第77話
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「追わなくてもいいわ。」
ミリンダは、尚も追って行こうとする九尾の狐を制して、召喚魔法を解いた。
後には、ミリンダが粉砕したモアイ像のかけらだけが残された。
「ふうむ・・・、別に駆動装置が内蔵されているという訳ではなさそうだね。
一体どうやって動いていたのか・・・。」
所長が、そのかけらを一つ一つ観察しながら、首をかしげる。
「とりあえず、少し待てば西日本から応援部隊が駆け付けるだろうから、それまではここで待機するとしよう。」
2時間ほど待つと輸送ヘリが到着し、応援部隊員を下ろすと、代わりに怪我をした自衛隊員を乗せて西日本へ戻って行った。
破壊された戦車や戦闘ヘリの補充は、明日の朝には到着すると言う事だった。
「じゃあ、一旦戻るとするか。
申し訳ないが、ミリンダちゃん達には、少しの間各都市に滞在して警戒に当たってもらった方がいいかも知れん。」
所長の言葉通り、仙台市のグラウンドには、急遽ゴランたちも招集されていた。
「召喚獣?
ああ、黄泉の国で鬼たちと戦った時に、ミッテランさんやミリンダちゃんたちが出した大きな神獣の事だね。」
ゴランが、ミリンダ達と初めて会った時のことを思い出しながら答える。
「そうよ、巨石像は大きさの割にすばしっこくて、上級魔法でもなかなか当てられないから、簡単には倒せないのよ。
だから、召喚獣で対抗するのがよさそうよ。」
ミリンダが、巨石像を退治した感想を告げる。
「へえ、でもそんな簡単に身に付けられるものなのかい、召喚魔法って?」
ネスリーが疑うように目線を落としながら尋ねる。
「そうね、そんなに簡単なものではないわよ。
だから・・・、ホーリゥさん・・・、召喚用の護符・・・持っていない?
もしあったら貸してあげて・・・、ねっ。」
ミリンダが、ホーリゥに対して両手を合わせてお願いをする。
「そうですね、私は玄武と朱雀の2枚の召喚用護符を持っています。
私自身は、ホースゥが得意としていた白虎を召喚出来ますから、2枚の護符はお貸しできます。」
ホーリゥが笑顔で、リュックの中から2枚の細長い紙を取り出す。
そうして、ゴランとネスリーが差し出した左腕に紙を乗せると、何事か呟きながら用紙の表面をなぞる。
すると、紙は皮膚に吸収されるかのように消え去り、護符に書かれた文字のような模様だけが、左腕に刺青のように残った。
「これで、召喚せよと叫べば、召喚獣が出てきます。
年齢制限があるのですが、ゴランさんもネスリーさんも、充分な徳がおありの様です。」
ホーリゥが笑顔を見せる。
「へえ・・・、召喚せよ!」
「こ・・・こうかな・・・、召喚せよ!」
2人が唱えると、晴れていた空が一瞬で雲に覆われ、雲の切れ間から差し込む2筋の光と共に、2体の神獣が降りてきた。
巨大な亀と火の鳥だ。
「へえ、初めてだと言うのに結構な大きさがあるわね。
これなら十分戦えるわ。」
ミリンダが、2体の神獣を嬉しそうに見つめた。
「気を付けなければいけないのは、召喚獣を出している最中は、他の魔法は一切使えないと言う事よ。
一度、最大能力で召喚してしまえば、後は高みのエネルギーを使うとかで、神獣が勝手に敵を粉砕してくれるから、結構楽ができるのだけど、障壁などの防御魔法も出来なくなるから、敵の数が多い時には向かないわ。
数体がまとまって攻めてくる時とか、巨大な敵が1体だけの場合には、効果があるわね。」
ミリンダが、召喚魔法を使用する時の注意点を二人に説明する。
「そうか・・・、でも素早く動く敵に対して、当たりもしない魔法攻撃を仕掛けるより、はるかに効率よく敵に対抗できるという訳だね。
ありがとう、きっと役に立つよ。」
「そうだな、人が召喚したのを見ても、さほど威力は感じなかったけど、自分で召喚してみると、この強さが伝わってくるようだ。
これは、なかなかの戦力だ。」
ゴランもネスリーも、召喚獣には満足している様子だ。
「後は・・・、ナンバーファイブさんの分よね。
ちょっと、チベットの寺院へ行って、お師匠様にちょちょいって護符を書いてもらうわ。」
そう言ってミリンダは、瞬間移動の体勢に入る。
「あたしはいいわ・・・、トラちゃん直伝の魔法があるから。
あたしの魔法は連射が効くのが多いし、ちょっとくらいすばしっこくても、当てる自信はあるわ。」
ナンバーファイブは、そんなミリンダを押しとどめた。
「そ・・・そうね・・・、ナンバーファイブさんは、それこそ百戦錬磨だものね。
あたしなんかが心配する事でもなかったわね。」
ミリンダが、恥ずかしそうに頬を赤く染める。
「そんなことないわよ・・・、あたしなんかのことまで心配してもらえて、うれしかったわよ。
仲間って良いもんだなって思えたわ。」
そう言って彼女は笑顔を見せた。
「じゃあ、当面の割り振りを決めよう。
ナンバーファイブさんは、九州へ行ったばかりで瞬間移動可能だから、もう一度戻って、九州の町の警戒に当たってくれ。
ホーリゥさんとゴラン君は、大変だろうが2人で西日本の3都市を担当してくれ。
ネスリー君が仙台市担当で、ミリンダちゃんが釧路担当だ。
ハル君は、まだ回復出来ていないし、ちょっと厳しいが、こんな振り分けで行きたい。
ミリンダちゃんとハル君は、昼間は学校で授業を受けられるから、心配しないでね。」
所長が、各々の担当区分を割り当てて行く。
「げげっ・・・、釧路の担当っていうのは文句がないけど、別に授業は免除でもいいんじゃ・・・。」
ミリンダが残念そうに呟く。
「うん?どうかしたかい?」
ジミーがうつむいたミリンダの顔を覗き込む。
「い・・・いえ・・・、何でもない。」
「そうか、ならよかった・・・。
あれ?そう言えば、アマンダ先生の姿が見えないけど・・・、直接釧路へ連れて帰ったのかい?」
そう言えば誰かが足りないと、ジミーがきょろきょろとあたりを見回す。
「ああっ・・・、そういえば・・・、円盤で南米まで米軍の救出に向かった時、危険だからアマンダ先生には残ってもらって・・・、その後、迎えに行くのを忘れていたわ。
まずいまずい・・・。」
焦った様子で、ミリンダが中空へと掻き消えた。
「ご・・・ごめんなさい・・・。」
ミリンダが、すっかり恐縮した様子で、恐竜人基地の中へと降りてくる。
「あら、ミリンダちゃん。
お久しぶり・・・、迎えに来てくれたの?
時間があったものだから、色々とごちそうになってしまって・・・ひっく・・・。」
アマンダ先生は、頬を赤く染めて、足元もおぼつかない様子だ。
「ど・・・どうしちゃったの・・・?」
ミリンダが、周りに居る恐竜人たちの顔を見回す。
「いやあ・・・、食事の時間になったものだから、食堂へ連れて行って、恐竜人大陸特製のスペシャルドリンクも勧めたんだ。
人間たちの言う、いわゆる酒という飲み物だ。
口当たりはいいがアルコール度が高い、恐竜人向けの飲み物なんだが、なにせ、言葉が通じないだろ?
酔っ払うから少しにしておいた方がいいって言ったんだが、通じなかったみたいで、身振りで手を上下に振って止めさせようとしたら、かえってグラスを差し出してお代りを要求するもので・・・、調子に乗って注いでいたら、酔っ払っちまったみたいだな。
すまない。」
タイガ中隊長が、アマンダ先生のフラフラの体を支えながら、申し訳なさそうに頭を下げる。
「なんてことするのよ・・・、明日は学校だっていうのに・・・。
まあ、忘れていたこっちも悪いんだけど・・・、じゃあ、又ね。」
「おう、先生にもよろしくな。
また飲もうって言っておいてくれ。
豪快な飲みっぷりで、先生のファンが沢山できたみたいだって言っておいてくれ。」
ミリンダはタイガから奪い取るようにアマンダ先生の体を引き寄せると、そのまま飛行能力で基地の外へ出て、そのまま瞬間移動して日本へ飛んだ。
酔っぱらって上機嫌で暴れる先生を、何とかなだめながら宿舎へ連れて行くと、ナンバーファイブに手伝ってもらい、ようやく先生の部屋のベッドへ寝かしつけることができた。
「おはようございます。」
「あら、おはようミリンダちゃん・・。
昨日は、恐竜人大陸から南米の魔術者の居た場所を探しに円盤で行って、その後中南米で米軍が襲われたって無線が入ってきて、ミリンダちゃんたちは出かけて行ったわね。
その後、私はタイガ中隊長たちに誘われて、食堂へ食事に行ったところまでは覚えているんだけど・・・。」
アマンダ先生は、ずきずきと痛む頭を抱えながら、随分と調子が悪い様子だ。
「そうね、タイガ中隊長が、豪快な飲みっぷりを褒めていましたよ。」
ミリンダが、笑顔で答える。
「ご・・豪快な飲みっぷり・・・・?
あちゃー・・・、またやってしまったか・・・、ちょっと調子に乗ってしまうと、あまり強くもないのにお酒をがぶ飲みにする癖があるのよね・・・。
ごめんなさいねー、何か迷惑を掛けなかった?
恐竜人さんたちにも失礼なことはしなかったかしら。」
二日酔いで青ざめていた顔を、今度は真っ赤に染めて、恥ずかしそうにうつむく。
「いえ、全然・・・、恐竜人兵士の中にも、先生のファンが出来たって言っていましたよ。
だから、大丈夫、また飲みましょうって。」
ミリンダはアマンダ先生の肩をポンとたたいて、そのまま校舎へ入って行った。
「おはよう。」
教室へ入ると、ハルは既に登校していた。
「大丈夫なの?寝てなくて。」
ミリンダは心配そうにハルの顔を覗き込む。
「うん・・・、魔法は使えないけど、病気ってわけじゃないから、学校は休んでいられないよ。
魔法学校だってあるしね。」
ハルは、ミリンダに心配させないよう、なるべく元気に振る舞っているように見えた。
「おはよう、ハル君はもう大丈夫かな?
授業を始めるぞ。」
いつものように、ジミーが教壇に立ち授業が開始された。
すると・・・。
『パタパタパタパタ』いつもより、心なしか足音が弱々しい。
『ガラガラガラガラッ』「仙台市から緊急通信です。」
二日酔いのせいか、やはりいつもより弱々しく、アマンダ先生がジミー先生を呼びに駆け込んできた。
「今度は、ガガ・アフリカのスフィンクスが動いて、破壊活動を始めたと連絡が入った。ガガガ・・・」
無線機の向こうから、驚くべきことを所長が告げてくる。
急いでミリンダと共に、グラウンドへ出て、仙台市へ瞬間移動する。
研究所裏のグラウンドから、駆けこむようにして研究所ビルの中へ入り、無線室へ急ぐ。
そこでは既に所長が、無線のやり取りをしていた。
「こちらは、スターツです。
ヨーロッパ共同体の軍が突然襲われて、近くの部隊が援軍に向かいました。
敵スフィンクスは、口から炎の玉を吐き、戦車や装甲車の装甲を瞬時に溶かしてしまいました。
新型弾や新型爆薬などで反撃しましたが、敵はバリアーを張り攻撃が達することはなかった模様です。」
興奮した口調で、スターツから戦況が告げられる。
「現地へ飛んだ、戦闘機からの映像を送信します。」
その映像は驚くべきものだった。
エジプトのスフィンクスが4つ足で立ち上がり、地上部隊に攻撃を仕掛けているのだ。
口から吐き出す灼熱の玉で、戦車の厚い装甲は見る間に溶け落ち、目から出る渦を巻いた炎の玉で、上空を飛び交う戦闘機を撃ち落とした。
石のブロックを積み重ねて作られたとは思えない程、滑らかな動きで、ミサイル攻撃など当初は身軽な動きで躱していたが、そのうちさほどの破壊力がないと悟ったのか、避けることもせずに、そのまま攻撃をバリアーで弾いていた。
そうして軍隊に壊滅的打撃を与え、援軍のパワードボディスーツに身を包んだ超人部隊が攻撃を開始すると、すぐに逃げ出した。
攻撃を仕掛けようとバリアーを切った瞬間に、超人部隊は攻撃を仕掛けられるので、スフィンクスも新型弾を被弾するようになり、分が悪いと悟ったのか、逃げ出した様子だ。
スフィンクスは、元居た砂漠へ走って戻り、元あった状態と寸分たがわずに治まり、動かなくなってしまった。




