第81話
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「こうなったら実力行使よ。
ナンバーファイブさん、悪いんだけど、またまた協力して。」
富士の樹海の中で、ミリンダが真剣な表情で告げる。
「あたしにできる事だったら協力は惜しまないけど・・・、どうするの?
まさかトラちゃんみたいに、黄泉の国を改装しちゃおうってわけじゃないでしょうね?
あ・・あれは・・、良くないわよ・・・、多くの人たちに迷惑をかけてしまったんだし・・・。」
ナンバーファイブが、少し慌て気味に、ミリンダを押しとどめようとする。
「違うわよ。さすがのあたしも、ダロンボさんたちに迷惑をかけるようなことをしたくはないわ。
巨石像を操っている奴らの心当たりとして、一番怪しいのはやっぱりチビ恐竜人たちだと思うのよ。
オーラを吸い取る装置を持っていたっていう記録があるんだし、吸い取ったハルのオーラでハルの魔法を使って攻撃してきているのよね。
恐らく銀河警察もグルで、本当は捕まった奴らを解放しようと警察に化けて地球へやって来たのよ。
だから、色々と難癖をつけて地球には預けられないなんて言って、奴らの身柄を受け取ろうと考えていたんでしょうけど、何らかの事情でそれをあきらめて帰って行ったんだと、あたしは見ているの。
その事情ってやつも含めて、あいつらの円盤の中へ潜入捜査しようと思っているのよ。
だからお願い・・・、あの小槌を貸してほしいの。
チビ恐竜人サイズにならなくちゃ、円盤には潜入できないでしょ?」
ミリンダが、ナンバーファイブに対して拝むように両手を合わせる。
「ふうん・・・、そうね、あたしもあいつらが一番怪しいと考えていたのよ。
いくら魔封じの紐やペンダントを首に巻かれたと言ったって、あいつら自身は魔力がないって言っていたから、別に怖い事はないはずだものね。
戦うことだって出来るんじゃないかと思っていたけど、あっさり捕まったから、なにか裏があるんじゃないかと思っていたのよ。
それで、今回の銀河警察の来訪と、更に巨石像の襲撃でしょ。
何も関係がないって考える方がどうかしているわ。
でも、どうやって潜入するの?
銀河警察の円盤は既に飛び去ってしまったし、チビ恐竜人たちの円盤は、電磁波で厳重に囲われているでしょ。
それに、恐竜人兵士が交代で見張っているはずだし、入り込む隙間なんてないと思うわよ。」
どうやら、ナンバーファイブもミリンダと同じことを考えていたようだ。
「それだったら問題ないわ、アメリカに行ったレオンが、役に立たないからって、すぐに返されてきたから。
あいつがいれば、恐竜人たちに見つからずに、円盤に近づけるでしょ。」
ミリンダが右手でOKマークを作って微笑む。
「分ったわ、ミリンダちゃんだけじゃ心配だから、あたしも一緒に行くわ。
九州の警備は・・・、まあ若い男の人が沢山いたから、何とかなるでしょ。
行きましょ。」
そう言って二人は、中空へと掻き消えた。
「レオーン、居るんでしょ、出てきなさい。」
釧路へ戻った二人は早速、魔物の巣南館へとやって来た。
そうして、大きな声でレオンを呼び出す。
「は・・・はい、ミリンダお嬢様、いかがしました?
また、おみ足をおもみ致しましょうか?それとも肩とか腰をおもみしますか?」
すぐにトカゲ系の魔物が、飛ぶようにして駆け込んできた。
「きょうはねえ、そう言った用事じゃないの。
ちょっとついて来て、これからチビ恐竜人たちの円盤に潜入するから。」
ミリンダが、そのままレオンを連れ出して行こうとする。
「ええっ・・・、せ・・・潜入ですか・・・?
レオンにはちょっと・・・、あっ、あたたたた・・・お腹の具合が・・・。」
突然の要請に、レオンはお腹を抱えて蹲ってしまった。
「大丈夫よ、臆病者のあんたに一緒に潜入してなんて言わないから。
なにせ、リーダー格の魔物達と一緒に、海外の魔物たちを手懐けて開拓をさせる目的で行ったのに、中南米で巨石像に米軍が襲われたって聞いたとたんに、テントに籠って出てこなくなったんだってね。
現地の弱ーい虫系魔物にすら馬鹿にされて、とても魔物たちを統率していく事なんて出来そうもないからって、あっさり返されたんだものね。
危ない事はさせないわ、恐竜人たちに見つからないように、円盤の傍まで行ければいいのよ。
それが終われば帰っていいわ。
恐竜人基地まで行けば、ミライさんたちが送ってくれるはずよ。」
ミリンダはそう言って、何とかレオンをなだめる。
「わ・・・分りました・・・、ミリンダお嬢様を円盤の近くまでお連れすればいいんですね?
危険な事は全くありませんね?
いいでしょう、このレオンが連れて行って差し上げますよ。」
途端に強気になったレオンが、胸を張る。
「じゃあ、行くわよ。」
魔物の巣の中庭で、レオンの手を握るとそのまま中空へと掻き消えた。
恐竜人基地の上に瞬間移動してきたミリンダ達は、すぐに駆け出し、高速でチビ恐竜人たちの円盤が見える場所まで移動した。
「さっ、レオン頼むわよ。
強電磁波で囲まれているから、その近くまでいったら教えてちょうだい。
なるべく、恐竜人たちの見張りの死角になるところがいいわ。」
ミリンダに促され、レオンがシート状に伸び、ミリンダとナンバーファイブの体を包み込む。
そうして周りと同化して、見えなくなった。
「ちょっと、足元がごつごつしていて、すごく歩きにくいわね。
もう少し平らな道はないの?」
薄く伸びたレオンに包まれていると、周囲の様子は全く見えていない。
わずかな隙間から差し込む光で、足元の地面がうす暗く確認できる程度だ。
荒れ地の一角に係留したチビ恐竜人たちの巨大な円盤なので、近づくにはごつごつとした岩場を避けながら歩いて行かなければならないのだ。
「そうはおっしゃいましても、恐竜人の目につかないような場所を、探しながら歩いているのです。
彼らが巡回で歩き廻っている道すがらでは、いけないわけでしょう?
彼らの配置がだんだん分ってきましたから、もう少し我慢してください。
あっ、そこ少し左です。
そうしてすぐに右へ戻って・・・・更に右です。
はい、いいですよ。」
レオンに言われて、二人はその場に立ち止まる。
「もう、隠れていなくてもいいの?」
「は、はい、大丈夫です。」
シート状のレオンはそう言いながら、元のトカゲ系魔物の姿に戻った。
「ふう・・・、窮屈だった。
へえ小高い丘と、大きな木の間の空間ね。
確かに、ここだったら横からは見えないわね。
正面には円盤があるし、簡単には気づかれないで済みそうね。
じゃあ、始めましょう。
ナンバーファイブさん、小槌を出して。」
「うん、ちょっと待ってて。」
ナンバーファイブは、すぐに両手を伸ばして、スーツケースを出現させた。
そうして、ケースの中をごちゃごちゃとまさぐって、古びた小槌を取り出した。
「じゃあ、お願いね。
小さくなあれって願いながら振るのよ。」
ナンバーファイブは、そう言いながら小槌をレオンに手渡して、ミリンダと一緒に横1列に並んだ。
「はい、分りました。
小さくなあれ、小さくなあれ・・・」
レオンが唱えながら一振りする度に、2人の美少女の体が小さくなっていく。
やがて、20センチほどの大きさにまで縮んだ。
「ストーップ、もういいわ。
あまり小さくなりすぎると、チビ恐竜人にでも敵わなくなってしまうから、同じくらいの大きさでいいわ。
さあ、行きましょう。」
レオンに小槌を振るのを止めさせてから、ミリンダは円盤の方へ歩き出そうとする。
先ほどまではすぐ目の前にあった円盤が、低い目線になると、遥か彼方になってしまったように感じる。
数百メートル先にあったはずだが、十分の1サイズになったのだから、数キロ先と同じ感覚になったようだ。
「でも、電磁波の檻は切れてはいないのよ。
どうやって入り込むの?」
ナンバーファイブが、試しに足元の枯草の破片を、円盤の方に投げつけて見る。
『ボワッ』枯草は、見る間に赤く発火して、地面に落ちて黒い炭と化した。
「さすがの電磁波も、地面の中にまでは入りこんではいないでしょ。
レオン、ちょっとここの地面を掘って。」
ミリンダが、足元の地面を指さす。
「は・・・はい・・・、やってみます。」
レオンは、恐る恐る手に持っていた小槌の柄で、地面を掘り始めた。
「一寸何やっているのよ、小槌が壊れてしまうでしょ。」
ミリンダが、怒り心頭といった感じで、レオンをとがめる。
『ジリジリジリ・・』すぐに小槌の柄の先が、真っ黒い炭と化した。
「あちゃー・・・、穴を掘れば行けると思っていたのに・・・、無理かしら。
いや、バリアーを張って入れば何とかなるかも・・・。」
ミリンダは、そう言いながら、魔法を唱えようとする。
「無理よ、広範囲に電磁波を分散したから、威力は弱まっているのでしょうけど、あたしたちだって小さくなって魔力が弱まっているんだよ。
すぐに黒焦げになってしまうわよ。
あきらめて、別の方法を考えましょ。」
ナンバーファイブは、ミリンダの肩に手を置いて、小さく首を振った。
「そうか・・・、残念ね。
仕方がないわ、レオン、小槌を振って、元の大きさに戻して。」
ミリンダも、あきらめた様子だ。
「おおっと待った・・・、そのままの大きさの方が、かわいらしいよ。
元の大きさには、戻らない方がいい。
なにせ強すぎて、僕じゃ、到底かなわないからね。」
「誰?」
声のする方向へ目をやると、そこには見上げるほどの大きさの、肌が白い若い男が銃のような細長い筒を持って立っていた。
『シュルン』すぐにレオンがシート状になって、ミリンダとナンバーファイブの体を包み込み、周囲と同化し姿を消す。
同時に二人は駆け出して、場所を移動する。
「ふうん・・・、そうやって、周りから見えなくなることができるんだ・・・。
すごいね・・・、でもこのウチーデノコヅーチ探知機があれば大丈夫さ。
これがあれば、地球上のどこにウチーデノコヅーチが出現しても、すぐにその場所が特定できる。
姿を消しても無駄だよ、位置は簡単に把握できる。」
そう言って男は、持っていた筒先をゆっくりと動かした。
「ふ、ふ、ふ・・・、小さくなったものだから、自分たちは遠くへ駆けたつもりでも、実際はほとんど動いていないようだね。
小槌は元の位置のままだ。」
そう言いながら、狙いを定めて引き金を引く。
『ピカッ』一瞬高温の眩い光に包まれたと思ったら、薄い膜が弾けたように散って、ミリンダ達の視界が急にひらけた。
どうやら、レオンは悲鳴を上げることもなく、砕け散ったようである。
「ま・・・参ったわね・・・。
あまりにも小さすぎて感覚が違うから、瞬間移動も出来そうもないし・・・。」
筒を向けられたミリンダの額に、汗がにじんできた。




