第65話
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「ああっ・・・、本当だ、竜神じゃない・・・、一体どうしてこんなところに?」
ナンバーファイブも、井戸の中を覗きこんで、その姿を認める。
「竜神様・・・、ようし」
ゴローは蝙蝠に姿を変え、井戸の中に入って行こうとする。
「無理だ、この井戸は黄泉の世界を映し出しているだけだべさぁ。
この中に入っても、黄泉には行けないべさぁ。
それよりも、おまえどうして蝙蝠になれる。
神か?神の使いか?」
「いやあ、僕はただの吸血鬼さ。みんなと変わらないよ。」
ポックルに呼び止められ、ゴローは再び人間の姿に戻る。
「黄泉って・・・、黄泉の国の事?
だったら、黄泉の穴から行けば・・・。」
ミリンダが、すぐに戻って富士の風穴へ向かう事を提案する。
「お前、黄泉へ行ったことあるか?・・・あるはずないべさぁ。
普通の人間、黄泉へ一度入ったら、現世へ戻ることは出来ないべ。
魂浄化されて、生まれ変わるぞ。」
ポックルが、目を見開いてミリンダに詰め寄る。
「多分、僕たちが知っている黄泉の国とは違うと思うよ。
あそこは魂の修練場だけど、今言っている黄泉というのは、本当に死んでから魂が行くところじゃないのかな。
竜神様は恐竜人の攻撃で死んじゃったから、黄泉に居るのじゃないかな。」
ハルがミリンダの方へ振り返る。
「でも・・・、ポチは神というか高みの存在だから、死なないって言っていたじゃない。
どうしてポチが、死んでから行く黄泉に居るのよ。」
今度はミリンダがハルに詰め寄る。
「うーん、理由は判らないけど・・・、やっぱり竜神様は黄泉に居るんだよ。」
ハルも少し困ったように答える。
「そうか、やはりあの竜は神だべ。
そうして、お前たちは神の使いだべ。」
ポックルがハルたち4人の姿を順に眺めながら、何度もうなずく。
「違うわよ、どちらかというと、ポチの方があたしたちの小間使いのような存在で・・・。」
「うん、竜神様は神で、僕たちのことをいつも助けてくれる、大切な存在だよ。
どうすれば、竜神様を救い出せるか分る?」
ハルがややこしくなるのを避けるため、ミリンダの返事を遮るようにして質問する。
「分らない、止水鏡を壊すと、水が一気に溢れ出してこの国が水に埋まってしまうから、それは出来ないべさぁ。
でも、火山の噴火口へ行けば、黄泉からの声が聞こえるべ。
多分、お前たちがそこへ行って呼びかければ、向こうにもその声が聞こえると思うべさぁ。
でも、すごく危険な場所だ、この間も仲間が一人さらわれた。
それでも行くか?」
ポックルが真剣な表情で聞いてくる。
「勿論行くよ。それで、竜神様が助けられるんだったら、少々危険な事なんかへっちゃらだよ。」
ハルが元気よく答える。
「そうね、ポチには色々と助けられたから、今度はあたしたちがポチを助け出す番よ。」
ミリンダも同様に頷き、ナンバーファイブとゴローも一緒に笑顔を見せる。
「ようし、じゃあ行くぞ。ピィーッ!」
ポックルが指笛を鳴らすと、すぐに数羽の雀たちが降りてきた。
「これに乗れ、まずは山裾まで行かなければなんねぇ。
だが、途中恐ろしい狩人たちが待っているから、その時は全速力で逃げろ。
逃げ遅れたら終わりだべさぁ。」
ポックルに指示され、それぞれ1羽ずつ雀の背中に乗り込む。
飼いならされているのか、首の部分にロープがかかっていて、手綱代わりにそれを引くと雀が羽ばたいて宙へ舞い上がる。
どうやら、乗り物代わりにポックル達が移動手段として、使っているようだ。
ポックルが乗り込んだ雀を先頭に向かう先は、どうやら大きな山のふもとのようだ。
その山は、モクモクと煙を上げている、活火山のようだ。
「ハルーー・・・ミリンダー・・・」
雀が火山へ近づいていくに従い、悲しげな声が、遠くから途切れ途切れに聞こえてきて、段々とその声が大きくなってくる。
「ピィーヒョロロロロ・・・」
「ピキィー・・・」
すると上空から、突然甲高い鳥の鳴き声がしてきた。
「来たぞ、体を低く、身を伏せろ!」
ポックルが、振り向いて叫ぶ。
雀はすぐに高度を下げて、地上すれすれを飛ぶが、滑空する影のスピードは落ちずに、一直線に向かってくる。
必至に逃げようとする雀の後方斜め上から、鋭いかぎ爪が襲い掛かって来た。
「魔砲弾!!!」
すぐにナンバーファイブが魔法を唱え、煮えたぎるような高温の玉が襲い掛かる巨大な影に向かって発せられる。
急降下から何とか身をかわし、高温の玉を避けたが、思いもかけない反撃を食らった鷹は、そのまま逃げ帰って行った。
「炎の竜巻。燃え尽きろ!」
ハルの体から発せられた炎の渦が、別の角度から襲ってきたトンビを狙う。
ところが、ミクロサイズの炎の玉は、トンビの羽ばたきで吹き飛ばされてしまう。
「だめよ、体が小さくなっているんだから、魔法効果もすごく小さくなっているのよ。
下手に加減なんかしたら、こっちが危ないわよ。」
ナンバーファイブが、ハルの様子を見て叫ぶ。
「炎の竜巻。燃え尽きろ!!!」
一直線に突っ込んでくるトンビ目がけて、今度はハルの渾身の魔法が炸裂する。
くちばしの先を焦がされたトンビは、焦って地面に激突しそうになるところをなんとか堪えて、逃げ去って行った。
「すごいな、さすがは神の使いだべさぁ。」
その様子を見たポックルが満足そうに呟く。
「だから、違うって・・・ただの人間だって言っているのに・・・。」
ミリンダが、大きく首を振って否定する。
『バサッバサッ』雀が翼を大きく広げて着陸する。
そこは、火山のふもとの木の上だった。
「ありがとう、またな!」
ポックルが雀たちに別れを告げ、彼らは空高く飛び去って行く。
「ふう・・・、魔封じの紐がきつく絞まって手首が痛いよ。
外した方がよさそうだね。」
ハルはミリンダ達に、魔封じの紐を外すよう合図し、ミリンダも応じて紐を外した。
ナンバーファイブはというと、とっくに外しているようだ。
「今度はこれだ。」
ポックルが指さす先には、かわいらしい蝦夷リスが待ち構えていた。
やはり、蝦夷リスの首にはロープが巻かれていて、手綱代わりにそれを掴んで乗り込む。
ポックルが乗ったリスを先頭に、木々の枝を伝ってリスは森の中を進んで行く。
「途中、大蛇が出るから気を付けろ。
すぐに逃げないと、飲み込まれてしまうぞ。」
ボックルが、後ろを振り返りながら叫ぶ。
どうやら、本当に命がけの行軍のようだ。
『ぴょーんっ』ひときわ高い木の上の枝から、隣の枝へと一気にリスがジャンプし、その時にポックルが指を指して何事か叫んでいる。
ミリンダの乗ったリスが後に続いてジャンプすると、そのタイミングに合わせた様に、大口を開けた大きな蛇が襲い掛かって来た。
「モンブランタルトミルフィーユ・・・・・極大寒波!!!」
ミリンダの魔法で、樹上から襲い掛かって来たままの姿で、大蛇は凍りついてしまった。
ついでに、周りの木々も一緒に真白く凍ってしまう。
その凍った大蛇の頭をジャンプ台にして、後続のリス達が飛び移ってくる。
「ちょっと、やり過ぎちゃったかしらね・・・。」
ミリンダが、後ろの様子を見ながら、舌を出した。
「さすがは、神の使いだ・・・、すごいべ。」
ポックルはその光景を見て、満足そうに頷いた。
暫く進むと、木々が絶え、一面赤茶けた山肌が広がっている。
リスたちも先へ進む木々がないため、立ち往生状態だ。
「これからどうするのよ、まさか、歩くなんて言わないでしょうね。
人間の大きさならともかく、こんな高い山にこんな小さなサイズのあたしたちじゃ、登るのに何日もかかってしまうわよ。」
枝に止まったリスの上から、山頂方向を見上げながら、ミリンダがポックルに問いかける。
一瞬で何キロも駆け抜けるスピードや、飛行能力を持ってはいるが、このサイズでは道端の石ころですら大きな岩山であり、厳しい障害となって行く手を阻むのだ。
「大丈夫だ、少し待てば戦車が来る。
それに乗り換えるから、待っていろ。」
ポックルはそう言いながら、山裾のはるか向こう見つめているようだ。
「ようし来た、いいか、下を通る時に飛び乗るぞ、絶対に遅れるな。」
ポックルが指さす先には、土煙が上がっていた。
その土煙が段々と近づいてくる・・・というより、土煙を巻き上げる存在が近づいてくる。
「よしっ、今だ、飛び降りろ!」
ポックルはそう叫ぶと、木の上からそのまま地面に向けて飛び降りた。
ハルたちも急いで続く。
『ポスン』落ちた先は、柔らかなクッションだった。
「すぐに、毛にしがみつけ、吹き飛ばされるぞ。」
ポックルに促されて、目の前の太い毛にしがみつく。
どうやら、大きなイノシシの背中にしがみついているようだ。
「ちょ・・・ちょっと、こんな大きな獣・・・、ちゃんと操れるの?」
振り落されないように、誰もがしがみつくだけで精いっぱいの様子だ。
「大丈夫だ、今、山頂へ向かいたい気持ちにさせた。」
『ダンダンダンダンダンッ』飛び跳ねる様にして、そいつは山裾に沿って直進していたが、急に向きを変えて山を登り始めた。
どうやら、ポックルの言う事を聞いたようだ。
暫く進むと、延々と続く山肌が切れかけてきた、どうやら山頂付近に辿りついた様子だ。
「こいつはそのままUターンするから、その時に飛び降りろ。
チャンスを逃すと、そのまま巣まで連れ去られるから、気を付けろ。」
ポックルに促され、イノシシが山頂に達してスピードを緩めたタイミングで、全員が飛び降りる。
「ふう、ようやくたどり着いたという訳ね。」
ミリンダが、乱れた髪を整えながら、大きく深呼吸をする。
「ここだ、ここから声が聞こえる。」
ポックルが指す火口は、真っ赤に燃えたぎる溶岩が顔をのぞかせている、いつ噴火してもおかしくはないような火山のようだ。
「うぉーん・・・・うぉーん・・・、ハル・・・ハルはどうした・・・。
ハルは戻って来たか・・・、ミリンダは無事か・・・、うぉーん・・・うぉーん・・・」
地の底から響いてくるような、悲しげな叫び声が火口の溶岩の煮えたぎる音に混じって聞こえてくるようだ。
「ハルに対して、あたしのことを呼ぶ声が少ないわね。
ちょっと悔しいけど・・・、ポチー・・・っ、ポチー!聞こえる?ミリンダよ!」
ミリンダが、両手を拡声器代わりに口に当てて、火口を見下ろしながら叫ぶ。
「竜神様ー!竜神様ー!ハルです、聞こえますかー?」
ハルも一緒に火口に向けて大声をあげる。
「だれだぁ・・・、ハルの名をかたるのは・・・、誰だぁ・・・ミリンダの名をかたるのは・・・。
わしの悲しみに付け込もうとするやつ、ただでは許さんぞ・・・。」
すぐに、凄みを効かせた野太い声が返ってきた。
「何馬鹿なこと言っているのよ。
ポチなんでしょ・・・?あたしよ、ミリンダ、忘れたなんて言わせないわよ!」
「竜神様!ハルです、ハル本人ですよ・・・、恐竜人たちにやられそうになった時に、南米まで飛ばされて、戻ってきましたよ!」
ミリンダもハルもあらんかぎりの渾身の声で再度呼びかける。




