第55話
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「魔槍!!!」
ムーリーが唱えると、天から真っ黒く巨大な槍が降り注いでくる。
「は・・・・早く・・・。完全障壁!!!」
ムーリーはそう言うが早いか、障壁で体を包み込みその場に蹲る。
「精神感応検知、精神感応検知!」
すぐにいくつもの球体と円盤が飛んできた。
『ズギューン!』『バッキューン!』『ズッギューン!』何発もの銃声が響き渡り、その都度球体や円盤が高温の炎をあげながら、破壊されて落下していく。
新新型弾の威力は凄まじく、ライフルの一撃で球体も円盤も簡単に破壊されていくようだ。
「球体が8機と円盤を10機破壊しました。
これで、我が国に常駐していた球体と円盤は、全て破壊したことになります。」
軍服姿の兵士が、未だに頭を抱えたまま、蹲っているムーリーの元へとやってきて報告する。
「あ・・・ああ、そうかい、よくやった。これで、我が国に存在する脅威は無くなった訳だ。
国王様もお喜びになるだろう。」
兵士の言葉を聞いて、ムーリーはようやく障壁を解いて立ち上がる。
「このあとは、S国と周辺国に存在する球体と円盤の処理が待っています。
各地で、妨害電波を最大出力で発して、活動を妨害して待機していますので、ムーリー様がいらっしゃるのを待ち望んでいます。
妨害電波を解くと同時に魔法を感知させて球体と円盤を1ヶ所に集め、一気に破壊する様、軍隊の手配が整っております。」
先ほどの兵士が、ムーリーを立ち上がらせて、次の地へ向かうよう指示をする。
「えーっ?僕がS国と周辺国を回らなければならないの?
魔法力を披露するだけなら、何も僕が行かなくても我が国の魔術者を行かせればいいだろ?」
ムーリーはとんでもないとばかりに首を振る。
「でも、魔術者たちは全員恐竜人たちの基地の警備にあたっております。
本来なら、ムーリー様がお残りになり、魔術者たちが5名ずつの交代制で帰国する予定でしたが、ムーリー様が指示を無視して無理やり帰国されたために、その穴埋めとして魔術者は全員居残りのままです。
その為、我が国で現在魔法を使えるのは、ムーリー様お1人なのです。
ですから、何としてもS国へ行っていただかなければなりません。
これは、国王様のご命令です。」
兵士は、そう冷たく告げる。
(そうだった、マイキー姫が帰ると言うので、僕も無理やり帰って来たのだった。
しかも、彼女はあろうことか日本へ・・・、こんなことなら、恐竜人基地に残ればよかった・・・、そうすれば、こんなに危ない事もしないで済むのに・・・。)
ムーリーの心の中には、失敗したという思いが満ち溢れてくるが、みんなの制止を振り切って帰って来ただけに、今更戻るわけにもいかない。
「ま・・・まあ・・・、国王様のご命令であれば従わないわけにもいかないな。
S国だな・・・、首都なら昔に時計を買いに行ったことがある。
これから瞬間移動するから、向こうへは連絡しておいてくれ。」
そう言うと、ムーリーは仏頂面のまま瞬間移動した。
世界中で、魔法感知用の球体と円盤の処理が始まったようである。
「す・・・鈴・・・、やはり生きていたのか・・・。
先日ハル君が尋ねてきて、お前たちももしや生きているのではないかと、淡い希望を抱いてはいたのだが、まさか現実のものとなるとは・・・。
蘭は・・・、蘭は一緒じゃないのか?」
白く長いあごひげを蓄えた老人は、そのまま倒れるのではないのかというくらい興奮しながら、玄関の扉に寄りすがった。
「ミッテランおばさんは、勿論無事よ。
でも、恐竜人たちの基地の警護に忙しくて、暫くは帰ってこられないようなの。
だから、その間部屋を使わせてね。」
ミリンダは、そう言いながらナンバーファイブを家の中へ引きいれる。
「どうも、お久しぶりです。」
ナンバーファイブは、笑顔で三田じいに挨拶をする。
「おお、元気でおったのか?
相変わらず、綺麗じゃのう。」
三田じいは、ナンバーファイブを見て頬を赤らめた。
「なによ・・・、知り合い?」
これには、ミリンダの方が驚いた様子だ。
「おうおう・・・、戻って来てくれたか・・・、無事で何よりだ。」
ぎょろりとした大きな目から、涙を流しながら権蔵もゴローとホーリゥとの再会を喜んだ。
「はい、ご心配をおかけしました。」
ゴローも嬉しそうに笑顔で頭を下げる。
「本当に・・・、不死身のゴロー君と言えども、さすがに今回ばかりは駄目かと思っていたぞ。
なにせ、みんなの消息が、プツリと途絶えてしまったのだからな。
ハル君がひょっこりとあらわれた時には、本当に驚いたものだ。
わしらは長いことかけて、鬼たちから恐竜人たちの動向を探っておったのだが、ほとんど役に立つような情報は得られなかった。
それでも、ハル君はナンバーファイブっていう、綺麗なお姉さんと一緒に、みんなを助け出してそうと努力して、ついには恐竜人にも勝利してしまいおった。
本当に大したものだ。」
権蔵は、ふがいない自分たちを恥じているのか、顔を赤らめながら目を伏せる。
「いえ、ハル君からお話は伺いましたが、この村の皆さんはじめ、各地の方たちがあきらめずに恐竜人たちと戦う姿勢を保っていて、少しでも情報を探ろうとしていたことが、大きな励みになったと言っていました。
おかげで少ない人数でも、恐竜人に立ち向かって行けたそうです。」
そんな権蔵に、ホーリゥが慰める。
「まあ、でも良かった、みんな無事で帰って来てくれたのだからな。」
権蔵も最後には笑顔を取り戻した。
「お帰り・・・どうやら、また今回も勝利したようだな。
天国で見守ってくれている、ハル父さんやハル母さんたちが、力を貸してくれているのかも知れんなあ。
わしらも、あのにっくき球体や円盤を、撃ち落としたんじゃぞ。
新新型弾だったかな・・・、猟銃でも撃てる仕様になったのでな、球体でも円盤でも一発じゃ。
まあ、大半は九州から来た若い奴らや、神田や神尾たちが落としたんじゃがな。
ひとつ残らず、粉々にしてやったぞ。」
ハルが元気よく玄関を開けて家に入ってくると、ハルじいさんが待ち構えた様に、迎え入れてくれた。
自分たちも、戦いに参加できたことが、少しは誇らしげだった。
恐竜人との戦いが終わったことは、既に鬼たちの監視から解放された時点で明らかだった。
戦いが終わって、ハルが帰ってくるのを今か今かと待ちわびていたことだろう。
「はい、本当に平和が取り戻せてよかったと思います。
でも、今回はより多くの人たちが犠牲となってしまいました・・・。
残念でなりません。」
ハルはそう言って、顔を曇らせた。
「戦いに犠牲はつきものとは言うが、犠牲になった方たちには、必ず家族や知り合いがいる。
その方たちの気持ちを考えると、戦いに勝っても浮かれる気持ちにはなれんのう。
明日は我が身じゃからな。
争い事は、勝とうとするよりも、まずは避ける方が良いと言うのはそう言った訳からじゃぞ。」
ハルじいは、そう言って真剣な眼差しでハルの目を見つめた。
「はい、無用な争い事には関わらないようします。」
ハルもはっきりと答える。
「そうじゃ、平和が一番じゃ。
腹が減ったじゃろう、もうすぐ食事の支度ができる、それまで部屋で待ってなさい。」
ハルじいはそう言って、ハルを少し部屋で休ませることにした。
そうして、暫くするといい匂いがハルの部屋の中までも立ち込めてきた。
「ハルよ、ご飯が出来たぞ、ハルー・・・」
おじいさんが呼びに来た時には、ハルはスヤスヤと寝息を立てて、ベッドで寝ている所だった。
「相次ぐ戦いで疲れておるのじゃろう。
少し冷めても構わんから、寝かせておくか。
なあに、目が覚めればレンジでチンじゃ。」
そう言って、おじいさんはハルの体にやさしく布団を掛け直すのだった。
「お帰りなさい。
皆さんそろそろお帰りだと思って、各部屋の空気を入れ替えて、ベッドのシーツなどは洗濯しておきました。」
マイキー達が帰ってきた学校の宿舎では、アマンダ先生が出迎えてくれた。
「皆さんご活躍だったそうで、私も、皆さんのように戦う事は出来なくても、少しでも早く魔法技術を身につけたいと思って、日々努力をしているのですが、なかなか上達しません。」
アマンダ先生は、そう言いながら精神集中の瞑想のポーズをして見せた。
「今度一緒に、富士の風穴から黄泉の国へ行きませんか?
そうすれば、何年分かの精神成長を、1日で成し遂げられますよ。」
ゴランが、ようやく魔法という力を取得し始めたばかりの彼女に、一足飛びの上達方法を提案する。
「そ・・・そうですね、今度魔法学校の課外授業で、みんなで黄泉の国へ行くと言うのを提案してみましょう。
そうすれば、一気に上達する人が出てくるかもしれませんよね。」
アマンダ先生も、ゴランの言葉に目を輝かせている。
「まあ、ミッテランさんが戻ってからになるでしょうが、楽しみですよね・・・。」
「魔法学校で黄泉の国へ出向くなら、私も一緒に行くわ。
どうにもマスクを外すタイミングがつかめないまま終わってしまって・・・、こんなことじゃ、いくら潜入捜査がうまく出来ても、正体を明かすことができなくなってしまうわ。」
マイキーは、悔しそうに顔をゆがめながら、そのまま部屋へ入って行った。
「私も、その時はご一緒させていただきます。
まだまだ体術を鍛え上げなければなりませんからね。」
マルニーも乗り気の様子だ。
この日は、久しぶりの再会を、各者各様に喜び合ったようだ。
「おはようございます。ジミー先生は恐竜人基地の警備に残ったままなので、戻ってくるまでは、私がこのクラスの担任を受け持つマイキーよ。」
翌朝、ハルたちの教室へ入って来たのは、予想通りマイキー先生だった。
しかし、いつもと違い、黒髪でおとなしい服装をしている。
「本日から、このクラスに転入生が入ってくることになりました。」
マイキーは、おもむろに転入生の紹介を始めた。
「えっ・・・3学期も終ると言うのに、今頃・・・?」
ミリンダが怪訝そうに、廊下側のすりガラスに目を移すと、そこには、ドーンと巨大な胸の影が映っていた。
「ナンバーファイブさんです。
入ってらっしゃい。」
「おはようございます、本日からこのクラスの一員となる、ナンバーファイブと言います。」
そう言いながら彼女は、メイド服のまま現れた。
「そ・・・・それで、朝一緒に学校まで来たのね。
一宿一飯の恩義とかで、あたしのことを送ってくれたのかと思ったけど、違ったという訳ね。
でも、今はゴランさんやネスリー、ホーリゥさんがいる大学の教室もあるのよ。
どうしてナンバーファイブさんが、中学3年のこのクラスへ転入してくるの?
おかしいじゃない。」
ミリンダの疑問も尤もだ、どう見ても18,9歳の彼女が中学生というのはおかしい。
「彼女は、トランさんに勉強を教わった以外は、学校へも行ったことがないらしいの。
それどころか、7聖人の南極基地以外での生活経験もほとんどない様ね。
とりあえず住むところは学校の宿舎を割り当てることになったようだけど、そうなると学生にする必要性があるのよ・・・、まさか先生にはできないからね。
学校へ行ったことがない人をいきなり大学生にするわけにもいかないので、このクラスへ転入させることにしたの。
これは、権蔵校長先生も認めたことだから、撤回は無理よ。」
マイキーはいつものように淡々と説明をする。
「えへへ・・・、あたしの知り合いは、今じゃハル君一人だから、ハル君と同じ教室をって権蔵校長にお願いしたのよ。
そうしたら、認めてくれて・・・、良かったわ。」
ナンバーファイブは、当然のようにハルの隣の席に陣取った。
「あっ、あたしの教科書はまだないから、ハル君のを一緒に見させてね。」
ナンバーファイブはそう言って、自分の机をハルの机にぴったりと付けて、そうして椅子もくっつけるとハルに寄り添うようにして座った。
反対側に座るミリンダと、早くも目から火花が散っているようだ。




