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もう平和とは言えない冒険の書  作者: 飛鳥 友
第6章 ちび恐竜人たちの逆襲編2
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第87話

                      14

「おりょりょ・・・、な・・・なによ、突然揺れ出したわね。

 地震なの・・・、それとも、単にぼろいだけ?」

 収容された牢獄のような部屋のベッドでふて寝していたミリンダが、飛び起きる。


「ちょっと・・・、こんなに揺れていたんじゃ、ゆっくりと寝ても居られないじゃないのよ、何とかして!」

 ミリンダが、扉の方へ声を張り上げて叫ぶ。


『カッカッカッカッ』叫び声が聞こえたのか、遠くから足音が響いてくる。

『ギィッ』そうして扉ののぞき窓が開けられた。


「ふん・・・、こんな重犯罪人が入る監禁室は、地下深くに作られている。

 逃げることは絶対にできない代わりに、丈夫に作られているから、多少の揺れでもびくともしない。

 最近たまに地震が発生する時があるのだが、まあ、生き埋めになることはありえんから安心するんだな。


 地上の建物には全て防振装置がついているから、高層ビルなどでも揺れを感じることはないのだが、最下層の牢獄ではそんな設備があるはずもない。

 まだ、横になれるベッドがあるだけでもありがたいと思え。


 家畜のお前など、本来ならわらが敷き詰められただけの部屋に収容されるはずだったのだぞ。」

 のぞき窓の向こうから、非情な言葉が告げられる。


「何言っているのよ、どんな場所でも寝られるのが特技のあたしが寝にくいと言っているんだから、こりゃ相当ひどい部屋よ。

 こんなんじゃあ、家畜だって寝不足でやせ細ってしまうわよ。


 まあいいわ、起きてしまったんだし、何か食べ物を出してよ。

 ここへ来てから、それなりに時間が経っているんだけど、何も食べていないわよ。

 捕虜だって、丁寧に扱っておかないと、あとで困るわよ。」

 ひどい言葉にもめげずに、ミリンダがなおも叫ぶ。


「うるさい奴だなあ・・・・、まあいい、食べ物ならちょっと聞いて来てやるから、少し静かに待っていろ。

 いいな!静かにしているんだぞ。」

 そう言って、バタバタと駆け出す音が遠ざかって行く。


「ようやく、食事にありつけそうね。

 それにしてもひどいわねえ、振動で眠りにくいし、催促しなくちゃ食事も出てこない。

 いくら敵側に捕まった捕虜だからって、こんな扱いはないじゃないのよ。


 この間の恐竜人たちとの戦いのときだって、所長さんは気を使って、檻の中は寒くはないかとか、ゆっくりと体を休められるだろうかとか、更には食べ物の好き嫌いはないだろうかなんて、そりゃもう・・・捕虜になった恐竜人たちの為に、色々と気を使っていたんだからね。


 余りに待遇が悪すぎるって、後で文句を言ってやらなくちゃいけないわね。」

 ミリンダは、後ろ手に縛られたまま起き上がって、ベッドの縁に腰かけた。


「そういえば、昔何かの本で読んだことがあるけど、刑務所の食事は臭い飯だって書いてあったわね。

 この部屋だって刑務所のような物だから、食事は臭いのかしらね・・・。

 臭いって・・・、どんな食べ物なの?とういうか、食べられるのかしらね・・、まあ大丈夫とは思うけど。


 そういえば、ミライさんたち恐竜人は、人間の食べ物を参考に料理しているって言っていたから、恐竜人基地でごちそうになっても、さほど違和感を得なかったけど、もしかして、恐竜人たちの料理って本当は全然違う食べ物なのかしらね。


 なにせ、大阪の時もそうだったけど、ミライさんは口をつけるものすべてに対してうまいうまいって連呼していたものね。

 あれは、ごちそうしてくれたロビンさんに対して気を使っていたというよりも、本心だった可能性が高いわよ。


 という事は、実は恐竜人たちの食事はとてもまずいんじゃ・・・。

 そうなるとまいったなあ・・・、よそのお宅でご馳走になる時は、多少まずくても、おいしいって言って残さずに食べなさいって、パパやママから教えられたものね。


 今だって、あたしが食べ物をよこせっていったんだから・・・、恐らく一生懸命作っているのだと思うのよ。

 そうして、もうすぐ持って来るんでしょ・・・、多少は味付けが悪くても、我慢しておいしいって言わなくちゃね・・・。


 あっ、そうだ、手を縛られたままじゃ、食事も出来ないじゃない。

 ついでに外してもらわなくっちゃね。」


 ミリンダはそうひとり言をしゃべりながら、扉が開けられるのを今か今かと期待して、ひたすら扉を見つめ続けた。

 ところが彼女の期待は、無残にも打ち砕かれる。

『カッツカッツカッツ』甲高い足音が近づいてきて部屋の前で止まった。


「お前の食事の事でお伺いに行ったんだが、家畜には食べさす必要はないって言われた。

 屠殺する前に餌を与えると、腸の中に残留物が残るから良くないと言う事らしい。

 3日前から絶食させて、腹の中を空っぽにするんだそうだ。

 だから、悪いが食べ物は与えられない、悪く思うな。」


 更なる非常の言葉が告げられる。

 番人の恐竜人もさすがに目を合わせるのを嫌ったのか、覗き窓を開けることもなく、扉の向こう側から声だけで伝えた。


「な・・・なによ・・・、あたしは捕虜じゃなかったの?

 色々と人間界の事を聞きだすための貴重な情報源で・・・・、そんなあたしが・・・、家畜?

 いやー・・・、食べられちゃうじゃない、ちょっと・・・、何でも話すわよ・・・、だから、食べ物・・・。」

 ミリンダの表情が一気に硬くなった。


「何でも話す方がいい、どうせ死んでしまうのだから、全て話して楽になって死んでいくんだな。

 本気で話す気になったら叫べ、ライゼル議長の所へ連れて行ってやる。


 別に話さないならそれでも構わないぞ。

 なにせ生命体の生前の記憶を吸収する装置があるから、それに掛けて記憶を抜いた後、食肉に加工するだけだ。

 但し、その光景は、あまり見られたものじゃない。


 だから、そうならないように、素直に何でも話しておくことを勧めるよ。」

 番人が、扉の向こう側から告げる。


『コツコツコツコツコツッ』やがて、足音が段々と遠くなって行った。


「まずいわよ、のんびりとしていられないわ、逃げなくっちゃ食べられてしまう。

 でもどうやって・・・、魔法は使えないし・・・。」

 ミリンダは、ベッドの縁に腰かけたまま途方に暮れてしまった。


「そ・・・そうだ・・・・、こんな時こそ・・・。

 ポチ・・・居るんでしょ、大変な危機なのよ、助けに来て。

 ねえ、聞こえる?ポチ・・・、お願い。」


 ミリンダが、首から下げた緑色の石に向かって囁く。

 すると、石が眩く輝きだして、チェーンを付けたまま宙に浮かび上がる。

 そうして更に光輝くと共に、目の前が煙に包まれた。

 やがて煙が晴れて視界が開けると、そこには1体の竜が・・・。


「我は神なり・・・願いを申せ。

 どんな望みでも、一つだけ叶えて進ぜよう。」

 尖った口に大きな鼻の孔、長い口髭をたなびかせ、爛々と輝く瞳、鱗に包まれた太く長い胴体・・・、まさに竜が降臨した。


 しかし、なんだかちょっと違う。

 横に回り込んでみると、竜そのものであるのは正面だけで、すぐに途切れて細い尻尾となっている、いわゆる寸詰まりだ。


「あ・・・あんたは・・・、竜の化身・・・。」

 ミリンダが絶句する・・・。


「いやあ、ばれちゃいましたか・・・、随分と時間が経ったから、もう忘れ去られたかと思っていました。

 また一から関係を構築するつもりでしたが、どうやら無駄な努力だったようですね。


 お久しぶりです、元気そうで安心しました。

 それにしても、ずいぶんと小さくなっているご様子で。


 竜の目も一緒に小さくなったから、私も同じミニサイズになっていますが、同じ大きさ同士、違和感はありませんよね。」

 竜の化身は、久しぶりの再会を喜んでいる様子だ。


「元気じゃないわよ、今だってチビ恐竜人に捕まって、これから食べられちゃうかもしれないのよ。

 でも、竜神であるポチを呼んだはずなのに、どうしてあんたが出てくるのよ。」

 ミリンダは当てが外れたのか、がっかりした様子だ。


「そりゃ、まあ・・・、ご存じのように竜神が黄泉で拘束されたままですから、仕方なく私が・・・。

 ああっ・・・でも、私がミリンダさんにお会いするのを嫌がっていた訳ではないのですよ・・・、私はお会いしたかったのですが、竜神として天へ上った身、やはり竜神として参上べきと常々思っていまして・・・。


 仕方なくと言うのは、そういった状況ですから竜神としてではなく、フリーな状態の私がと・・・。」

 竜の化身は必死に言い繕う。


「そんな事は良いわよ・・・、でもねえ・・・、まあいいか・・・、折角来たんだし・・・、はい。」

 そう言ってミリンダは、竜神に背を向ける。


「えっ・・・・、いかがされました?

 背中でもかゆいのですか?

 おっしゃっていただければ、そりゃ掻いて差し上げますが・・・。」

 竜神はそう言いながら、胴体中央の短い手を思いっきり伸ばす。


「違うわよ、ほら、これ・・・、両手を縛られているでしょ。

 これを解いてほしいの、ほら、早く・・・。」

 ミリンダは後ろ手に結ばれた手首を、竜神の方向に向けて催促する。


「ああ、これをほどけと・・・、いやしかし・・・、これは・・・・、私が見たこともないような材質の金属の様で・・・、ちょっとかじってみましょうか・・・、噛み砕けるかも・・・。

 あ・・・あいたたたた・・・、無理です・・・しかもまずい、ぺっぺっぺっ・・・。」


「何してるのよ、きったないわね・・・、あーあ・・・、唾液でべちょべちょ・・・最悪ー。

 かみ切ろうなんて無謀な事は考えずに、手でほどきなさいよ、無理なら引きちぎってよ。」

 ミリンダが、尚も縛られた両手を竜神の鼻先に向ける。


「いや、でも・・・、ほら、見てくださいよ、このつなぎ目・・・、これは鍵がなければ外れないようになっています。

 さらに私のこの、か細い腕を見てください、とてもこの金属を、引きちぎるような事が出来そうもないでしょう?


 望みごとは、私が出来る範囲の事でお願いいたします。」

 竜神は、そう言ってミリンダに己のか細い腕を見せつけた。


「縛られたところは、背中側なんだから、見られるはずがないでしょう?

 何とかしてこれを外して逃げなくちゃ、あたしは恐竜人たちの餌になってしまうのよ。

 あんたが代わりに食べられてくれる?」

 ミリンダが、イラつくように竜の化身を睨みつける。


「い・・・いえ・・・、自分なんか・・・食べてもおいしくないです・・・、う・・・鱗が厚くって身がほとんどありませんし・・・。」

 そう言って竜の化身はうつむいた。


「そ・・・そうだ・・・、じゃあ、魔封じの紐を外してよ。

 これで魔力をセーブしているから、いけないのよ。

 少ない魔力しか出せないと、両手を縛っているものに魔力が吸収されてしまうの。


 魔封じの紐さえなければ、いくら小さくなったってそれなりの魔力を出せるから、そうすればこんなもの引きちぎれるかもしれないわ。

 本来は、あたしにしか外せない紐だけど、今はラッキーな事にあたしが巻いている紐だから、あたしに接しているのよ。


 この紐は特殊な編み方をしていて、ただ巻きつけるだけで、勝手に紐同士が絡み合って結び付いて行くようになっているのよ。

 だから、あたし以外の人間がほどこうとしても、すぐに戻ってしまうから、どうやっても外せないの。


 でも、あたしの体に触れている限りは、外している間、紐が絡み合って行く事はないわ。

 ここが、魔封じのペンダントと違うところね。

 魔封じのペンダントは、フックが鍵構造になっているから、特殊な工具がなければ外せないのよ。


 工具さえ持っていれば誰でも外せるけど、逆に工具がなければどうやっても外せないわ。

 こういう時は魔封じの紐の方が便利よね。

 手順さえ間違わなければ外せるはずよ。


 いい、あたしが言うとおりに紐を操作して、外すのよ。」

 そう言って、ミリンダは自分の左手首に巻き付けた、魔封じの紐の結び目を竜の化身に向けた。


「は・・・はあ・・・・、複雑な結び方をしていますね・・・、でもやってみましょう。

 私はどちらかというと、力仕事より知的作業が得意なタイプですからね・・・。

 仲間内でもインテリとして通っていましたから・・・、まずは何をすればいいですか?」

 竜の化身が、魔封じの紐の一端をつまみ上げる。


「まずは、緑と青と赤と黄色の紐が組み合わさっている方の側を右手に持って、黒と白と水色と黄緑の紐が組み合わさっている紐を左手に持つのよ、いい?」

 ミリンダが、目をつぶったまま竜神に指示を出す。


「は・・・はい・・・、これを右手に・・・、で、こっちを左手に・・・。

 ってあれ?左手っていうのは、お箸を持つ方でしたっけ、お茶碗を持つ方でしたっけ・・・・?」

 突然竜神が初歩的な質問をしてくる。


「ばっかねえ、左利きでもない限り、左手に茶碗、右手に箸よ。」


「は・・・はい・・・、お茶碗が左手に、お箸が右手っと・・・。」


「違うわよ、緑と青と赤と黄色の紐が右手で、黒と白と水色と黄緑の紐が左手よ、これを間違うとかえって紐が絞まっていくから、絶対に間違わないでよ・・・。」

 ミリンダが、しつこく念を押す。


「は・・・はい・・・、了解いたしました・・・、それからどうします?」


「そうやって紐を持ったら、そのまま右手を上にして両手をクロスさせ、一旦右手の紐を離して、左手の下側でもう一度さっきの紐を掴んで、そのまま右方向へつまみ出すの。

 つまり紐を片方に巻き付けるのね。


 それから、引き抜いた右手をそのまま伸ばして、今度は左手を紐を掴んだまま右手の上に持って行って、紐を離して右手の下で紐を掴んで、引っ張るの。

 すると右手の周りに輪ができるから、その輪に紐をくぐらせるように右手を引き抜くの。


 まずはここまでで、第1段階ね。」

 ミリンダが、紐をほどく手順を頭の中でイメージしながら竜の化身に伝えて行く。


「は、はい・・・、これをこうして・・・、つぎはこう・・・っとそれから・・・」


「痛い痛い痛い・・・、ちょっと・・・、何やっているのよ・・・、紐が絞まっていくじゃない・・・。」

 ミリンダが、紐を奪い取るような勢いで、体をひねって向きを変える。


「ええっ・・・、で・・・でも・・・言われた通りに・・・ちゃんと・・・。」

 竜の化身は、何が悪いのか理解ができずに、茫然としている。


「全く・・・助けに来たなんて言いながら・・・、一体何ができるのよ・・・、頭が痛い・・・というか、手首が痛い。」

 ミリンダの左手が、血の気を失って白く変わってきた・・・。

 

           続く



ひえー・・・、哀れリンダは、恐竜人たちの胃袋に収まってしまうのか・・・。

全く頼りにならない、竜の化身は活躍するのか・・・、以下次章へ。

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