第80話
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「こうなったら、黄泉の国で特訓よ。
魔術者を養成して、各地の警備に当たらせるのよ。
それに黄泉の国でなら、またパワードボディスーツを大量に作ることができるでしょ?
ダロンボさんにお願いして、特訓の場として使わせてもらうのよ。」
ミリンダが、真剣な表情で告げる。
「そ・・・そりゃ、あそこがまた使えるのならありがたいが・・・、でも今はダロンボさんたちが管理しているからね、頼みに行くにしても、まだ5月半ばだから、マイキーの国の黄泉の穴が開くにも2ヶ月近く時間がある。
当分は無理だね。」
所長はすでにあきらめ顔だ。
「大丈夫よ、世界中の黄泉の穴が開く時を知っている、ナンバーファイブさんがいるのだから。
悪いけど、釧路の警備はジミー先生やゴローもいるし、神田達だって何かの役には立つだろうからお願いするとして、あたしはちょっと交渉に行ってくるわね。」
ミリンダは自信満々で答えると、一旦ジミーを釧路へ連れ帰り、それから九州へ瞬間移動した。
「あらミリンダちゃん、久しぶりね。
ハル君は元気?」
九州へ瞬間移動するにあたって、親しみのあるオーラの気を探って瞬間移動した先は、ナンバーファイブの目の前だった。
「お久しぶり、ナンバーファイブさんって、まだ4日しか経っていないわよ。
それよりも、なあに?この騒ぎは・・・また巨石像が襲い掛かって来ているの?」
ミリンダの言うとおり、ナンバーファイブの周りには、大勢の自衛隊員が群がっているようだ。
「うーん、よくは判らないけど、少なくとも、巨石像とかが襲ってきているのとは違うみたいね。
でも、敵が襲ってきたらまずいとか言って、あたしを守るって兵隊さんたちが詰めかけてきているみたい。
あたしの方が、この地を守りに来ているのに、なんか変よね。」
どうやら、ナンバーファイブ目当てに、若い自衛隊員が押し寄せてきているようだ。
ところが、ナンバーファイブはというと、群がる男たちに見向きもせずに、高校の教科書を開いて1人自習をしているのだ。
「こっちの警護に当たっている時は授業を受けられないから、戻った時に皆に迷惑を掛けないように、ちゃんと自習しておかなくっちゃね。」
ナンバーファイブはそう言って笑顔を見せる。
その言葉に、授業をさぼる口実ばかり常に考えているミリンダは、少し恥ずかしくなってきた。
「そ・・・それはそうとナンバーファイブさん、日付ごとに黄泉の穴が開く場所を覚えているでしょ。
今日あたり開く黄泉の穴はどこかわかる?
あたしが行ったことがある場所だといいんだけど・・・。」
ミリンダが、勉強している時に申し訳なさそうに尋ねる。
「ああ、今日だったら北米当たりだったかな・・・、確かニューヨーク近郊の・・・。」
ナンバーファイブが遠くを見つめる様にして、思い出しながら答える。
「そ・・・そう・・・、ハルがタイガ中隊と戦った時に行った場所よね。
でも・・・、黄泉の国経由でいったから、瞬間移動できないわね・・・、困ったわ・・・。」
ミリンダが腕を組んで考え込む。
「なあに・・・、黄泉の国へ行こうと思っているの?
だったら簡単よ、黄泉の穴が開いているのは半日だけだから、残りの半日は南極の黄泉の穴の裏口から行けるわ。
もう少しすると、今開いてる黄泉の穴が閉じるから、丁度いいわ。
あたしが案内してあげる。」
ナンバーファイブが、ミリンダの手を引いて、自衛隊員の群がる宿舎を後にする。
「おお、行ってしまうのかい?
すぐに戻ってくるんだろ?」
「おおっと・・・、メイド姿の子もいいけど、制服姿の君もかわいいね。
名前なんて言うの?」
言い寄ってくる自衛隊員の声に見向きもせずに、ミリンダ達は広場へ出ると瞬間移動した。
「もういい頃ね、今開いている黄泉の穴は閉じたはずよ。
だから、これからはあたしたちの時間・・・、ここをこうして・・・」
南極の黄泉の穴の壁際を、ナンバーファイブがごそごそと手でまさぐっている。
「ほら、開いた・・・、未だにダロンボさんたちには気づかれていないみたいね。
行きましょう。」
ナンバーファイブに連れられて、ミリンダも一緒に黄泉の穴へと入って行く。
そうして、つり橋手前まで駆けてきてから叫ぶ。
「ダロンボさーん、聞こえる?」
「おお、その声はミリンダちゃんか・・・、久しぶりだなぁ。
今までとは違う黄泉の穴から来たようだね。
今日は、どういった用事かな?
黄泉の国のダンジョンを通るのは構わないけど、今は一般の修験者の方たちが多く居るから、その人たちの迷惑にならないようにお願いするぜぃ。」
ミリンダの呼びかけに、懐かしい声が返ってくる。
「うーん、ちょっとお願いがあって来たのよ。
とりあえず、ダンジョンをすぐにクリアーしてそっちへ行くから、待ててくれる?」
そう言い残して、ミリンダは断崖に向かってジャンプした。
ナンバーファイブも、後に続く。
「断る。前にも言っておいたんだが、ここ黄泉の国は、精神成長を望む修験者たちが、辛く厳しい修行をして、己を高めて行く場だぁ。
これは、もう何千年も変わらずに行われてきたことだぁ。
その修業を止めて、一部の人間たちの魔法の修業に使うだなんて、とても許されることではない。
だから、あきらめてとっとと帰ってくんな。」
ダロンボは、ミリンダが願いを話している途中で、首を振った。
ここは、地獄ステージの後の広い空間、ダロンボたちの事務所内で交渉中のようだ。
どうやら、全く聞く耳持たないと言った感じの反応だ。
「そ・・・そんなあ・・・、だったら、黄泉の穴はどこも半日しか開いていないから、残りの半日を使って特訓することは構わないでしょ?
それだったら、修験者の方には迷惑はかからないから。」
ミリンダは、何とかしてダロンボの了承を得たいと考えているようだ。
「ほう・・・、開いている時間の残りを使わせてくれと・・・、そういうのかぃ?
それは・・・、南極の黄泉の穴を使って出入りするっていう事だなぁ?
仕方がねぇ・・・、南極の黄泉の穴は使用禁止にさせてもらうだぁ。
あそこは、使わないはずの穴が現世に出ちまったところだから、管理されていないし、具合が悪いんだ。
悪いが、もう使えねぇ様にさせてもらうだよ。」
ダロンボは厳しい口調で答える。
「ええっ・・・、ちょ・・・ちょっと厳しすぎるんじゃ・・・・」
ミリンダが顔をしかめる。
「何が厳しい事があるもんか。
一般の修験者に、神ダンジョンを越えられるわけはないだろぅ?
そんでもし事故が起こったら、どうするんだぃ?
黄泉の国へ入ったら、挫折をしねぇ限り各ダンジョンは7日間まで掛けてもOKなんだぃ。
だから、その間にダンジョンのレベルを変える事なんか、出来やしねぇんだ。
分ってくれぃ。」
ダロンボはあくまでも頑として首を振る。
いつもの優しいダロンボとは大違いだ。
それだけ、一般の修験者たちには気を使っているという事だろうか。
「わかったわ・・・、仕方がないわね。
これ以上話し合いを続けていても、平行線だからあきらめるわ。
でも・・・、あなたたちは知っているかどうかわからないけど、これは地球の危機なのよ。
というか、地球上に住んでいる、あたしたち人類と魔物達、それから最近は恐竜人たちも加わったけど、彼らも含めて、見えない敵から襲われているの。
その敵と戦うために、修業を積んで戦える魔術者たちを作ろうって考えたのよ。
人類が滅びてしまえば、修験者なんか一人もいなくなるんだから、あなたたちも困るでしょ?」
突然、ナンバーファイブが口を開いた。
何とか、からめ手で説得しようと言う魂胆のようだ。
「ああ、大きな石の像が襲ってくるんだろぅ?
ありゃ、わしらも相手がわからねぇんだが、厄介な相手だな。
だが、わしらはこの星の中での紛争や騒動には、あくまでも中立の立場しかとれねぇんだ、かんべんな。
どっちかの味方をして、そっちが勝っちまうと、それはわしらがこの星の支配に手を貸したことになっちまう。
わしらは、戦っている双方のどっちの味方もせずに、争いが収まるのを待つことしか出来ねぇ。
なぜなら、争っているどっちが正しいのか、部外者のわしらには分らねぇことだかんな。」
ダロンボはそう言いながら頭を下げる。
「なによ・・・、姿も見せずに巨大な石像に襲い掛からせてくる、やつらの味方をするっていうの?
そんな卑怯な奴ら・・・、許せるの?」
そんなダロンボの態度が、ミリンダはどうにも理解できない様子だ。
「ああそうだぁ。もしかすっと、おめぇさんたちが、その攻撃を仕掛けてきている相手の誰かを怒らせちまったのかも知らねぇだろ?
それとも、今の文明よりもずっと前の人間たちが、何かの事情でどこかへ隠れていて、今出て来ようとしているのかもしんねェ。
恐竜人さまたちだって何千万年間も海中に隠れていたっていうんだから、あり得ねぇことじゃああんめぇ?
そうなると、元々この星に住んでいたのは、先方さんだ。
後から住み着いた今の人類は、場所を譲らなけりゃならねぇっていう事もあり得る訳だ。
だから、本当の事情が分かるまでは・・・、いや、例えば事情が分かったとしたって、よほどの事がなければ、わしらが紛争当事者の、どちらかに加担するなんてぇことは、あり得ねぇんだ。」
ダロンボはきっぱりと断った。
「まあ、しかたがないわね、そうやって、何万年間も人類の成長を見守って来たんですものね。
もう帰りましょ。」
ナンバーファイブに連れられて、ミリンダも渋々席を立つ。
「なんか、銀河警察みたいなことを言うわね・・・、まさか、グルなんじゃないでしょうね?」
ミリンダが、厳しい目つきでダロンボの顔を睨みつける。
「な・・・、なんだぃ、銀河警察っていうのは。」
ダロンボが驚いた様子で、戸惑っている。
「銀河警察っていうのは、地球を侵略に来たチビ恐竜人たちの母星の警察で、奴らはその星の犯罪者だったんだって。
奴らの身柄を引き渡してくれって言われたんだけど、こっちできちんと管理して服役させるからって言って、追い返したのよ。
丁度、巨石像に襲われ始めた時だったから、銀河警察に協力を依頼したんだけど、この星の紛争に対しては、どちらにも手は貸せないんだって断られてしまったのよ。」
ミリンダが、半分怒りながら答える。
「ほう・・・、銀河警察ねぇ・・・、長い事黄泉の国の番人をやっているが・・・、そんな奴らに出会ったこともねぇなあ。
恐らく、地球に来たことはねぇはずだなぁ・・・、今までの記録にもそんなこと書いてなかったからな。
まあいいさ、そいつらの事は、閻魔大王様にそれとなく聞いておいてやる。
長い付き合いだから、それくらいはしてやるが、それ以上は期待すんな。
じゃあな。」
そういって、ダロンボと別れを告げて、現世への扉から富士の黄泉の穴へ帰って行く。
「ごめんね、あたしが余計な事を言ったものだから、南極の黄泉の穴まで塞がれてしまって・・・。」
ミリンダは帰る道中で、反省しきりの様子だった。
「いいわよ、もうあたしはあそこで修業するつもりはないし、それよりも他の人たちの修業が困ったわね。
前に言われた通り、大みそかの1日しか使えないんじゃ、当分先の事よね。」
ナンバーファイブも残念そうにため息をついた。




