第63話
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「まあ、そういうメリットもあるのかも知れないな。
それはそうと、本日はどういった用件かな?」
ミライが不思議そうに、ハルたちメンバーの顔を順に眺める。
ハルとミリンダにゴローとナンバーファイブという、いつものメンバーではあるのだが、それでもいつもはジミーや所長など、実際に用事のありそうな人たちを連れてくる役割であり、彼らが直接ミライ達に用があるとは考えにくいのだ。
「はい・・実は・・・。」
ハルが、寝ている時に聞いた言葉をミライに打ち明ける。
「ふうん・・・、泣いている恐竜人ねえ・・・。
今目覚めている、我々側の分隊には、恐らくいないだろうな。
ザッハの妻のアカミや娘のチュートロは、当初落ち込んでいたが、それでもグレイやバームはじめ、分隊メンバーに加え、俺も一緒になって励ましたり慰めたりして、何とか立ち直らせた。
トン吉とかいう魔物のおかげもあり、チュートロは意外と早く元気になり子供たちの中心となって、彼が作った遊具で遊んでいる。
なにせ、我ら民族の真の歴史を見いだせたという事で、もう人間たちの事を恨んではいない。
かえって感謝しているくらいだ。
だから、ザッハやトルテはじめ今回の戦いで犠牲になった恐竜人たちは、我らが民族のしいたげられた歴史を取り戻す戦いに散った英雄として奉られた。
残るはチビ恐竜人たちの中だが・・・、どうだろうなあ、あいつらだって地に足を付けて暮らし始めたんだし、密閉された円盤内よりは、はるかに暮らしやすい生活を送っているのではないかと考えている位だ。
悲しみに暮れるなんてことは、ちょっと考えにくいと思うね。
まあ魔封じの紐やネックレスを付けられて、最近めっきりとおとなしくなった元老院メンバーに、それとなく当たってみよう。
奴らの住民管理システムは優秀だから、変な行動をしている奴がいたら、すぐに判るだろう。
泣いてばかりいるなんてやつがいたら、すぐに連絡してあげるが・・・、まああまり期待はしないでいてくれ。
恐らく、奴らの事ではないと思うから。」
ミライはそう答えて首を横に振る。
やはり、恐竜人たちの事ではなかったのか・・・、それとも人知れず泣いている恐竜人がどこかに隠れているのだろうか。
「そうですか、お忙しいところ、お手間を取らせて申し訳ありませんでした。」
ハルたちは、そう言いながら深々と頭を下げる。
「いや、いいんだ。君たち人類と魔物たちは我が民族の救世主だ。
感謝の気持ちは忘れない。
だから、我々が出来る事なら何でも協力するつもりだ、いつでも訪ねてきてくれ。」
ミライはそう言って笑顔で手を振った。
ミライに別れを告げ、恐竜人基地を後にして、日本へと瞬間移動で帰って来た。
「うーん、どうしようか・・・。」
ハルが困ったように腕を組む。
既に日はすっかり落ちて、夜も更けてきた。
「ふうん、そうね・・・、まあ、仕方がないから、今日は今週の分も含めて、早く寝るのね。
ハルの事だから、今回の戦いで犠牲になった恐竜人たちの家族の事を心配していたんでしょうけど、みんな元気にしているようで安心したでしょ?
これで、枕を高くして眠れるわよ。
だから、予習や復習はあきらめて、今日は早く寝なさい。」
ミリンダに促され、早々に帰宅して夕食後は勉強もほどほどに、早い時間に床に入った。
「竜が泣いているぞ・・・、ハルは戻って来たか?と叫びながら泣いているぞ。」
「いや、ミリンダは無事か?と叫びながら泣いていたぞ・・・。」
「ハルって・・・誰だべ?」
「ミリンダって・・・誰だべ?」
「どうする、ハルを探すか?・・・。」
「いや・・・、ミリンダを探すか・・・?」
「どうする、どうする・・・、どうやって見つける?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「う・・・うーん、また・・・・?
ハルって、多分僕の事だよ。
ミリンダも、知っているよ。」
ハルが眠い目を擦りながら、暗闇の中起き上がり、周りを見回しながら呟く。
「ハル・・・ハルなのか?
じゃあ、一緒に来い・・・。」
そう言われた後に、ハルの体が一瞬ふわりと宙に浮いたような感覚になった。
「だ・・・駄目だ・・・、大きすぎるんでないかぃ。
これでは連れて行けない。
ハルは大きすぎる・・・、どうするべ。」
「どうするべ。」
暗闇の中、小さな影がハルの寝ているベッドの周りを、せわしなく動き回る気配がする。
「どうする・・・。」
「どうする。」
「・・・・・・・・」
そうして、段々と周りが明るくなってくるとともに、声も聞こえなくなった。
「ふあー・・・、おはよう。」
翌朝、ハルは約束の時間ぎりぎりになって、ようやく校庭へ姿を現した。
しかも、目の周りに青黒いクマを作って・・。
「ちょっと・・・、どうしたの?
早く寝なさいって言ったのに、夜遅くまで勉強していたんじゃないでしょうね。」
そんなハルの姿を認めて、ミリンダが立ち上がって詰問する。
「ちがうよ・・・、昨日は晩御飯を食べて、今週の授業の復習を少ししたら、すぐに寝たよ。
でも、やっぱり夜中になると、声が聞こえてきて・・・、しかも昨夜は僕やミリンダの名前を呼ばれたんだ。」
ハルが、今日もまた眠そうな目をしながら、ため息交じりに話しだす。
「ふうん・・・、あたしやハルの事を知っているのね?
戻って来たかって・・・、このところ、ハルはどこかに出かけた?
もしかすると、昨日恐竜人たちの大陸へ行った事かしらね。」
ミリンダが興味深そうに、腕を組んで考え事をする。
「あたしの事も何か言っていた?」
すかさずナンバーファイブが話に加わって来た。
「僕の事も何か話していたかい?」
ゴローも興味津々の様子だ。
「いえ、僕とミリンダの事だけでした。
でも、僕とミリンダだけが知っている竜なんて・・・、トランさんが乗り移った恐竜人だって、どちらかといえばナンバーファイブさんやトン吉さんと長く居たし、二人の名前ならともかく・・・。」
ハルも腕を組みながら、首をひねる。
「居るじゃないのよ、あたしたちおなじみの竜が・・・。
特にハルが一番親しかった竜が・・・、あいつなら・・・。
まあ、ゴローも知っているけどあまり話さなかったし、ナンバーファイブさんは一度会ったきりだものね。
これから、作戦会議よ・・・。」
ミリンダの顔が急に明るくなる。
この日は、昼間は遊びに行く事もなく、あれこれとハルの部屋で作戦を練っていた。
「竜が泣いているぞ、ハルー、ハルー・・・と悲しそうに泣いているぞ。」
「いや、ミリンダー、ミリンダーと泣いているぞ。」
「どうすれば泣き止む?」
「どうするべ。」
「どうすれば、いいんだ?・・・。」
『パサッ』ハルの耳元で囁くように語りかけてくる小さな黒い影に向かって、白い布のようなものがかぶせられる。
「よっしゃあー、捕まえた!」
『カチッ』明かりが灯され、部屋の中が明るくなる。
ミリンダが昆虫採集用の網を、床に押し付けているようだ。
そうして、その網の中には、小さな虫がじたばたと動いているのが見える。
いや、よく見ると虫というより2本の手足があり人のようだ。
おかっぱ頭のような髪型で、濃紺の袖口の広い着物を細い帯で結んでいる小人が、網に捕まってもがいている。
「よしっ、これでもう逃げられないわよ。」
ミリンダはそう言いながら、小人の手首に細い布製のひもを結び付ける。
「ふん、ポックル捕まらない。」
小人がそう言うと、その体が段々と薄くなっていきやがて透明に・・・
「あいたたたた・・・。」
ところが消えかけた姿が元に戻り、小人はそう叫びながら、先ほどひもを巻きつけられた手首を痛そうに擦る。
「へっへえ・・・、ミッテランおばさん直伝の魔封じの紐よ。
こないだ、チビ恐竜人たち用に、大きなサイズの魔封じの紐をほどいて、小さいサイズのものを作ってある程度手順に慣れたから、今では一から作る練習をしているのよ。
丁度試作品を持ち歩いていてよかったわ。」
ミリンダが、その小さな存在の首をつまんで持ち上げる。
「ポックルいじめると、罰が当たるべさぁ、罰が・・・。」
ポックルと名乗る小人が、手足をバタバタさせてもがく。
「罰って何よ・・・。」
「何もない平らな道歩いていて、突然転ぶ。顔面を強打し鼻血が出るべさぁ。
したら、罰が当たったと思え。」
ポックルは目に涙を溜めながら、今にも泣きだしそうな目でミリンダを睨みつける。
「な・・・なによ・・、怖いわね。」
ミリンダはポックルを床に降ろすと、魔封じの紐を解いてやった。
「これでいい、これで罰当たらない。
ポックル心広い・・・、悔い改めれば、それを許すべさぁ。」
ポックルは、そう言いながら胸を張った。
「それはそうと、竜が泣いているってどういう事?
ハルとかミリンダって言っていたけど、それはあたしたちの事よ。」
人差し指サイズのポックルを、ミリンダがしゃがみこんで覗き込みながら尋ねる。
「うん?お前ハルか?」
「違うわよ、あたしはミリンダ。
ハルはこっち。」
ミリンダがハルの方を指さす。
「そうか、ハルとミリンダ・・・、ハルとミリンダ見つけたべさー!」
突然ポックルが、大声で叫ぶ。
「見つけた?」
「ハルとミリンダ、見つけたか?」
どこから現れたのか、すぐに、ポックルの周りに数人の小人たちが群がって来た。
「やっぱりそうだったか、竜の悲しみを聞いて、どうしてかは分らないが、この家に来なければならない気がしていた。
毎日はるばるやって来ていてよかった。
ハル、ミリンダ、おまえたち来い。
竜の所へ連れて行くべさぁ。」
ポックルが、ハルたちを見上げて告げる。
「無理だ、無理だ・・・・、こいつらデカい。」
「無理だ・・・、デカすぎて、連れて行けないべさぁ・・・。」
「どうするべ。」
「どうするべ。」
ところがすぐに、周りの小人たちが、腕を組んで悩み始める。
つられてポックルも腕を組む。
「大きいとだめなの?
どれくらいの大きさまで、小さくなれればいいの?」
すると突然、ナンバーファイブが口を開いた。
「どれくらいって・・・、ポックルと同じくらいだなぁ。
ポックルと一緒に行く・・・、だから同じ大きさになれなければ、一緒に行けないべさぁ。」
ポックルは、今度はナンバーファイブに視線を移して答える。
「そう、だったら問題はないわね。」
「えっ・・・」
「じゃじゃーん。」
皆が振り向く中、そう言ってナンバーファイブが開いた手のひらから出したのは、いつものスーツケースだった。
「確かこの辺りに・・・。」
ナンバーファイブがケースを開けて、中身をひっくり返しながら何かを探している。
「ほら、あった・・・。」
それは、古びた小槌だった。
「そ・・・それは、ウチーデノコヅーチ・・・、全部回収して廃棄したはずじゃ・・・。」
ハルが、その小槌を見て絶句する。
「ええっ・・・、そんなことないわよ、あたしは持っているもの。
ハル君だって、あたしのを見て自分でも出したはずだから、持っているでしょ?」
ナンバーファイブは、不思議そうに首をかしげる。
「恐竜人基地に最初に忍び込んだ時に、ミリンダ達を鋼鉄化の魔法から目覚めさせて、元のサイズに戻す時に使いましたけど、ミライさんが小槌を集めているって聞いたから、すぐに渡しましたよ。
だから、僕が持っていた小槌も破壊されてしまいました。
チビ恐竜人たちを、2度と巨大化させないために、地球上から抹消しなければならないって・・・、だから。
ナンバーファイブさんだって、小槌を持っているかどうか聞かれたはずですよ。
どうしてそれを・・・。」
ハルは目玉が飛び出すほどの表情で、それを見つめる。




