第58話
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「えーと・・、ここをこうしてこうやって・・・、こう組み付ける・・・、できたぁ。」
ミリンダが嬉しそうに、細く短い組みひもを手に歓声を上げる。
「はい、僕も出来ました。」
ハルの手には、銀色の細いチェーンが握られている。
所長とミッテラン指導の下、急遽行われている魔封じのペンダントと魔封じの紐の量産化作業は、夜を徹して行われた。
「9999・・・、はい、一万・・・。」
ミリンダは、最後の魔封じの紐を握りしめたまま、眠ってしまった。
「ふう・・・、ようやく完成したか。
どうやらギリギリ間に合ったようだな。」
所長の言葉通り、既に夜は明けているが、本隊の到着予想時刻までは、もう少し時間がありそうだった。
「じゃあ、後片付けをして、私たちも少し眠りましょう。」
そう言って、所長とミッテランは、作業机に突っ伏して眠るハルたちの肩に、毛布を掛けて回った。
「これが、急いで作った、1/10サイズの魔封じのペンダントと魔封じの紐だ。
サイズは小さくなったが、強度は落としてはいない。
何とか1万本作り上げるのが精一杯だった。
上乗せは、100本ほどだ。」
所長が、ミライに段ボール箱を手渡す。
中には魔封じの紐とペンダントが、ぎっしりと詰まっている。
みんなが寝静まった後にも、所長が予備として100本更に追加で作ったのだ。
「ありがとう、これで交渉ができる。」
ミライは笑顔で箱を受け取った。
「緊急連絡、緊急連絡、こちらスターツです。
S国衛星観測により、敵本隊の円盤が、月軌道に到達したことが確認されました。
地球には直接向かわずに・・・」
スターツ王子からの緊急無線が途中で途切れ、モニターに映像が映し出された。
「地球上の愚かな人類たちよ、我らにひれ伏す決心はついたかな?
逆らうのなら容赦はしない、お前たち人間など、我らの食料を生産する奴隷か、食料そのものとなる家畜としての価値しかないのだ。
ましてや魂の集合体である魔物に至っては、家畜としての使い道もない。
根絶やしにしても構わないのだぞ。
生き延びたければ、逆らわないことだ。」
昨日と同じ恐竜人から、最後通告とも受け取れる言葉が告げられる。
「よし、今だ。昨日のうちに月の裏側に隠しておいた円盤を向かわせろ。」
タイガ中隊長が、部下に2機の円盤を遠隔操作で、本隊の円盤の元へ向かわせる。
捕獲用円盤のものと思われる画像が別モニターに映し出されているが、小さな点でしかなかった本隊の円盤が、段々と鮮明な画像として映し出されてくる。
それは、余りにも巨大だった。
捕獲用円盤も直径100メートルほどの大きさがあるが、近づいて行くと、その十倍以上の大きさは優にありそうだ。
「うん?どうやら、監視部隊は全滅したのではなく、人間どもに寝返ったという訳か。
そうでなければ我らの円盤の操作など、愚かな人間どもにできるはずもないからな。
しかし、捕獲用ビームしか持たない円盤と、兵士を運ぶだけの円盤では、何の攻撃力もないぞ。
こんなもの送り込んで、一体何をするつもりだ?」
本隊の恐竜人が余裕の笑みを浮かべる。
「ええっ・・・、あの円盤には武器は積んでいないのかい?」
「ああ、奴が言うとおり、捕獲用円盤には捕獲用のビームを発する能力しかないし、地上制圧用の円盤は、兵士を運ぶのが目的だから、武器など持たない。」
タイガは、当然のように答える。
「じゃあ、一体何のためにわざわざ円盤を飛ばせたんだい?」
所長が、慌てふためきながら尋ねる。
これでは、こちら側には何の手だてもない事が、向こうに分ってしまう。
「いやあ・・・、とりあえず、目には目を、円盤には円盤をって・・・言わないか?ガッハッハ!」
タイガは頭を掻きながら、豪快に笑った。
「まあまあ、折角円盤も送り込んだことだし、次なる作戦はこうですよ。」
ミライが、モニター画面横の操作パネルのジョグスティックを動かし、ターゲットマークを本隊の円盤すれすれに合わせてから、赤いボタンを押した。
「ゴォッ!」
眩いばかりの光線が、瞬時に本隊の円盤をかすめて飛んで行った。
「今のは警告だ。
無防備な姿を現したのが運のつきだったな。
本隊の円盤は、こちら側のイオンビームの射程で捕えているぞ。
ちょっとでも変なそぶりを見せれば、一瞬で粉々にしてやる。」
ミライは、更にパネル脇にあるマイクに向かって、話し始めた。
「そ・・・その声はミライ中隊長。
お前までもが、愚かな人間たちに寝返ったというのか?
恐竜人種族に対する忠誠心はどこへやった?
我らが種族を裏切ると言うのか?」
画面の向こう側の恐竜人が、一気に青ざめて、慌てふためくようすがコミカルだった。
「ふん、種族というのなら、俺は自分の種族を裏切ってはいない。
それどころか、我が祖先を征服して奴隷化していた別種族から、我々を解放しようとしているんだ。
それが、どういった意味か、当時の事を知っているお前たちならわかるな。」
ミライは、冷たく答える。
「ちっ・・・、我が恐竜人の過去を知ったという訳か・・・。
仕方がない、この星はあきらめる。
我々は別の星を目指すから、お前たちはここで人間どもと暮らすが良い。」
本隊の恐竜人は、すぐにおとなしくこの場を立ち去ると告げる。
「そうはいかん、お前たちのような凶暴なだけで、他の種族の事など気にも留めないやつら等、どこか別の星を侵略するだけだろうから、野放しにするわけにはいかない。
その星で平和に暮らしていた者達に、迷惑がかかるだけだからな。
逃げようとはするなよ、イオンビームが狙っているぞ、今度は外さない、ど真ん中を射抜いてやる。」
ミライが、低くドスの利いた声で告げる。
「わ・・・分った・・、許可が出るまで動かない、約束する、だから撃たないでくれ。
そ・・・そうだ、我らの次元金庫を開けてやろう。
そうすれば、お前たちも我らの文明の利器を使えるはずだ。
それを使えば、人類制服など簡単なものだぞ。」
恐竜人は慌てふためいて、何とかミライをなだめようとする。
なにせ、先祖を征服した仇なのだ、いつイオンビームの餌食にされるのか分からない。
「ふん・・・、そうか、地球に近づいたから直接こちらにある次元金庫なども操作できるという訳だ。
まあ、予想はしていたのだがな、まずはこちらからプレゼントを送ってやる。
次元金庫を開け、そうしてこちらから送られる箱を開けろ。」
「わ・・・わかった・・・。
すぐに通信ボックスを開ける。」
画面の向こう側の恐竜人は、背後に振り返って、何か指示を出している。
すぐに画面向こうの方で、恐竜人がドアを開けて部屋を出て行くのが見えた。
「ミライだ、箱を通信ボックスに入れろ。」
ミライが、館内通信で部下に命じる。
すると、画面の向こう側で恐竜人が段ボール箱を抱えて戻って来たのが見えた。
「こ・・・これはなんだ?
布で出来たような紐と、金属の鎖のようだが・・・?」
通信役の恐竜人が、魔封じの紐とペンダントの束を持って、不思議そうに尋ねてきた。
「それは、お前たち元老院と、一般の恐竜人を区別するためのいわゆる認識票だ。
なにせ、人間たちの顔の区別が我々にはつかないように、人間たちから見ると、我々恐竜人の顔はどれも同じに見えるらしい。
お偉いさんに失礼があってはならないからな。
元老院は、記録では1万名となっていたが、今でも人数に変更はないか?
1万本と少々あるから、すぐに元老院全員に配って、それぞれ首に付けてくれ。
それが、お前たちをこの星に迎え入れる条件だ。」
「分った・・・、これでいいんだな?」
通信役の恐竜人は、魔封じの紐を手に取って、自分の首に巻き付け後ろで結んだ。
そうして、ダンボール箱を先ほどの恐竜人に持っていかせる。
恐らく、他の元老院メンバーに配るつもりなのだろう。
「元老院は全員、布か金属かどちらかの認識票を付け終ったぞ。
これからどうするんだ?」
画面の向こう側の動きがせわしくなったかと思っていたら、数人の恐竜人が首に魔封じの紐やペンダントを巻きつけて現れた。
交渉の様子が気になるのだろうか。
「じゃあ、こちらから送り込んだ円盤に代表者が乗り換えてくれ。
それから、今後の処遇をお互いで話し合うとしよう。
もし、一人でも認識票を付けていないものがいたら、一般兵士とみなし拘束するぞ。」
ミライの言葉に対して、画面向こうの恐竜人たちの顔が、にやりと笑ったような印象を受けた。
そうして、巨大な円盤から地上制圧用円盤に光線が照射され、円盤はひらりと向きを変え、地球へ戻ってきた。
「ようこそ、地球へ。」
ミライが円盤へ近寄り、恐竜人たちを出迎える。
「ちっちゃいわねぇ・・・。」
その様子を見ていたミリンダが、声を上げるのも無理はない。
彼らの体長は、20センチほどしかなく3メートルを優に超す恐竜人であるミライの、踝ほどのサイズでしかない。
足元に群がる小さなトカゲのようにしか見えないのだ。
「こちらへどうぞ。」
そんな小さな恐竜人たちを、ミライは発着場隣の会議室へと連れて行く。
そのままでは、目線が合わないので、恐竜人たちをテーブルの上に乗せた。
代表と思われる百名ほどの恐竜人で、テーブルは埋まった。
「まずは、我が祖先が、お前たちの祖先を征服して、お前たちを従えていたことは謝る。」
ミライやタイガたちがテーブルの向かい側の席に着くなり、小さな恐竜人たちは深く頭を下げた。
「ほう・・・、随分と殊勝な態度だ。
捨て駒であるはずの、我らに頭を下げるとは・・・。」
その態度に対して、ミライはイヤミで返す。
「い・・・いや、決してお前たちの祖先をないがしろにしていた訳ではないぞ。
かつては一緒に、この地上に君臨していたのだからな。
お前たちだって、ちゃんとした生活ができていただろう?」
すぐに、真ん中に位置している恐竜人が、ミライを何とかなだめようと大きな身振りで話しかける。
「に・・・人間達だって、強制労働をさせたわけでもなく、比較的自由に暮らせるように配慮していただろう?
だから、何とか彼らをなだめては頂けないか?
わ・・・、我々は、この星で暮らせるだけでいい。
この星を征服しようなどとは考えない、だから、この地で平穏に暮らせるような場所をあてがってくれ。」
小さな恐竜人は、今度はミライ達の後ろに立っている所長やジミーたちに視線を向ける。
「ほう・・・、今度は家畜であるはずの人間に対して命乞いか・・・。
この星の片隅で住めるだけでいい・・・、我らが祖先にお前たちが最初に言った言葉だな。
そうして、我らが神器であるウチーデノコヅーチを見つけたのだ。
というより、知っていたな?この星にそう言った装置があることを・・・、違うか?」
ミライは、厳しい目つきで小さな恐竜人たちの顔を眺めまわす。
「い・・・いや、滅相もない・・・。ウチーデノコヅーチ・・・?何の事だ?」
途端に、恐竜人たちの動起きがぎこちなくなってきた。
動揺しているのだろう。
「お前たちの体を大きく・・・、我々と同等のサイズに巨大化した装置の事だ。」
ミライはそう言いながら、古ぼけた小槌を懐から取り出して見せる。
「鬼たちがその能力とやらで、コピーしたようで、それらは全て消去させた。
つまり、今現在この地にあるのは、我が種族に伝わる神器であるこれ一つだけという事だ。」
ミライはそう言いながら、その小槌を強く握りしめると、それを粉々に砕いた。
「お・・・おい・・・、我が種族の神器を・・・。」
これに一番驚いたのは、ミライの隣に座っているタイガだった。
「いいんだよ、こんな争いごとの種なんか、神器であってはならないんだ。
これがなければ、こいつらがこの星へやってくるような事もなかっただろうし、我が祖先が征服されることもなかったはずだ。
お前たちは、そのサイズでは如何に科学力に秀でていようと、我らにとっては吹けば飛ぶような存在だ。
握りつぶしたり、簡単に踏み潰すことも出来る。
更に、先ほど首に巻いてもらった紐だがな・・・、魔封じの紐と魔封じのペンダントというらしい。
お前たちが言う精神感応だが、それを感知すると紐が絞まって行き、ついには首がすっ飛ぶと言う恐ろしいものだ。」
ミライは自慢げに告げる。
「ふん、このサイズの我々には、精神感応力などはない。
だから、こんな紐、怖くもなんともないわ。」
恐竜人の1人が、首にかけたネックレスをつまんで、平然と告げる。
「ほう、そうか・・・、だがそれは何も自分の精神感応だけに反応する訳ではないぞ。」
ミライはそう言って一歩前に出ると、目をつぶった。
『ブシュー』『プシュー』『ギャー』
すぐに数人の恐竜人の首が飛んで血しぶきが舞い上がった。
祖先を征服した恐竜人に対する、ミライの怒りが込められているかのようだ。
「お前たちの負けだ。」




