第53話
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「そんな事なら、心配は無用だよ。
わしらが、この国の黄泉の穴から復活させていくから、一緒に行けばそこから黄泉の国へ行けるだ。
どうせ、おめえさんたちは、どこでも好きな黄泉の穴から出て行く方法を知っているんだろ?
だったら、そうすりゃいいのさ。」
丁度そこへ、食事を終えたダロンボが通りかかって、声をかけてきた。
「ああ、そうですか、それはありがたい。」
所長が、すぐにその話に飛びついた。
そうして、ダロンボたち鬼と富士山の風穴へと向かう。
行きは走ったので、日本を知らない魔術者たちも風穴までの距離や方向を把握していて、軍人たちを数人ずつ連れて瞬間移動することが出来た。
ダロンボたち鬼は勿論、世界中の地理に精通しているのだろう、距離が近い事もあり全員が瞬間移動してついて来た。
「ああっと、そう言えば・・・。
実は、黄泉の国の中に、恐竜人たちを収容した牢獄を設置したのです。
黄泉の国を管理するダロンボさんたちに断わりもなく、本当に申し訳ないのですが、なにせ、恐竜人たちとの戦闘の最中でしたので、緊急性が高くやむを得ず・・・。」
ダロンボたちを先頭に、風穴の中へと入って行こうとした時に、不意に所長が思い出したようにダロンボに詫びる。
一応、先に謝っておいた方が、いいだろうという配慮だ。
「おおそうかい・・・、まあ、いまじゃあ黄泉の国の中を改造されることにも慣れちまったからなぁ。
まあいいさ、わしも行ったことがあるが、あの南極の基地の周りに牢獄を作ったら、いかな恐竜人たちでも凍えちまうわなぁ。
黄泉の国の中に作って、正解と言ったところだろう。」
ダロンボは、そう言って黄泉の穴から中へと入って行った。
彼が、さほど怒った仕草を見せなかったので、所長はほっとした様子だ。
「えーと、ここをこうやって・・・。」
ダロンボが、風穴の奥の壁の所で何かやっている。
くねくねと体を小刻みに動かして、ダンスでもしているかのような動きだ。
「ひらけーごま・・・」
そうしてからダロンボが唱え、そのまま中へと入って行った。
黄泉の穴が通じたようだ。
「どうやら、体の動きを探るモーションセンサーのようなものが、扉の所にあるのだろう。
特定の動きに反応して、それから解除の暗号を唱えると、黄泉の穴と通じるようになるのだね。
でも、あの動きは微妙すぎて、年寄りの私にはよく判らなかった。
ハル君は出来るかい?」
所長は、ダロンボたちの後を追いながら、隣に居るハルに向かって問いかけてきた。
「い・・・いえ・・・、僕は・・・、ダンスなど、リズム感がないので・・・。」
ハルは恥ずかしそうにうつむく。
「あたしもじっと見ていたけど、くねくねくねって、蛇みたいなダンスで、あんまりかっこよくなかったから、途中で覚えるのを止めたわ。」
ミリンダも、そう言って首を振った。
「あたしは覚えたわよ・・・、なにせ、各地のダンスコンクールを総なめして居たくらいだから、一度見ればどんなステップでも再現してみせる自信があるわよ。」
何時の間に来ていたのか、マイキーが自信たっぷりに答えた。
そう言えば、マイキーはどの班にも所属していないはずなのだが、どこかの班に潜入していたとでもいうのだろうか。
「そ・・・そうか・・、じゃあ、今度黄泉の穴をあける必要性が出た時にはお願いする。」
所長も、なにか納得できないような、不思議そうな表情で答える。
「おお、ミライか・・・、どうやら処刑は免れたようだな。
尋問にはなんでも答えて、従順ぶりを評価されて勘弁してもらったのか?
もう、俺達に勝ち目はなさそうだ、何でもかんでも洗いざらい話しちまって、少しでも待遇をよくしてもらうっていうのは、いい考えだぜ。
俺たちをしいたげてばかりいた、本隊を気づかう必要もないだろうからな。」
ミライの姿を確認してほっとしたのか、タイガ中隊長が、またまた檻の中から叫んでくる。
「いや、いろいろ聞かれて答えはしたが、捕虜に対する尋問のような形ではないさ。
どちらかというと、こちらから進んで話しているくらいだ。
なにせ、本隊が合流する可能性は、最早ないのだからな。
本隊が存在する次元との連結ルートに、闇の存在を入れた次元金庫を置かれてしまった。
合流時期はこれから約1年後だ。
それを避けるためには、本隊はこちらとの連結を一旦切らなければならないが、一度切ってしまうとコントロールを失っているので、連結を復帰させることは無理だろう。
訓練中の我が中隊も訓練装置ごと本隊と半年後に合流予定なのだが、恐らくその後、本隊はこちら側の世界からは分れて、独自の次元航行をすることになるだろう。
もう援軍の見込みはなく、我が恐竜軍の実質的な敗北が、決定したという訳だ。」
ミライは、タイガに戦いの終息を告げる。
「おお、そうか・・・、仕方がないな。
弱いはずの人間相手だからと、ろくに調べもせずに何もない旧都市跡へ降り立ったり、まともな武器もなく人数も少ないままで分散して戦おうとしたり、はなから敗北は決まっていたようなものだ。
しかも、その敗北の様子を、わざわざ全世界に中継して流したのだからな。
愚かな種族だと人間たちからは、そう思われていることだろう。」
タイガはそう言いながら、がっくりとうなだれる。
「もう、戦いの意志はなさそうですし、武装も解除していますから、とりあえずこの牢獄からは出ても構わないと考えます。
しかし、戦いを再発させるような愚かな行為はおやめください。
我々は、争いを好みません。
とりあえず、落ち着くまで魔封じのペンダントや紐はそのまま付けていて頂きますが、いずれは外させていただきます。
そうして、お互いをパートナーとして認め合ったうえで、共生の道を探って行きましょう。」
所長はそう言いながら、彼らを収容していた牢獄の鍵を開けた。
恐竜人たちは牢獄から解放されると、おとなしく兵士たちの指示に従い、2列縦隊に整列した。
「では、行きましょう。」
所長の号令の元、タイガとミライを先頭に、恐竜人兵士たちがゆっくりと歩き出す。
その周りを、ミリンダ達の小隊とダロンボたち鬼たちが取り囲むようにして進んで行く。
「ここから先は、ダンジョンとなります。
恐らく、恐竜人である皆さんにとっては、さほどの抵抗にはならないとは考えますが、隊列が乱れると困りますので、小隊ごとに分散していただき、蜘蛛の魔物さんの背中に乗って移動していただきます。」
つり橋に差し掛かったところには、蜘蛛の魔物が待機していた。
蜘蛛の魔物は10体に分裂し、それぞれの恐竜人小隊を背中にのせて、猛スピードで吊り橋を渡り始めた。
他のメンバーは、瞬間移動でダンジョンの先へ進んで行く。
「ここは、来た時は目隠しをされていてわからなかったが、どういった場所だ?
どうやら、鬼たちが関係している場所のようだが。」
極寒のダンジョンに差し掛かったところで、ハルたちと一緒に移動しているミライが、辺りを見渡しながら不思議そうに尋ねてきた。
「ここは、ダロンボさんたち鬼が管理している、黄泉の国というところです。
恐らくは、鬼と一緒にあなたたち恐竜人の祖先が作った場ではないかと推察されます。」
今更隠す事でもないだろうと、ハルが素直に答える。
「元は恐竜人が作ったと言っても、数千万年も経過して創造主という意識は無くなり、ただ日々の闇の存在の有無を報告する事だけが、習慣として残ったのだろうね。
そうして人類が誕生した後、その精神成長の場として高みの存在である閻魔大王様が、ここ黄泉の国を利用しようと考えたのだろう。
だから、今ではダロンボさんはじめ鬼たちの上司は、閻魔様という訳なのだろう。」
所長が、ハルの言葉に付け足す。
「ほう・・・そうか・・・。
我々の祖先が作った施設を逆に利用して、お前たち人間が活動拠点としていた訳だな。
これも、我々監視部隊に命じるだけで非協力的な本隊が、何でもかんでも秘密にしてしまうから、こちらの状況も分からずに、わずかな手勢だけで戦う事になってしまった。
それも、危機的状況を訴えて、ようやく許された上陸用円盤1機だけでな。
武器と言っても、軍刀と手持ちのレーザーガンだけで、ろくに訓練もしていない兵士では太刀打ちできないのも明白だ。
ここで、お前たちの兵士を訓練していたのだろう?
我々がようやく手にした訓練施設と良く似ているから分ったぞ。
黄泉の国での特訓は、ダロンボという鬼たちの代表に連絡して、我々が使えないものか、以前確認した経緯がある。
人間達用に作られたものだから、我々には不適と言われ、確認することもなかったのだが・・・、まあ、実際そうなのかもしれんが、鬼たちはその時点でも我々よりも人間達よりの行動をしていたという事のようだ。
なにせ、人間たちが特訓に使っていたことを、彼は知っていた様子だが、そのような報告はなかったからな。」
ミライは感心したように見回しながら、苦笑いを押し殺すように口元をゆがめながら、何度も頷く。
「どうやら、深い次元で待機していた本隊と、あなたたち監視部隊との間には、確執があるようだね。
自分たちの先兵となって戦う筈の、監視部隊であるあなたたちに対して、どうして本隊が協力的ではなかったのか、分るかい?
仮に、本隊があなたたちに協力的で、全ての武器や施設と情報で応援していたのなら、我々が黄泉の国を使うことも出来なかっただろうし、何よりも圧倒的科学力の前に、手も足も出なかっただろう。
どうしてわざわざ、そのように不利な戦いを強いたのだろうね。」
所長が、どうしても理解できない疑問点に、首をかしげる。
「分らんね、わざわざ自分たちの首を絞めるような事、どうしてやっていたのか・・・。
本隊が離れた次元に存在することは、教育で教わったし、我々監視部隊の役目も学習した。
その上で、少人数でろくな装備も持たされていなかったのは、文明とは呼べないような原始的な者達の監視業務であったから、当然の事と考えていた。
この星の覇権を争うような、本当の戦いになれば、本隊が出てくるだろうし、それが間に合わなくてもいつでもバックアップは受けられるものと考えていた。
ところが、今回の戦いでは敗色濃厚になってようやく訓練施設を送付された程度だし、我々が要求しなかったからとも言えるが、本隊が所有している施設や武器など、我々はどのようなものがあるのかすら知らされてはいないのだ。
つまり、我々は同じ恐竜人でありながら、我が恐竜人文明の事など、詳しくは知らないのだよ。
せいぜい、基地内にある施設の操作方法を知っている程度で、実をいうと次元通路の原理や故障した際の修理方法さえも分ってはいないのだ。」
ミライはさびしそうに首を振る。
「じゃあ、わしらはこれから全世界の黄泉の穴を順に繋げていく様、設定をしなくちゃならん。
忙しくなるから、おめえさんたちの相手はしていられんが、まあ、勝手知ったる何とやらで・・・、おめえさんたちで何でも自由にやって行ってくれ。」
地獄ステージを越えて、広い空間に出たところでダロンボが声をかけてきた。
「ハルー・・・、忙しくなるから、今は無理だけど、また今度にでも一緒に遊ぼうね。
訪ねてきてね、約束だよ。」
一緒にトロンボもやってきて、ハルの両手を握る。
「うん、恐竜さんたちとの戦いが一段落したら、きっとまた遊びに来るから。
だから、その時にね。」
ハルも、一緒になり力強くその手を上下に振った。
ダロンボたちはそのまま、ロッジ風の管理小屋の中へ消えて行った。
「じゃあ、行きましょう。ダロンボさんたちには申し訳ありませんが、管理小屋を通って行かなければなりません、こっちです。」
するとハルが、ミライ達をロッジ風の管理小屋へと案内する。
長い列となった恐竜人兵士たちを、マシンガンで武装した兵士たちが両側から挟むようにして誘導していく。
管理小屋の中では、ダロンボたちリーダー格の鬼たちが、モニター下の装置をあれこれとせわしなく操作していた。
切る時は全設定をクリアするだけだろうが、それを再設定するには、いちいち手動で順に設定をしていくのだろうから大変だ。
それとも、手順をプログラム化したマクロでも組んでいるのだろうか。
所長は、そんなことを考えながら、忙しく操作に没頭しているダロンボたちを眺めている。
一行は管理小屋のカウンター奥のドアを通って、ロッカールームを過ぎ、鬼たちの居住区へやって来た。
そこでは、鬼の妻たちなのか、長い間放置していた家の中の空気の入れ替えをする為か、窓を開け放っていたり、掃除や洗濯をする音が聞こえてくる。
更に突き進み、ビルのような鬼たちの寮の向こう側に、破壊された報告板と、更に奥へと続く大きな穴が見える。
「この先は、本当に広い空間ですので、迷わないようにお願いします。
一応、両側に兵隊さんたちに立っていてもらいますが、先へとずっと伸びているレールを頼りに進んで行ってください。」
穴から先へ進む前に、ハルが注意事項を放す。
どこまで続いているのかも判らないような果てしない洞窟だけに、行方不明者が出ないようにしなければならない。
「ほう・・・、こうなっていたとはな・・・。
この洞窟までなら何度か来たことはある。
その先がたった1枚の板で区切られていただけとは・・・、こんなことも知らないで何千万年もの長い年月、ただ鬼たちから送られてくる玉の行方だけを追っていたとはな・・・、戦う前から負けていたようなものだ。」
ミライは、穴から出て広い洞窟の中を見回しながら、深いため息をついた。
「では、こちら側の牢獄も開放するとしよう。」
所長はそう言いながら、施錠を解いて行く。
「ミライ中隊長殿、ご無事でありましたか。」
開放されたバーム小隊長が、駆け寄ってくる。
「ああ、俺達の完敗という事のようだ。
抵抗するのはあきらめて、人間たちに従ったほうがいい。
悪いようにはならないだろう。」
ミライはバームやグレイたちに、おとなしく従うよう告げた。




