第84話
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「ここが、僕が担当している基地さ。
我が一族だけに伝わる、秘密の基地だね。
古くは、僕のひいひいおじいさんが、人間界へ顔を出して力を見せつけ、土地の人々を従えると、有力者に命じて山を切り崩して石像を掘らせたらしい。
いずれ、神である恐竜人様たちが地上へ戻ってこられた時に、すぐに地上を支配できる様、備えて置いた武器の一つだね。
ここの石像は、長い年月で地中に埋まってしまって探すのに苦労したけど、別の場所では砂の中から顔を出していたのか、人間たちが掘り出していたものもあって、そちらは楽だったね。」
男が目の前のパネルを操作すると、スクリーンに映し出される山の一部が開いて、その中へと入って行く様子が見える。
どうやら、中南米の巨石像が戻って行った山のようだ。
「あんたは何者なの?
ダロンボさんとは関係がないって・・・、でも黄泉の国の鬼なんでしょ?
あそこは、地上の生き物に対して中立の立場を貫くって言っていたけど、どうしてあんたは人間を襲うのよ。」
ミリンダは、後ろ手に縛り付けられたまま、床に転がされている。
そのまま窮屈そうにもがきながら、遥か上方の男の顔を見上げて睨みつける。
「ああ、そういや忘れていた、手荒なことをしてすまない。
おとなしくさえしていれば、乱暴な事はしない。
僕の名前はチュロンバ、チュロンボ一家の末っ子さ。
チュロンボ一家は代々神に仕える一族で、神器を守って来た。
その神様が降臨なされたのに、ダロンボさんたちは何千万年も昔の事だから、知らないって言い放った。
そうして、神様の手足となって働くことを拒んだんだ。
だから、僕たち一家は黄泉の国を離れた。
だから鬼ではあるけど、黄泉の国とはもう関係がない。
僕たちは、いうなれば神様のしもべさ。
黄泉の国を出て基地まで辿りついたのはいいけど、あそこを出てしまうと、僕たちの魔法力は制限されるってことを思い出して、これでは神様のお役に立つことは難しいことに気が付いた。
だから、魔法を与えるって嘘の評判を立てて、君たちのうちの誰かがやってくることをじっと待っていたんだ。
君たちが、黄泉の国で特訓を繰り返していたことや、平和になった後も黄泉の国での特訓を望んでいたことを知っていたからね。
簡単に魔法が得られると分れば、誰かがその言葉に惹かれてやってくるとふんだんだ。
わざと人里離れた場所にしておけば、誰か魔力の優れた者が一緒に同行してくるだろうっていう目論見でね。
現地人のふりをして、救助隊が来た土地の中に入り込んで色々と吹き込んで回ったのさ。
裸のままでもこの地では、大きな1枚布の真ん中に穴をあけて頭だけ出してかぶっていれば、簡単に現地人に紛れられたからね。
その計画は成功したよ、ほんの少しの魔法力しか使わない、初歩的な魔法を見せるだけで、あんなに膨大な精神感応を吸い取ることができたんだからね。
口封じの意味も込めて、全ての精神感応を吸い取ってやるつもりが途中で止まってしまって、でもまあ目的は達成したからいいやと思っていたけど、どうやらその辺りがほころびとなっていたのかね。
あの青年たちを、そのまま帰したのがいけなかったようだね。
なあんちゃって・・・、いくら僕たちが鬼でも、人を殺めるようなことはしないよ。
何日か、何週間かあの場に留まってもらうつもりだったんだけどね。
さあ、到着したから、こっちへ来てくれるかな。」
チュロンバは、口元に不気味な笑みを浮かべながら、ミリンダの体を起こしあげると、そのまま掌の上に乗せて歩き出した
開いた扉をくぐると、そこは石で造られた遺跡の中の様だった。
隙間なく積み上げられた石で出来た大きな部屋の中で、振り向くと今いたところは円盤の中の様だった。
「ステルスを切ると、このような扁平な丸い形をしている乗り物だ。
キントーンという。
ちょっと前までは、これで各基地を飛んで回ることくらいしか出来なかったのだが、今は違う。
小さな恐竜人様たちがやってきて、転送装置を備え付けて下さったからね。
と行っても、僕が入るには小さすぎて、恐竜人様自身がおいでになる以外は、指令や装置とかが送られてくるだけなんだがね。」
石室の中に不釣り合いな円盤の姿も異常であったが、更にその脇には様々な計器がついた小さな箱型の装置があった。
チュロンバがその装置に手を伸ばすと、正面の半透明の扉が開いた。
「さっ、入って。」
拘束されて抵抗のしようもないミリンダが、仕方なくチュロンバの言葉に従う。
中へ入って後ろが閉じた瞬間に、目の前でフラッシュがたかれたかのように、周囲が真っ白くなった。
眩しくて閉じた目を開けると、目の前にはまた同じような扉がある。
自動的に扉が開くと、そこは真っ白な壁で、先程いたところとは別の部屋の中の様だった。
ミリンダが箱の外へ出ると、彼女と同等のサイズの恐竜人たちがいた。
小さな存在、チビ恐竜人たちだ。
「よく来たね、ここは恐竜人大陸にある、我らが円盤の中だ。
ミライ達は、わしらがこの中でおとなしく暮らしていると思っているのだろうが、そんなことはない。
ここに到着した時点から、わしらの別の円盤と転送装置を用いて行き来できていたのだからな。
さらに、その円盤が地球に着陸して、ステルス機能を用いて各地の基地にまで転送装置を運び入れたから、今では地球上でも自由に行き来ができるようになった。
銀河警察官などと称して、地球にやって来た円盤だが、うまくだませていただろう?」
ミリンダを出迎えたのは、見覚えのある恐竜人・・・・ライゼルとかいった元老院だ。
「ふん・・・、ちっとも騙されてなんかいなかったわよ。
誰もが怪しいって思っていたから、監視の目を緩めてはいなかったわ。
それでも、ステなんとかっていう機能で、姿を消した状態であちこちへ行っていたのね。
姿を見せた時に、撃ち落としてしまえばよかったんだわ。」
後ろ手に縛りあげられたままのミリンダが、そっぽを向きながら答える。
「おうおう・・・、過激なことを言うなあ・・・。
この円盤の中だけでも3千万人ほどの恐竜人たちが暮らしている。
もう1機の円盤にも、同じくらいの恐竜人たちが乗っている訳だ。
そんな多くの人々を乗せた円盤を、あっさり撃ち落したりはしないさ。
よほどの悪さをしない限りはな。
中には、一般の住民も数多く暮らしているのだからな。
まずは、本当に敵なのかどうか、そうしてどれほどの脅威があるのかどうかを見定めてから、対処を検討する。
誰だって、大量虐殺の張本人にはなりたくはないだろう?
そんな事よりも、肝心のあれはどうしたんだ?
お前たちが持っていたのだろう?」
ライゼルは、ミリンダの体の周りを、何かを探すかのように見回す。
すると、先ほどミリンダが出てきた装置が突然光だし、そうして扉が自動的に開いた。
中には装置一杯の大きさの小槌が入っていた。
「おお、おう・・・、念願のウチーデノコヅーチが・・・。
これがあろうがなかろうが、この星を支配するつもりに変わりはなかったから、この地に留まっていた訳だが、コヅーチ探知機が反応したと知らされた時は、小躍りしたものだ。
しかし、すぐにその反応は途絶えて、その後どうやっても見つからなかった。
地球の民に作らせておいた巨石像で、生き残った者達を攻撃すれば、やがて耐え切れなくなって、ウチーデノコヅーチで自らを巨大化させて戦い始めるだろうと言い出したから、我がしもべを名乗る鬼一家に任せておいたのだが、一向にその気配も見られなかった。
これは、神罰を恐れる鬼たちの延命策ではないかと疑い始めておったのだが・・・、ようやく手に入ったという訳だ、まあ奴らにしては良くやった方だな。
おい、これを次元金庫にしまっておけ。
どうやって隠し持っていたのかは知らないが、恐らくこれが地球上に存在するウチーデノコヅーチの最後の一つだろう。
鬼たちにその能力で複製させないよう、別次元で保管しておくのだ。
地上を攻略するには、巨大化するまでもない、物量で攻め落としてやる。
巨大化するのは、この星を支配してからで十分という訳だ。
土着の恐竜人たちや、人間どもを奴隷として従えて、のんびりと過ごすさ。」
ライゼルに命じられ、自分たちの身の丈ほどもある小槌を数人で抱えながら、チビ恐竜人たちが部屋を出て行った。
「さあて、地球人のお嬢ちゃん・・・、君は恐竜人語が分るから丁度いい。
この星の現状を洗いざらい白状してもらうよ。
なにせ、我々が巨大化して地上に君臨した暁には、ミライ達恐竜人たちには奴隷となって働いてもらわなければならないし、お前たち人間は、家畜として労働を担うとともに我らの食肉となってもらう事になるのだからな。
我らの近代兵器で、あっさりと死滅させてしまう事は簡単なのだが、そうなるとこの星全体の生物の大半が死滅してしまう事になる。
それでは折角の我らの楽園が、楽園ではなくなってしまうのだ。
極力秘密裏に事を進め、短期間でこの星を手に入れる方法を検討させてもらうよ。
我らが先祖様が、この星に先住していた、おバカな恐竜人たちを征服し、更に睡眠学習なんていう方法で、征服されたことすら忘れさせたみたいにね。」
ライゼルはいやらしい笑みを浮かべながら、ミリンダの体を舐め回すように眺める。
「ふん、誰があんた達なんかに・・・・、鋼鉄化!」
ミリンダが唱えるが、何も起こらない。
「あ・・・あれ・・・?」
不思議そうに自分の体をきょろきょろと見回すミリンダ。
「ふん、何をしようとしたのかは分らんが、おまえの手を縛っているその鎖は、精神感応干渉装置というものだ。
つまり、おまえが精神感応を使おうとすると、そのエネルギーに反する力を出力して、無効にしてしまう訳だ。
だから、その状態では精神感応は使えないことになる。
あきらめろ。
おい、監禁室へ連れて行け、なあに、今は元気でも、数日もすればぐったりとなって、何でも話すようになるだろう。」
ライゼルに言われて、部下の恐竜人がミリンダの体を押すようにして、部屋の奥の扉へ誘導する。
エレベーターが動くような作動音が響き渡り、暫くして自動扉が開くと、そこには長い長い通路が左右両側に伸びていた。
「こっちだ。」
ドアの向こう側で待っていた2人の恐竜人兵士に連れられて、ミリンダが通路をひたすら歩いて行く。
「へえ・・・、あんたたちの円盤の中はこうなっていたんだ。
あの大っきな円盤だから、端から端まで通路が伸びているとしたら、相当な距離よね。
それこそマラソンでも出来る位。
こんな狭い円盤の中で暮らしていたんじゃ、運動不足になってしまうからって、この長い廊下を往復して走っているような、恐竜人も中に入るんじゃない?」
ミリンダが物珍しそうに、辺りをきょろきょろと眺めながら尋ねる。
通路には、等間隔にドアが設けられていて、それぞれ番号が振られている。
恐竜人基地のように、監視室とか指令室とかの名称ではないため、各部屋の役割が把握しにくいようだ。
「円盤・・・?何を訳の分からないことを言っている。
ここは、元老院本部ビルの地下にある、収容施設だ。
このビルは確かにこの居住区の中でも1,2を争うほどの大きさだから、通路も相当に長い。
しかし、これがこの居住区の大きさだと思ってもらっては困るな。
こんなものは、本当にごく一部の施設さ。
まあ、おまえは居住区の外の汚染された世界で過ごしていたのだろうから、こういったビルなどに入ることは初めてかも知らんな。
これから監禁されるわけだから、見ることは出来ないだろうが、外に出て見たら驚くぞ。」
先頭を歩く恐竜人が、自慢げに話を返してくる。
「な・・・なによ・・・、それ・・・、どういう事?」
「それは・・・。」
「おい、それくらいにしておけ、変な知恵をつけると、後でライゼル議長に大目玉を食らうぞ。」
後方を歩いていた別の恐竜人が、たしなめる。
「はっ・・・、申し訳ありませんでした。」
すぐに先頭を歩く恐竜人が、振り返って敬礼をしながら謝る。
どうやら、前の恐竜人は若いようで、口が軽いのかも知れない。
「これに乗れ。」
広いエントランスのようなスペースに出ると、壁のボタンを押し、開いた扉の中に誘導される。
どうやらエレベーターのようだ。
恐竜人がボタンを押すと、ふわりと体が浮いたような感覚になり、すぐにチンというチャイムが鳴る。
「ここで降りろ。」
「なによう・・・、乗れと言ったり降りろと言ったり忙しいわね。」
ミリンダは、不満そうに前の扉から通路へ出る。
そこは、照明が少ないのか薄暗い通路で、先ほどよりも扉の感覚が密で、更に扉に記している数字も大きく表示されている。
「ここに入れ。」
恐竜人に案内されてはいった先は、小さな空間の片隅にベッドと机に便座がある部屋だった。
「ここって・・・、監獄?」
『ガッシャーン』金属音と共に、後方の扉が閉まり、施錠された。




