第48話
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「Go!」
ブル中尉指示の下、侵入先の円盤発着場で、米軍兵士たちは左右に散った。
目指すは、発着場の制圧だ。
ミッテランたち魔術者が、周囲を警戒しながら広い発着場中央へと歩を進める。
「Oh! What is it?」
その時、兵士たちの悲鳴のような声を聞きつけて、ミッテランが周囲を見渡す。
そこには、頭の周囲を小さな虫のようなものにまとわりつかれている兵士たちの姿があった。
「ふっふっふっ・・・。
おとなしくしていれば、何ともないが、ちょっとでも逆らえば、ビームの餌食だぞ。
小円盤では、ビームの威力は弱いが、それでもこんな近距離で直撃を食らえば、如何に鍛え上げた体でも耐えられないだろう。
しかも、近距離過ぎて障壁の中に位置するから、どうやっても、すぐに真っ黒焦げだ。
お前たちが持っている、魔封じのネックレスや魔封じの紐というものと同様、我々には精神感応検知用の球体と攻撃用円盤があるのだぞ。」
なんと、兵士たちの周りをまとわりつくようにしているのは、虫などではなく小球体と小円盤のようだ。
「Oh No!」
「Shit!」
兵士たちは、手に抱えていたマシンガンやバズーカを床に置いて、両手を高く上げて降伏した。
「小円盤や小球体に関しては、鬼たちの管理の為に大半が出払っていて、予備在庫として8組しかなかったが、これでも十分な効果はあるようだな。
お前たちが逆らうようなら、この兵士たちの命はないぞ。
さあ、どうする?」
ムース小隊長は、勝ち誇るかのように、手にはリモコン装置を持ったまま、ミッテランたちを睨みつける。
その背後には、配下の兵士たち十人ほどが武器を構えている。
「わ・・・分った・・・、降伏する。
だから、小円盤は下げてくれ。」
ミッテランは両手を高く上げて、他の魔術者たちにも降伏する様、目で合図した。
「まずは、お前たちが使っている、魔封じの紐というやつを出せ。
そうして全員に配って、首に巻かせろ。」
ムースの指示通り、ミッテランは魔封じの紐を取出し、全員に配ると首につけさせた。
「ようし、これで、お前たちに抵抗の術は無くなったということだ。
ずいぶんと好き勝手をやってくれた様子だな。
ここにあるモニターで見ていたが、我が軍の犠牲者は多数出ているようだ。
お前たちにも、多少は犠牲になってもらわなければ、釣り合いが取れないというものだ。
まあ、5名は死んでもらうかな・・・。」
ムースはリモコン装置を手に、いやらしい笑みを浮かべる。
「ば・・・、ばかな・・・、我々は降伏したぞ・・・、それを・・・。」
ミッテランが、厳しい目つきでムースを睨みつける。
「まあ、後で何とでも言い繕えばいいのさ。
どうせ、一人として、まともに口を聞ける状態にしておくつもりは毛頭ない。
後で、部下の兵士たちの、訓練代わりのサンドバッグでもやってもらおうかな。
まずは、小球体の操作だ。
精神感応の感度をどこまでも上げて行って最大値にすると、ほんの少しでも脳が思考するだけで感知できる。
つまり、つまらん考え事をするだけで、精神感応として小円盤の攻撃を食らう訳だ。
まあ、報告上は小球体や小円盤に囲まれても、抵抗を続けたとでも言っておくさ。」
そう言いながら、ムースはリモコンのスイッチを回そうとする。
「あれ?回らない・・・、随分と固いな・・・。」
ムースがどれだけ力を込めても、そのスイッチが回ることはなかった。
「お・・・おかしいなあ・・・・、仕方がない、直接小円盤に攻撃をさせよう。」
そう言って、ムースは、今度は別なスライドボリュームに手を掛ける。
「あれ・・・?これも動かない・・・、変だぞ?」
ムースはそう言って首をかしげる。
「ふん、おまえの体は、最早自由はきかん。
私を本気で怒らせたのが間違いだったな・・・。」
そう言い放つミッテランは、目が爛々と輝き、長い黒髪をたなびかせていた。
「馬鹿な・・・、おまえが何かしているというのか・・・?
俺様の体を乗っ取ったとでもいうのか・・・?」
ムースは苦しそうに顔をゆがませながら、それでも何とかリモコンの操作をしようと手に力を込める。
「体を乗っ取った訳ではない。
傀儡の術とでもいおうか・・・、私のオーラでお前が体を動かすのを邪魔しているのだ。
本来なら、死んだ者やはく製などの体を動かす方法なのだが、別に生きているものの体でも可能だ。
普段はこんなこと、絶対にやりはしないのだがな・・・。」
ミッテランは厳しい目つきで、ムースを睨みつける。
「ばかな・・・・、精神感応を使っているなら、なぜ魔封じの紐が縮まらない?
首が飛ぶはずだろう?
さては・・・騙したな?偽物の紐を使って、欺いたという訳か?
卑怯な・・・。」
ムースは、地団駄踏んで悔しがる。
「騙してなどいない。魔封じの紐は本物だ。
しかし、お前の体の動きを封じる位、さほどの魔力を使わなくても可能だ。
なぜなら、怒りの気持ちが魔力を増幅させているのだからな。
大体、卑怯なのはどっちなのだ?
恐竜人兵士たちも色々とみてきたが、中には気骨がある奴もいれば、礼儀を重んじるもの、争いを好まないもの、信念を持って戦おうとするもの、様々な者がいるようだ。
お互いに種の存続をかけての戦いということで、戦いによる犠牲や結果に関しては、互いに恨みっこなしという気持ちでいたのだが、お前だけは別だ。
お前など、生きるに値しない、消えろ!」
「うぎゃーーーーっ!」『ボギッ!』
ミッテランが告げると、ムースの体はあらぬ方向へ曲がり、丁度雑巾が絞られるように何回転もねじられ、やがて鈍い音を立てて果てた。
「お前たちはどうする?上司であったこいつと共に果てるか?」
ミッテランは、床に転がったムースの体の後ろ側で、武器を構えている兵士たちの顔を見回した。
「い・・・いえ・・・、自分たちは降伏いたします。」
兵士たちは武器を全て床に置き、すぐに降伏をした。
「そうか・・・、だったら、そのリモコンとやらで、小円盤と小球体をどかせてくれ。」
「はい、分りました。」
先頭の兵士がすぐに小円盤と小球体を、米軍兵士たちの周りから排除する。
「ありがとう。
申し訳ないが、お互いの安全の為に、魔封じの紐を付けてもらう。
しかし、私は絶対に卑怯な真似はしないと誓う。
君たちが抵抗しない限り、君たちの安全は保障する。」
そう言いながら、ミッテランは首に深く食い込んだ魔封じの紐を自ら外し、自軍の兵士たちの分を順に外していくと、恐竜人兵士たちの首に巻かせた。
「このリモコンで、地上に居る鬼たちの周りを飛んでいるという、小球体と小円盤も無力化することができるのか?」
ミッテランはリモコンを恐竜人兵士から受け取ると、大事な質問をしてみた。
「いえ、地上の鬼たちを監視している小球体と小円盤は、確かにこの基地のものですが、操作は本体が直接行っております。
その為、この基地では操作することができません。」
恐竜人兵士は、申し訳なさそうに頭を下げる。
「そうか、分った。」
ミッテランは、恐竜人捕虜たちを洞窟の中の牢獄へ送り届けると、リモコンを所長に手渡した。
所長は興味津々で、リモコンの働きの分析に入ったようだ。
「おとなしくしてくだされば、無駄な犠牲者も出ずに済みます。
無駄な抵抗はやめて、おとなしく降伏してください。」
食堂の調理室へ入ると、マルニーがすぐに恐竜人兵士たちに降伏を勧告した。
「は・・・はい・・・、私たちは軍に所属していますが、実際はただの料理人です。
包丁以上の重いものを持ったこともありません。
戦う方法も知りませんし、降伏も何も、はなから戦闘に参加もしていません。」
調理室で洗い物を続けていた恐竜人たちは、すぐに降伏をして魔封じのネックレスを首に巻いた。
女性がメインの調理部隊員は、各区画での戦闘の様子をモニターで確認していて、観念して調理道具を洗って待っていた様子だ。
そのまま洞窟の牢獄へと向かった。
「アカミって人はいるかい?」
居住区へ侵入したスパチュラは、とある住宅の前で声を掛ける。
「はい、私ですけど・・・。」
中から、半分だけドアを開けて、不安そうに小さな声で返事が返ってくる。
「ここに世話になっていた、ナンバーファイブってやつと、トン吉からの伝言だ。
おとなしくさえしていれば、絶対に安全だ。
自分たちを普通に扱ってくれたように、あなたたちも正当に扱う。
だから、チュートロちゃんと共に指示に従ってくれっていう内容だ。
あたいも保証する、絶対に悪いようにはしない。
そりゃ、兵士たちには暴れて強力な魔法を使われちゃ困るから魔封じの紐などを巻いてもらうが、一般人である家族にはそんなことはしない。
人数把握の為に、一旦出てきてもらうだけだ。
だから、おとなしく従ってくれ。」
スパチュラが玄関先で大声で告げる。
なるべく、強制的に連行することは避けたいつもりでいた。
ドアを無理やりぶち破って、中から連れ出すなど、一般人である家族にとっては、死にも等しい恐怖だろう。
そんな乱暴な真似だけは、しなくはないという思いがあった。
「・・・、分りました・・・。」
しばし間をおいて、子供連れの恐竜人婦人が、不安そうに辺りをきょろきょろと見回しながら、家から出て来た。
その後、アカミにも協力してもらい、1軒1軒説得して回り、在宅の家族に家から出てもらった。
「悪いなあ、残っている人がいないか、念のために確認させてもらうぞ。」
そう言いながら、飛びの助が飛び上がって上から不審者がいないか一帯をチェックし、スパチュラが各家の中を確認していく。
その間も、米軍兵士が、家から出て来た兵士たちの家族の名簿を作成していく。
「あなたたちは、突然、闇の存在確認用の表示板がある扉から現れて、瞬く間にこの基地の主要な拠点を制圧してしまいました。
今では、次元通路とこの居住区以外は、全てあなたたちの兵士の手に渡ってしまっています。
どうして、このように正確に私たちの基地の重要な拠点が分っていたのですか?
やっぱり、うちに滞在していたファイブちゃんやトンちゃんがスパイだったのでしょうか?
妙に、トルテ君と仲が良かったし、家族同然にやさしくしてあげたのに・・・、ショックだわ。」
アカミは、悔しそうに唇をかんだ。
「いや、あの二人はスパイ活動をしていた訳じゃない。
あんたの家の手伝いで手いっぱいだったようだよ。
チュートロちゃんっていう、かわいい子供の相手をしたりしてね。
この基地の情報をくれた奴は別にいる・・・と言っても、恐竜人の中に裏切り者がいるわけではない。
まあ、後で紹介するからその時にでもわかるさ。
それよりも実際に戦っている、あたいらでも知らないような戦闘状況を、どうしてそんなに詳しく知っているんだい?
まさか、あんたがこの基地の司令官という訳ではないんだろ?」
各戸の確認を終えて戻ってきていたスパチュラが、アカミの問いかけに反応した。
スパチュラには、トランが既に絶命していることは分っていないし、またアカミにもトルテ中隊長の次元通路での行動は奇異に映ったのだろうが、それが反逆行為だとは知る由もなかったのだ。
「それは・・・、我々恐竜人は戦闘民族ですから、部族のものが戦う時はその光景を中継いたします。
たとえ、血しぶきや肉片が飛び散るような凄惨な光景が映し出されようとも、我が種族繁栄のための戦いですから、目をそらさずに記憶に焼き付ける様にと小さいころから教えられています。」
要するに、タイガ中隊が地上制圧に円盤で進行した時のように、この基地内での戦闘も全て基地内どころか各家庭にまで中継されている様子だ。
しかし、各区画での自軍の不利な状況を目の当たりにしていながら、そこへ援軍に行こうとは考えなかったのだろうか・・・いや、人間たちの行動が素早すぎて、対応する間もなかったのだろう。
「そりゃ・・・、詳しいはずだ。
そうかい、今のところは、あたいらが優勢な訳だな・・・、情報ありがとう。」
スパチュラは、にっこりと笑顔を見せた。
アカミの協力もあり、また恐竜人よりはるかに小柄な人間と魔物たちで構成されているためか、さほど怖がるそぶりも見せず、また、戦況もしっかりと把握している様子で、出て来た家族たちは抵抗することもなく、広場の一角でおとなしくしていた。
厄介なのは、夜勤を控えて在宅している兵士たちだった。
家族もいる住宅地では戦闘を始めたくないのはお互い様。
しかし、かといって他へ場所を移してなどと言ったことは出来るはずもない。
様々な場所で、小競り合いが始まっていた。
『ガガガガガガッ』マシンガンが鳴り響く。
と言っても、狭い住宅地の中、水平撃ちをして一般人を撃つといけないので、上空へ向けて撃つ、いわゆる威嚇射撃だ。




