第51話
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「ふうむ・・・、面白い、ますますお前たち人間と言うものに興味が湧いてきた。
どうだろう、俺も鬼たちとの戦いの場に連れて行ってはもらえないか?
勿論、首に巻いたネックレスはそのままで構わない。
それでも、戦力になるぞ・・・、俺はどちらかというと魔法よりも剣の戦いが好きだからな。」
ミライは自信満々で剣を構える仕草をして見せた。
「でも・・・・、僕たちはダロンボさんたちと本当に戦うつもりはありません。
だから・・・。」
ハルが、そんなミライに対し、首を振る。
「まあ、そうだね。
ダロンボさんたちを操っているのが、小球体や小円盤だっていうのなら、それなりに対処方法があるだろう。
ミライさんだったね、あなたも一緒に行きたいのだったら、来ていただいても構わない。
しかし、外へ出た途端に我々を裏切って、暴れ出すことはしないと約束してくれ。
ここへもそれなりの兵力は残しておくつもりだ。
ダロンボさんの要望に沿えないのは申し訳ないが、全兵力で向かう事などできるはずもない。
それでも、こちら側の兵力を知られている訳でもないだろうし、充分に対応は出来るだろう。
だから、あなたの態度によっては、基地内の恐竜人たちの処遇を考えなければならなくなる、いいね。」
所長はきっぱりと厳しい口調で告げる。
「ああ、基地内には俺の家族もいることだし、下手な事はしないと約束する。」
そうして第1、2、4班と9、10班が、ダロンボたち鬼たちとの決戦の場に向かうこととなり、残りは基地内の警備に残ることになった。
「一寸、足元に段差があるので、気を付けてくださいね。」
目隠しをしたミライを促して、何とか報告板を通り抜けさせると、そのまま鬼たちの居住区を抜け、黄泉の国へと入って行く。
「ここは、なんだ・・・?」
ミライが、音が反響する洞窟内から居住区へ入り、周囲を気にするようにして尋ねてくる。
「ここは、洞窟の先の広い空間です。」
ハルが、ミライに周囲の様子を説明する。
黄泉の国の中でのことを知られないために、目隠しをして付いて来てもらっているのだが、何かあるたびに質問をしてくるので、ハルとしても、いい加減うっとおしくなってきている。
「ほお・・・、やはり報告板があった洞窟が怪しかったという事だな。
そこから、地上へ抜ける道があるのだろう?」
ミライがしたり顔で、ハルに尋ねる。
「さあ・・・、お話しできませんね。」
ハルはそ知らぬ素振りでとぼけてみせるが、恐らくは、バレバレだろう。
鬼たちの居住区を抜け、現世への扉がある広い空間へ出る。
そのままダンジョン方向へ戻って行き、各ダンジョンはミライを目隠ししたまま瞬間移動で越えて行く。
瞬間移動は、初めての経験の様で、その間の動きは察知できないのか、質問が途切れる。
そうして、吊り橋を越えて入口近くまでやって来た。
「お・・・、おい、ミライじゃないか。
お前まで捕まっちまったのか?
しかも目隠しまでされて、これから処刑場まで連行される途中か?」
黄泉の国入口側に作られた牢獄に収容されているタイガ中隊長が、見慣れた姿を見つけて声をかけてきた。
「おや、その声はタイガ中隊長。
そうか、この広い施設の中に、離れ離れに収容施設を作って、我々恐竜人兵士を収容しているという訳か。
なかなか考えたな。
どうやらお前たちは、我々の1中隊と人数的にほとんど変わらない、百名前後しか存在しないのだろう?
だからこそ、我々2中隊がまとまって結束しないように分断させているのではないのか?」
ミライは目隠しをされたまま、口元を緩める。
「もう、あなたたち恐竜人部隊との戦いは終わったのですから、そんなことはどうでもいいのではないですか?
それとも、まだ隙をついて戦おうと思っていますか?」
ハルは、いい加減ミライの相手に疲れてきていた。
所長が相手をすべきなのだが、ダロンボたちとの戦いを前に、下準備があるからミライを連れて先に行っているように言われたのである。
「いやいやいや・・・誤解しないでくれ。
もう抵抗するつもりはないよ。大体、兵士たちは全て牢獄に収容されて、何も出来ないだろ?
あくまでも個人的な興味があって、色々と知りたいだけだ。」
ミライは慌てて否定する。
「ふう・・・、ようやく追いついたわ。」
丁度そこへ、ミリンダ達第2班が、所長を連れて瞬間移動してきた。
「じゃあ、行こうか・・・。」
「はい、じゃあ、この札を手に持ってください。」
ハルはミライの手に、真っ赤な木の札を握らせる。
そうして、黄泉の国の入口から黄泉の穴へ出て行く。
その先は富士の風穴だった。
風穴の狭い隙間は、ミライのように体の大きな恐竜人には通ることが出来ず、仕方がないので、ハルが小槌を出してミライの体を小さくすることで通り抜けさせた。
「ほう・・・、我々と同じ技術を持っているという事のようだな。」
ミライは目隠しされたままでも、自分の体が縮んだことが分っているのか、感心したように頷く。
そうして、そのまま狭い風穴の隙間を越えて出て来た。
「じゃあ、体を元に戻します。」
ハルはもう一度小槌を振るい、ミライの体を戻す。
そうして、ナンバーファイブとミライと所長の体を抱えて、そのまま瞬間移動した。
着いた先は、大阪の役場裏のグラウンド。
いつも瞬間移動に使っている場所なので、そのまま移動したのだ。
「ずいぶん早い到着だな。」
そこには既にダロンボたちが待ち構えていた。
「いえ・・・、とりあえず、所長さんと恐竜兵士のミライさん、ナンバーファイブさんだけを連れてきました。
他の人たちは、この場所を知らない人が多いので、瞬間移動できずに走って向かっています。
だから、もう少し待っていてください。」
ハルが、ミライの目隠しを外しながら、そう言って詫びる。
指定の時間までは、まだ1時間はあるので、到着が遅れるという訳でもないのだ。
「ああ、そうかぃ・・・、わしらは、おめえさんたちの瞬間移動ってぇ奴を黄泉の国で見ていたから、練習して使えるようになっていた。
だから、世界中から瞬間移動でここへ集合しようとしているんだが・・・、距離が遠すぎて、1回じゃ到達出来ねぇ組みもいるみたいだ。
わしらも、まだ全員集まってはいねぇから気にすんな。
瞬間移動するにも、場所を知らねぇんじゃ仕方がねぇからな。
それよりも・・・、どうやら、恐竜人の捕虜を連れて来たようだな。
しかし、恐竜人はわしらにとっては創造主と言われているが、実は出会ったことも初めてで、創造主と言われてもピンと来ていない状態だ。
命令には従っているけども、その捕虜がいるから、わしらが戦わねぇで降参すると思ったら、大きな間違いだぞ。
わしらの上司は、今も変わらず閻魔大王様だ。
それは、わしらのひいじいさんよりも、もっと前から変わらねぇ事なんだからな。」
ダロンボは、一緒に居るミライの姿を認めて、早くもけん制してきた。
鬼たちは半分ほど・・・、百名くらいが集まっている程度だろうか。
それでも、ぞろぞろと数名ずつひっきりなしにその数を増やして行っているようだ。
勿論、ハルたちにミライという捕虜を使って戦いを有利に進めようと言うつもりはない。
ミライが一緒に行きたいと願ったから、連れて来ただけの事である。
「いや、彼は・・・。」
「俺は、闇の存在監視役、第10分隊のミライ中隊長だ。
捕虜の身ではあるが、人間たちに興味がわき、鬼との戦いに連れて行ってくれと願い出た。
できれば、俺もお前たち鬼との戦いに、人間側の助っ人として参加しようと考えている。
だから、遠慮なくやってくれ。」
ミライが、所長の言葉を遮って答える。
当然のことながら、所長はミライを助っ人とは考えてもいない。
助けてもらう必要性もなく、何より、途中で鬼側に付く可能性の高いミライを、戦闘に参加させるつもりなど最初からないのだ。
「へえ・・・、恐竜人の中隊長だか・・・。
わしらは、おめぇたちの為に戦っているんだぞぃ。
それをどうして、おめぇさんが人間の味方をしなければならねぇんだぃ?」
ダロンボが、不満そうにミライに問いかける。
「もう、雌雄は決しているからだ。
今更どうあがいても、本隊が現在へ合流できる可能性はないと言える。
いくら、お前たち鬼が命がけでコントロールを切り替えようとしても、成功する確率はほとんどないだろう。
なにせ、強電磁波の中での作業だ、我ら恐竜人の強固な体に、最高の魔術者の魂が乗り移って初めて成し遂げたことだ、2度とできうるものではない。
そんなことは、本隊ならとっくにわかっているはずだぞ。
なにせ、自分たちの絶対的な安全確保の為に設置した、強電磁波のシールドなのだからな。
電磁波のスイッチは、今は向こうが握っているから、本当なら電磁波を切ればいい訳だが、やる気ならトルテに乗り移った奴が、コントロールを切り替えた直後に、修正させるために電磁波を切っているさ。
あの時ならトルテは全身黒焦げ状態で動けなかったし、恐竜人側の兵士が大勢次元通路に居たから、電磁波さえ切れればコントロールを再び戻すことは簡単にできたはずだ。
ところが、疑り深い本隊の事、電磁波を切ってしまえば、我々監視部隊が本隊到着時期を変更したり、あるいは本隊を地上の次元から切り離すとでも考えたのだろう。
なにせ、次元金庫が自由になれば、我々だけでも十分に暮らしていけるのだからな。
そんな事、するはずもないのだが、本隊はどうにも我々を信用してくれてはいなかった。
それを見て、俺は恐竜人側の負けだと悟ったという訳だ。
なにせ、我々が戦っていた人間たちは、自分の身を犠牲にしてまでも、仲間を助けようとしたり、命がけで危険な戦いに率先して向かって行っているのだからな。
ありえないことではあるが、お前たち鬼は、例えこの人間との戦いに勝ったとしても、その後に強電磁波で体を黒焦げにされておしまいさ。
本隊が、お前たち鬼の安全の為に電磁波を切るとは到底思えない。
命がけで電磁波の流れる通路に入らされて、ただスイッチの切り替えに命を捧げるだけさ。
そんなお前たちを説得しようと、この人間たちは、お前たちの呼びかけに応じたわけだ。
別に、この地方の人々を守ろうとするだけなら、住民を避難させるなり、他にも方法はあったはずだからな。
お前たちのような少人数で、関われる人間などはたかが知れているのだからな。
そんな人間という種族に興味を持ったという訳だ。
だから、お前たちも、とっとと降伏するんだな。
彼らなら、お前たち鬼に対しても、悪いようにはしないだろう。
創造主である恐竜人に命令されて従っていただけだろうしな。
うまく行けば、元の黄泉の国の番人に戻れるかもしれんぞ。」
ミライは、腕を組んで胸を張った。
「そうですよ、このまま争いを止めれば、黄泉の国へ戻ることができますよ。」
ハルも、ミライと一緒になって、ダロンボたちを説得しようと試みる。
「いや・・・、そいつは出来ねぇ相談だな・・・。
なに・・・、いや、そんなことは・・・、はい・・・はい・・・、わ・・・分りました。」
ダロンボが、突然宙に向かって何ごとか叫び始めた。
「通達が来ちまっただょ・・・、今すぐ戦えって・・・。
わしは、こっちは全て揃ったようだが、人間たちの方の集まりが悪いから駄目だって断ったんだが・・・、有無を言わせねぇってぇ所のようだ。
それもこれも、恐竜人のおめぇさんが、余計な事を口走るものだから・・・、本隊があったまに来ているみてぇだな。
悪く思わねェでくれ・・・。」
ダロンボはそう言うと、周りの鬼たちに向かって目で合図をすると、低い体勢で身構えた。
「なによ・・・、こっちは4人って言っても、所長さんは戦えないのよ・・・。
まあ、でも、やるなら相手になるわよ。
トラちゃんのかたき討ちみたいなものだからね・・・かかってらっしゃい。」
ナンバーファイブが一歩前へ出て身構える。
「はっはっはっは・・・、どうにも、余計なことを口走る癖が出たようだな。
申し訳ない・・・、申し訳ないついでに、ちょっとこれを借りるよ。」
ミライはそう言うと、ハルの背中の剣を抜いて、彼もまた前へ出て構えた。
鬼の数倍の力を持つという恐竜人の中でも、最強の部類のミライ及び、恐竜人をも凌ぐ魔法力を身に付けた、ナンバーファイブとハル。
とはいえ、実質3対200の圧倒的不利な戦いが始まろうとしていた。
「うーむ・・・、早々と戦いとなってしまったか・・・。
しかし、どうやら、ぎりぎり間に合ったようだな。」
所長は後方を振り返ると、両手を高く上げて手を振った。
すると・・・
「雪・・・?」
ハルが不思議そうな顔をしながら、ダロンボたちの様子を眺める。
ダロンボたちの居る辺りには、空からキラキラ光る小さな粒が舞い降りてきた。




