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もう平和とは言えない冒険の書  作者: 飛鳥 友
第1章 恐竜人編
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第8話

                       8

「いいのよ、ぐっすり寝て、少しは元気が出た?」

 ナンバーファイブは、笑顔を返す。


「は・・・はい、ありがとうございます。」

 ハルは深々と頭を下げた。


「うんうん、元気が何よりよ。

 それと、希望は捨てないこと、いいわね。」

「はい。」

 ナンバーファイブの言葉に、ハルはようやく元気に答える。


「じゃあ、行こうか。」

「行くってどこへ?」

「黄泉の穴。」


「黄泉の穴って・・・、年末に黄泉の国へ通じて特訓をして、まだ1日しか経っていませんよ。

 実質1年待たないと・・・。」

 ハルは、彼女が永い間封印されていた為に、日付の感覚がずれているのだと感じていた。


「いいのよ、付いて来て。」

 そう言いながら、彼女はスタスタと歩いて基地を出て行く。


「あっ、ちょっと、荷物荷物!」

 ハルはそう言いながら、2つのスーツケースを転がしながら、後について行く。


 小さなタイヤのスーツケースでは、いくら凍っているとはいえ、雪原を転がして行く事は困難だった。

 仕方がないので、ハルは途中からスーツケースを手に提げたまま、飛行能力で低空を飛んで後をついて行く。

 そうして着いた先は、やはり少し前まで自分がいた黄泉の穴だった。


 この黄泉の穴だけは、半日以上開いているのだろうか、そう言えば、1年に1度しか通じないのだから、1日通じていてもいいはずだ。

 それでも、とっくに年末の開放から24時間は過ぎている。

 やはり、1年待たなければ無理ではないのか。


 しかし、ナンバーファイブはそんなこと気にも留めずに、ふわりと浮き上がると切り立った崖の中腹にある穴の中に入って行く。

 ハルも仕方なしに後に続く。


「ちょ・・・、おねえ・・、な、ナンバーファイブ・・・、さん。

 名前が呼びにくいんですけど、本名を教えてくれませんか?」

 ハルは、尚も奥へ進もうとするナンバーファイブに声を掛ける。


「えーっ、本名?本名って・・・、ナンバーファイブじゃだめなの?

 あたしはねえ、どこかの国の砂漠地帯で、移動していた車が魔物たちの集団に襲われて、一家全滅するところを、と・・・、トランさんに助けられたんだって。


 まだ赤ん坊だったから、何にも覚えてはいないけど、多分両親や家族たちは全滅だっただろうって。

 襲われて怖かった感情が、と・・・トランさんに通じて助けに来てくれたみたいで、間に合わなくて申し訳なかったって言ってくれた。


 で・・・、それからはずっと、さっきの基地で育てられて、ある程度大きくなってからは黄泉の国で特訓したのよ。

 やっぱりそう言った才能があったみたいね、赤ん坊の時の命の危機に、と・・・トランさんを呼んだくらいだからね。


 勿論、色々と勉強も教えてもらって、日本の事とかメイドの事とかも学んだのよ。

 こっちの方は、古い雑誌とかで学んだことが多かったけどね。

 だから、あの基地があたしの我が家で、いうなればマザーがその名のごとくあたしの母親代わりで、と・・・、トランさんがあたしの父親代わり。


 他のナンバーズたちは、あたしの兄弟と言ったところだったわね。

 だから、本名も何も・・・、ナンバーファイブって名前しか・・・、呼びにくかったらファイブって呼んでくれてもいいよ。」

 そう言って彼女は、振り向くと少しさみしそうに笑った。


「ご・・・ごめんなさい・・・、失礼なこと言ってしまって。」

 ハルは驚くと同時に、申し訳ない気持ちでいっぱいになり、深々と頭を下げた。


「ううん・・・、ナンバーファイブって名前・・・、結構好きだから・・・、全然平気。

 と・・・、トランさんが付けてくれた名前だからね。


 ほんとのこと言うと、あたしが7聖人の中で2番目のメンバーで、でもどういった訳か、あたしにナンバーファイブって名前を最初につけた様なのよね。

 だから、3番目のメンバーがナンバーワンで、次がツーってなって行ったの。


 あたしが、赤ん坊だったからかもしれないけどね、実際は入った順の並びじゃないんだよ。

 7聖人だからって、と・・・トランさんがナンバーセブンっていう訳でもなくて、シックスまでしかいないんだよ。

 ハル君にだけは、特別に教えてあげる。」


 そう言って彼女はやさしく微笑んだ。

 そう言えば、彼女だって家族とも思える仲間を失ってしまったのだ。

 しかも原因はともかく、その相手は誰あろう、目の前のハルたちに封印されてしまったのだ。


 それなのに、先ほどからずっと一人ぼっちになってしまったハルを元気づけようと、そうして希望を捨て無いよう、何度も励ましてくれる。

 彼女も同じく、仲間に対して希望を捨ててはいないという事だろうか。


 そう言えば、ハルがいきさつを話していた時に、ナンバーワンやツーの事を、如何にも悪者のように説明していた時に、苦笑いしていたような・・・。

 ハルもその笑顔を見て、少しだけだがほっとした。


「じゃあ、入るとしましょうか。」

 そう言って彼女は奥へ向かう。


「えっ・・・、無理ですよ。

 黄泉の穴が通じてから、24時間以上経ってますよ。」

 ハルがそう言って引き留めようとする。


「ううん・・・、裏口があるのよ。」

「へっ?裏口?」

 驚いたハルが聞き返す。


「そう、見つけたのは闇の王子らしいんだけどね。

 あいつは、普段から目も見えないし耳も聞こえない。

 頭の中に呼びかけて会話する事しか出来なかったけど、だからこそかも知れないけど地面の中の構造とか、次元の接続とかそういった事に感覚が鋭くて、ここの黄泉の穴には常時接続している裏口があることを教えてくれたの。


 だから、7聖人はここに基地を構えたのよ。」

 そう言って、ナンバーファイブは暗闇の壁の端の方で何かごそごそとやっている。


「ふう・・・、見つけた、ここだ。

 すぐに閉じちゃうからね、ついて来てよ。

 それとちょっと狭いから気を付けてね。」

 そう言って彼女の姿は、奥の壁の中に消えて行った。


「なっ・・・。」

 ハルも急いで今彼女がいた場所へ行って手探りで、壁をまさぐる。


 そうして空間を見つけると、スーツケースを押しながら、そこを進んで行く。

 とても狭い息苦しい空間を何とか通り過ぎると、真っ暗闇の広い空間へ飛び出た。


「ねっ、通じていたでしょ。」

 前方の暗闇から声が聞こえてくる。


 ナンバーファイブの声だ。

 そのまま進んで行くと、辺りが明るくなってきて、尚も進むと断崖絶壁へ辿りついた。


「ご苦労さん。」

 彼女はそう言うと、2つの大きなスーツケースを受け取り、そうしてそれらを手で包むと消した。

 鬼の能力だ。


「あ・・・あれ?だったら、初めからそうやって運べば・・・。」

 ハルが呆れた様に呟く。


「ところがねえ、出すのは何でも現世でも出せるんだけど、保管するのはここ黄泉の国でなきゃ、最初は無理なのよ。

 一度納めてしまえば、現世でも出し入れできるんだけど・・・、まあ、スペースの確保が必要なんだろうって、と・・・、トランさんも言っていた。


 だから、まあ悪かったけど、女性の荷物を持つのは男の役目なんだから、文句を言わないの。

 いいね、僕ちゃん。チュ!」


 そういって、またもやハルの頬にキスをした。

 お礼のつもりだろうか。


「この橋だったら、今の僕なら駆け足で越えられますよ。

 今更特訓なんて・・・。」

 ハルは少し赤い顔をしながら、吊り橋を眺める。その頬には、真っ赤なキスマークがついている。


「うん、こんなんじゃ特訓にならないわね。

 神仕様じゃなきゃね。

 ダンジョンの向こうまで跳べる?」


「は・・・はい。」

 彼女が何を言っているのかよくわからずに、とりあえずハルはそう答える。


「じゃあ、行こうか。」

 そう言って彼女は中空に消える。


 ハルも急いで瞬間移動する。

 そうして次々とダンジョンを瞬間移動して、地獄ステージも瞬間移動で通り過ぎる。


「こうやって超えてしまったら、練習になりませんよ。」

 折角黄泉の国へ来たのに、もったいないとハルはナンバーファイブをたしなめる。


「うん、今から仕様変更よ。」

 そう言って彼女は、ログハウスのような鬼たちの管理室へ入って行った。

 そうして、勝手にカウンターの中へ入って行く。


「あっ、後でダロンボさんに怒られますよ。」

 勝手に、自分たちの管理室を触ったら、ダロンボたちが不快に感じるだろう。

 ハルは、ナンバーファイブを引き留める。


「全然平気だって、鬼たちはいつもいつもここに居る訳じゃないから、結構あたしたちが好きに使っていたのよ。

 見回りとか言って、各ダンジョンを回ることは年に数回だけで、後は現世への扉を使って戻って行く魂と、天国への階段を使って天へ昇って行く魂を区分けするくらいで、あんまり仕事っていうような仕事なんてしていなかったからね。


 だから、と・・・トランさんが細工をしてここが停滞して、現世への扉も天国への階段も使われなくなったら、困って原因究明とかするかと思っていたら、これ幸いと奥に籠ってのんびりと暮らしていたのよ。

 この奥は、鬼たちの居住区で、結構広い空間が続いていて、大きな家に鬼たちは住んでいたんだよ。


 だから、全然平気。ここの仕掛けは、今じゃ、あたしたちの為にあるようなものだからね。」

 ナンバーファイブが指さす方向には、大きな扉がある。


 その向こうが居住区という事だろうか。

 そこへも各ダンジョンのように、異次元構造か何かで広い空間へ続いているという事だろうか。

 もしかすると、トロンボあたりが残っていたりして・・・、とか考えていると


「さあ、これでよしっと・・・、じゃあ、行ってきて。」

 カウンター奥のデスクで何かごそごそとしていたナンバーファイブが、不意にこちらを向いてきた。


「い・・・行くってどこへ?」

 ハルは、彼女の言っていることが分らなかった。


「だから、ダンジョンの最初、吊り橋まで戻って行って、各ダンジョンをクリアーしてきて。

 神仕様にしておいたから、ちょっと大変かもしれないけど、頑張ってね。」

 そう言って彼女は手を振る。


「わ・・・分りました。」

 仕方がないので、ハルはそう答えると、今来た道を急いで引き返して地獄ステージを越える。


 そうして、各ダンジョンを逆方向に瞬間移動して行って、そうしてつり橋の前に辿りついた。

 そこでは、吊り橋が地の底から吹き付ける風にほんろうされていた。

 つり橋が、まるで生きて脈打っているかのように、大きなうねりを持って絶え間なく動いている。


 これでは、2回目に来た時の神級よりも厳しいのではないのか。

 ハルは、思わず天を仰ぐ。


「時間がもったいないから、神仕様でも上の方にしておいたからね。

 頑張るのよ。」

 そう言って天からの声は途切れた。


 仕方がないので、ハルは吊ロープにしがみつくようにして、吊り橋に足を踏み入れる。

 踏板が何度も浮き沈みするのに耐えながら、何とか一歩一歩進んで行った。

 ジェットコースターの様に、大きな起伏を伴う足場に耐えながら進んで行く。


 それでも最後の方になると、自分の足場がしっくりと落ち付いて来ているような感覚に包まれた。

 なぜか、自分の足場は強風に吹きあおられても、安定しているような感覚が芽生えてきた。

 そうして何とかダンジョンをクリアーした。


「じゃあ、次も頑張ってね。」

 次のダンジョンへ向かう途中の暗闇の中で、天の声が聞こえてくる。

 向こうからは、ハルの姿が丸見えのようだ。


 次の極寒のダンジョンも、前回をはるかにしのぐ過酷な環境だった。

 強風にあおられて、こぶし大の雹が降ってきたり、雷まで鳴っている。

 そこを、今回はゴランの障壁もなしに越えなければならない。

 意を決して進んで行く、全神経を自分の前方に注いで、強風や猛吹雪に耐えるよう念じる。


「うわぁっぷ・・・、うーん、たいへんだあ・・・。」

 そう呟きながら、身を低くして一歩一歩進んで行く。

 それでも、ダンジョンが終わるころには、自分の周りに気流が作られ、雹や吹雪が体を避けて通り過ぎていくような感覚が宿って来た。


 それは次の灼熱のダンジョンでも同様だった。

 そうして、一通り神仕様の過酷なダンジョンを何とかクリアーして、ナンバーファイブの待つログハウスへ戻ってきた。



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