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もう平和とは言えない冒険の書  作者: 飛鳥 友
第4章 恐竜人編4
52/201

第52話

                 7

 2月の大阪、冬真っ只中であり、雪が舞い降りてきても不思議な事ではない。

 しかし、それは雪ではなかった。

 金属製の小片は、キラキラと太陽の光を反射しながら、ダロンボたちの周りへ降り注いでいる。


 すると、不思議な事にその粒が落ちて行くのと同時に、ダロンボたちの頭上をうっとおしく飛び交っていた、小球体や小円盤たちも一緒に地面へ落ちて行く。

 ついには、鬼たちの頭上を飛び交う小球体も小円盤は1機もなくなってしまった。


「今のうちです、早くこちらへ逃げてきてください。」

 所長が、大声でダロンボたちに呼びかける。


「へっ?・・・」

 ダロンボたちには、何が起こったのか一瞬訳が分からなかった。

 しかし、周囲を見渡してみても、誰の頭上にも小球体も小円盤もまとわりついてはいない。

 解放されたのだ。


「おい、行くぞ。」


 戦闘態勢で低く身構えていた緊張を解くと、一瞬で所長たちの元へと駆け寄ってきた。

 後には、大量に降り積もった金属の小片と、それと一緒に落ちた小球体と小円盤だけが残された。

 どうやら、飛び太郎・飛びの助たちが、金属片を上空から撒いていたようだ。


 そこへ、巨大なタンクを積んだトラックから、太く長いホースを抱えたトン吉が駆け寄って行く。

 そうして、そのホースで金属片ごと小球体と小円盤を吸い込んで行く。


「バキュームカーの内面に、電磁波の遮断塗料を塗ったものだ。

 あの金属片はアルミニウムの小片で、それをばらまくことにより、球体や円盤をコントロールする電波を乱して、制御不能にしたのだね。


 ハイテク機器も、意外と簡単に無力化出来ると言う事だ。」

 所長が自慢げに胸を張る。


 アルミニウムの小片は、以前ハルに研究用に出してもらったもので、それを持ち出してきて飛び太郎たちに持たせ、更にトン吉も一緒に連れてきてもらったのだ。

 バキュームカーは、あらかじめ無線でロビンに頼んで準備しておいてもらっていた。


「た・・・助かったぜぃ・・・。

 あいつら小さいながらも、わしらの急所を狙って撃ってきやがるから、逆らうことも出来やしねぇ。

 わしらは、人間たちを如何こうするつもりはなかったんだが・・・、勘弁してくれぃ。」

 そう言ってダロンボが、深く頭を下げる。


「はぁはぁはぁ・・・、さあ、かかってらっしゃいって・・・、なによ、もう終わっちゃったの?」

 丁度その時に到着したミリンダ達、息せき切って駆け付けたのだが、既に戦いは始まることもなく終了していたようで、肩透かしを食らった状態だ。


「いやあ、アルミの小片で電波障害を起こせば小球体や小円盤は処理できると考えてはいたんだが、それでも鬼たちが尚も戦いを挑んできた場合は、決戦を覚悟していた。

 しかし、どうやらダロンボさんたちに、我々と戦う意思はなさそうだ。


 やはり、小球体と小円盤に常時監視され、それぞれの家族を人質に取られていたような状態だったから、仕方なく恐竜人に従っていただけだろう。」

 所長が、身構えるミリンダ達を制止ながら話しかける。


「ああ、そうだったの・・・、まあ、平和的に解決できたのなら、それに越したことはないわね。」

 ミリンダは、少し残念そうに小さく舌打ちをした。

 もしかすると、本気で鬼たちの居住区を狙っていたのだろうか。


「ハルー、ハルー。」

 体の小さな鬼が、ハルの元に駆け寄ってくる。


「トロンボ・・・、久しぶりだねえ。」

 久しぶりの再会に、ハルも嬉しそうに笑顔で応じる。


「すまねぇな、大っきな土地が浮上した後で、わしらの創造主からだという連絡が突然入ってきたのさ。

 興味が湧いたものだから、トロンボと手下の鬼たちを使いにやった。


 すると、肝心の恐竜人たちは現れねぇで、あろうことか虫のような小さな玉と円盤に憑りつかれちまった。

 しかも、自分たちに逆らうと、こいつらの命はねぇって言ってな。 

 仕方がねぇから、黄泉の国をたたんで、恐竜人たちの代わりに人間たちの監視役をやっていたという訳だ。


 数が足りねぇんで、妻や子供まで全員駆り出されて、世界中に派遣されたんだ。

 仲間たちが、それぞれ人質だ、逆らう事なんか出来やしねぇ。

 あんな奴ら、本当にわしらの創造主だかどうだかも怪しいもんだ。」

 ダロンボは、くやしそうにうな垂れた。


「そうだったのですか、創造主という事で呼び出しをして地上に出させたんですね。

 ダロンボさんたちは、黄泉の国へ戻っていただいて、当面は現世へ出ない方がよろしいでしょうね。

 そうでなければ、また別の小球体や小円盤に取り囲まれる恐れがある。


 機械装置であるそれらは、さすがに魂の修練所である黄泉の国までは、入ってこられないでしょうからね。」

 所長が、ダロンボたちをいたわるように声を掛ける。


「まあでも、これで本当に終わりよね。

 恐竜人たちも、眠りから目覚めた奴らは皆捕えたし、鬼たちも敵意はないと・・・。

 ようやく平和が戻って来た訳よね。」


 ミリンダの言うとおり、長い長い恐竜人たちとの戦いに、ようやく終止符が打たれたのだ。

 お互いに、犠牲者は出したが、それでも最小限度と言えるのかも知れない。

 これからは、恐竜人たちとも共生の道を探っていく必要性があるだろう。


「上手く行った様やなあ、こんなごっつい体をした鬼たちと、ドンパチ始まるのかと思って、冷や冷やしていたんやけど、仲よう終われてほっとしたわぁ。


 バキュームカーのタンクは、自衛隊のヘリで吊って港まで送って、そこからフェリーで仙台市まで送り届けますさかいに、しっかり研究してくださいな、所長さん。」

 濃紺の制服姿の小柄な女性が、役場ビルから出てきて、所長に声をかけてきた。


「おお、ロビンさんか、ありがとう。

 奴らの技術力を知る、またとないサンプルだからね。


 なにせ、以前の戦いのときには、球体も円盤もほとんど破壊してしまったし、我々も捕まってしまって、研究どころではなかったからね。

 今回は、コントロールを絶って無傷のまま捕えたから、恐竜人たちの科学力を知るいいサンプルになるだろう。」

 所長も嬉しそうに笑顔で答える。


「これから、世界各地で軍隊による、球体と円盤の一斉駆除が始まるところだ。

 灼熱の弾の弾倉を配布しておいたからね。


 小さすぎて、大容量の人工知能を持てない小球体や小円盤は、恐らく球体か円盤からの指令で、鬼たちの周囲を飛び回っていたのだと考える。

 だから、それらも一掃されてしまえば、ダロンボさんたち鬼たちももう安全という訳だ。


 じゃあ、戻りましょうか。」

 ジミーが帰り支度を始める。


「その前に、もうお昼はお済ですか?

 もしまだなら、食べて行かはったらいいですよ。


 特に、ダロンボさんたちは、これが最後のここで食べる食事になるかもしれませんやろ?

 お仲間もたくさん来てらっしゃるようだし、一緒に食べて行ってもらえば良い思い出になりますやん

 もう、都市間の移動禁止なんて言われないんやろ?


 だったら、奮発して倉庫の備蓄食料も出しますから、遠慮なく食べて行ってや。」

 ロビンはそう言って、皆に役場ビルへ向かうよう案内した。


「ほう・・・、こんな建物の中に食事をする施設があると言うのか・・・・。」

 一緒に役場ビルの中へ入って来たミライは、人間の作った施設に興味津々の様子だ。


「ここは、ビュッフェ形式の食堂で、気に入った食べ物を自分の食べられる分だけ皿に盛り付けて行きます。

 種類も豊富なので、余り一つの食材に偏らずに、まんべんなく色々な食材を取り分けて行くのがいいですよ。」

 所長がミライに食事のとり方を説明する。


「えっ・・・?」

 ミライは、取り皿に取り分けるどころか、盛り付けられた大皿ごと、トレイの上にのせて行く。


「いや、だから・・・、食べられる分だけを色々な種類取り分けて・・・。」


 所長が驚くのも無理はない、トレイが埋まるととりあえずテーブルに置いて、また戻ってきて大皿ごと取って行くのだ。

 見る見るうちにテーブルの上が食べ物の山で埋まって行く。


「こ・・・こんなに食べられるのですか?」

 あまりの量に、所長が目を丸くする。


「ああ、恐竜人は普通のものでも1日に肉ならば10キロは食べる。

 俺は特に食べる方だから、15キロは食べるかな。」

 ミライはそう言いながら、本来なら薄く切り分けて数枚ずつ取り分けるべき、大きな肉の塊にかぶりついた。


「まあまあまあ・・・、いいですよ、ドンドン追加で出しますさかいな。

 今日は、恐竜人との戦いが終息したお祝いやから、かまいまへん。」

 ロビンは笑顔でそう言いながら、追加の料理を頼んだ。


「ふうむ・・・、体も大きいからそれだけ食べるという訳だろうけど、それにしても我々人間の10倍以上は食べるという事か・・・。

 恐竜人たちとの共生を考えていたんだが、食料の問題という事も頭の中に入れておいた方がいいと言う事だね。


 もう終わってしまったことではあるのだが、恐竜人たちの本隊の人口というのは、どれくらいだったんだね?

 異次元空間で長い年月過ごしてきたと言う事からも、それほど多いとは思えないのだが。」


 所長は、山盛りに盛られたミライの前の皿を唖然として眺めながら、ほんの少しずつ取り分けられた、自分の皿の小さな肉を更に小さく切り分けながら、一口頬張った。


「1億人だ。」

 ミライは、早くも大皿1枚を平らげて、2枚目に取り掛かる。


「い・・・1億・・・人・・・?

 そ・・・、そんな大人数が、別次元へ移動して、その空間で時を過ごしていたというのかね?


 その間の食料などはどうしていたのか分かるかい?

 時間の進み方が極端に遅く、この世界の1万分の1という事だが、それでも数千年分の食料を蓄えていたなんてことは考えにくいのだがね。


 別次元というのは、地上のように土や水があって、食料の収穫ができると言う事なのかね?

 それでも広大な土地が必要となると思うが・・・、なにせ、これだけ食べる恐竜人が、1億人もとなると・・・。」


 所長は、どうしてもイメージできない恐竜人の異次元での生活を、何とか理解しようとミライのヒントになる言葉を待っていた。


「いや、食料に関しては、確かに簡易農場という機能は持っているようだ。

 次元空間を広げて、そこを農地代わりにするのだが、そんな事だけではとても大ぐらいの1億人の食料は賄えるはずもない。


 我々の専売特許の力を使っているのだよ。

 先ほど俺の体を小さくしたようだが、元々は我が恐竜人が奉っていたウチーデノコヅーチという神器で、それを利用して体を縮小化したのだ。


 1辺を1/10にすることにより、必要とする食料も激減した訳だな。」

 ミライは、ついに大皿3枚目に取り掛かった。


「そ・・・そうか、3次元的に考えると、身長、幅、厚みそれぞれを1/10に縮めたという事は、1/10の3乗だから1/1000という事になる。

 必要とする食料も、1/1000ということか、それなら大ぐらいの恐竜人でも大丈夫という訳だ。


 ところが、折角地上へ戻る訳だから、当然のことながら元のサイズに戻るつもりだったわけだ。

 だからこそ、我々人類との共生は望まずに、食料供給のための家畜の役割にしか、考えていなかったという訳だね。


 恐竜人たちが、今後地上でさらに増えて行くには、人類は邪魔だという訳だ。

 ともに増えて行くと、すぐに食料問題になってしまうだろうからね。」

 所長が納得とばかりに、うんうんと何度もうなずく。


「食糧問題だけではなく、住むところもすぐに足りなくなるのさ。

 我々の試算では、今地球上に居る人類は1億もいないだろうが、百年もしないうちに20から30億になると計算されている。


 そうなると、人類だけで世界中のあらゆる平地を独占し、食糧問題も発生し始める。

 我々恐竜人は、寿命が長いせいか、人類の様に爆発的に増えると言う事はなく、百年くらいでは人口は1パーセント程度しか増えないだろう。

 千年でも10〜15パーセントほどと考えられている。


 ところが、その頃には人類の人口がこの星の許容量を大きく超えていて、我々恐竜人が増えるべき余裕などなくなっているというのだ。

 だから、我々は人類との共生はあきらめて、支配するという形を取ったのだ。


 どの道、本隊の考えは、最初から武力による支配しかなかったのだがね、我々監視部隊は永い間人類の成長過程を見て来ただけに、共生の可能性を探ってはいたのだが、どうにも困難だという結論に達した訳だ。」


 ミライは4枚目の大皿を平らげて、ようやくナイフとフォークを置いた。

 知的生命体である人類に対しても、容赦のない態度であったわけが、今になって分かってきたようだ。


「じゃあ、戻るとするかね。

 ここからでも、南極まで瞬間移動可能かね?


 そりゃ、ハル君たちは慣れているから大丈夫だろうけど、他のメンバーには日本と南極では位置関係が分らないものもいるだろう?

 どうしても無理なら、何度も往復してもらうのも大変だから、フェリーを出してそれで南極へ向かうかい?」


 所長が、食事を終えたメンバーの顔を眺めながら尋ねる。

 メンバーの大半は自衛隊と米軍で、勿論瞬間移動などの魔法は使えない。

 魔術者や修行僧たちは瞬間移動を覚えたが、それでも地理に不案内なので、ここから南極となると相当難しいだろう。


 船だと2ヶ月半ほどかかるが、仕方がないとも言える。

 あるいは、戦いが終わったのだから、米軍と自衛隊とはここで分れることにするのか。

 なにせ、元々西日本に駐留していたのだから、都合がよいということではあるのだ。



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