第46話
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トランは最後の力を振り絞って、瞬間移動した。
「うん?姿を消したな・・・今更そんなことをしても無駄だ、滴り落ちる血がお前の位置を物語るわ。」
ミライは、すぐに周囲の床を確認するが、どの方向にも血痕を発見することができない。
しかし、トルテ中隊長が守っていた洞窟へ続く扉の前にも血痕が発見できなかったため、ほくそ笑んだ。
「命惜しさに、あきらめたか・・・。」
ミライはその姿を追おうともせずに、洞窟へと続く扉の前へ進んだ。
『カチャ・・・ガチャリ!』ところが、はるか後方でドアが開く音と、それに続く音が・・・
「しまった、次元通路か!」
ミライには、トルテ中隊長が向かった先が、なんとなくわかったような気がした。
急いで、今来た通路を駆け戻って行く。
『ガチャガチャガチャ』ドアノブを回しても、鍵がかかっているようで開かない。
「おーい・・・、開けてくれ!」
ミライが扉の向こう側に向けて叫び声をあげるが、向こうの部屋に人の気配はない。
詰めているべき監視兵たちは、今も本部室に居るのだ。
本部室へ立ち寄ったミライは、兵士たちにトルテ中隊長の行動を聞きだしたのだが、怪しい点はあったものの、確実な証拠もなしに疑いを掛けるわけにもいかないため、兵士にはそのままトルテ中隊長を待っているように命じて、自分だけ監視室を通って長い通路の先へ向かっていたのだ。
ここにトルテたちがいなければ、他の通路へ向かうつもりで・・・・・。
幸いにも最初に向かった通路で、トルテ中隊長を発見し、化けの皮を剥ぐことができ、捕える寸前までいったのだが、寸でのところで逃げられてしまった。
いや、別に逃げられても良かった・・・、トルテ中隊長が隠したかった、地上へのアクセスルートが解明できれば、そちらの方がありがたいのだ。
だから、先へ進もうと考えてふと、不安要素が頭をよぎった。
次元通路だ、次元通路へ向かって死に物狂いで暴れられて、装置を壊されては面倒なことになる。
修理が長引けば、本隊が目覚める時が遅れる可能性だってある。
なにせ、即死は免れたとしても、致命傷には違いがない。
恐らくどれほどの時間も、奴には残されてはいないだろう。
それだけに、捨て身の行動には注意する必要性があった。
「仕方がない・・・・・、竜弾!!!」
ミライは、ドアのかぎ部分に向けて、正確に魔法攻撃した。
『ズゴーン!』大きな爆発と共に、ドアノブごと消し飛び、ドアが半開きになる。
ミライは、煙が収まるのも待たずに、その先へと駆けて行った。
「ちゅ・・・中隊長殿・・・、いかがいたしました?」
血まみれのトルテ中隊長の姿を見て、次元通路の奥への出入りを監視している警備兵は立ち上がり、更に通路勤務の兵士たちが驚いて駆け寄って来た。
「い・・・いや・・・、捕虜どもにやられてしまった・・・、次元金庫が危ない。」
トランはそう言いながら、血が止まらない傷口を右手で押さえながら、次元通路の奥へと進んで行く。
これには、警備兵もどう対応してよいのか分からず、そのまま立ち尽くしていた。
トランは、そのまま監視役の各分隊の冷凍睡眠モニターを通り抜け、本隊のモニターも通り抜け、更に奥へと進んで行く。
「あっ、そこは・・・。」
「いいから・・・・、障壁!!!」
『ジュワッ!』障壁など、ここの電磁波には何の防御にもならないことは重々承知していた。
しかし、ほんの少しでも長く生き延びる事だけを考え、その先へと進んで行く。
『ジュワッ・・・ジュッ・・・ジュボジュボ・・・』
既に自分の寿命が長くはない事を感じ取っていた。
思えば、トルテから受けた一撃で、既に水晶玉にはひずみが生じていたのかも知れない。
それが、今回のミライの攻撃で致命傷となったと言える。
どの道、短い命、最後の奉公とばかりに持てる力を振り絞る。
体中を熱線が突き抜けて行くような激しい痛みに耐えながら、トランは操作盤へ向き直った。
「さあ、いよいよ恐竜人たちの基地に入るよ。
急がなくっちゃ、トラちゃんが皆が来るのを今か今かと待っているよ・・・。」
ナンバーファイブを先頭に、ハルたちが隊列を組んで洞窟内を行進してくる。
「はい、ミリンダ達が小さくなって固まっていた、監視部屋と監視本部室に1小隊、次元通路の管理担当に1小隊と警備担当に1小隊。
更に、地上との交渉役に2小隊と円盤の発着場警備に1小隊と食堂担当に1小隊で昼間勤務は7小隊。
加えて、交代勤務の夜勤で監視部屋と監視本部室及び次元通路と円盤の発着場警備に1小隊ずつ、3小隊となっていましたね。
その10小隊というか、7小隊と、恐竜人家族が暮らしている居住区に対して、こちらも各班を所長さんとジミー先生が振り分けてくれました。
ですから、基地内へ入ったら、それぞれ自分の担当部署へ直行できます。」
ハルが、各班の区分表を手にしながらナンバーファイブに歩きながら説明する。
なにせ、彼女たちが南極基地へ着いてから、休む間もなくトンボ返しで恐竜人基地へ攻め込んできたのだ。
ナンバーファイブはハルたちと一緒に、トランが詰める次元通路へ向かう予定となっている。
「そ・・・それよりも・・・ですね・・・、み・・・ミリンダ、丁度いい。
7聖人たちと戦うための特訓の最初の頃は、おむつを付けて修業したんだよね。
決して僕が、趣味でおむつを付けていた訳ではないよね。
そう、ナンバーファイブさんに説明してあげて。」
ハルが、今こそ汚名を拭う時とばかりに、ついてくるミリンダに対して、誤解を解くよう説明をお願いする。
「ちょ・・・なあに・・・おむつ・・・・?思い出したくない記憶を蘇らせるような言葉はやめて。」
戦いを前に真剣な面持ちでついて来たミリンダが、場違いなハルの言葉に、明らかな嫌悪の表情を見せる。
「いや、だから・・・、僕がおむつをしていたって・・・、それが僕の趣味だってことになっているんだよ。
だから、僕にはそんな趣味はないって・・・、説明してあげて欲しいんだ。」
ハルは、何とかミリンダを味方に引き入れたいと考え必死だった。
「なあに・・・、ハルは普段からおむつをするのが趣味だったの?
ナンバーファイブのお姉さんと、おむつプレイをしようとして断られたってこと?
ちょっと・・・幻滅・・・、若いうちはあんまり、ディープな事はやらない方がいいわよ。」
ミリンダには冷たくそっぽを向かれてしまった。
「ちょ・・・、ハル君、おむつプレイは、ミリンダちゃん公認じゃなかったんだ。
じゃあ・・誰とプレイしていたのかな?」
ナンバーファイブが意味深な笑みを浮かべる。
「だから・・・、違いますよ、あれは特訓の方法で・・・。」
ハルは必死で弁解をしようとするが、決戦を前にみんな神経を集中させようとしているせいか、ハルの言葉は皆の耳には届いていないようだ。
そんなこんなで、広い洞窟をレールを頼りに行進してきた。
「ちょ・・・なに・・・?」
洞窟から基地内の通路へ入ってすぐに、余りの惨状にナンバーファイブが固まる。
扉を開けたすぐ先が、血の海と化して床がおびただしい鮮血で、真っ赤に染まっているのだ。
それは、トランか若しくはトランの戦った相手のどちらかのものであることは、明確であった。
「ど・・・どうしよう・・・。」
ナンバーファイブは、不安そうにオロオロとする。
トランの強さは承知しているつもりではあるが、それでもここでは周り中敵だらけで、味方は1人もいない状態なのだ。
「血は、ここだけのようですね、もしかするとトランさんが恐竜人兵士を倒して、死体をどこかに隠したのかも知れませんね。」
ハルも、注意深く壁などに飛び散った血痕の様子を観察しながら推理する。
「そうだといいけど・・・、いやな予感がする。急ごう。」
ナンバーファイブに促されて、ハルも自然と早足になる。
「ここにも、血の跡が・・・。」
長い廊下の先の扉の前にも、おびただしい血痕が・・・
もう、あれこれと思索している余裕などはなかった、すぐに破壊されたドアを開けて中へ入ると、部屋の中を駆ける様にして、奥のドアへと進む。
「じゃあ、振り分け通りに自分たちの対応する場所へ向かってくれ。
気を付けて行動するようにね。
危ないと感じたら、それ以上戦わなくてもいいから、サポートが来るまで時間稼ぎなどしていてくれ。」
ジミーに促されて、通路の分岐でそれぞれの担当場所へと散って行く。
それを見送りながら、ハルたちは次元通路へと進んで行く・・・、床の血痕も次元通路へと続いているのは、最早明白だった。
「ちいっ、遅かったか。」
ミライが次元通路へ着いた時には、トランは既に奥の強電磁波に囲まれた、次元金庫のコントロールルームに入っていた。
「どうするつもりだ、次元金庫のコントロールルームを破壊しようと言うのか?
そんなことをしても無駄だ。
確かに本隊が存在する次元に関してもコントロール可能だが、今現在本隊は、自分達で次元操作をしているから、ここを破壊したところで、何の影響もないぞ。
こちらの装置がメインだから、切り替えスイッチで、こちら側の操作に切り替えてしまえば、1時的にしろこちら側でしか操作不可能な状態にはなる・・・、しかし、すぐに本隊側の次元からこちらの時間の流れに同期させた新しいコントロールで操作を復活させるだろう。
お前が何をしたところで、本隊が目覚める時をほんの少しだけ遅らせるぐらいの役にしかたたんぞ。」
ミライは、命がけで電磁波の中で痛みに耐えながら操作をしているトランに対して、冷たく告げる。
本隊の目覚めが予定より1日でも遅れれば、ミライ達には厳罰が下されるだろう。
しかし、そんなことは些細な事であり、本隊が目覚めてからの地上侵攻の事を思えば、小さな影響でしかないのだ。
慣れない仕様の操作盤を、必死に考え込みながら操作をしていたトランは、ようやく事を成し遂げたのか、ミライの方を振り向く。
いや、その視線の先には、美しく成長した娘とも言えるその姿があった。
トランは、その姿を最後の最後にもう一度見ることができたことを、神に感謝した。
そうして、そのまま崩れるようにして、その場に倒れ落ちた。
「と・・・トラちゃん・・・。」
次元通路に辿りついたナンバーファイブが、トランの姿を見て急いで駆け付けようとする。
「ま・・・待て、お前たちは何者だ?」
突然現れた人間と魔物の集団に戸惑いながらも、すぐに、警備兵が立ちふさがる。
「邪魔よ。魔砲弾!!!」
どろどろに溶けた、溶岩の塊のような巨大で真っ赤な火の玉が、恐竜人兵士たちに襲いかかる。
トランの身を案じているのか、いつものナンバーファイブとは違い、容赦がない。
「うぎゃー」
兵士たちは悲鳴を上げながら、高温の玉に飲み込まれていく。
「ふん!」
しかし、その高温の玉も一人の兵士に、無効化されてしまった。
ミライだ、ミライ中隊長が腕を一振りすると、魔砲弾は直ちに掻き消えてしまった。
「なによ、あなたは!」
「加勢します。」
「おいらも。」
ミライに対して構えるナンバーファイブのすぐ横に、ハルとジミーがフォローに加わる。
「ほう・・・、今日は覆面をしていないようだな。
ここは、次元通路と言って重要な装置が並んでいる。
こんなところで、強力な攻撃魔法を使ってもらっては困るのだな・・・、と言っても、この基地を攻め落としに来た者たちにとっては、関係ない事か・・・。
悪いが、この場はこの剣で相手をしてはくれないだろうか・・・。」
ミライは、トランをも倒したその軍刀をゆっくりと引き抜いた。
黄泉の国の報告板は破壊済みで、現世への通路は一目瞭然だ。
更にミリンダ達も黄泉の国での特訓を終えており、ジオラマは偽物で、実はとうに逃げていたという事を、隠すまでもないという判断だろう。
あるいはアイマスクに人気がなかったのか、全員顔は隠さずに攻め込んだ様子だ。
「ずいぶんと自信があるようだな、おいらが相手をしてやろう・・・。
まあ、おいらに勝ったからと言って、この二人がおとなしくしてくれるとは限らんがね。
ハル君、悪いが剣を貸してくれ。」
「はい。」
一旦は軍用ナイフを抜いたジミーだったが、相手の構えを見てすぐにハルに鬼封じの剣を借りることにした。
ジミーは剣道の達人でハルの剣の師匠でもあるのだ。
2人は、細長い次元通路の中で、剣を構え対峙した。




