第50話
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「う・・・うーん・・・、あれ?あたしって死んだはずじゃ・・・、じゃあ、ここは天国?」
ナンバーファイブが、復活した。
『やっ・・・やったー!』
辺りが喜びの大歓声に包まれる。
その光景を見ていた、恐竜人兵士の中にも、涙を流して喜ぶ姿も・・・。
「えっへっへぇー・・・」
ゴローが照れくさそうに、頭を掻く。
「へえ・・・、やるじゃない。
ゴローの事を見直したわ。
でも、体は大丈夫なの?いつものように死んで灰になったりはしない?」
ミリンダが心配そうに、ゴローの顔を覗き込む。
「ああ、平気さ。僕の場合はその、オーラっていうの・・・?
自由に増やしたり、少なくしたりできるから・・・、ほら・・・こんな風に。」
ゴローがそう言うと、ゴローの体が、突然淡い光に包まれ発光し、暫くすると元に戻った。
「これができるから、小さな蝙蝠にも変身できるのさ。」
ゴローは自慢げに胸を張った。
「ほう・・・、ゴロー君の不死の秘密を色々と探っても解明できなかったが、膨大なオーラの所有量によるものかもしれんな。」
恐竜人兵士をあらかた収容し終わったのか、所長が次元通路までやって来たようだ。
「ふうん・・・、おまえたち人間の中にも、興味をそそる種族がいるようだな。」
ミライも、感心したように笑顔を見せた。
「じゃあ、折角来たんだ、君たちの戦力に関して知っていることを、説明してはもらえんだろうか。
本隊というのが2年後に、この世界に合流すると聞いている。
その他にも、1中隊が現在訓練施設で訓練中という話だし、7中隊が冷凍睡眠から目覚める途中というようだが、どうなっているか、分るかい?」
所長がミライに対して現状兵力の詳細説明を求める。
状況によっては、彼らが降伏したところで、戦いが終わったことにはならないからだ。
「いいだろう、俺としては我々の敗北という判断で間違いはないと思っているからな。
我が軍の状況に随分と詳しい様子だが、それに対して我々は、お前たちの事に関して、何一つ分ってはいない。
地上のどこの国の所属なのかも、構成人数すらも把握できてはいない。
情報戦の段階で、既に負けていたという訳だ。
それもこれも、我が軍の内部にまで入り込んでいた存在によるものだろうが、先ほど黒焦げになったそいつは、死ぬ前に色々と細工をしてくれたようだな。
話を聞く限り、ザッハやトルテが我々恐竜民族を裏切ったというより、お前たちの仲間が乗り移って体を操っていたという事のようだ。
まんまとしてやられた・・・トルテに至っては余りの優秀さに、俺が直々に力を貸して奴の支援をしてしまったほどだ。
その結果が、このありさまとは・・・、悔やんでも悔やみきれんよ・・・・。
まあ、過ぎてしまったことは仕方がない。
力の劣る人間族に対して、ろくな調査もせずに地上制圧などと思いあがった態度で挑んだ時点で、すでにわれわれの敗北は決まっていたという事だろう。
訓練装置に入った我が中隊だが、これは訓練装置ごと別次元空間へ飛ばされ、半年後には本隊と合流する予定となっているようだ。
次元パターンの波をみて判明した。
さらに、この先どうなるのかというと、1年後に闇の王子の存在する箱と合流する予定となっている。
つまり、2年後に本隊がこちらの次元に到達する前に、闇の王子を封印した玉と合流することになっている。
しかも、その玉は次元金庫内であれば活性化するはずはないが、本隊と合流すれば直ちに活性化してしまうだろう。
なにせ、封印を継続するための何らかのアイテムがあったはずなのだが、我々が手にした段階では、ただ布にくるまれた木箱でしかなかったということだからな。
恐らく、本隊は闇の王子が存在する次元と合流することに気づき、次元を移ろうとするだろうが、次元コントロールに関しては、こちら側がメインに切り替わってしまっている。
その為、向こうから一旦はこちら側との接続を切り離さなければならなくなる。
本来は、その後、改めて次元間の接続を行えばいい訳だが、ところが時間の流れ方が極端に異なり、向こうはこちらの時間の流れの1万分の一だ。
だから、接続を一度でも切ってしまえば、こちら側の次元を探し出すことは、ほぼ不可能に近いだろう。
砂漠の中で、一粒の特別な砂粒を見つけ出すようなものだ。
手当たり次第に試して行った場合、天文学的な年数が経過してしまうだろう。
実質、この世界に戻ってくることはありえないということになる。
なにせ、先ほどあの坊やが行なったように、次元通路の外側からでも、中の操作が出来そうな可能性はあったのだが、それが命がけの方法であると分かると、誰もコントロールを戻そうとはしないだろう。
一人だけの犠牲で済むかどうかも怪しいところだしね。
そこまで、本隊に対して我々も義理立てするようなことはしない。
なにせ、我々の事を少しも信用せずに、自分たちだけでコントロールしようとして来たことへの、代償とも言える結末だからね。
まあ、唯一、我々の希望だった睡眠時間を延長した、7分隊だが、今は無期限のタイマーで眠りについている。
どの道、本隊の了解がなければ、こちら側から単独でタイマー設定を変更することは出来ない。
下手をすれば、冷凍装置が暴走してしまう可能性だってある。
本隊が、自分たちが合流する目途が立ちもしないのに、こちらの援軍の手当てをしてくれるとも思えないし、彼らが目覚めることはないだろう。
つまり、我々の部隊は先に捕虜となった1分隊と、残りはここに居た、1分隊だったという訳さ。
ほとんど抵抗らしい抵抗も出来なかった、完敗だよ。
人間なんて、弱い生き物だから、監視部隊だけでも十分に制圧できるなんて、馬鹿な本隊の口車に乗せられて、地上の制圧に乗り出したことが間違いだったんだ。
せめてあと2年待って、本隊が合流してから地上へ進出していれば、もっと違った結果になっていたのだろうに。」
ミライは、次元通路へやって来た所長に対して、各モニターの見方と状態説明を織り交ぜながら、悔しそうに唇をかみながらも、詳細に状況を話してくれた。
「いや、本隊どころか、監視用の中隊を全部目覚めさせて一度に攻め立てられただけでも、充分に我々を制圧できただろう。
これが、世界戦争以前であれば兎も角、その生き残りで数を極端に減らした我々人間では、千人規模の恐竜人兵士たちにすら抵抗することも叶わなかっただろうね。
いや・・・、最初の戦闘で難を逃れたハル君と、偶然合流したナンバーファイブさんの力がなければ、1中隊だけの力でも、簡単に制圧されていたのかも知れない。
何にしても、我々側に運が残っていたという訳だ。
ところで、地上を監視している鬼たちを更に監視している小球体と小円盤の事なんだが、本隊のコントロール下にあるらしい。
仮に本隊が、こちら側と接続を切った場合、小球体と小円盤はどうなるか分るかな?」
所長がモニター画面を興味深そうに観察しながら、懸念事項について質問をする。
「うーん、分らんね。
ただ単に次元間の接続を切ってしまえば、コントロールを失った小球体と小円盤は、鬼たちにまとわりつくのを止めて、勝手に飛び回ることになるだろう。
その時に、精神感応を探知すれば、そこへ集まっていくことになるのかも知れない。
どちらにしても、指令がない訳だから、特定の対象にまとわりつくことは無くなるだろうね。
しかし、どうせ接続を切ってしまうのだからと、本隊が考えた時には、鬼たちを無事な状態にしておくとは考えにくい。
恐らく、鬼たちを始末してしまおうと考えるだろう。」
ミライはずいぶんと恐ろしい事を、平然と口にする。
しかし、その恐ろしい事が現実になろうとする。
「あ・・・あー、聞こえますか
恐竜人基地を制圧した人間と魔物の部隊の責任者の方、わしはダロンボというものですゎ。
おめえさんたちが、恐竜人兵士たちを倒したおかげで、今度はわしらが戦わねばならなくなりました。
おめえさんたちを倒して、基地を取り戻すとともに、次元通路とかいうところにあるコントロールスイッチを切り替えるんだそうだ・・・。
指示の最後の所は何のことか判らねぇが、ともかくおめえさんたちを倒さねばならねぇようだ。
こちらも、自分たちと家族の命がかかっているもんでなぁ。
日時は本日の夕方5時、場所はおめえさんたちの国でもある日本の大阪、役場裏のグラウンドだ。
こちらは、鬼の兵力全部である200名で待っている。
そちらも全軍で来てほしい、指定日時までに現れなければ、この地の人々を手にかけなければならなくなる。
どうか、わしらにそんなことをさせなくても済むようにしてほしい。」
突然、次元通路内の全モニター画面が切り替わり、ダロンボたちの映像を一方的に流した後、消えた。
画面は元通り、各装置の監視画面に切り替わってしまった。
「た・・・・大変です、所長さん・・・。」
基地内に隠れている兵士たちがいないか見回りに回っていたハルたちも、驚いて駆けつけてきた。
どうやら、小球体か小円盤を使った緊急通信で鬼たちに本隊から指令がでて、同様にそれらを通じて宣戦布告の映像を送信したのだろう。
「ああ、こっちでも見たよ・・・。
しかし、我々を倒した後で、コントロールのスイッチを戻すということが、まさに命を賭した指令だとは、ダロンボさんたちも知らないのだろうね。」
所長は、渋い顔をしながら首を振った。
数千万年もの間、交代制で眠りから覚めていたとはいえ、戦いの無い生活が長かったためか、その力を発揮することもなく、力の弱い存在であったはずの人間たちの部隊に制圧されてしまった恐竜人部隊。
それよりも、その間、同じように戦いはなかったにしても、リミッターである角を付けて常に過ごしていた鬼たち。
彼らの創造物ではあるのだが、こちらの方が戦力として上ではないかと考え、新たな戦いを仕掛けてきたということは、充分に考えられる。
しかも、その地域の人々を人質にとり、戦いを避けられないようにすることくらいは、作戦としてありえないことではないだろう。
しかし、問題なのはその先の事だ。
例え、ダロンボたち鬼の部隊が人間たちの部隊を葬ったとしても、その後は恐竜人基地内の次元通路の奥の強電磁波でシールドされた場所へ入り込み、コントロールスイッチを切り替えなければならないと言うのだ。
これは、まさに鬼たちの命を何とも考えていない者たちのなせる所業だ。
彼らにとっては、鬼たちの命など、ただの捨て駒でしかないのだ。
「恐らく、強電磁波を入り切りするスイッチなど、この基地内には存在しないだろう。
そんなことをすれば、ガードの役に立たないだろうからね。
しかし、例えば、この基地の動力・・・恐らく核融合や地熱などのハイテク技術によるものだろうが・・・、それを切ってしまえば、強電磁波は無くなるのではないのかい?
そうなれば、中へ入って簡単にコントロールスイッチを切り替えることができるだろう。
もし、我々の部隊が破れて、ダロンボさんたちが命がけでここへやって来た時には、そのような打開策を授けてやってはもらえないだろうか。」
所長が、半ばため息交じりに、ミライに告げる。
「いや・・・、それは出来ない・・・。
打開策を授けることが嫌だと言っている訳ではなくて、打開策自体が俺が考える限り存在しないからだ。
この基地の動力を元から切ってしまえば、確かに電磁波は消えるが、同時に次元コントロールも切れてしまう。
だから、コントロールを切り替えることはできないはずだ。
疑い深い本隊のやることだ、そんな簡単な事で、こちら側に自分たちの存在する次元のコントロールをゆだねるようなまねは、決してしないのさ。
電源を切った途端に本隊の次元はこちらの次元との接続を切り離される。
コントロールが向こう側にあれば、そうはならないのだが、今はコントロールがこちら側になっているから、接続が切りはなされて、そうなると復活することはまずないだろう。
鬼たちの命を守るのなら、基地を破壊して動力を絶ち、本隊の次元との接続を切ってしまうと言うのもやり方の一つではあるが、通常のやり方では動力が完全に停止するまでにわずかながら時間があるから、その間に鬼たちの命は絶たれてしまうだろうな。」
ミライは、どうにも解決策がないとばかりに首を振った。
「それじゃ、電源を絶てばかえってダロンボさんたちは・・・。」
ハルが続く言葉を飲み込む。
「そう言う事だな。
しかし、人間というのは不思議な生き物だな。
敵である鬼たちの事など、気にするようなことではないだろう?
仮に自分たちの仲間が人質に取られているのなら、戦いに行くにしても、自分たちの分が悪くなれば、この基地ごと爆破して、鬼たちへ打撃を与える算段をする方が得策じゃないのか?
どうして、敵である鬼たちの身の上を心配する?
我々恐竜人がお前たち人間や魔物たちを生かしておいたのは、あくまでも本隊が合流する2年後までのつなぎを考えていただけだ。
その間に、本隊のための食料をある程度確保しておく必要があったし、食料が足りなければ、お前たち人間が食料となった訳だ。
つまり、我々は最初からお前たちとの共生というものは考えてもいなかった。
家畜としての利用価値以外はな。
ところが、お前たちは違う。
鬼たちどころか、我々とも共生しようと考えているという・・・、一体何が目的だ?
我々は卵から生まれるが、その卵を食料にとでも考えているのか?」
ミライは不思議そうに首をひねる。
「げげえ・・・、そんな、あんたたち恐竜人の卵なんて・・・、食べる訳ないでしょ。
ただ、同じ地球上に生まれた生命体として、お互いの共存を考えているだけよ。」
ミリンダが思いっきり顔をしかめる。




