第45話
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「へえ、一気に攻め込んで恐竜人基地を乗っ取ろうという訳ですね。」
いつの間にか、ジミーまでやってきていた。
よく見ると、瞑想をしていたはずのメンバーがほとんど、所長の周りに集まってきている。
未だに瞑想を続けているのは、ホーリゥとミッテランだけのようだ。
「まずは、安全の為にナンバーファイブとトン吉さんを一旦帰すから、それを合図に攻め込んでもらいたいと書いてある。
恐らく1週間〜10日後と予想している・・・、まあ、前回の事もあるから、この期間から前後1日は見ておく必要性がありそうだね。」
所長は、そう言って手紙をたたんだ。
「分りました、じゃあ、了解の返事を書いた手紙を置いてきますよ。」
ハルはすかさず立ち上がった。
「いや、もう手紙のやり取りをすることがないので、手紙を埋めるのではなく、やり取りをしていた痕跡を消して置いてくれと書かれてある。」
所長が、手紙のその部分をハルに見せる。
「わ・・・分りました、大至急、トン吉さんの絵を消してきます。」
そう言って、ハルはダッシュで黄泉の穴に向かった。
「分った、訓練施設を基地内に送り届けよう。
着日は、1週間後だ。
それから、闇の存在に関してだが・・・、本当に大丈夫なのか?
下手をすると、折角封じたのが台無しになり、また数千万年待たなければならなくなってしまうぞ。」
次元通路奥の通信室で、本隊とトラン達が通信をしているようだ。
「はい・・・、恐らく闇の存在の封印を解いても、すぐにまた人間どもが封印を行うでしょう。
その手口を探れば、我々にでも、闇の存在を封じることができるようになるはずです。
そうなれば、この星に我々の脅威となるものは存在しなくなるわけです。」
トランが、何とか闇の王子の封印の玉を手に入れようと、説得にかかる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
恐らく・・・、恐らくでは困るのだ・・・、絶対でなければな。
人間どもが封印に失敗した際はどうするのだ?
また、封印できたとしても、闇の存在の玉が人間どもの手に渡ってしまう。
それを手に取引の材料にされてしまうのではないのか?」
元老院は、なかなか首を縦に振りそうにはない。
「いえ、一度封印に成功しているので、人間どもは再度闇の存在を封印するでしょう。
しかし、封印する際は、人間たちも無事では済まないと考えます。
タイガ中隊を降伏させた人間たちの部隊に損害を与えることも出来、更に、その兵力や戦いぶりも観察することができます。
今は人間どもの兵力予想がつかないため、作戦も立てられません。
なぜなら、例え冷凍睡眠中の7分隊を目覚めさせたところで、それ以上の兵力で防衛された場合、我々は勝ち目がないでしょう。
そうなれば、今度は人間どもが新たな脅威となり、我々恐竜人社会の復活は、見送られてしまう訳です。
そうならないためにも、ご英断をお願いいたします。」
今度は、ミライが説明して頭を下げる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
またまた、通信モニター画面が静止画のように動かなくなり、しばしの沈黙が流れる。
「・・・・わ・・分った・・・・・・・・・。
危険な賭けとも言えるが、無策のままでは地上は勝ち取れんという訳か。
闇の存在は、10日後にそちらに到着する。
訓練施設と合わせて、うまく使いこなすようにな。
もはや、失敗は許されんぞ。」
そう言って、通信は途切れた。
「はあ・・・、うまい事いったようだな・・・・、やはりタイガ中隊の失敗が、元老院の中でも問題視されているのだろう。
なにせ、力の弱い存在であるはずの哺乳動物の進化系である人間どもと、魂の集合体でしかない魔物たちに、完膚なきまでにやられたのだからな。
ま、後は1週間後に訓練施設が来たら、我が中隊をとりあえず訓練させ、続いて君の所の中隊も訓練をさせる。
それが終わるころに、闇の存在が出てくるから、それを地上に戻してモニターすると・・・・。
全ての力を失った状態では、地上に影響し始めるまでに本来なら何千年もかかるところだろうが、あれだけの力を持った人間や魔物たちがごろごろいるとなると、すぐにお面白いように釣れる事だろう。
とりあえずの作戦はそんなところだな。」
ミライは元老院との打ち合わせがうまく行ったことがうれしいのか、上機嫌の様子でトランの肩を数回軽く叩いた。
通信装置上方のモニターには、左から右へ光の点が走り、正弦波のような波を形作っている。
よく見ると、波は1本だけではなく、4本存在する。
以前は1本か2本しかなかったはずだが・・・
「この波形か?これは一番上が現在・・・つまり我々が存在する次元の時間の流れを表している。
2段目が、本隊が存在する次元だ。
段々と現在とシンクロしてきて、波形が近づいてきている。
波形が合致する時が、本隊が合流する時であり、そのタイミングが2年後と計算されている。
3段目は、どうやら訓練施設のようだね。
次元金庫から取り出しにかかっている。
波形はほぼ我々の世界と同一だから、来週には取り出せるという訳だ。
最後は、闇の存在だろう。
2度と接触しないように、全く時間軸の違う次元へ送ったようだが・・・、逆位相でしかも位相半分ずらしているね。
ところが、これを10日以内に現在と合流させようというのだから、大変だ。
と言っても、多少手を加えて10日後に現在の時間軸とクロスするように書き換えているのだろう。
本隊とは絶対に接触する可能性が無いよう、充分に遠回りでやってくるようだね。」
ミライが、モニターに映し出される波形について説明してくれた。
1週間後
「じゃあ、我が中隊は本格的訓練を始める。
1日あれば十分だろう、明日からは第8分隊が訓練を開始してくれ。」
ミライはそう言い残して、次元通路を後にした。
専用訓練施設が、円盤発着場脇に設置されたのである。
トランは、その後ろ姿を見送ると、すぐに居住区の方へ足を向けた。
「アカミ、いるかい?
またまた悪いが、捕虜の人間と魔物を貸してくれ。
地上との秘密通路を確認に行くつもりだが、恐らくこれで最後だ。
見つかればよし、見つからなくてもミライ中隊が訓練を終えれば、次が第8分隊で、その後は地上を制圧に向かわなければならない。」
元ザッハの家の玄関先で声をかけ、出て来た妻にナンバーファイブ達を呼んでくるよう頼む。
「そう・・・、これで最後なのね・・・。
いいわ、明日からはずっとこの家で暮らせるのよね?」
元ザッハの妻のアカミは、トランの申し出に渋々ながらも頷いた。
「ああ、戦況次第だが恐らく大丈夫だろう。」
トランはそう告げると、ナンバーファイブとトン吉を連れ、もう一度基地へ向かった。
そうしていつものように、監視兵を呼びつけると、監視カメラを切ってから、報告板の裏へやって来た。
「あれ?絵が消えているじゃない・・・・、恐竜人兵たちに見つかってしまった?
まずいわね。」
報告板裏の地面の様子を見て、ナンバーファイブが渋い表情をする。
「いえ、もう地上と手紙のやり取りをすることはないでしょうから、痕跡を消しておくように頼んでおいたのですよ。
恐らく、ハル君がやってきて消してくれたのでしょう。」
トランは、報告板の様子を眺めながら答える。
「じゃあ、来た意味がないじゃない。
手紙を置くわけでも、取りに来た訳でもなければ、どうしてわざわざこんなところまで来たの?
明日は、チュートロちゃんの誕生日だから、誕生会の準備で忙しいんだからね。
急いで帰らなくっちゃ・・・。」
ナンバーファイブは、すぐにトン吉とその場を離れようとする。
「恐竜人家族と仲の良いのは結構ですが、もうこれ以上いては危険です。
黄泉の国と同様に修業時間をほぼゼロにできる訓練場が、恐竜人基地に配備されました。
そこで特訓を終えた恐竜人兵士たちとの戦いは、人類にとって致命的でしょう。
仕方がないので、訓練施設に入ったばかりの今日、恐竜人基地へ攻め込んでもらうよう要請しておきました。
あなたたちは、すぐに南極基地に居る兵士たちを迎えに行ってきてください。」
「ええーっ!」
トランの言葉は、事情を全く知らないナンバーファイブにとって、まさに寝耳に水だった。
「さっ、早く・・・。」
トランはナンバーファイブ達を急かせる。
「で・・・でもトラちゃんは?
トラちゃんはどうするの?」
ナンバーファイブは心配そうに、トランの顔を眺める。
「私はこのまま基地へ戻って、あなたたちが来るのを待っています。」
「でも、私たちを逃がしたのがばれたら・・・。」
「だから、そのことが発覚する前に、攻め込んできてください。
お願いしますよ。」
トランは冷静に答える。
「わ・・・分ったわ、ハル君たちは準備を整えている訳よね、すぐに攻め込める筈よね・・・。」
ナンバーファイブは、自問自答するように、自分を納得させる。
「でも、この報告板は裏からは開けられないようです。
どうしますか?」
「構いません、壊してください。」
『バキバキッ』トランの指示通り、トン吉は木製の報告板を叩き壊す。
そうして、黄泉の国へ戻って行った。
その姿を見送った後、トランも急いで基地へと戻る。
『ガチャッ』トランが基地へのドアを開けて中へ入ると・・・・・
「おやおや、またまた秘密のルート探しのようだね。
次回は俺も連れて行ってくれるよう、頼んだはずなのだが・・・・・。」
長い廊下の向こう側から、ゆっくりと歩いてきたのは、なんとミライ中隊長だった。
「いやあ・・・、またまた失敗です。地上へ通じるルートは見つかりませんでした。」
トランは、そう言ってその場を立ち去ろうとした。
「おや?捕虜はどうした?
人間と魔物と両方を連れて出て行ったと聞いているぞ。
その先に居るのかね?」
ミライは、トランが戻ってきた廊下の先のドアの向こう側へ進みたい様子だ。
「すみませんが、この先へは行かせられませんね。」
トランはそう言うと、腰から下げた軍刀を抜いた。
この先には行かせられない、なにせ、報告板をまた壊してしまったのだ。
黄泉の国へ抜けるルートは、バレバレだろう。
「ほう・・・・、ようやく本性を現したか・・・・。
わが恐竜人部隊に対して、有益な発言をする若きエリートか、はたまた謀略に長けた裏切り者かどちらかと思っていたが、まさか後者の方だったとは残念だ。」
ミライはそう言い放つと、自分も軍刀を抜いた。
「おりゃー」
素早い踏込で、勢いよく剣を振りおろしてくる。
『シャキーン!』トランは、何とかその重い剣を軍刀で受け止める。
「ザッハを倒したそうだな・・・・、あいつは俺の教え子だ。
師匠の剣はどうだ?」
『キーン』『ジャキーン』『キュイーン』剣尖が、目にもとまらぬ速さで左右から振り下ろされる。
トランは、その剣を受け止めるだけで精いっぱいだった。
いや、トルテの体だからこそ、この凄まじい攻撃を何とかしのげているのだ、それほど鋭い剣技に、トランは防戦一方だ。
「そらっ!」『シャキン!キン!』
肩口目がけて振り下ろされた剣を、ようやく受け止めたが、返す刀で下から突き上げられてしまった。
剣を持つ両手を上方に跳ね上げられ、トランの体が伸びあがる。
『ズゴッ!』次の瞬間、左肩手前から袈裟懸けに切りおろされる。
『ガチャン』ミライの剣はトランの心臓に達する前に、水晶玉にあたって辛くも止まった。
「うぉー!」
すぐにトランは剣を水平に突き出す。
「おおっと・・・」
ミライはすぐに後方へ飛んだ。
「危ない危ない・・・・、今の攻撃が致命傷にならないのはさすがだ。
しかし、相当な深手だろう。」
ミライの姿が、トランには真っ赤な背景と共に、コマ送りの映像のように映って見えた。
続く
深手を負ったトランの運命やいかに。
次章、決戦の最終章。




