第56話
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それからしばらくは、平和な日々が続いた。
4月になると、ハルたちは待望の高校に進学することになった。
と言っても、校舎も教室も変わらず、ただ単に教室の表示が中学3年から高校1年に変わっただけではあるが。
1年の半分を休校していた訳ではあるが、特訓の合間に受けた移動授業で、その分の出席は免除され、晴れて進学できたのである。
これで、釧路の学校は、小さいながらも小学校から大学まで全ての学校を含む総合学校となった。
高校の制服に着替えると、ハルたちもずいぶんと大人びて見えるような印象に変わった。
特にミリンダは、丁度、3年前に竜神に1時的に体を成長させられた時のように、すらりとした長身で、美しい女性へと変わりつつあった。
「きりーつ、きをつけ・・・れい。
おはようございます。」
『おはようございます。』
ハルの号令で、クラスの生徒全員が朝の挨拶をする。
「はい、おはよう。
恐竜人たちの基地の片づけが、一段落したので、1時帰国した。
またすぐに戻らなければならないが、新学期の最初だけでも戻ることができて良かった。
なにせ、晴れて高校生だものなあ。」
ジミーが感慨深そうにハルとミリンダの顔を交互に眺める。
2人とも、学生服とセーラー服だが、ジミーは相変わらずジーンズ姿だ。
マシンガンこそ抱えてはいないが、戦闘中と変わらぬ恰好をしている。
(ちなみに、マシンガンは教卓の影に隠してあり、緊急時にはいつでも対応できるようにしている。)
「はい、ホーリゥさんやゴランさんたちが大学へ行ってしまってさびしかったのですが、ナンバーファイブさんが来てくれて、また少し明るくなりました。」
ハルが、クラスの人数が増えたことを嬉しそうに話す。
笑顔のナンバーファイブは、高校生になっても制服は着ずにメイド服姿だ。
「ああ・・・、そうだね。」
そう言いながら、ハルにぴったりと寄り添う巨乳のメイドの扱いを、どうしようかとジミーも困り果てている様子だ。
「高校になって、勉強する科目もより細分化されて、難しくなっていくが、しっかりと勉強して遅れないように頑張ってついて行く事。
いいね。
高校生になると、毎日学校に来ているだけではだめで、試験である程度の成績を収めないと、落第があるからね。
他のみんなは次の学年へ進級しても、自分だけはそのまま同じ学年を2回やるなんてこともあり得るから、しっかり勉強していい成績を取らないといけないよ。」
ジミーは、まじめな顔で高校生としての心構えを話す。
「え・・えー・・・、学校へ来ているだけじゃだめなの?
頓珍漢な事ばっかり言ってくる、授業に付き合うだけでも大変な労力なのに・・・。」
ミリンダが、思い切り不平を口にする。
「それは、ミリンダが授業の内容を理解していないからだと思うよ。
理解して、中身が分ってくれば、きっと楽しくなるよ。」
ハルが、そんなミリンダを諭すように話しかける。
「そうよ、あたしは配布された教科書を読んだけど、古典という教科は、日本の昔の美しい言葉遣いが勉強できて、とてもためになるのよ。
授業を通してもっとこの国の事を学んでいけたら、素晴らしいわ。」
ナンバーファイブは、キラキラと瞳を輝かせて話す。
見た目とは違って、相当な努力家の様子だ。
「はいはい・・・、何とか努力して、落第しないように頑張ります。
はぁー・・・・。」
ミリンダはそのまま机に突っ伏した。
『ドタドタドタドタ・・・ガラガラガラガラ』
「た・・・大変です、木星の衛星周回軌道に、突然円盤型の飛行物体が出現したそうです。
仙台市の所長さんから、緊急通信が入っています。」
何時になく慌てた様子で、アマンダ先生が教室へ飛び込んできた。
「分った、すぐに行きます。」
ジミーはすぐに廊下を駆けて無線室へと向かう。
(やったー・・・、これで、当分は授業どころではないわね。)
ミリンダは1人ほくそ笑むのだった。
「ガガガガ・・S国の天体観測衛星が見つけた様なんだが、日本時間の本日早朝に、突然木星の衛星であるガニメデ近くに、巨大な飛行物体が出現したようだ。
恐らく太陽系の外側から、いわゆる亜空間飛行を使って飛来したものと考えられているのだが、どうやら円盤状の飛行物体で、今は木星の周回軌道上で停止してガガガガ・・
その目的は、全く分からないが、ようやく、恐竜人の脅威が収まって間もないと言うのに、世界中がまた新たな脅威にさらされることになるのかも知れガガガ・・。」
ジミーと一緒に一時帰国している所長が、無線機の向こうから状況を知らせてきた。
「そうですか・・・、恐竜人に引き続いて、今度は地球外生命体ですか。
本当に何でもありですね。どうぞ。」
いつもの事ではあるが、ジミーも半ば食傷気味に答える。
「地球外生命体かどうかは、まだ分らんガガガ・・・。
あくまでも、巨大な円盤型の飛行物体という事だけだ・・
とりあえず、日本ではろくな観測も出来ないから、恐竜人の基地へ向かいたい。
悪いが、いつものようにハル君たちに、瞬間移動で連れて行ってもらえるようお願いしてくれガガガ?」
「はい、それはもう、喜んで。」
何時の間に来ていたのか、ミリンダが一人張り切って答えた。
「じゃあ、いつものように荷物をそろえたら、校庭へ集合よ。
ハルは、ゴランさんたちにも連絡して来てね。
あたしは、神田達に魔法学校の面倒を見る様に命じてから行くから、ちょっと待っててね。」
普段の学生生活とは別人のミリンダが、てきぱきと指示をしてから、無線室を後にする。
ミッテランが恐竜人基地に残っているため、今はハルとミリンダ達が魔法学校を教えているのだ。
勿論、ナンバーファイブも協力的なので、随分と助かっている。
神田と神尾は恐竜人に侵略されかけたことから、魔法学校への協力も進んで行うようになってきた。
「おまたせー・・・、せめて、ナンバーファイブさんだけでも残して行けなんて、とんでもないこと言い出すので、ちゃんと、魔法学校の面倒を見ておかないと、恐竜人をけしかけるわよって脅しておいたわ。」
1時間ほどして、校庭にミリンダ達が集合した。
既に、ゴラン、ネスリー、ホーリゥに加えて、マイキーやマルニーの姿もある。
「じゃあ、行こうか。」
ジミーの号令の元、全員が中空へと掻き消える。
仙台市を経由して、所長が加わると、そのまま一気に恐竜大陸へと瞬間移動する。
「お帰りなさい。」
大陸沿岸へ瞬間移動すると、そこではトン吉たち魔物が忙しそうに働いていた。
恐竜人家族が地上で生活できるように、魔物たちが土地を整備しているのだ。
勿論、恐竜人兵士たちも協力して、住居はほぼ完成しているようだ。
後は、長い間海底にあって、塩分を含んだ土地の改良だが、これもおおよそ1年の年月を経て雨水に流され、雑草なども生い茂って来ていたので、大豆などの塩分に強い作物を育てて、土地を少しずつ改良していくところのようだ。
広大な大陸は、山などの起伏に乏しく、各所に潮だまりの塩湖が出来ているようだが、それらを一つ一つ淡水化していく計画も練られているようだ。
「悪いな、恐らく本隊だったら、土地や湖などから塩分を取り除く装置は持っているとは思うのだが、なんせ別次元へ飛んで行ってしまった。
おかげで俺たちは何も持っていない状態だ。
進んだ文明を自負していたんだが、結局のところ本隊がいなければ俺たちが所有する文明の利器は、捕獲用円盤と地上攻略用の円盤位なものだ。
レーザー銃なんかは、大した威力はないし、球体も円盤も全て破壊されてしまったからな。
自分たちが住む環境を整えるにも、人間たちに一から十まで頼らざるを得ない状況だ。
いや、申し訳ない・・・、せめて次元金庫の中のものを一部だけでも使えればいいのだが・・・。」
そう言って、3メートルは優に超す巨体の恐竜人が、恥ずかしそうに頭を下げる。
「まあ、ないものをねだっても仕方がないだろう、ミライよ。
そんな事より、今できることを率先して行っていくことが大事なんだ。
結果は後からついてくる。
俺の部隊を2分割し、淡水化装置の説明を聞いて、各湖に設置して淡水化を推進する班と、そこから用水路をひく班に分けたぞ。
いずれは、この地を豊かな穀倉地帯に変えるつもりだ。
残りの7分隊を目覚めさせるのは、それからだな。
なにせ、我々恐竜人の食欲は旺盛だから、これ以上人数が増えては、食料を供給してくれている人間たちに申し訳ない。
せめて、あいつらの分の食料まで自給自足できるくらいになってからでないと、目覚めさせるわけにはいかないからな。」
バリバリの武闘派と思いきや、意外と農耕民族なタイガ中隊長が、鍬を抱えながらやって来た。
「ああ、分っているさ、タイガよ。
我が中隊は次元金庫に閉じ込められてしまったから、中隊長のいなくなった第8分隊を俺が指揮することになったが、こっちは建築担当だ。
住居と学校や病院などの施設を建設中だ。
この広い大陸に、高々1000名ほどの我々恐竜人だけが住むという事にはならないだろうが、人間たちも最終戦争とやらで、数を減らしているから、当面は我々だけでこの地を開発して行かなければならないのだからな。
手伝ってもらうのは最初だけで、それからは独立して生活して行かなければならん。
それはそうと、本日はどういったご用件で?
今はこれといった状況変化もなく、所長さんたちも1時帰国して、戻ってくるのは来月のはずだったと思うが?
しかも、ハル君たち魔法攻撃担当のメンバーまで引きつれて、また、どこかと合戦でも始めようとでもいうのかな?」
ミライが、そうそうたるメンバーでやって来たハルたちの姿を見て、不思議そうに尋ねてきた。
「ああ、我々も、暫くはのんびりするつもりだったが、そうはいかなくなってしまった。
実をいうと、巨大な円盤が太陽系内に侵入してきたようだ。
彼ら・・・というか、何者かも判らんのだが、その目的すらも分ってはいない。
現在の日本には、天体観測をする施設はないので、ここならば何か装置がないものかと思って、やって来たのだよ。
下手をすると、またまた、地球侵略の危機と言えるのかも知れない。」
所長が、今回来訪の目的を手短に告げる。
「そ・・・それって・・・、もしかして・・・。
も・・・もうしわけないが、一緒に基地へ入ることを許してくれ。
天体観測の装置は、円盤の発着場所に設置してある。
一緒に行って操作するから、頼む。」
所長の言葉に、突然ミライが反応をする。
なにか、飛来する円盤と関係があるのだろうか。
「あ・・・ああ、一緒に来てくれて操作してくれると言うなら、ありがたい。
じゃあ、行こうか。」
すぐに、大陸に開いた直径200メートルほどの大穴の所へ向かう。
深さが100メートル以上もある、恐竜人の円盤発着場所の地上出口だ。
今後は地上で暮らすようになるため、謝って穴に落ちないように、周囲はフェンスで囲まれて、立ち入り禁止となっている。
ハルたちは所長やミライ達を抱えながら、飛行能力で高い塀をものともせずに飛び越えて、更に穴の中へ入って行く。
エレベーターなどの昇降手段はないため、実の所、飛行能力があるハルたち以外では出入り口としては使えない。
中へ入ると、ドーム状に更に広い空間となっている中をゆっくりと降りて行く。
「こっちだ。」
発着場へ降り立つと、ミライはすぐに壁の所にあるパネルを操作し始める。
すると、直径20メートルほどの巨大な筒が、穴の口より少し下まで伸びて、ゆっくりと向きを変えて行く。
ミライの操作しているパネル上部には、モニター画面が現れ、真っ黒だった画面にやがて小さな点がいくつも現れ、そうしてその点が段々と大きく拡大されていく。
「反射望遠鏡だ。
今は昼間なので、太陽光の影響を受けないように、地表へ先端を出さずに観察する。
木星は現在、太陽とは反対位置にあるので、観察可能なはずだ。」
ミライは、星間の季節や時間帯ごとの位置関係を調べながら、座標を入力する。
暫くすると、木星上空に浮かぶ衛星近くに、円盤らしきものの影が映しだされた。
「こ・・・これは・・・。」
ミライはその姿を見て、絶句した。




