・戦います。」
おとなしい性格のハルだが、それでもしっかりとした口調で、戦うことを宣言した。
『いいぞー!』『パチパチパチパチ』『俺達も戦うぞー』
今までで一番大きな歓声に包まれる。
「あ、あー・・・、まあ、色々な意見があることは当然だ。
戦うと言う事は、非常に怖い事だから、尻込みする人も沢山いるだろう。
今までの戦いは、ごく一部の者達と限られた地域で戦っていた。
だから、ハル君も含め我々が仲間の代表として戦っていたんだね。
ところが今回は違う、敵が強大だと言う事もあるが、向こうは大きな円盤に乗って、地球上ならどこへでも移動して戦う事が出来るんだ。
今までと違って、戦闘地域に居なければ安全という事はない、いつかこの場所で戦闘が始まるかもしれないのだ。
だからこそ、今回は広く一般的な意見を集約するのではなく、個々に考えてもらう事にした。
所長の考えでは、どこかの島か大陸を指定して、そこを中立地帯とするよう提案するそうだ。
つまり、チビ恐竜人に降伏すると言う人々は、戦いを推進する者達の戦火に巻き込まれることがないよう、あらかじめそこへ避難していただく。
我々人類側が勝てば、元の住居へ戻ればいい訳だが、負ければそのままチビ恐竜人たちに収容されると言う事になる。
まあ、戦いを挑んだからと言って、戦局が思わしく無くなれば、それからでも白旗をあげることは出来るだろう。
但し、一度中立地帯に行ってしまったら、そこから戦いに復帰することはNGだ。
それは周りの人たちに、迷惑をかけてしまう事になりかねないからだ。
この村人の全員が、一つの考えにまとまる必要性はないと考えている。
ここを離れて中立地帯行きを望む者は、そう申し込めばいい。
だれも、その人に対して非難するものはいないだろう。」
最後にジミーが壇上に登って、選択方法を説明し、会合は終わった。
2日後には個人個人が、それぞれの行く道を決めると言う事になった。




