第76話
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「山を切り欠いた絶壁の巨大石像がロボットだったって?
それは、古代遺跡の石像じゃないのかね?
ふうむ・・・、これはとんでもないことが起こっているようだね。」
米軍との戦闘の様子や、巨大ロボットが収容された映像が映し出されたモニターを見ていた所長も、すぐには信じることができない様子だった。
「とにかく、未知の敵がまだこの地球上には、存在していたという事のようだ。
どのような相手であるのか、正体が見えないことが非常に不気味ではあるが、警戒を怠らず、監視して行こう。
米軍からの報告では中南米の生存者たちも、北米大陸に仮設で作った収容施設に、保護することにしたという事だ。
住んでいた土地を離れるのは辛いだろうが、まとまっていた方が兵力を分散せずに済むから、守りやすいと言う理由だね。
米国では新型弾や新型爆弾で武装し、更にパワードボディスーツで強化した兵士を、交代で24時間待機させ、常時警戒に当たることにした。
マイキーの国やS国始め、ヨーロッパの国々でも、パワードボディスーツで強化した部隊を中心に、厳戒態勢を敷いたようだ。
日本でも、西日本の自衛隊が警戒態勢に入ったし、仙台市の警察も戦闘モードへ移行した。
勿論、釧路の村も警戒態勢に移るため、警察部隊を派遣しておいたから、安心してくれ。」
無線装置の向こう側から所長が、現状を説明してくれる。
「まあ、釧路にはゴランさんたちもいるし、魔物も結構な数がいるから、そんなには心配していないけど。
それにしても、何者かしらね、地球制服をもくろむ新たな敵・・・。」
「いや、まだわからん。未知の敵であることは認めるが、その敵が地球制服を狙っているかどうかは、はなはだ疑問だ。
巨大ロボット1台だけではね。
もしかすると、南米や中南米を支配下に置いていた勢力が、米軍が進行してきたことを警戒して襲ってきたのかも知れない。
米軍は間違いなく生存者の保護の為に、平和目的でアメリカ大陸で活動していたはずだが、そうは受け取られなかった可能性だってある訳だ。
なにせ、長い事空白地帯だった場所だからね。
生存者情報など、全く伝わらずに、米軍だって半ばあきらめかけていた場所だ。
そこを拠点とする何らかの組織があって、自分たちの領域を守るために戦いを仕掛けてきたと言うことだって、考えられるわけだ。」
所長が、様々な可能性について説明する。
「でも、それって人間ってこと?
だったら、何も戦う事ないんじゃ・・・、同じ人間同士だし。」
ミリンダは、尚も納得できない様子だ。
「いや、人間なのか、魔物なのか、あるいは新たな種族なのか、それはまだわからない。
しかし、なんにしても警戒するだけではなく、調べに行かなければならないだろう。
できれば平和的に解決したいものだしね。」
「この石像が動き出して、米軍に壊滅的な打撃を与えたという事かね。」
中南米の密林の中の小高い丘のような低い山を、半分切り取ったような崖側に、石像は鎮座していた。
見た目は、動くとはとても感じられない、ただの石像だ。
「ふうむ・・・、恐らく相当昔に建造されて、そのまま放置されていたのだろう。
長い年月の間に石像の上に砂や土埃が溜まって、その上に木々や植物が生い茂っていたから、見た目はちょっといびつな形をした小山くらいにしか、みえなかったのだろう。
突然、動き出したものだから、コケやら土やら植物やらが、辺り一面に飛び散っている。」
所長の言うとおり、周りには苔むした土片や岩に加えて、根ごと掘り返されたような形の木々が散乱している。
米軍を襲った石像が、戻って行った山の場所をミリンダ達が把握していたので、一旦日本へ戻ったミリンダが、所長と瞬間移動でやって来たのだ。
「ふうん・・・、ただの石像にしか見えないけど・・・。
これだけの大きさでは、さすがに私でも動かすのは容易ではないわね。」
ナンバーファイブと共に、恐竜人大陸から直接ミッテランもやってきていた。
「動いただけではなくて、お腹がパカッと割れて、中から白熱した炎の玉が飛び出したのよ。
さすがに傀儡の術では、そこまでは無理でしょ。」
ミリンダが、石像の腹の合わせ目を指さしながら告げる。
「そうね・・・、そう考えると、まさしくロボットよね。
でも・・・、何年も前の石像でしょ・・・、そんな事あり得るのかしらね。」
ミッテランが首をかしげる。
「見た目だけでも、何年どころか、何百年も前のものと予想される。
とりあえず、周りに飛び散った土砂や植物のサンプルと、石像の石を砕いて持ち帰ろう。
放射性年代測定で、ある程度建造年を割り出せるかもしれん。
古い遺跡の石像と見せかけているだけかもしれないからね。」
所長は、次々とサンプルをビニール袋に詰めてはカバンに納めて行く。
「しかし・・・、うまい事出来ているようだ。
背中の合わせ目など、山の岩肌に対して、剃刀1枚入る隙間もないほど、ぴったりと合わさっている。
この石像が動いていて、また戻ってきたと言うのであれば、相当高度な位置の測定精度を持った科学力という事になるね。
最終戦争以前の技術で、衛星を何台も使ったGPS方位測定技術というのがあったようだが、それでもミリ精度に上げることまでは達していなかっただろう。
これが古代の科学力によるものとは、到底信じられない。」
見れば見るほど不思議な石像に、所長も感心しきりの様子だ。
「じゃあ、戻るとするか。
サンプルの測定結果が出るまでに、1週間ほどかかるだろう。
結果が出たら知らせるよ。」
ミッテランは、直接恐竜人大陸へ戻り、ミリンダ達は仙台市へ瞬間移動してきた。
「大変です、九州の町が巨大な石像に襲われているようです。
パワードボディスーツ着用の特殊部隊は、人口の多い西日本の3都市と仙台市に配置しているため、通常兵器のみの応戦では、とても敵わないようで、警戒に当たっていた自衛隊は壊滅状態との連絡が入りました。」
研究所ビルの中に入った途端に、白衣姿の研究員が所長の姿を見つけて駆け寄って来た。
報告先が分らずに、右往左往していたのだろう。
すぐに今来たばかりのグラウンドへ引き返す。
「行けるかね?ミリンダちゃん。」
「九州の町へ行ったのは、3年前だけど、場所はしっかりと覚えているわ。
任せて。」
そう言って、3人は中空へと掻き消えた。
その地は、悲惨な状況だった。
砲塔が捻じ曲がって、車体が押しつぶされた戦車が数台、エンジンから煙を上げながら放置され、撃ち落とされたのであろう戦闘ヘリは、羽をもがれて棒となったシャフトのみが、カラカラと音を立てて回っていた。
戦車のハッチは開けられて、乗員は既に避難したのであろうか、ヘリと共に無人の残骸と化していた。
「すごいわね、何か大きくて重いものに踏みつけられたみたいね。」
ミリンダの言うとおり、装甲の厚い戦車ですら、半分程度に押しつぶされていて、見るも無残な有様だった。
「ああ、この先でまだ戦闘がおこなわれているようだ、行ってみよう。」
阿蘇山頂へと続く裾野の向こう側で、爆音がいまだに鳴り響いている。
3人は音のする方向へ駆け出した。
『ガガガガガガッ』そこでは、山裾にいくつもそびえ立つ巨大な岩に向かって、銃撃戦が行なわれていた。
と行っても、銃撃を一方的に放っているのは自衛隊側であり、岩は銃撃を受けてもものともせずにその場にたたずんでいる。
当たり前の事だが、岩にいくら銃撃しても、表面が少し削れるだけで何の効果もない・・・あるはずもない。
「何をやっているのかしらね・・・。」
ミリンダが首をかしげる。
「いや、あれはただの岩ではないようだ。
恐らくはモアイ像・・・、南洋に浮かぶ島で発見された巨石文明の象徴とも言える像だ。
そんなものが、どうしてここに・・・。」
自衛隊員たちは、そのモアイ像に向かって銃撃を繰り返しているようだ。
見ていると、ゆっくりではあるのだが、モアイ像は自衛隊員たちの方へ近づいて行っているではないか。
『ドゴーンッ』手持ちのバズーカ砲でモアイ像に向けて発射するが、モアイ像はふわりと浮いて、簡単に砲弾を躱してしまう。
『ガガガガガッ』別の自衛隊員がマシンガンを連射すると、まばゆいばかりの閃光が発せられ、モアイ像の表層がより深く砕け散って行く、恐らく彼は新型弾に切り替えたのだろう。
すると、ふわりと浮かび上がったモアイ像は、新型弾を撃つ兵士に向かって、一直線に飛んでいく。
「危ないっ・・・。」
ナンバーファイブが兵士たちの前に瞬間移動して、障壁を張る。
「モンブランタルトミルフィーユ・・・大爆発!!!」
同時にミリンダが唱えると、激しい爆風を伴う高温の火の玉が、モアイ像の背後を襲う。
『ドッゴーン』耳をつんざくような爆音とともに、モアイ像はいくつもの塊に粉砕された。
「ふうむ、どうやら新型弾でも、ようやく表層に傷をつける程度の効果しかない様子だね。
ミリンダちゃんクラスの、上級魔法なら何とかなる程度か。」
所長が冷静に分析するが、背後から攻撃を仕掛けられてモアイ像は、今度はミリンダ達の方に向かってきた。
更にモアイ像の目が光ると、ミリンダ達の頭上に、高温の白熱した球体が出現した。
「こ・・・これって・・・、ハルの灼熱の魔法じゃ・・・・。
モンブランタルトミルフィーユ・・・大爆発!!!大爆発!!!」
再び、爆風を伴う巨大な火の玉が、灼熱の玉とぶつかり合い相殺し、更に残った分がモアイ像たち目がけて襲い掛かる。
しかし、直撃かと思われた瞬間、モアイ像はひらりと火の玉を躱してしまう。
今度の攻撃は空振りに終わり、更にモアイ像たちの目が光る。
「灼熱の玉を相手にした分、攻撃が緩慢になったわね。
えーい、こうなりゃ・・・。
天と地と水と炎に宿る神々と精霊たちよ、わが願いを聞き入れ、わが手足となりて役目を果たす、使途を授けよ。
いでよ九尾の狐!!!」
垂れ込めた雲の切れ間から差し込む一筋の光、その光を伝って1体の神獣が降りてくる。
白黒の尻尾に加えて、7色に輝く尻尾を持つ狐、九尾の狐である。
以前より2回りは逞しく大きくなった九尾の狐は、渦を巻きながら襲い掛かってくる炎の玉を蹴散らしながら真っ直ぐにモアイ像に向かって行く。
「ふうむ・・・、最初の攻撃は背後からの不意打ちだったから決まったのだろうね。
意外と身軽なようで、2弾・3弾目は簡単に避けられてしまった。
恐らく、新型弾で威力をあげたバズーカ砲でも倒せるのかも知れないが、簡単に避けられてしまって当たらない。
向こうは、こちらの攻撃力を理解して、対応しているように見えるね。
更には灼熱の玉と炎の竜巻だ・・・、ハル君の事を知っているというか、ハル君の魔法のようだね。」
所長は、信じられない光景を目の当たりにしながらも、なんとか戦況を分析しているようだ。
「さっ、今のうちに・・・。」
ミリンダは、所長の腕をつかむと、そのまま背負って全速力で駆け出した。
「しょ・・・所長さん・・・、と、ミリンダちゃん・・・。」
自衛隊員が、突然現れた2人の姿に目を丸くする。
しかし何よりも一番驚いているのは、彼らの目の前で障壁を張っている、メイド姿の美少女に対してだろう。
「はあはあ・・・、瞬間移動にはもう慣れたが、高速で走るのには体が慣れないね・・・。
し・・・心臓が・・・・。」
突然ミリンダが高速移動したので、驚いた所長は今にも止まりそうな心臓を、何度も叩いて動かそうとしている。
「ど・・・どうやら、旗色が悪そうだね・・・。」
所長が、疲弊しきった自衛隊員の顔を見回す。
「はい、九州の町は200人体制で警戒していましたが、我々が最後の部隊です。
多くの負傷者をだし、病院へ送られています。
マシンガンでは歯が立たず、新型弾でも多少表面に傷を入れられる程度ですが、すぐに反撃にあってしまいます。
バズーカ砲は簡単に避けられてしまいますし、それは戦車の砲撃でも同じでした。
打つ手がなく、ほぼ全滅と言えるでしょう。」
自衛隊員が悔しそうに話す。
そこには、十数名ほどの自衛隊員しか残ってはいなかった。
しかも、ここに居る全員も手傷を負っている状態だ。
それでも、彼らがやられてしまったら、ふもとにある町が襲われるのは必至なので、何とか踏みとどまって対抗していたのだろう。
ミリンダとナンバーファイブが、怪我の重そうな自衛隊員に治癒魔法を施してやる。
「もう大丈夫よ、巨大石像には、こちらも巨大な召喚獣で対抗よ。
年齢制限ではじかれていたけど、もうそれなりに成長したし、何度か召喚経験を積んだから、護符なしでも召喚できるようになったのよ。
本当はポチを召喚しても良かったんだけど、あいつは気紛れだから、出てこなかったら時間の無駄だからね。
素直でいい子の九尾の狐にしておいたわ。」
九尾の狐は、数体のモアイ像に対しても、ひるむことなく向かって行き、鋭い爪で石像を引き裂いて行く。
分が悪いと悟ったのか、石像は上空高く舞いあがり、飛んで行ってしまった。




