第49話
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「おとなしく出てきてくれ、安全は保障する。」
在宅兵士の家庭に対して、スターツが拡声器を使って降伏を呼びかける。
『ガッシャーン』窓ガラスが割れる音がして、そこから長い筒状のものが飛び出すと、その先から光線が発せられる。
「敵はレーザー銃で、攻撃をしてくるようです。」
兵士たちはすぐに物陰に身を隠し、マシンガンを構える。
『ガガガガガガッ』『ガガガガッ』『ガガガガガガガッ』『ガガガガガッ』その家を囲むようにして、四方から銃声が響き渡る。
「この家は既に包囲されている、直ちに武器を捨てて出てきなさい。
30秒以内で降伏しなければ、武力を行使しなければならない。」
スターツは威嚇射撃の後で、再度拡声器を使って呼びかける。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『ガチャリ』家の中が静まると、やがてドアが開き、中から恐竜人数人が武装を解いて出て来た。
スターツは、そのうちの軍服を着用しているものだけに魔封じのネックレスを着用させ、それ以外の家族には、他の家族と一緒に広場の一角に集まってもらうよう指示をした。
そうして、順に次の家へ回って行き、ゆっくりとだが、居住区も制圧して行った。
激戦となったのは、独身者用の寮施設だった。
5階建ての各階から発射される光線に対し、ホーリゥが障壁を張って防戦一方の様子だ。
「灼熱のバズーカを打ち込みますか?
2〜3発撃ちこめば、おとなしくなると思いますが・・・。」
米軍リーダーのホーナー少尉が、組み立て式のバズーカ片手に、ホーリゥの所へやって来た。
「でも・・・、それでは建物が発火するでしょうから、犠牲者も多く出てしまいます。
なんとか、もう少し平和的な解決方法で・・・。」
ホーリゥは、武力行使を主張する兵士たちを何とかなだめる。
「あっしが、なんとか上から行って、レーザー銃を取り上げてみますよ。」
すぐに、飛び太郎が立ち上がり、ホーリゥが障壁を解く一瞬で、上空高くへ舞い上がった。
そうして急降下すると、5階部分の窓から突き出している、レーザー砲の先端をつかみ、持っていた恐竜人兵士ごと急上昇した。
すぐに折り返し、両手に1本ずつのレーザー砲と恐竜人兵士を抱えたまま、自軍へ舞い降りてきた。
そこには、後から追いついて来た、ネスリーとマイティたちの部隊が、マシンガンを構えて待ち構えている。
すぐに恐竜人兵士たちは、レーザー砲を離し、降伏をした。
その様な事を数回繰り返し、寮の窓から出ているレーザー砲はすべて除去された。
「身の安全は保障するから、おとなしく出てきてくれ。」
厄介なレーザー砲は全て片付けたうえで、マイティが拡声器で降伏を呼びかける。
すると、中から十数人の恐竜人兵士たちが武装を解いて出て来た。
彼らにも、基地内の戦闘状況は伝わっていたのだろう。
レーザー砲による威嚇攻撃の外は目立った抵抗もせず、それも封じられるとおとなしく降伏勧告に応じたようだ。
魔封じのネックレスと魔封じの紐が手渡され、それらを付けさせると、洞窟内の牢獄へ収容された。
その後、恐竜人家族に関しては、引き続き各自の家で待機するように告げられ、家に帰された。
居住区には、スパチュラ達第9班が居残り、監視することになった。
これで居住区も制圧され、残るは次元通路のみとなった。
『シュキィーーーン!』『キィーーーーーン!』
金属のぶつかり合う甲高い音が、次元通路にこだまする。
どれくらい続いているのだろう、交差する剣先の軌跡が天井からのライトに照らされ、残像のように映し出されるだけで、実際の撃ちこみは速すぎて誰の目にも認識することは出来ない程だ。
当初は、次元通路に精通しているミライが、地の利もあり有利に攻め立てていたのだが、ジミーも慣れて来たのか途中から押し戻し、今ではほぼ互角の討ち合いを続けている。
そうして、その傍らにはナンバーファイブとハルがいるのだが、二人とも彼らの戦いには目もくれていない。
ナンバーファイブは、トランを失った悲しみで、茫然自失の状態であり、ハルはどうした訳か通路の壁にもたれかかったまま、先ほどからピクリとも動かない状態だ。
「ちいっ!」
先ほどから、自分の左耳を気にするそぶりを見せていたミライだったが、舌打ちをすると振り下ろす剣を止めた。
「うん?どうした、もう終わりか?」
剣を受け流して反撃に転じるつもりでいたジミーだったが、当てが外れた様で少しバランスを崩してよろけたほどだ。
「ああ・・・、この基地は全てお前たち人間と魔物たちの混成軍に制圧されたようだ。
ここで、俺ががんばってお前ひとりを倒したところでどうともなるものではない。
なにせ、次々と強敵の相手をしなければならなくなりそうだからな。」
ミライは覚悟を決めた様に、軍刀を鞘に納めると、鞘ごと床に丁寧に置いた。
その言葉に対し、ジミーが後方へ目をやると、そこには既にミリンダやゴランたちの部隊の姿があった。
バームたちを制圧したのちに、こちらへ応援に駆け付けたようだ。
「じゃあ、申し訳ないが、これを付けてくれ。
君たちが魔法を使おうとすると、紐が絞まって行って首が絞まる魔封じの紐だ。
十分な強度があるから、細いからと甘く見ずに、魔法を行使することは避けてくれ。
君たちが、我々に対して危害を加えようとしない限り、我々も君たちに危害を加えるつもりはない。
なにせ、君たちから見た我々人間と違い、我々から見た君たち恐竜人たちは、家畜や食糧では決してないからだ。
一緒に、この星で生活していける、同胞とも考えている。
だから、こんなものを付けてもらうのも少しの間だけだ。
お互いの安全と、共生方法が確立されれば、外せるようになるので、今だけお願いする。」
ジミーは丁寧に恐竜人兵士たちに説明すると、魔封じのネックレスを手渡した。
「ハル、ハル?どうしちゃったの?」
異常に最初に気づいたのは、やはりミリンダだった。
様子がおかしいハルの元に駆けつけると、大声で声を掛けるが反応がない。
「息が弱いし、脈も弱い。
外傷は無いようだけど、どうしてこんなに弱っているのか。」
すぐにゴランも駆けつけてきて、ハルに治癒魔法を施そうとする。
「ああ・・・、この先の次元通路の奥に、強力な電磁波で覆われた場所があるんだが、先ほど、その中に飛び込んで黒焦げになった、我々の仲間の兵士を何とかして取り出そうとしていた様子だった。
もしかして、電磁波にやられたのかも知れんぞ。」
ミライが、その様子を見ながら、ミリンダ達の背後から声を掛ける。
「えっ・・・、ハル君!おい、大丈夫か?」
ミライを護送しようとしていたジミーも、その言葉に驚いてハルの元へと駆け寄ってきた。
しかしハルは、何の反応も返すことはなかった。
「黒焦げになった恐竜人って・・・、もしかしてトランさんが乗り移っていたっていう、恐竜人の事?」
ミリンダが視線を移すと、そこには黒焦げの遺体と、傍らで茫然と宙を見つめているだけの、ナンバーファイブの姿があった。
「ハル・・・ハル!しっかりして。」
ミリンダが更に大声で声を掛けながら、ゴランと一緒に治癒魔法を施す。
治癒系の魔術者加わり、数人がかりで治癒魔法を始めたが、依然としてハルは昏睡状態だ。
「だめだ、オーラがほとんど感じられない。
このままでは死んでしまう。」
ゴランがハルの体にかざしている両手に力を込めるが、何の手ごたえも得られずに、小さく首を振る。
「は・・・る・・・く・・・ん・・・?
はっ・・・ハル君・・・?
ごめん、あたしの我儘のせいで・・・。」
ミリンダ達の声がようやく聞こえたのか、正気を取り戻したナンバーファイブが、ハルの元に駆け寄ってきた。
「あたしに任せて、マザーから教わった秘伝の方法があるのよ。」
そう言うと、ナンバーファイブはハルの体を強く抱きしめる。
すると、二人の体が淡い光に包まれる。
その光は暖かく、周りに居るものでも、気持ちが和らぐような心地よさを感じさせた。
「う・・・うん?みんなどうしちゃったの?」
やがて、ハルが目覚めるが、みんなの心配そうな顔つきを見て、不思議そうな表情だ。
「馬鹿っ・・・、ハルは今にも死にそうな状態だったんだよ、それをナンバーファイブさんが・・・。」
ミリンダは、涙を拭きながら笑顔を見せた。
「ナンバーファイブさん・・・?そう言えばトランさんが乗り移った恐竜人の体を次元通路から出そうとして、でも、電磁波が流れているから危なくて、仕方がないから特訓の時に身に付けた、義手や義足を動かす要領で、なんとか体をこちら側に押して来たんだ。
でも・・・、恐竜人の体を動かそうとするたびに、僕の方があちこち痛みを感じて、でも中へ入った訳じゃないよ、あくまでも外から動かそうって力を込めただけなんだけど・・・。」
ハルが不思議そうに、自分の体のあちこちを触る。
「それは、ハル君の体のオーラが電磁波の影響を受けたのよ。
傀儡の術は、あくまでもオーラで対象物を覆って、自在に動かす技だから、オーラ自体は電磁波に曝されるわ。
だから、オーラが傷ついて大きなダメージを負ってしまったのよ。」
ハルが顔をあげると、そこには、駆けつけてきたミッテランの姿があった。
「どうりで・・・、オーラがほとんど残っていなかった訳だ。」
ゴランも納得したように大きく頷く。
「ナンバーファイブさんに、お礼を言わなきゃいけないわよ、彼女に助けてもらったんだからね。」
ミリンダが、ハルの体を起こしながら、その上に覆いかぶさったままのナンバーファイブをいたわる。
「うん・・・、ナンバーファイブさん、ありがとう・・・、ナンバーファイブさん?」
ハルが驚くのも無理はない、ハルが両肩を掴んで体を起こそうとすると、ナンバーファイブは顔面蒼白で、息も絶え絶えな状態だった。
「そんな・・・。」
今度はゴランもミリンダもミッテランも加わり、ナンバーファイブに治癒魔法を施す。
「いいのよ・・・、治癒魔法をいくらしても、ここまでオーラが減ってしまうと、回復することはないの。
マザーにも言われていたわ、あたしたち人間がやったら、代わりに自分が死んでしまうから、絶対にやってはいけないって。
吸血鬼一族だからできる、オーラのギフトなんだって。
本当は、トラちゃんを助けたかったんだけど、体が真っ黒焦げでオーラを移しても助けられそうもなかったのよ。
玉を取り出せば、治療できると思って玉に触ったら・・・、ぼろぼろに崩れちゃって、助けられなかったの。
ごめんなさい・・・、折角運び出してくれたのに・・・。
あたしがわがままを言って、トラちゃんが乗り移っていた恐竜人の体を取り出してほしいって、頼んだことが原因なんだから、あたしは命を捨てても、ハル君を助けなくちゃいけなかったのよ。
だから、いいのよ。唯一の家族とも言えるトラちゃんも逝ってしまったし、あたしもその後を追って逝くわ・・・。」
そう言い残して、ナンバーファイブはこと切れた。
赤ん坊の頃にトランに命を救われ、そこからは人里離れた南極基地で育ち、7聖人以外の人間達と関わりを持つこともなく、短い一生を終えたのだ。
「なっ・・・ナンバーファイブさん・・・。」
ハルがその体にすがりつくようにして、泣き崩れる。
恐竜人たちの大陸前の小島で出会ってから、一人ぼっちだったハルを励まし、支えてくれた大きな存在だった。
彼女がいなければ、恐竜人たちとの戦いに勝利することはなかっただろう。
それほど大きな存在だったのだ。
みんな、悲しみの余り途方に暮れていた。
ただ一つ幸いだったのは、ミライ達恐竜人兵士たちが、拘束されている訳でもなく、ただ魔封じのネックレスを装着しただけなのに、動きを止めたミリンダ達に付き合って、何もせずにその場にたたずんでいたことだった。
既に、勝敗は決しているから、無駄なあがきはしないつもりだったのだろうか。
「吸血鬼一族であれば出来るっていうんなら、僕がやってみるよ。
さっきの彼女の仕草を見ていたから、大体のやり方は覚えているよ。」
そんな中、ひらひらと舞い落ちる黒い布切れが、突然人の姿に変わった。
「ゴロー・・・、居たの?」
ミリンダが、その姿を訝しそうに見つめる。
「居たのじゃないよ、僕は特訓ではそれほど力を得られなかったから、部隊に振り分けられることもなかったけど、ミリンダちゃんのお供としてずっと一緒に居たよ。
今だって、上の方から様子を見ていたさ。」
そう言って、ゴローはハルの傍らに寝かしつけられた、ナンバーファイブの体の上に覆いかぶさった。
「け・・・決してやましい気持ちじゃないんだからね、僕はミリンダちゃん一筋だから・・・・。
これは、人助けとしてやむを得ず・・・。」
顔を真っ赤にしながらゴローが、必死にミリンダに向かって弁解をする。
「分っているわよ。いいから、助けられるのなら、何でもやってあげて・・・。」
ミリンダはそう言いながら両手を合わせて、拝み始めた。
ゴランやジミー、ハルも同様に両手を合わせる。
「わ・・・分った・・・。こうやって・・・。」
すると、ゴローとナンバーファイブの体が淡い光に包まれて行く。




