第60話
お休みしておりましたが、本日より連載再開いたします。
ハルたちを取り巻く環境も、様変わりしてきており、どのような冒険が待っているのでしょうか?
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チビ恐竜人たちにより、地球が支配されそうになった危機を、かつては奴隷支配されていた恐竜人たちの協力もあって、なんとか脱することができ、停滞していた戦後復興が再開され始めた。
数千万年間もの長きにわたって海底に没していた恐竜人たちの大陸は言うに及ばず、最終戦争とも言える世界戦争で破壊しつくされた、かつての国々を再び復興させるために、それぞれの地域で人々が動き始めた。
そもそも、世界各地で戦火を免れた人々は、お互いに自分たちだけが人類最後の生き残りだと信じ、その地域のみで独立して復興を目指していた。
ハルたちが、様々なトラブルを解消しようと模索するうちに、他の地域との連携が出来始め、日本国内のみならず、戦火を免れたヨーロッパの国々ともお互いの存在を認識でき始めたところだったが、今回の恐竜人たちによる侵略の経緯により、更に他の地域で生存するわずかな人々が確認されるに至った。
生存者の存在を絶望視されていた地域にも、それぞれわずかではあるが生存者コロニーが確認され、連絡を取ることができたのだった。
皮肉なことではあるが、恐竜人たちによる世界征服行動による、唯一の成果であったと言える。
「じゃあ、授業を始めるぞ。
今年から、今まで見合わせていた授業を始めることになった。
世界の地理と歴史だ。
マイキーの国の存在が明らかとなり、ヨーロッパには戦火を免れた国が、それなりにあることは判ったが、それでも世界中のほとんどが壊滅状態で、大半の地域で生き残りを見つけられないでいた。
ところが、今回恐竜人たちの侵攻で、生き残った人たちがなるべく地域ごとに固められたために、世界各地の人類の生き残りがある程度判明したようだ。
先週、所長から連絡を受けたんだが、恐竜人基地にあった世界の生物分布という資料に、地域ごとの生存者のデータも入っていたらしい。
この資料には、世界中の動植物や野生動物たち及び野生化した、かつての家畜などの分布が網羅されていたようだが、そのうちの家畜欄に、我々人間たちも分類されてリストアップされていたという事だ。
やはり我々の事を、食肉としてしか見られていなかったのかと思うと、ぞっとするね。
そのデータによると、アジアだけではなく、アメリカ大陸にもアフリカ大陸にもオーストラリア大陸にも、それぞれ少数ではあるが人類の生存が確認されたということだ。」
チビ恐竜人たちの円盤を捕獲してから半月ほど、ジミーは既に日本へ戻って来ていて、ハルたちの高校の教師に復帰していた。
「へえ、アメリカに生存者がいたんじゃあ、スマイル大佐は大喜びだったでしょ。
あたしも、ちょっと様子見がてらアメリカ人ってのに、会いに行ってみようかしら・・・。」
ジミーの言葉に、ミリンダが真っ先に反応した。
自慢の巻き髪を、さりげなく指でもてあそびながら、笑顔で話しかける。
「ああ・・・、まあアメリカ大陸の生存者だからといって、アメリカ人だけとは限らないがね。
カナダやメキシコに中南米から南米に掛けて多くの国々が、世界戦争以前には存在したようだからね。
それでも、日本に駐留していた米軍は大喜びで、真っ先にアメリカ大陸の生存者の元へ駆けつけようと、空母を走らせている所だ。
ミリンダちゃんは残念だったね、既に出航してしまったから、又の機会にでもお願いしてみるといいかも知れない。
でも、恐らく空母で向かっても2週間程度はかかりそうだから、学校が長期休みの時にしてくれよ。
それと、スマイル大佐みたいに、日本語が堪能ではないだろうから、少なくとも英語ぐらいは片言でも話せるようになってからの方がいいかも知れないね。」
ジミーがここぞとばかりに、学校の授業の大切さをアピールしてきた。
「英語ならあたしが教えてあげるわよ。
何だったら、口移しでも・・・。」
すかさずナンバーファイブが、救いの手を差し伸べる。
彼女はトランから習って、世界の主要言語を取得済みなのだ。
高校生になっても、相変わらず制服には袖を通さずに、メイド服のままだ。
しかも、毎日色や形を変えた服装で、登校してきている。
当初はブレザーの支給された制服を着用していたミリンダも、それに習って制服を手直しして着用するようになってきたようだ。
今では、以前の制服の形が推察できない程、変わってしまっている。
「へえ、いいわね。ぜひお願いするわ。」
簡単に英語を覚えられると聞いて、渡りに船とばかりにミリンダの顔に笑顔が戻る。
「ああ・・・、口移しによる言語の取得は、緊急事態以外では禁止とする。
やはり学問というのは、日々の勉強によって成し遂げられるものだし、楽して身につけられると思うと、努力しなくなってしまうからね。
それでは、ろくな大人になれなくなってしまう。
魔法だって、毎日努力して努力して、時には厳しい特訓をしてレベルを上げて来た訳だろ?それと同じことだ。
勉強も一生懸命努力して身に付ければ、一生モノの知識となる。
だから、口移しによる言語の取得は、禁止とする。
分ったね。」
ジミーがいつになく厳しい表情で告げる。
「ええーっ・・・、魔法は別ものよ・・・、だっていくら練習しても頭が痛くはならないし、眠くもならないもの。
それに、相手が強すぎて仕方なく特訓した訳だし・・・、別に特訓が好きってわけじゃ・・・。」
そんなジミーに対してミリンダは不満顔だ。
「いいや・・・・、英語の勉強だって・・・、他の勉強も同じだが、一生懸命勉強して中身が分ってくれば楽しくなるはずだ。
そうすれば頭が痛くなることも、授業中眠ってしまうことだってなくなる。
最初は辛いけど、少し努力して慣れれば楽しくなるよ。
だからいいね・・・、ファイブ君も分かったね。」
ジミーがミリンダとナンバーファイブの顔を順に覗き込む。
「ええーっ・・・。」
「あたしは、ここを追い出されたら行くところがないから、ジミー先生には逆らえないわね。
ごめんねミリンダちゃん。」
ナンバーファイブは、申し訳なさそうに渋々頷いた。
「じゃあ、授業始めようか。」
といいながら、ジミーは教室を見渡す。
いつもなら、勉強嫌いなミリンダに対して、もっと努力するように真っ先に口を挟むハルの声が聞こえなかったからだ。
ミリンダの味方であるゴローはさておいて、ハルが会話に入ってこなかったのはおかしい。
普段は必ず自分の味方をしてくれて、ミリンダを叱咤激励する筈なのだ。
しかし、ハルは元気なくうつむいたままだ。
一瞬、今日は休みかとも思ったが、教室にはいるようだ。
まあいいだろう、人間たる者、たまにはおとなしくしていたくなる時もある。
「じゃあ、先ほどの続きで現状の世界情勢だ。
それぞれの地域で生き延びた人たちは、それぞれの地域で元の国名のままに生活してもらおうと言う事になった。
といっても、それでは今までと大差なく、また少数で点在していては食べるだけでやっとで、文化的な生活もままならないと言う事で、世界各国に散り散りになった人たちへのコネクションというか、繋がりを恐竜人たちの円盤で行う事になった。
捕獲用円盤であれば、食料など必要物資は遠隔操作で運ぶことが可能だから、各地で農耕や酪農が根付いて十分な食料が確保されるまでは、物資が豊かな地域から継続的に輸送される手筈となっている。
日本からも、備蓄用に蓄えた大量の缶詰を供出したと言う事だった。
まあ、最低限の備蓄は残すらしいが、今までのように、その地域での生活が困難になって、新たな地で生活を再開という最悪のシナリオに備えた、半年とか1年分とかの備蓄は止めて、それを拠出用に当てるらしい。
日本国内でも、今や北海道と仙台と西日本の各都市に加えて九州にも拠点があるから、日本全土に渡るような大災害でもなければ、何とかなると言う見方からだね。
まあ、そう言った備えよりも世界の生き残りに対する援助の方が、緊急性も高いだろうしね。
これにより、安定した生活ができる様になれば、飛躍的に人口も増えて行く事だろう。
そうなれば、最初から世界各地に点在していた方が、一部地域に偏らない復興が望めるという、もくろみもあるようだね。
だから、モーちゃんとかいう釧路の魔物を含めて、日本国内のリーダークラスの魔物は、それぞれ各地域に派遣され、その地域に根付いている魔物たちを手懐けて復興の協力をさせる方針だ。
ヨーロッパで始めた復興支援を、今度は世界規模で行う訳だね。
日本国内は、とりあえず農作業するための若い人手や、働き手の魔物に関してもある程度充実しているから、リーダークラスの魔物が多少少なくなっても、何とかやって行けるだろうと考えられたわけだね。
それもこれも、トン吉さんが恐竜大陸の開拓手伝いに残っているからなんだが、一応トン吉さんの許可を貰っての派遣だよ。
生存者の人数も考慮しながら、大陸ごとに割り振られて派遣されるらしい。
彼らは、これからますます忙しくなるだろうね。」
ジミーが世界の概略図を黒板に書いて、各地域への割り当ての数字を細かく記入していく。
「へーえ、モーちゃんたちも休む間もなしって感じね。
あいつらこそ、英語とか外国語を勉強した方がいいんじゃないの?」
ジミーの言葉に、ミリンダが頬杖をついたまま呟く。
「そうだね、魔物達の共通言語といえば、鬼語に近い獣語らしいんだが、語彙が少ないからやはり各地の言語の方が、意図は伝わりやすいと言う事だ。
だから、それぞれの地域の言語の辞書とかテキスト片手に準備をしているよ。
勿論、マイキーやマルニーさんが1週間ほど各言語の基礎教育をしてから出発という事になっている。
マイキーもマルニーさんも大学の授業を受け持っているから、どうしても夜間授業になるのだが、昼間の空いた時間もさぼらずに自習しているから、進み具合は相当早いって言っていた。
口移しで教えてほしいって言っていたのは、実をいうとレオンぐらいで・・、無線でトン吉さんに叱られてからは彼も必死で猛勉強しているようすらしい。
われわれも、負けずに頑張ろう。」
ジミーはそう言いながら、ため息をつくミリンダを励ます。
「はーい・・・、がんばりますぅ。」
そんなジミーに対してミリンダは、最後はかすれて聞き取りにくいくらいの小さな声で返事をする。
「世界の状況に話を戻すと、一応元の国名のままに地域を割り振ることにはなっているが、国という区分けは行わずに、一つのまとまりとしてお互いを支え合って生きて行こうという事になりつつあるらしい。
こうなったからには、元の国という形を忘れないように、学校の授業で地理や各地の歴史の勉強を開始することになったという訳だ。
まあ、最終戦争とも言える世界戦争以前の国名の学習という事になるがね。・・・・」
この日は、遥か大昔の世界地図を使って、国や風土の授業が行われた。
「はい、じゃあまずはいつものように精神統一からよ。」
ミリンダの号令で、生徒たちは板の間に座禅を組んで瞑想に入る。
魔法学校の校長であるミッテランが、未だに恐竜大陸に残っているため、講師としてハルやナンバーファイブと共に指導に当たっているのだ。
勿論、ホーリゥ始め、ゴランにネスリー達も、大学の授業の合間に、指導の手伝いに来てくれている。
「そういえば、この間初級クラスを担当しているアマンダ先生と話したんだよ、魔法学校で毎日指導するのもいいけど、一度みんなで黄泉の国へ行って、特訓をしたらどうかな。
そうすれば、生徒たちの魔法力も一気に向上すると思うんだけど・・・。」
ゴランが、座禅の指導をしているミリンダ達の所へ、そっと寄ってきて話しかける。
「まあ、それは名案と言えないことはないのだけど、黄泉の国は本来の修業の場として活動をし始めたから、あたしたちが魔法力の特訓で使用できるのは、南極の黄泉の国が開くときだけって限られてしまったのよ。
いくら、あたしたちに好意的なダロンボさんでも、本来の黄泉の国の役割は曲げられないって言われてしまったわ。
だから、特訓するのなら大みそかにしか出来ないの。
その時は、分るでしょうけど日本では一年のうちで一番大切な行事、お正月があるから、大みそかはその準備で忙しくて、1日を通して南極へ行ってはいられないわね。
なにせ、お年玉をもらい損ねると、一生悔やまれるし、おせちを食べ損ねると、死んでも死にきれないわ。
そう言った訳で、黄泉の国を魔法力向上のための特訓の場として使える時間は、せいぜい4,5時間ね。
1回で南極まで連れて行けるのは、多くても2人までだから、何往復もしなければならないし、特訓にどれだけの時間確保できるかすら、見積もるのも難しいわね。
この程度だと、記憶が残るまでの特訓は出来ないだろうし、ウォーミングアップくらいが関の山ね。
なにせ、1日で出来る出入り回数の制限10回は、未だに有効なのだから。」
ミリンダは、神妙な顔つきで首を横に振る。
「そ・・・そうなのか・・・、クリスマスさえ祝う事が出来れば、大みそかの特訓でも僕は構わないのだが、皆にとって、そんな大事な行事があるのなら、仕方がないね。
アマンダ先生も、がっかりするだろうな。」
ゴランは、ちょっぴり残念そうなそぶりを見せる。
でも、ミリンダには確信があった、恐らく、大みそかに特訓をすると言っても、日本人である魔法学校の生徒たちの中には、1日中参加したいと言う者は一人もいないだろう。
それくらい、日本の子供にとって、お正月は重要なのだ。
「じゃあ、呼吸が落ち着いて、精神統一できたものから、グラウンドへ出て初級魔法の練習よ。
炎と水系の初級魔法はあらかた覚えたようだから、今日は、風系と氷系の初級魔法を取得する様頑張りましょう。」
『はーい。』禅を組んでいた子供たちが、次々と立ち上がってグラウンドへ出て行く。
「さっ、行くわよ。」
「う・・・うん・・・。」
生徒たちが全員グラウンドへ出て行ったのを見届けてから、自分たちも続こうとハルを促すミリンダ。
ところが、ハルは何か元気がない様子だ。




