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もう平和とは言えない冒険の書  作者: 飛鳥 友
第1章 恐竜人編
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第5話

                   5

 戦闘が始まってしまい、ハルが乗ったボートは島へ上陸できないでいた。

 飛来する円盤や球体が恐ろしくて、同乗する船員たちがボートを漕ぐのを止めて、蹲っているからだ。


 ハル一人だけなら、さほどの距離でもなく、視界内であるので島へ瞬間移動できるのだろうが、船員たちを置いて行く訳にもいかず、生真面目なハルは何とか船員たちを励まして、ボートを接岸させようとしている。

 といっても、ハルのつたない英語では通じているのかどうかも怪しく、船員たちはうずくまったまま身じろぎひとつしない。


「よし、これで少し時間的な余裕ができた。

 ミリンダちゃんたちは、今のうちに瞬間移動で逃げなさい。

 あの球体は、魔法力を感知するようだから、近づいてくると厄介だ。


 どこまででも追われる可能性がある。

 逃げるなら今のうちだ。」

 所長が、ミリンダ達の元へやってきて、小声で話す。


「無理よ、陸地からの距離は大したことはないけど、初めての場所だからあたしもミッテランおばさんだって、一緒に連れて行ける人数は、限られているわ。


 ゴランさんやネスリーは自分だけで精いっぱいだろうし、ホーリゥさんだって連れて行けるのはせいぜい一人だけよ。

 だから、無理。」


 ミリンダは、厳しい表情で首を振る。

 なにせ、周り中人だらけなのだ。

 一体何十人いるのか数えきれない。


「いや、だから、誰も連れて行かなくてもいい。

 余裕があるなら、民間人のマイキーとマルニーさんだけはお願いしたいが、私やジミーは大丈夫だ。

 申し訳ないが、スターツ王子たちにも我慢してもらおう、彼らは軍人だからね。


 君たちが逃げたところで、ここに居る誰も文句は言わない。

 どうやら、覚悟を決めてきた人達のようだからね。」

 所長は真顔だ。


 どうやら、こうなることは覚悟の上で、灼熱のバズーカの弾を使って、ロケットランチャーを改造したりしていたのだろう。

 つまり、自分たちは戦って玉砕覚悟なのだ。


「こほぉー!」

 竜神の息吹により、無数の球体や円盤たちが海面へ落ちて行く。


 更に、真っ白く光を放ちながら、巨大な高温の玉が球体や円盤を飲み込んで進んで行く。

 ハルが、灼熱の炎の魔法を唱えたようだ。


「精神感応感知!精神感応感知!」

 すると、球体の群れは向きを変え、竜神やハルの乗っているボートに向けて群がって行く。


「ハルに負けちゃいられないわ。

 モンブランタルトミルフィーユ・・・大爆発(エクスプロージョン)!!!」

 ミリンダの魔法で、いくつもの球体たちが爆風に巻き込まれて落下していく。


「いや、だから、今のうちに逃げたほうがいい。」

 所長は、そんなミリンダをたしなめる様に、肩に手を掛ける。


「無駄です、誰も、ここに居る人たちを見捨てて、自分たちだけ逃げようとは考えないはずです。

 私たちも戦います。

 フレン・ドアスカメッセ・・・至極(スペシャル)暴風(サンダ)雷撃(ストーム)!!!」


 ミッテランが唱えると、竜巻のような局地的暴風が円盤たちを飲み込んで行く。

 どうやら、逃げるつもりはなさそうだ。


『ガガガガガ!』俄然、勢いを付けたジミーたちの灼熱のマシンガンが、飛び交う球体たちを打ち落としていく。

 そうして、球体も円盤も目で見て数えられるくらいにまで減少し、危機は去ったかに思えた。


「今のうちです、さ、早く漕いでください。」

 ハルは自分でもオールを持って、ボートをこぎ出す。

 船員たちも、急いでオールを手にする。


『ブン!』しかし、その瞬間、巨大なものがハルの体に巻き付き、一気に引き上げるとその体を高く飛ばした。

「ちょっと!何するのよ!」

 ミリンダが、怒り心頭の表情で、上空を仰ぐ。


「仕方がないだろう、お前たちもすぐに逃げろ。

 とても敵う相手ではなさそうだ、無駄な事はやめた方がいい。」

 竜神は、遠くを見つめながら、あきらめたように告げる。


 その視線の先には・・・、それは兵器というよりは巨大な施設と言った方がいいだろう。

 まだ何十キロと離れているのに、陽炎が立ち上り、陸地は蜃気楼化してやや海面より浮いて見える位の距離であるにもかかわらず、その形が伺えるほどの大きさだ。


 太陽光を反射する金属色のそれは、パラボラアンテナのような巨大な半球状の駆動部を、こちらに向けてきた。


「一撃だけは防いでやる、その隙に逃げろ。」

 そう言って、竜神はその兵器と島の間に割り込んできた。


 次の瞬間、まばゆいばかりの閃光に辺りが包まれ、竜神の体が粉々に砕けた。

 同時に、直径百メートルはありそうな巨大な円盤が、猛スピードで島の上空に到達した。


「ポチー!う・・・嘘よね・・・、ポチが・・・。」

 ミリンダは、その光景を信じられないと言った悲しみの表情で見つめる。


「早く逃げなさい、竜神様の気持ちを無駄にしないように。」

 苦しそうに発する所長の言葉に促され、マイキー達を連れて瞬間移動の体勢に入る。


『カキーン』しかし、すぐに弾かれてしまう。

 どうやら、巨大円盤に瞬間移動を封じられてしまったようだ。


「まずい・・・、逃げ遅れた様ね。」

 ミリンダは、厳しい表情で腕を組んだ。



 ハルはその時ひたすら飛び続けていた。

 後方では、大陸から巨大な閃光とも言える光の帯が発せられ、その矢面に立った竜神に直撃した光景も、その後に巨大な円盤が飛来し、ミリンダ達に向けて円盤から光線が発せられた光景を、まるで遠い世界の出来事であるかのように見つめながら飛び続けていた。


 やがて、地球の丸さが感じられるくらいの上空にまで達し、そこからは放物線を描くように、自由落下に入った。

 不思議と息苦しさはなかった。

 それどころか、余りのスピードの為に、大気との摩擦で体の周りが真っ赤に燃え上がっているにもかかわらず、熱さもさほど感じてはいなかった。


(死んだのかな?)とも考えたが、竜神の尾に巻き付かれて飛ばされただけで、何の攻撃を受けたわけでもない。

 だから、死んだはずはない。

 どうやら、これが以前ミッテランが言っていた、体の周りにあるオーラが活性化した影響ではないだろうか。


 オーラのベールというか障壁に包まれているから、このような高速で飛行をしていても、ハル自身は何も苦にならないのだ。

 ハルはそのまま何千キロも飛ばされ、落ちた先はジャングルの奥深くの木のてっぺんだった。


 不思議と、落下の衝撃もほとんど受けずに無事だった。

 木の枝がクッションの役割をしたとも考えられるが、やはり、ハルの体を覆うオーラの効果だろう。


「天と地と水と炎に宿る神々と精霊たちよ、わが願いを聞き入れ、わが手足となりて役目を果たす、使徒を授けよ。

 いでよ、竜神!」


 ハルは器用に木の枝を伝って地上へ降りると、おもむろに竜神を召喚しようとした。

 しかし、厚い雲に空が覆われただけで、竜神の姿は現れない。

 また、用もないのに呼び出すなとの文句の声も聞こえては来ない。


「うーん・・・、でも、まだ向こうで召喚されたままだから、出てこられないのかも知れないからね。

 また、少し経ったら、もう一度試してみよう。」


 少し残念そうにうな垂れたが、すぐに気を取り直して、方向を見定め南へと歩き始めた。

 ハルは竜神に飛ばされてからの軌跡を大方把握しているので、自分が大体どこに居るのかの見当はついていた。

 勿論、ハルが来たことがある場所ではない、大西洋のど真ん中で西へ飛ばされて、遥か遠くの別の大陸に落下したのだ。


 恐らく中南米あたりだろう、アメリカ大陸まで飛ばされたという訳だ。

 社会の時間に習った通り、南米の南端付近は南極圏に近い。

 うまくいけば、そのまま南極大陸まで行けるだろう。


 たった一人になってしまったハルにとって、唯一の希望はこれしかなかった。

 生まれ育った故郷である釧路になら、ここからでも瞬間移動で帰る自信はあった。

 未知の土地とはいえ、大体の方角とおおよその距離は判っているから、多少位置がずれても、海面を中継ポイントとして、微調整を繰り返せば、帰ることは可能だろう。


 しかし、帰ったところで何ができる訳でもない。

 魔法を使えば敵の球体が感知して飛んできてしまうから、ハルがいることは、かえって村人たちを危険にさらしてしまうだろう。


 それよりも、ダロンボの言葉だ、わざわざ日本語で話してくれて、あれはハルたちに無駄に戦うなとのメッセージであったとともに、それともう一つ、黄泉の穴を塞いだのは182ヶ所だけだから、1ヶ所だけは開いていると伝えたかったのではないか。


 しかも、ハルの考えが正しければ、それは元々開いていなかった予備の場所、南極の黄泉の穴のはずだ。

 今のハルでは、とてもあの壮大な相手に叶う筈はない。

 とりあえず、トランさんたちがそうしたように、黄泉の国を何回も出入りして修行を積むのだ。


 他に考えられる方法はなかった。

 みんな死んでしまっただろう、いや、死んだところを見たわけではない。

 竜神が倒されたところは見えたが、それでも本当に消滅したかの確認が取れたわけではないし、ましてやミリンダ達の行方は全く分からないのだ。


 どこかで生きているかも知れないし、もし生きているのだとすれば、彼らだって力を蓄えようとして、南極の黄泉の穴を目指すだろう。

 恐らく、今となってはそれが最後の希望なのだ。

 と、突然、ハルの体が宙に浮いた。


「燃えろ!!!」

 ハルの体から発せられた巨大な炎は、ハルの体に巻き付いた太い胴体を焼いた。

 どうやら、体長十メートルは優に超える、アナコンダがハルを締め上げていたようだ。


「ふう、大丈夫かな・・・、見つからなかったかな?」

 ハルは、恐る恐る木立の隙間から空を見上げた。


 ハルの魔法を感知して、球体が追ってこないとは限らないからだ。

 暫く息をひそめていたが、球体は飛来しては来ないようだ。

 恐らく、魔法の強さにも影響するのだろう、弱い魔法であれば、距離が離れていれば感知できないのかも知れない。


 どのくらいの距離を取れば安全と言えるのか、試しながら確認していくしかないと、ハルは決心した。

 そうして、その日は背負っていた剣で蛇を輪切りにして、焼いて食べた。

 ハルの持っているリュックには、着替えの外に非常食の缶詰が入ってはいるのだが、これから何日何ヶ月かかるか分らないので、現地調達するに越したことはない。


 靴が沈んで行くような、ぬかるんだ沼地や湿地帯を進み、時には大蛇やワニなどの狂暴な猛獣と出会いながらも、背中の剣と、制御した魔法で何とか倒しながら進んで行く。

 密林のようなジャングルを抜けると、爆撃で所々大きなクレーターが出来、木々が倒され砂漠化した平原は、水牛やフラミンゴなど野生動物の宝庫だった。


 不思議と魔物には出くわすことがなかった、奴らが人も魔物も管理して、どこかへまとめているのだろうか。

 そうして5ヶ月かけて、ようやく大陸の先端へ辿りついた。

 凍りついた海の向こうには、南極大陸があるのだ。


 ハルは、恐れることなく、氷の上をひたすら進んで行った。

 もしかしたら氷の薄い部分があって、氷点下の海に落ちてしまう可能性もあるのだが、不思議と恐怖感はわかなかった。


 しかも、出て来た時期が夏だったので、ハルは夏服しか持ってはいなかった。

 半そでのシャツに学生服のズボン姿だったが、不思議と寒さは感じなかい。

 南半球なので、12月の今は夏なのだろうが、極地でもあり、極寒なのは間違いがない。


 それでも、ハルの成長したオーラが身を守っているのか、外気を感じることはあまりなかった。

 というより、未知の敵との戦いで失った仲間の事を思うと、多少の寒さや暑さなど、気になる状態ではないと言ってもいい。


 特訓の最中に、闇の王子の声が聞こえて南極へ飛んできた時に出会ったナンバーファイブも、メイド服姿で極寒の地で平然としていたが、それはオーラで守られていたおかげだったのかも知れないと、改めてハルはこれから黄泉の国での特訓で、7聖人たちをしのぐ力を身に付けようと胸に誓った。


 もう、ハルだけなのだ、自分がやらなければ、この世界は突然浮上してきた、数千万年前から海中で眠っていた恐竜の子孫たちの手に渡ってしまうのだ。

 そんなことは絶対にさせない。


 ハルは、改めて南極まで苦労してやって来た目的を、再認識した。

 平坦な氷でできた道を進んで行くと、やがて所々にコケや草が生えている大地へ辿りついた。

 南極大陸に到達したのだ。


 そこから、辺りを見回し、大体の方角の検討を付けてから、以前訪れた7聖人たちの基地目がけて瞬間移動してみた。

 瞬間移動であれば、魔法力は強くはないので、こんな南の果ての地であれば、感知されにくいだろうと思っての行動だ。


 なにせ、年の瀬はもう近い。

 カレンダーを持ち歩いている訳ではないので、はっきりと日付までは判らないが、ノートに毎日日付を付けて行った限りのデータでは、後2日で大晦日だ。


 目の前には、見慣れた金属とプラスチックでできた建物が、半分雪に埋もれて存在している。

 誰も、この場所には近づいていないのだろう。

 ハルは、急いで入口の雪を掻き出すと、中へ入って行った。

 そうして、以前来た時に所長がしていたように、発電機のエンジンを回し、暖房のスイッチを入れた。


「ふう、これでしばらくすれば暖かくなるだろう。

 今日は何日かな。」

 ハルは、そう言いながらカレンダー付きの時計を探す。


 そうして見つけた卓上の置時計は、12月29日の18時を指していた。

 ハルの記録通り、後2日で黄泉の穴が開く。

 しかも、今年がうるう年だったから、31日の朝から開くはずだ。


 ハルはふうとため息をつきながら、机の前のキャスター付きの椅子に腰かけた。

「長かった・・・。」



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