第44話
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「竜槍!!!」「竜砲弾!!!」「竜弾!!!」「障壁!!!」
恐竜人兵士たちの魔法が飛び交う中、トランはゆっくりと長身の恐竜人兵士の元へと歩いて行く。
「おや、どうした?こんなところまで。
次元通路の指揮が忙しいのではないのか?」
余程早い時間から訓練を開始しているのだろう、早朝だと言うのに、既に湯気が立つほど汗をかいているミライ中隊長は、滴り落ちる汗をぬぐいながらトランの方に振り返った。
「いえ、ミライ中隊長が本隊に掛け合っていただいたおかげで、地上にでた時の別荘の建築計画など、つまらない指示書が来なくなったようで、平穏なものです。
それよりも本日はお願いがあってまいりました。
我が第8分隊も千年近くも安閑とした監視業務をこなすばかりでしたので、体がなまるどころか、動かない関節があるのではないかというくらいの危惧をしております。
地上で訓練をして元の状態に戻るまでには、それこそ何年もかかってしまうかも知れません。
そこで、本隊が保有している訓練施設を早急に送っていただくよう、本隊と交渉したいと考えております。
ミライ中隊長のお口添えがあれば、元老院も了承するのではないかと・・・。」
トランはそう言って頭を下げる。
とりあえず、何でもいいので要求をして、次元金庫の中のものをこちら側に送ってくる手続きのやり方を、把握したいと考えていた。
まずは訓練施設で、続いては武器・・・といった具合に要求して行き、最終的にはそれらしい理由を付けて、闇の王子の玉も要求してみようと考えていた。
「ほう・・・、確かに訓練施設があれば、我が中隊の訓練も少しははかどることだろう。
元老院が簡単に了解するとも思えんが、ダメもとで要求してみるのも手ではあるな。」
ミライはうんうんと何度もうなずいた。
「それからですが・・・、地上の監視役である鬼たちの周りを飛び交っている、小さな円盤と球体の事ですが、我々の味方である鬼たちの監視の為についているようですが、そんなことをするよりも、人間どもの監視のために使用した方が良いのではないかと考えまして・・・。
それこそ、この間タイガ中隊と戦った人間どもの部隊に対して、円盤を送り込めば、奴らも対応に窮して力を発揮できないのではないかと考えます。
あの小さな円盤たちも、本隊が直に操作しているのですか?
操作盤は、この基地には備わってはいないのですか?」
トランは、ついでとばかりに小円盤の事も尋ねてみた。
「ほう・・・、あの小円盤や小球体は、名目上は鬼たちの保護のためで、奴隷どもが襲ってきた時に鬼たちを守るためにある・・・という事なのだが、確かに傍から見たら鬼たちをつけ回して、常に行動を監視しているように見えるし、いわば動く牢獄とでも言えるような状態だからな。
そんなことをしなくても、鬼たちは創造主である我々の言う事を聞くとは思うのだが、疑い深い元老院の事だ、承知してはくれないだろう。
操作盤は、円盤の発着場にもあるのだが、今現在、操作しているのは、恐らく本隊だろう。
受信距離がさほど長くはないので、通常サイズの球体を仲介して指令を送信しているはずだ。
頼んだとしても、こちら側に操作をゆだねるように変更してくれるとは到底考えられんし、予備もほとんどなかったはずだ。
だから、それを別の目的に使うのは無理だろう。
しかし、通常サイズの球体や円盤に関しては、地上の人間どもを掌握する為に活動しているものだし、こちらは生息している人間どもが少数なせいか、予備はまだあると聞いた。
次回、我々が地上制圧に向かう時には、球体と円盤を護衛代わりに持って行く事にしよう。
なかなか策士のようだな、色々と頭が回る・・・、他にはないか?」
ミライはにこやかな笑みを浮かべて、更に尋ねてきた。
「は・・・はい・・・、これはあってはならないことなのですが・・・、万に一つ我が部隊が人間どもに敗れて地上への進出を阻まれてしまった時、そのままにしておくのは非常に癪です。
ですから、闇の存在ですね・・・・、今は闇の王子と名付けられていますが、あいつを封印した玉を戻して。我らが不利になった場合は、そいつを地上へ送り返してやろうかと・・・。」
トランは、余りにもミライへの受けがいいので、ついでに闇の王子の事も切り出して見るチャンスと考えた。
小球体の件では、ちょっと話が違う方へ反れてはしまったが、それでも操作盤の存在が確認できただけでもかなりの進歩として、上出来だと思い直すことにした。
そうして、昨日バームに聞いた内容を簡単にミライに説明する。
「ほう・・・、闇の存在の事に関しても、簡単に説明は受けたが、次元金庫に入れたのか・・・。
下手をすれば、自分たちが存在する次元と繋がってしまうかも知れないと言うのにな・・・。
まあでも、半年前に納めたということは、結構次元の深みに落ちて行っているという事だな。
早く処置をしなければ、アクセスするのにも何年先などと言ったことにもなりかねん。
人間や魔物どもがあれだけの力を所有しているということは、闇の存在からの呼びかけもさぞかし魅力的に聞こえていたはずだ。
そのまま地上へ送りつけて、人間どもの兵力が吸収される様を、高みの見物と言うのも手かもしれんな。
いずれまた封印するのだろうが、戦いの様子を見ていれば、向こうの兵力もつかみやすくなるし、封印の手口さえ分れば、我々にとっても闇の存在は脅威ではなくなるという訳だ。
いいだろう、闇の存在を封じた玉は直ちにこちらへ戻すよう、元老院へ交渉するとしよう。」
ミライはすっくと立ち上がった。
「い・・・いま、何とおっしゃいました?
その・・・、闇の存在を地上へ送りつけて人間どもが吸収されると言う前の事ですが・・・。」
「うん?早く処置をしなければ、アクセスするにも何年もかかるという事か?
お前だって知っているだろう、次元の深みともなればアクセスできるタイミングも限られるのだ。
だから、本隊がこちらへ通じるのは、どれだけ早くても、後2年先なのだぞ。」
「い・・・いえ、・・・すいません、その言葉の前です・・・。」
「ふうむ・・・何を言ったか・・・、アクセスするにもの前だから、そうか、自分たちの次元とつながる恐れということか、おまえは知らないかも知れないが、次元金庫と言いながら、あれはただ単に他次元に物を送り込んでいるだけだ。
だから、本隊が存在しているはるかに深い次元にだって、闇の存在を送り込んでしまう恐れもある訳だ。
実際には時代なども変えているから、そんなことはありえないのだが、同じ時間軸上に存在すると、現代時間へのアクセスの最中に接触する危険性は十分に考えられる。
まあ、そう言った危険性もあるから、次元金庫の操作は自分たちにしか、させないのだろうがね。
といった内容で、良かったかな?」
「は・・・・はい・・・、元老院の余りにも我々を信用しない態度も、小さなミスを恐れての事なのですね?
もしかするとそう言ったことではないかと、ミライ中隊長の口ぶりから察したもので、念のための確認です。
ありがとうございました、それと・・・元老院との交渉よろしくお願いいたします。」
トランはそう言って、頭を下げた。
「おいおい・・・、何でも人任せは困るなあ・・・、訓練メニューが一段落したら俺も行ってやるから、おまえが元老院と交渉するんだ。
なにせ、おまえの発案なのだからな。
まあでも安心しろ、訓練施設の話の時にはダメもとと思っていたが、話を聞いているとなかなか的を射たことを言う。
闇の存在の件も含めて総合的に説明すれば、恐らく向こうも承知してくれるだろう。
俺が、太鼓判を押すから自信を持って交渉しろ。」
どんと背中を叩かれて、ミライ中隊長に励まされてしまった。
そうしてトランは、地下の基地へと戻って来た。
それからのトランの行動は素早かった、急いで手紙をしたためると、監視業務の兵士たちを本部室に呼び寄せた。
「今日は、おひとりで見回りですか?」
「ああ・・・、捕虜の人間も、魔物も、二人とも同じ通路を指定する。
大体こっちの方向ではないのかといった風でな・・・。
それで、2度とも地上への足取りがつかめない状態だ。
今度は1人で別な通路を歩き回って、探ってみようと決めた。
すまないが、またこの部屋に詰めていてくれ。
ミライ中隊長がやってくるかも知れんが、どれだけ長くても30分で戻ってくるから、そう伝えて待っていてもらっていてくれ。」
そう言い残して、トランは監視モニターを切ったのち、いつものようにジオラマを保管している部屋を抜け、報告板の裏側へやってくる。
素早く手紙を埋めると、急ぎ足で帰ってきた。
「よう、お出かけかい?忙しそうだな。」
トランが監視本部室に帰ってくると、そこにはすでにミライ中隊長の姿があった。
「は・・・、はい・・・、実を申しますと、3週間ほど前にザッハ小隊が地上より人間と魔物の捕虜を連れ帰ったのです。
つまり、地上航行用の円盤が配布される前に、ザッハの奴は既に地上にアクセスしていたと思われます。
すなわち、この基地のどこかに、地上と繋がる隠し通路があるということに他ならない訳ですが、未だに其れが解明できておりません。
その為、私が時々暇を見つけては、地上とアクセスできそうな場所を探しているのです。
ですが、未だに発見には至っておりません。」
トランは、部下たちに話している内容をそのままミライに伝えた。
ここで話すことが、あらかじめ部下たちから聞いていたであろう内容と異なれば、トランにとって命取りとなりかねないからだ。
監視カメラを切ってから出て行く点など、怪しさ満載なのだが仕方がない、何とか言い繕うしかないのだ。
「ほう・・・、そうか、じゃあ、次に行く時は俺も連れて行ってくれ。
俺だって、千年間ずつ数回にわたってこの基地の中で過ごしてきた監視兵の1人だ。
基地の中は隅々まで熟知しているつもりではいる。
しかし、ここから直接地上へ出る道など、到底想像がつかない。
先日、タイガ中隊が地上制圧に向かった時の映像を見ても分かる通り、我々の大陸は、大洋の中に存在していて、どの陸地とも接触していないのだ。
円盤も使わずに、地上の生物を連れ帰る事など不可能のはずだ。
何かの間違いではないのか?」
ミライ中隊長は、トランの言葉を根本的に否定する。
「しかし、実際に人間と魔物の捕虜がいる事ですし・・・。」
トランは尚も突っ張る。
実際の所、ナンバーファイブ達が基地内へ来たルートが、あいまいになってくれた方が、彼にとっては都合がいい。
しかし、地上と手紙のやり取りをする言い訳が無くなっては困るのだ。
「ふん・・・、まあいい。
今となっては、その人間と魔物はタイガ中隊との捕虜交換材料として使えるかもしれん。
まだ、殺してはいないのだろ?丁重に扱っておいてくれ。
じゃあ、これから元老院の石頭どもとの交渉に行こうか。」
と言って、ミライはトルテ中隊長の背中を押して、部屋を出て行こうとする。
「は・・・はい・・・、やっぱり私が元老院に話さなければならないのでしょうか?」
トランは、恐る恐るといった感じて問いかける。
「あたりまえだろう?お前の考えなのだからな。
まあ、案ずるより産むがやすしだ、いや・・・、当たって砕けろ・・かな?はっはっはっ・・・」
ミライの高らかな笑い声が、通路中に響き渡った。
「また手紙が来ていましたよ。」
いつものように、報告板裏側を確認に行ってきたハルが、所長に手紙を手渡す。
「ほう・・・、向こうでは7中隊の目覚めを中断することに成功したらしい。
これで向こうの現有兵力は、最初からいた100名ほどの中隊と、後から目覚めた111名の第10分隊ということになる。
しかし、後から目覚めた中隊は、地上軍の強さから危機感を感じ、特訓を開始したという事のようだ。
トランさんが見た感じでは、特訓を開始した早々の状態で、どの兵士たちも自分とさほど力の差は感じられないと書いてある。
あの、恐竜人に乗り移ったトランさん並みという事のようだ。
油断ならない相手のようだね。」
所長が大きくため息をつく。
「あのトランっていう人と変わらないクラスの奴らが、111名もいるっていうの?
そんなんじゃあ、あたしたちがいくら頑張っても、勝てそうもないわよ。」
瞑想をしていたミリンダが、所長の言葉を聞きつけたのか、目を開けて立ちあがってきた。
スパチュラ達に気兼ねしているのか、南極基地に来てからもっぱら外で過ごしているミリンダだが、瞑想の時間だけは中で過ごしているのである。
ただでも気が散りやすいミリンダには、風が吹き荒れる外で瞑想する事など不可能に近いからだ。
「まあ、君たちもあれから特訓をして魔力を増加させたし、更に黄泉の国で神級のダンジョンを越えられるようにまで成長したのだから、トランさんに勝るとも劣らない力があると考えたいが、特訓を始めた時点でそれくらいの力が備わっているという事だ。
相当な苦戦が予想される。
さらに、どうやらトランさんが発した余計なひと言が起因している様子だが、黄泉の国のような修行の時間がほぼゼロになるような訓練施設を調達しようとしているらしい。
ここで特訓されたら勝ち目はないだろうと、お詫びの言葉がつづられている。
更に、今後の我々の戦いでは、精神感応検知用の球体と攻撃用円盤が、恐竜人兵士たちのバックアップに付くと言う事だ。
こちらもトランさんの発言に起因している様子だね、これにもお詫びの言葉が・・・・。」
所長が、思わず苦笑いを浮かべる。
「な・・・何をやっているのよ・・・、あたしたちが不利になるような事ばかり・・・。
恐竜人に乗り移ったって言っていたわよね、もう自分は恐竜人だから、人類なんか滅ぼしてしまえなんて、考えているんじゃないでしょうね。
もともと、人間社会を一度滅ぼそうとしていた人だものね。」
ミリンダが所長の元へ近寄ってきて、手紙を眺めながら拳に力を込める。
「い・・・いや・・・、そんなつもりはないのだろう・・・、なにか他の考えがあっての事なのだろう。
しかし、どちらにしてもこのままでは絶望的なので、第10分隊が訓練施設に入った時点で、恐竜人基地に攻め込んでほしいと書いてある。
そこで基地を制圧して、訓練施設も封じてしまえば無駄な戦いも回避できそうとなっているね。
その時なら、今の監視部隊100名ほどだから、我々の力で十分制圧可能だろうと書いてある。」




