第86話
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「チビ恐竜人の円盤の監視部隊員に告ぐ。
奴らは逃げるつもりだ、絶対に逃がすな。
あらゆる手段を使ってでも留めて置け、すぐにそっちへ向かう。」
そう言うと、ミライは円盤発射場わきのエレベーターのボタンを押す。
すぐに上からエレベーターが降りてくるのが、格子状の枠を通して見える。
「こっちの方が早いわよ。」
ナンバーファイブが、ミライの両脇を掴んでそのまま飛びあがった。
地上へ飛び出ると、ハルがタイガを、ミッテランがジミーをネスリーが所長を連れて飛行能力で飛び上がって来ていた。
「じゃあ、わしも・・・、ほいっと。」
ダロンボは身をかがめると、そのまま床を蹴り、地上まで高く飛び上がった。
「このまま走るわよ。」
全員が全速力で、内陸に係留しているチビ恐竜人たちの円盤まで駆け出す。
数分で円盤近くまで到達したが、既にそこは修羅場と化していた。
『ドッカーン』『ピカッ』『ピカッ』『ジュワッ』弾幕や爆風が吹き荒れる中、恐竜人たちは当てもなく、レーザー砲を乱射していた。
そう、何もない空間から、渦巻く炎の玉や、白熱化した高温の玉が発射されているのだ。
玉が発射された辺りに目星をつけてレーザー光線を放つが、すぐに別な方向から攻撃されてしまう。
「うぉー・・・、竜弾!!!」
ミライが赤熱した高温の球体を放つが、その球体は敵にかすりもせず、ただそのまま一直線に飛び去ってしまった。
どうやら、ステルス機能を使った円盤が、素早く動き回りながら、攻撃してきている様子だ。
「まずいねえ、敵が何機いるのかすら、わからない状態だ。
みんな、強電磁波の発生装置を守ってくれ。
これが壊されると、チビ恐竜人たちの円盤を、つなぎとめておくことが困難になる。」
所長が、円盤の周りに円形に配置されている、パラボラアンテナのような装置を指さしながら叫ぶ。
「分ったわ、みんな分散して。
そうして自分の周りにある、強電磁波発生装置を守るのよ。」
ミッテランに指示されて、ハルたちは円盤の周囲に散って行く。
そうして、外周を見つめながら身構える。
すると、ネスリーの目の前の空間に、突然真っ白な玉が出現した。灼熱の玉だ。
「破断!!!」
ネスリーが唱えると、すぐに灼熱の玉は消え去る。
ところが、次々と白熱化した玉が、連続的に発射されてくる。
「破断!!!破断!!!破断!!!・・・、ええい面倒だ。
斬首刀!!!」
何発もの灼熱の玉を打ち消しながら、ネスリーが攻撃を仕掛ける。
目の前の空間を切り裂くように空気が動き、景色がゆがむ。
『ガッゴーン』空間の一部が消し飛び、そこから一筋の煙が現れる。
「ようし、いいぞ・・・、真空波!!!」
更に高速の空気の刃が、目の前の空間に炸裂する。
しかし、そこには既に何も存在していなかった。
「あれ・・・、目がおかしくなったかな・・・?」
ハルはそう呟きながら、目をぱちぱちとさせる。
確かに目の前の景色が、どことなくフィルターを掛けたように、薄暗くゆがんでいる。
しかもそれは空間全てではなく、扁平な楕円形をしたごく一部の空間だけのようだ。
それでもそのいびつな空間は、素早く動き回っていた。
「へえ、姿を消し続けることができなくなったようだね。
炎の竜巻、燃え尽きろ!!!」
ハルの体の周りから、渦を巻いた幾つもの炎の玉が発せられ、目の前の空間に向かって行く。
『バスン』しかし、炎の玉は、簡単に弾かれてしまう。
「だめかあ・・・、あまり無理はしたくないんだけど、仕方がない・・・。
灼熱の炎、灰と化せ!!!」
ハルが唱えると、真っ白な光と化した高温の巨大な球体が、まっすぐに目の前のゆがんだ空間に向けて放たれる。
『ドッゴーン』次の瞬間、何もなかったはずの空間から爆音とともに炎が吹き上がり、目の前に金属の残骸が砕け散った。
「ふえー・・・、まずは一機倒せたね。
でも、誰かの攻撃が当たっていたから、完全に姿を消せなかったみたいだよね。
完全に見えなかったら、どうやって対抗しよう・・・。」
ハルが不安そうに、辺りを見回す。
「うっ・・・うーん」
その時、落ちた残骸の中からかすかに人の声が・・・。
「ええっ・・・ひ・・・人が乗っていたんだ・・・、チビ恐竜人の球体や円盤は無人の遠隔操作だったから、安心して攻撃してたのに・・・。
たいへんだあ・・・。」
ハルはそう言いながら、残骸に近づくと中から体の大きな男をひきずり出し、治癒魔法を施した。
「魔槍!!!」
ナンバーファイブが唱えると、目の前の空間に、巨大な槍が雨のごとく大量に降り注いでくる。
先ほどから、自分の目の前の空間から、何かが飛んでくるたびに障壁を張り、強電磁波発生装置を守っていたのだが、それでは自分の周りのほんの少しの装置しか守れないと気付いたナンバーファイブが、攻撃に転じたのだ。
彼女は、なるべく広範囲にわたって魔槍を降らせて、何とか見えない敵にかすり傷でもつけようとしていた。
どこかに印さえつけることができれば、その部分を集中的に狙えばいいのだ。
「魔槍!!!魔槍!!!魔槍!!!」
ミリンダの事も含めて、今回の騒動に責任を感じている彼女は、何としても円盤に逃げられるのを阻止するつもりでいた。
なぜなら、この円盤の中にミリンダがいるのであれば、地球上ではない場所へ連れ去られてしまうかも知れないのだ。
そうなれば、自分には手が出せなくなるかもしれない。
絶対に逃がすわけにはいかないのだ。
やみくもの攻撃ではあったが、少なくともその攻撃範囲だけは、ステルス機能を持った円盤ですら近づけないでいた。
「フレン・ドアスカメッセ・・・至極暴風雷撃!!!」
ミッテランが唱えると、暴風を伴った雷撃が周囲の空間を襲い、渦巻き状に突進してくる炎の玉を吹き飛ばす。
雷撃のいくつかは地上まで達せずに、空中で消えるため、攻撃のいくつかは見えない敵に当たっているのだとは思えるのだが、依然として敵の攻撃がやむことはない。
右かと思えば左・・・、地上すれすれからの時もあるが、遥か上方から灼熱の玉を浴びせられたこともあった。
瞬時に位置を変えているのか、あらゆる方向から攻撃を仕掛けてくる敵に対して、やはり広範囲にわたって魔法攻撃を仕掛けて行く作戦のようだ。
それでも範囲が広い分だけ強さが分散され、一撃の効果が弱くなってしまうため、敵にダメージを与えられているのかすら、疑わしくなってきた。
それでも自分が攻撃を続けていなければ、この場所にある強電磁波発生装置を守り切ることが、難しい事は理解していた。
なにせ、既にいくつかの発生装置は、見るも無残に破壊され、電磁波を発生していないことが明白だった。
彼女が着いた時点では、既に1/3近くの発生器が壊されていた。
それでもなんとか残りの発生装置を守りきるため、彼女はここを死守すると決めたのだ。
『ガガガガガッ』ジミーの銃から、弾幕と共に新型弾が発射される。
しかし、何の手ごたえもないまま、弾はただ中空を飛び去って行く。
「ふう・・・、敵の攻撃を見てから撃っても遅いと言う事だよな。
向こうは、攻撃を仕掛けたと同時に移動しているから、攻撃の出どころ目がけて撃ったところで、そこにはもう何もないんだ。
かといって、やみくもに打つほど弾は持ってきていないし、参ったねえ。
どうやって、この場の発生装置を守ろうか・・・。」
障壁などの魔法が使えないジミーは、敵の攻撃から発生装置を守ることは出来てはいない。
ただひたすら、攻撃を仕掛けてきた地点の周りに新型弾を討ち続け、見えない敵に一撃食らわせようとしているだけだ。
それでもパワードボディスーツを身に着けたジミーは、素早い動きで攻撃地点に移動するので、敵もおいそれと簡単には攻撃できないようになってきていた。
なにせ、攻撃してすぐに移動しなければ、破壊されてしまうのが明白になって来たからだ。
それは、誰が守っている地点でも同様だった。
ミライは竜槍を雨のごとく降らせ、ダロンボは灼熱の玉ですらも鬼の能力で消滅させると、そのまま飛び蹴りを食らわせようとするのだ。
『ガッゴーン』ナンバーファイブの目の前の空間から突然煙が上がり、爆風が噴き出す。
「や・・・やったわ・・・。」
ナンバーファイブが喜びのあまりガッツポーズをする。
ハルの分と合わせて、これで2機目の破壊だ。
『バサッ』破壊された残骸の中から、女の子が放り出される。
「この子が中で運転をしていたのね・・・、うーんどうしようか・・・。
まあ、情報を得るために、生かしておきましょうかね。」
ナンバーファイブも、少女に治癒魔法を施した。
この調子で行けば、何とか食い止められそうだ。
誰もが、そう考え始めたころ、遥か遠くの方で、爆音が鳴り響いた。
それは丁度、皆がいる側とは、円盤を隔てて反対側から、大音響が鳴り響く。
『ガッガッガッガッ・・・キュインキュインキュイン・・・・』その音は、何かを確かめるかのように、鳴り響いては止まり、鳴り響いては止まりを繰り返していた。
やがて音の間隔が短くなってきて、そうして連続的に音が響き渡る。
同時に、地響きのような重低音の、胃を揺り動かすような振動も感じてきた。
それは目の前でも同様だった。
目の前の巨大な円盤が、高速で振動しながらゆっくりと浮上し始めている。
「ば・・・馬鹿な・・・、奴らは自殺する気か・・・。」
ミライが、その光景を信じられないような目つきで見つめる。
なぜなら、未だに強電磁波の檻は発生しているのだ。
円盤は、強電磁波でその装甲を焦がされながら、それでも尚も浮かび上がろうとする。
『ジュワジュワッ・・・』本来なら装甲を焼き切って切断してしまうはずの、強電磁波の効きが鈍い。
赤熱した鋼板が少しゆがむ程度で、徐々に電磁波の檻は破られていく。
やがてもっとも効きの弱かった向こう側を上向きにして、円盤は上空へ舞い上がった。
本来ならば、細かく分断されるはずだった装甲は、後方の一部分が煙をあげたにとどまった。
「ど・・・どうして・・・。」
ミライは唖然としてその光景を見上げる。
直径2キロの円周は、6キロをはるかに超える。
ミライ達が守っていたのは、そのほんの一部の外周に過ぎない。
他の地点の強電磁波発生装置が全て破壊されてしまったがために、広大な範囲を守っていた電磁波の檻は、ひどくまばらになってしまったのだ。
その為、チビ恐竜人たちの円盤の装甲でも、耐えられる程度になってしまったのだろう。
「ふっふっふっ・・・、ミライよ、我らに逆らったことを、後悔させてやるぞ。
それは、黄泉の国の鬼たちに対しても同じだ。
お前たち含め、地上を地獄に変えてやる、と言っても人間ども同様、お前たちは大切な労働力であり食肉だ。
素直に降伏すれば、すぐに殺すこともない。
利用価値は色々とあるのだからな。
しかし、我らに従わないと言うならば、お前たちに用はない。
すぐに葬って新たな種を育て上げるだけだ。
地上には収穫間近な農作物に加え、多くの家畜が育て上げられているようだ。
我々は当面このままのサイズで暮らし、充分な食料が確保されてから、以前のようなサイズに戻ればいいだけだ。
次の種が育つまで待つことは、難しい事ではないのだぞ。
さあ、どうする。」
見上げた空一面に、チビ恐竜人の姿が映し出され、通告される。
更に火星からもう一機の円盤も飛来して、敵の巨大円盤は2機になってしまった。
「ううむ・・・、何という事だ・・・。」
ミライが悔しそうに、宙を見上げる。
「参ったね・・・、お手上げだ。」
所長も、降参とばかりに両手をあげる。




