第54話
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「では皆さんは、ここで解放いたします。
居住区であれば、自由に過ごしていただいて構いませんから、これから魔封じのペンダントと紐を外して行きます。
しかし、基地への出入りは申し訳ありませんが、禁止とさせていただきます。」
ハルの言葉通り、所長とミッテランがそれぞれの恐竜人兵士たちの首に巻かれた、魔封じのペンダントと魔封じの紐を外していく。
もう戦意はないと言う事と、居住区に限れば危険性もないだろうと言う配慮からだ。
そこかしこから、家族どうして再会を喜び合う声が聞こえてくる。
そんな様子を眺めているナンバーファイブの所へ、子連れの恐竜人がやって来た。
「あなたたちが、うちの人を殺して操っていたのね。
更に、トルテ君まで・・・。
うちに居る間中、やさしくしてあげていたというのに・・・、この人殺し!」
小柄な恐竜人婦人は、目に涙を溜めながら、ナンバーファイブに向かって罵声を浴びせる。
ザッハの妻子である、アカミとチュートロのようだ。
恐らく、誰かに顛末を聞いたのだろう。
「ええーっ・・・、だって・・・。」
ナンバーファイブとしても、続く言葉が出てこなかった。
確かに、彼らを騙して様々な工作をしていたのである。
そのおかげで、人類を勝利に導くことができたようなものなのだが、彼らにとってはただの裏切者にしか映ってはいないだろう。
こちら側だって、トランが犠牲になったのだし、なにも、楽しんで騙そうとしていた訳ではない。
「まあまあ・・・、ザッハの事やトルテの事は確かに残念だが・・・、これも戦争というものの結果だ。
こちら側にも多数の犠牲者が出たが、人間たちにも犠牲者はやっぱり出ている。
殺し合いなのだから、仕方がない、あきらめてくれ。」
すぐに、バームとグレイがやってきて、アカミ達を慰め始めた。
そうして、彼らは興奮するアカミをやさしく介抱しながら、家まで連れて行ってくれた。
「すまないが、俺としてはまだ調べたいことがあるので、基地の中へ入りたい。
このペンダントは外さなくても構わないから、基地への出入りを許可してはもらえないか?」
所長が魔封じのペンダントを外そうとしたところで、ミライの方がその手を止めて頼み込んできた。
「まあ、ミライさん一人だけであれば、我々に協力的な事だし、許可しても構わんが・・・、ペンダントは外してあげるよ。
それよりも、一体何を調べると言うのかね?」
所長が、不思議そうな顔で尋ねる。
「いや・・・、先ほど所長さんから尋ねられたことに関してなのだが・・・、我々の処遇に関しての事だ。
まあ、当てがあると言えば当てはあるのだが・・・、肝心なことはそれを見てみなければわからん。
しかし、興味が湧いてきた。
だから、協力してくれ。」
ミライは拝むようにして手を合わせる。
「まあ、こちらとしては基地内の装置の操作方法など、まだ知らないことの説明を兼ねて行ってくれるのであれば、願ったりだから、構わないよ。」
所長はそう言って、ミライにだけは基地への出入りを許可することにした。
「じゃあ、申し訳ないついでに、その魔物も一緒について来てくれ。」
「へっ?あっしですかい?」
ミライはそう言ってトン吉を指名した。
トン吉を従えて、ミライは基地の中を進んで行く。
目的の場所は、次元通路だった。
「ま・・・まさか・・・、あっしに、強電磁波の中へ入れと言うんじゃ・・・。」
トン吉は、通路の奥の方を恐ろしそうに眺めながら震えた。
「そんなことを頼むはずがないだろう。
いくら魂の集合体の魔物だって、電磁波で焼かれれば痛みを感じるだろうし、それに強電磁波だと魂も傷ついて、魔物としての再生も難しくなるかもしれない。
そんな危険なお願いではない。
それは・・・、ちょっと待ってくれ・・・。」
そう言いながら、ミライ目は通路の端の方にあるモニターに釘付けになる。
「どうしました?なにか、異常が発生していますか?
誰も、装置には直接触れてはいないはずですが・・・。」
一緒に次元通路へやって来た、ハルが心配そうに尋ねる。
そこは、本隊が存在する次元をモニターしている画面のはずだった。
「本隊が消えた・・・、我が中隊が存在する訓練施設をそのまま残して、この世界との連結ルートから、その存在を絶った・・・。
馬鹿な・・・、我が中隊の訓練施設と半年後に合流することは分っていたはずだ。
それなのにどうして・・・、このままでは我が中隊はこのままさまよい続けて、1年後には闇の存在と合流してしまう。
それも分かっていながら・・・、どうして本隊は今連結を絶たなければならなかったんだ?」
『ドン!』大きな音が通路内に響き渡る。
ミライが、モニター下部の壁を思い切り叩いたのだ。
パネルは丁度手のこぶし大に変形してくぼんだ。
「でも、訓練施設の方も本隊とは合流が無理でも、こちら側との連結を切りさえすれば、闇の王子とも出会わなくて済みますよね。」
ハルが、そんなミライを慰める様に言葉を掛ける。
まだ、望みはあるのだ。
「いや、訓練施設はその名の通りただの訓練施設だ。
乗り物ではないから、施設自体に次元をコントロールする装置は組み込まれてはいない。
ただ単に、こちら側か本隊側からコントロールして、次元間を移動する事しか出来ない。
時間の流れを極端に遅くして、こちらの世界で何千年何万年と生き延びることは可能だろうが、たださまようだけの身では、そんなことをしても意味がない。
時間軸をこちら側に合わせた1年後には、闇の存在と合流して奴に吸収されてしまうだろう。
幸いなことは、あいつらはその事を知らないと言う事だ。
訓練施設から出ることができなくなって、改善されるまでの間、生き延びる事だけを考えていることだろう。
恐怖を感じながら、長い時を過ごさなくても良いだけ、少しはましだ。」
ミライは悔しそうに目に涙を浮かべた。
トランが設定したこととはいえ、緊急避難的な行動であったし、本隊と安全に合流する術を残しておいたのだ。
ところが、その心遣いを無にするようなことを、同じ恐竜民族であるはずの本隊がやってのけたのだ。
「まあ、これで本当にこの星へ本隊がやってくる可能性は、限りなくゼロに近くなったという訳だ。
お前たち人類の、完全勝利だよ。」
ミライは、顔をあげるとモニターとは反対側の壁へと向かった。
「ここは、資料室だ。
今はもう電子化されてしまっているが、それでも一部の紙の資料が残っていて、ここに保管されているらしい。
分厚い扉に、頑丈な施錠がしてあって、鍵の無い我々では開けることも叶わなかったがね。
君は戦いの最中に、何度もその体を巨大化させたり元に戻したりしていたようだけど、巨大化すればその分力も上がるのだろう?
いっちょ、この扉をぶち破ってはくれないか?」
ミライはトン吉の方へ振り返って依頼をした。
「へい、やってみましょう。」
トン吉は、ミライよりもさらに大きく巨大化すると、扉の隙間に指をひっかけ、思い切り力を込めた。
『ミシミシミシミシッ!ギギギギギッ!』金属同士が軋むような音がしたかと思うと、扉が勢いよく開いた・・・というより取れた。
壁に丁度扉大の穴が開いた格好になった。
「おおやはり、見込み通りだ、ありがとう。」
ミライはそう言うと、その中へと入って行く。
中は意外と広い部屋になっている。
ファイル棚が部屋の隅までぎっしりと並べられ、その中に膨大な資料が保管されていることがうかがわれる。
「電子データなどは、アクセス権が厳しく設定されていて、我々などには読み込みのできないファイルばかりなのだが、紙ベースではそうはいかないだろう。
これで、少しは本隊の奴らの考え方でも判ってくれればいいのだが・・。」
ミライはそう言いながら、ファイル棚を開けては中のファイルをめくって行った。
その日から、ミライの資料室通いが始まった。
「すごい技術だよ、これは・・・。」
直径百メートルはある巨大な円盤の発着場で、所長が目を輝かせている。
目に見える吸気口も排気口もなく、推力を生み出すための仕組みも分からない、未知の技術によるものだ。
「私は、もうしばらくここに残って、恐竜人の科学を分析していくつもりだ。
ハル君たちは、家へ帰りなさい。
家族の方たちが、首を長くして帰りを待っていることだろう。
それは、マイキーやマルニーさんの家族も同様だ。
ここの警備は、自衛隊と米軍とS国軍に交代で行ってもらう事になるが、スターツ王子たちも一旦は帰国した方がいいでしょう。」
一通り落ち着いたところで、所長がハルたちの今後について、指示する。
「おいらは、ハル君たちの勉強も心配だけど、ここが落ち着くまでは、警備に関わって行くつもりだ。
権蔵校長には、そう言って伝えておいてくれ。」
ジミーは、どうやら当分は恐竜人基地に残るつもりのようだ、所長の事が心配なのだろう。
「私もここへ残るから、軍人さんと魔術者たちの混成チームで、交代で警備にあたるようにしましょう。
学校があるハル君やミリンダ達以外は、スケジュール表を作成して送るから、それに沿ってここで警備にあたってね。」
ミッテランも同様にここへ残る様子だ。
かくして、ハルたち学生以外は恐竜人基地の警備を交代で行う役割となり、最初の警備チームを残して解散することになった。
「じゃあ、この札を持って行って、黄泉の国の入口から出てください。
今の王子さんたちなら、簡単にダンジョンを逆走できますよね。
そうすれば、自分の国の黄泉の穴へ出られます。」
ハルはスターツ王子たちに、緑色の木の札を手渡した。
「君たちはどうやって帰るんだい?」
基地内で手渡された札に違和感を覚えながら、スターツが尋ねてくる。
「僕たちは、ここから地上へ出て、瞬間移動で帰ろうかと思っています。
そうすれば、次からはいちいち黄泉の国を通らなくても、直接ここへ来られますから。」
ハルは笑顔でそう答えた。
「そうか・・・、じゃあ、これでお別れだね。
と言っても、また何かあれば、すぐに集まるのだろうけどね。
これからもよろしく。
マイキー達はどうするんだ?」
スターツ王子は、ハルたちと一緒に居るマイキーとマルニーに向かって尋ねる。
彼女たちも国へ帰るのなら、一緒に行った方がいいに決まっている。
「私は、ゴラン君たちの先生でもあるのだから、学校へ戻らなければならないので、日本へ向かうわ。
ジミーからはハル君たちの事も任されてしまったしね。」
マイキーは相変わらず、抑揚のない声音で答える。
「私も、マイキー姉さまと同様に日本へ向かいます。」
マルニーもそう言って頭を下げる。
「分った、父上や叔父上にはそう伝えておくとしよう。
ではまた。」
そう言って、スターツ王子たちは発着場を後にして、黄泉の国へ通じる洞窟へ向かった。
「どうするの、これから・・・。」
ミリンダが、広い発着場で遥か上空にある光が差し込む空間を、目を細めて見つめる。
「うん、こうするのさ。」
ハルは飛行能力で、上空へと浮かび上がり、そのまま姿を消すと、すぐにまた瞬間移動で戻ってきた。
「上からなら、下を見下ろせるから、瞬間移動で戻ってこられるからね。
そうして、一度瞬間移動してしまえば、上へ瞬間移動することも出来る。」
そう言いながらハルはマイキーとマルニーを連れて瞬間移動した。
「そうね、そうやれば蜘蛛の魔物さんやスパチュラちゃんも一緒に地上へ出られるわね。」
ミリンダも、ハルの考えが分ったのか、飛行能力で飛び上がった。
ゴランやネスリーとホーリゥも続く。
「じゃあ、あっしらも。」
飛び太郎と飛びの助は、そのままレオンとトン吉を抱えて飛び立つ。
戻ってきたミリンダはスパチュラを抱え、ゴランとネスリーとホーリゥの3人がかりで、蜘蛛の魔物を連れて瞬間移動した。
「ここからだと、最初の戦いのときの小島が、こっちの方角で、大体15キロくらいの距離にある。
一旦そこへ行けば、そこからは大体の距離感は判るでしょ。」
ハルが、マイキー達二人を抱えて瞬間移動する。
そこは、かつての敗戦の場であった。
未だに黒く焼け焦げた岩が顔を見せている、余り思い出したくはない場所のはずだが、今となっては、なぜか懐かしい気もする。
ミリンダ達も何とかその小島へ瞬間移動してくる。
ここまでの移動は、フェリーで来たので、位置関係ははっきりと把握している。
全員が一塊となり、懐かしの日本へ向けて瞬間移動した。




