第66話
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「うーん、さすがの僕も、この火口には飛び込んで行けないね。
一瞬で灰になってしまうよ。」
真っ赤に溶けてどろどろの溶岩をみて、さすがのゴローも飛んでいくのは断念する。
「ふざけたことをぬかすな・・・、ハルたちがここまで来られるはずがない。
まやかしだな・・・、わしを騙そうとするとはいい度胸だ。
だが、わしの機嫌のいい時を選ぶんだったな・・・・」
『ピカッ』「障壁!!!」『ドーン!』という衝撃音と共に、辺りがびりびりと振動する。
寸でのタイミングで発したナンバーファイブの障壁が間に合わなければ、恐らく直撃を受けていたことだろう。
「な・・・、何するのよ、いきなり!」
ミリンダが、怒りをこめて大声で叫ぶ。
「ふん・・・、神を騙そうとした罰だ。
早々に立ち去らなければ、今度は本気の一撃を食らわせるぞ。」
竜神は、尚も野太い声で告げる。
「だから・・・、僕たちですよ、ハルとミリンダ・・・!
ゴローさんだっているし、南極で竜神様が玉に封印したナンバーファイブさんも、今では封印を解かれて一緒に居ますよ。
恐竜人たちの出現で、封印を解くことができないまま放置されていたけど、僕がこの前玉を見つけて復活させました。」
ハルが、何とか信じてもらおうとして、ゴローやナンバーファイブ達の名前も付けたす。
「うるさい・・・、おまえが何を言おうと、信じる気にもなれんわ。
わしの悲しみに付け込もうとするような奴は・・・。」
竜神は、何を言っても聞く耳持たずと言った感じで、更なる攻撃を仕掛けて来ようとする。
「こうなりゃ仕方がないわね・・・。」
ミリンダは目をつぶって神経を集中させる。
そうして、見えないはずの火山の遥か内部に居るはずの竜神の意識を探る。
「モンブランタルトミルフィーユ・・・暴風雷撃!!!」
そうして、意識の彼方へ全力の魔法を送り込むと、『ドッガーン!』衝撃音が火山から響き渡ってくる。
「こ・・・この魔法は・・・、み・・・ミリンダ・・・で・・・では一緒に居るのは・・・ハルか?
ど・・・どうやら、幻聴ではないようだ・・・本物だな・・・?」
野太い声だった口調が突然変わって、動揺したように、たどたどしく問いかけてきた。
「はーい、ハルです・・・、ミリンダもいます。さっきも言ったように、ゴローさんやナンバーファイブさんも一緒です!」
ハルが大きな声で返事をする。
「おお・・・・おおお・・・、無事だったか・・・良かった・・・。」
竜神の口調が、ほっとしたような優しい口調に変わった。
「良かったじゃないわよ、どうしてあんたはそんなところで泣いているのよ。
ハルが今までに何度も呼びかけたって言っていたけど、どうして出てこなかったの?
たった一人ぼっちで生き残って、大変だったんだからね・・・。
どうして、助けてあげなかったの?」
竜神の姿が見えたことに感動して、先程まで泣いていたのだが、やっぱりいつものミリンダに戻っていた。
「うーん、分らん・・・、恐らく地球上には存在しないはずの兵器にやられてしまったために、本当に死にかけたのかも知れんな。
魂としてここへ送られてしまったのだが、本来高みの存在というのは黄泉であろうが現世であろうが、高みの世界から自由に行き来できる。
しかし、一度死にかけたものだから、自由にできないようにこの地に縛り付けられてしまったようだ。
現世の様子をうかがえないものだから、お前たちの事が心配で心配で・・・ずっと気に病んでいた。」
竜神が安心したように、生き生きとと答える。
「どうすれば、その縛られたロープから逃れられますか?
何かお手伝いできることはありますか?」
ハルが、そんな竜神に問いかける。
「いや・・・、おまえたちができることは何もないだろう。
なにせ、ここへ来るには一度死ななければならない。
一度死ぬ・・・といっているが、お前たち人間は死ねるのは一度だけだ、2度目はないのだから、ここへきて何かしようなどとは考えるな。
心配するな、少し時間はかかるかもしれんが、こんなものほどいて復活できる。
しかし、その間はお前たちの事を見守ってやることができないだろう。
だから、竜の目を授けてやる。
それを肌身離さず持っているのだ。」
そう言うと、突然空から光の筋が降りてきて、その中を伝って緑色の巨大な岩が降りてきた、竜の目だ。
「こ・・・こんな大きなもの・・・肌身離さずって言ったって・・・。」
大きな岩のような石を両手で抱えて、ミリンダがよたよたと歩く。
「危なくなったら、石に向かってわしの名を叫ぶがいい。
今のままでは恐らく、現世で実体化出来るのはわずかな時間だろうが、それでもお前たちに救いの手を差し伸べることは出来るだろう。
必ず助けに向かう、いいな!」
竜神が大声で叫んだあと、何も聞こえなくなった。
後には、煮えたぎる溶岩の音を残すのみとなった。
「おお・・・、神の使いと神は連絡が取れたようだべさぁ、よかったよかった。
じゃあ、帰るとするべ。」
ポックルが、指笛を鳴らそうとする。
「待って、さっきのポックル達の村へなら、ここからなら見通せるので、瞬間移動で帰れるから、イノシシは呼ばなくてもいいよ。
掴まっているのも大変だったし、その後のリスや雀だと、蛇とか鷹やトンビに襲われそうになるし、彼らを追い払うのは良いんだけど、怪我をさせるのも申し訳ないからね。」
ハルはそう言うとポックルの手を持ち、ナンバーファイブはゴローと一緒に、ミリンダは一抱えもある竜の目を重そうに抱えながら、瞬間移動した。
そこは、先ほどの花畑に囲まれた丘だった。
「こ・・・ここは・・・・、ははぁー・・・、神の使い様ー・・・。」
突然の瞬間移動に驚いたのか、辺りを見回した後ポックルは、その場に膝をついてハルたちを崇める様にひれ伏した。
「だから、違うって・・・、僕たちはただの人間だよ。
でも、本当にありがとう、おかげで竜神様と再会できたし、連絡方法ももらったし、君たちのおかげだよ。」
ハルが本当にうれしそうに、ポックルを立たせると、両手を握りしめて、何度も何度も上下に振る。
「そうか・・・、ほんとに人間なのか?」
ポックルは疑わしい目つきで、ハルの顔をじろじろと眺める。
「ほ・・・本当だよ・・・、それに君達だって、妖精か何かじゃないの?
ずいぶんと小さいし、こんな地下深くに別の世界があるなんて、全然知らなかった。
竜神様に会えたのは、本当に君たちのおかげだよ、ありがとう。」
ハルも、同じく不思議そうな目でポックルの顔を眺める。
「ポックルはポックルだべ。
それに、ポックル達あの竜が心配だった。
竜が悲しむと、ポックル達も悲しい・・・、その悲しみをお前たち解決してくれた。
すごい・・・神の使いじゃないのに、神の悲しみを拭ってくれた。
本当にすごい・・・、ポックル達も感謝する。
おかげで色を失った風景も、元に戻ったべ。
だから、お互い様だ。」
ポックルはそう言って笑顔を見せた。
確かに、先ほどまで灰色一色だった風景が、色鮮やかに変わっている。
青やら赤やら黄色やら、色鮮やかな花々と、緑一面の丘だ。
「へえ、竜神様の悲しみにつられて、君たちの国は色が無くなっていたんだ。
それは大変だったね・・・、でも、元に戻ってよかった。
じゃあ、僕たちはこれで帰るね。
また今度、遊びに来たいよ。」
ハルが、のどかな風景を眺めながら呟くように話す。
「ああ、お前たちならいつでも大歓迎だべ。
また、小さくなって遊びに来い。じゃな。」
ポックルも笑顔で答える。
その後は、ポックルに言われた通りに、大きな木をどこまでも登って行くと、やがていつの間にか大きな地底湖畔へ着いていた。
そこから暗闇を手探りで歩いて、オニグルミの木の股から出た後は、来た道を辿って帰り、ハルの家へ戻ると中で小槌を出してもとの大きさに戻った。
そこまではなんとか覚えているが、そのまま眠ってしまったようで、気が付くと翌朝で全員ハルの部屋の中で目が覚めた。
ハルを起こしに来たおじいさんが驚いていたが、その後全員で朝食を摂り夢見心地のまま、支度をする為各自の家へ帰って行った。
誰もが昨晩の出来事を、夢か現実か判断できかねていたが、それでもミリンダの手にはしっかりと緑色に輝く、宝石のような石が握られていた。
「おはよう・・・、なんだか昨日は夢見心地で、本当にポックル達の世界へ行ってきたのが現実なのかどうか、今でも信じられないよ。
それでも、帰ってからは短い時間だったのかも知れないけど、ぐっすり眠れたのはよかった。」
「ああ、おはよう。そう、あたしもぐっすり眠れたようで、気分はいいわ。」
一旦家に帰ったミリンダが登校すると、そこには既にハルの姿があった。
ようやく、いつものハルの姿に戻ったのである。
ミリンダは、竜の目をチェーンで吊ってペンダントのように胸の前に下げている。
昨晩の事が夢ではなかったという事を示す、唯一の証拠品だ。
『ガラガラガラガラ』「起立、気を付け、礼」
『おはようございます。』
「おはようございます。」
ジミーが教室へ入ってきて、ハルの号令の元、全員が元気に朝の挨拶をする。
「おおハル君、先週はずいぶんと辛そうにしていたが、今日は元気な様子だね。
よかったよかった、悩み事でも解決したのかな?」
事情を知らないジミーは、それでも元気な姿に戻ったハルの事を喜んでいる様子だ。
「は・・・はい・・・、実は・・・。」
ハルが笑顔で昨晩の出来事を報告する。
「ほう・・・、ポックルっていう小さな人・・・。
彼らに連れられて、ポックルの国へねえ・・・、なんか、おとぎ話みたいだねえ。
そうして、そうか、竜神様と再会できたのか・・・。
でも、そのポックルっていう小人・・・なんだか聞いたことあるような気がするなあ・・・。
まあでも、竜神様が無事だったのは、本当に良かった。
といっても、人が死んでから向かう黄泉に居るんじゃ、無事とは言えないかも知れないけど・・・、まあ、連絡が取れたんだし、よかったという事だよなあ・・・。」
何度も助けてくれた、ありがたい存在である竜神の無事を知って、ジミーも本当にうれしそうだった。
「ポチー、出てきて。お願いーっ」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
放課後のグラウンドでミリンダが叫ぶが、何の反応も起こらない。
「やっぱり、きちんと召喚魔法で呼ばないとダメなんだよ。
天と地と水と炎に宿る神々と精霊たちよ、わが願いを聞き入れ、わが手足となりて役目を果たす、使徒を授けよ。
いでよ、竜神!!!」
「・・・・・・・・・・。」
ハルが、召喚魔法を唱えるが、やはり反応はない。
以前であれば、用もないのに呼び出すなと、上から目線で告げられたりもしたのだが、そんなことすら起こらない。
やはりあれは夢だったのか・・・、ミリンダが、しげしげと首から下げた緑色の石を見つめる。
宝石のように、表面を鏡面に磨き上げられた石ではない、ただの自然石だが、それでも内部から光を感じるような神々しさは持っている。
「うーん、やっぱり、僕たちの危機の時じゃないと、わざわざ出て来てはくれないんだよ。
なにせ、黄泉で繋がれているんだからね、それを抜け出すのも大変な労力だよ。
でも、本当に危ない時に叫べば、きっと来てくれるよ。」
ハルが、落ち込むミリンダを慰める様に声を掛ける。
「うーん・・・、本当に危ない時に来てくれるのかどうか、心配だから確かめておきたいのに・・・。
なんかちょっと事件でも起きないかしらね、そうすれば、真っ先に呼び出すのに・・・。」
ミリンダが、何かネタはないものかと、辺りをきょろきょろと見渡す。
「そんな事件なんか、そうそう起きることはないよ。
それに、平和なのが一番なんだから、事件が起きない方がいいに決まっているって。」
ハルが、ミリンダをたしなめる。
しかしハルの願いもむなしく、つかの間の平和な日々も終わりが告げられようとしていた。




