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もう平和とは言えない冒険の書  作者: 飛鳥 友
第3章 恐竜人編3
43/201

第43話

                     12

「よう・・・、久しぶりだな。

 このところ、第9分隊の世話にかかりっきりで、それが一段落したと思ったら、すぐに第10分隊が目覚めるんだものな。


 中隊長業務も、楽じゃないよな。」

 久しぶりに食堂で出会った、バーム小隊長は、心配そうにトルテ中隊長の様子をしげしげと眺める。


「どうした?何かついているか?」


「いや・・・、随分とやつれたなあと思ってな。

 まあ、無理もない、折角目覚めた第9分隊は、リハビリもそこそこに、地上制圧に出撃したのはいいが、返り討ちに会い捕えられ、今ではどこに居るのか所在さえ不明な状態だ。


 続く、第10分隊・・・、はさすがだねえ。

 なまった体を鍛え直そうと、地上で特訓の最中だ。

 やはり、全十分隊を束ねる大隊長に一番近いと噂されるだけはある。


 まあ、大隊長なんて監視業務の我々の分隊には不相応だって、許可が下りなかったらしいがね。

 それでも、あのうるさいタイガ中隊長もたじたじだったからな。

 第9分隊の連中には申し訳ないが、おかげで基地内が静かになってよかったとも思っているよ。」

 バームは、何度も頷きながら嬉しそうに笑顔で話しかけてくる。


「まあ、そうだな・・・、俺もタイガ中隊長には閉口していた、なにせ要求ばかりで自分からは何もやろうとしない人だったからね。

 それに比べて、ミライ中隊長はすごいよ。


 第9分隊がやられてしまい、すぐに感情的になって敵討ちとばかりに地上へ攻め込もうって言いだすんじゃないかとドキドキしていたけど、冷静にまずは敵の分析が必要だと自重して、更に自部隊の訓練を開始した。

 地上制圧を楽観視していた元老院が慌てふためいて、訓練なんてしているよりもまず戦いに行けなんて言い出したのに対して、『最前線で戦っているのは、俺達だ。外野は引っ込んでいろ!』って恫喝したらしい。


 次元通路の警備兵が、ミライ中隊長はかっこよかったって報告してくれた。

 結局、元老院も渋々ながら地上の情報収集と、訓練強化を認めたらしい。」


 トランも、バームの言葉に頷いた。

 それにしても、ミライ中隊長は大隊長候補だったのか・・・、さすが情報通のバームだ、裏の事情まで抑えているようだ。


「だが、人間たちの兵力分析を正確に行ってから戦いを仕掛けるよう進言したのは、トルテ・・・、おまえらしいじゃないか。

 若いのに冷静な判断力を持っているって、ミライ中隊長も絶賛だったと聞いたぞ。」

 どこから聞いてきたのか、指令室でのミライとの会話ですら、筒抜けの様子だ。


「いや、俺としては、あのまま地上侵攻を続けても、敵の兵力も分からない中では危険だと進言しただけだ。

 なにせ、10小隊に分割したタイガ中隊の兵力に値するだけの兵を、正確に送り込んできた訳だからな。

 仮に、残り7分隊を目覚めさせて全軍出動したとしても、それらすべてに対応する兵力で応戦されてしまえば、今回の二の舞となってしまうことが十分に考えられる。


 だから、敵兵力を正確に分析してからでも遅くはないと、言いたかっただけだ。

 すぐに出撃できそうもない7分隊の目覚めを保留して、更に自軍の訓練を開始したのは、ミライ中隊長自身の考えだ。」


 トランは、なるべく手柄はミライに譲ろうと考えていた。

 なにせ、目立つ行為は避けなければならないからだ。


「そうだな・・・、人間同士の愚かな戦いで総数を減らしたとはいえ、その生き残りもずいぶんと数を増やしてきている。

 なにせ、戦うことが好きな民族のようだから、地上へ出現してから、ずっと仲間同士で争い続けていた。


 世界規模の戦いも何度も行われていたし、そうでなくても小規模・中規模の争いが地上のどこかしらで、必ずと言っていいほど行われてきた。

 だから、今でも相当数の兵力があってもおかしくはないと言える。


 あのタイガ中隊と渡り合ったくらいの兵隊も、千や万位いても不思議ではないとは言える。

 だが、そうなると地上制圧は本隊が目覚めてからということになりそうだな。

 俺達だけの兵力では到底かないそうもないからな。」

 バームは難しい事柄をさらりと言ってのける。


「ああ、そこでなんだが・・・

 俺たちの訓練施設も本隊が管理していると言って、ミライ中隊長は嘆いていた。

 訓練施設があれば、わざわざ地上に出なくても、効率的に兵士たちの訓練が行われるわけだ。


 なにせ、施設内で過ごした時間をほぼ0に戻す機能がついているから、数年にわたる特訓ですら傍から見たら一瞬で終わるはずだ。

 俺たちは持っていないから、仕方なく地上で実際に何ヶ月間も訓練しなければならないのだが、そう言った施設がどこで管理されているか知っているか?


 地上制圧用の円盤だって、本隊が管理していると言われていたから、本隊が目覚めなければ使えないものと考えていたが、なぜか1機だけだが先日送られてきた。

 つまり、こういった装置や施設類は、本隊が持っているのではなく、管理しているだけで本隊とは別な所にあると考えているんだ。


 だから、その場所を見つけて取り出せないか考えた。

 それが無理でも、管理している品目が分れば、必要なものを本隊に要求できる。

 知らないか、重要なものを保管しておくような大規模な装置・・・。」

 トランは、なるべくさりげなく現状に則した理由を付けて、知りたいことを聞き出そうと考えていた。


「うん?次元金庫の事か?

 地上制圧の円盤も、次元金庫に保管されていたものが、本隊の操作で送られてきたようだぞ。

 なんでそんなこと知っているかって?


 見たんだよ、次元金庫を操作している場面を・・・。

 と言っても、操作したのは、本隊であって、タリル中隊長ですら保管するものを本隊の操作下に預けただけだがね。」


 バームはそう言いながら、意味深に微笑んだ。

 相手が全く知らないことを、自分は知っている優越感からだろうか。


「半年前に人間たちの捕虜を連行した時、大変なものを持っている奴がいたわけだ。

 なんと・・・、闇の存在・・・、今では闇の王子と言うのか・・・、を封印した玉が入った箱だ。

 厳重に布でぐるぐる巻きに縛り付けた木製の箱の様だったが、なんか魅力的な声が聞こえて来るなんて兵士たちが言い出すもので、漏れてくるエネルギー反応を分析して、間違いなく闇の王子のものだと判定された。


 ところが、人間どもの封印というのは甘くてな、本来ならそんな漏れエネルギーなんてものは、ないはずなんだが、このままでは闇の王子が復活してしまうという訳で、焦ってどこかに仕舞い込もうって話になったんだ。

 俺の小隊が捕虜が持っていた箱を分析して分ったことだから、タリル中隊長の指示で、急いで次元通路へ持って行って、手渡したというわけだ。


 どうするのかって思っていたら、本隊の状態監視用モニター脇に、連絡用の小さなシューターがあって、そこに箱を入れると、後は本隊が操作して次元金庫へ保管したらしい。

 報告書を送ったり指示書が送られてきたりする、連絡シューターだな。


 遥か次元の彼方へ送り込んでやると言っていたようだ。

 本来なら次元金庫の操作など、あの次元通路で全て出来るはずらしいのだが、本隊はそんな事は許さず、自分たちで遠隔操作しているらしい。


 なにせ、その操作盤は次元通路の更に奥にあるのだが、おまえも見たことがあるかもしれないが、本隊の監視装置の横は壁になっているようだろ?

 あそこは実は壁ではないのだが、それ以上奥へ進むことが無いよう、ホログラムで壁があるように見せているらしい。


 なにせ、そこから先は高周波の電磁波が流れていて、入ったものは瞬時に黒焦げとなってしまうようだ。

 どうして、そこまでして我々に操作を任せないようにしているのか、本隊の慎重ぶりにも呆れると、タリル中隊長がこぼしていたよ。


 まあ、お前たちは捕虜の監視を直接行っていて、全く動かないように固まってしまったり、高性能爆弾で自爆したりと大騒ぎだったからな。

 知らないのも無理はないさ。」


 バームは自慢げに半年前の状況を説明する。

 これには、トランもにんまりだった。


 なにせ、闇の王子を封印した玉の行方を探りたかったものの、直接切り出すことは、躊躇われていたからだ。

 とりあえず、基地内の重要物保管庫をいくつか聞きだして、そこを探ってみようかと考えていたのである。

 ところが、直接封印の玉を保管したという情報まで手に入るとは、本当にありがたい。


「そうか・・・、それでは簡単な操作で訓練施設など取り出すことは、こちらからでは到底叶いそうもないと言う事だな。

 仕方がない、ミライ中隊長とも相談して、元老院と直接交渉することにしよう。

 ありがとう、助かったよ。」


 トランはそう言って、食べ終わったトレイを持ち上げると席を立った。

 そのまま次元通路へ向かう。


「ご苦労さん、最近は目覚めた中隊の相手で忙しくて、司令部に詰めっぱなしだったが、なにか不具合など発生してはいないか?」


 数日ぶりの次元通路への出勤だ。

 トランは詰めている恐竜人兵士たちの顔を眺めて回る。


「いえ、タイガ中隊があろうことか人間どもの捕虜となった翌日までは、あれこれと山のように指示書が舞い込んできましたが、ミライ中隊長殿が本隊へ直接かけあって下さった様で、それからは何もありません。

 以前のような、元老院の方たち用の別荘の用立てなどもなくなり、平穏無事となりました。」


 いつもなら、書類の束を持って駆け回っている兵士たちが、いつになく落ち着いて仕事をしているように伺える。

 ようやく、本隊からの雑用から解放されたという事だろうか。


「そうか、ミライ中隊長に感謝せねばいかんな。」

 そう言って、トランは警備の兵の横をすり抜けて、次元通路の奥へと進んで行く。


 残りの7分隊は当面目覚めさせる予定がないため、警備兵は怪訝そうな顔をしたが、構うことはない。

 ここは、今やトルテ中隊長の持ち場であり、状態確認の為に現場を見回るのは当然の行為なのだ。

 トランは次元通路をゆっくりと、辺りを確認しながら奥へと進んで行く。


 第1分隊の冷凍睡眠モニターのタイマーは、いまや9999とすべてが9の数字となってカウントを中止している。

 それは、隣の第2分隊以降も全て同じ状態のようだ。

 無期限の、解凍中止となったのだ。


 トランは、今更ながらミライ中隊長の行動の速さと、影響力に感心していた。

 なにせ、自分が元老院に交渉した時点では、各分隊の冷凍睡眠を延長する申し入れは、ほんの2週間だけ伸ばされただけなのだ。


 対するミライ中隊長の場合は、無期限・・・つまりミライ中隊長が許可しなければ、各分隊が目覚めることはない状態となっている。

 確かに地上兵力を甘く見ていたのが、軽んじられない相手と認識が変わったとはいえ、トランというよりトルテ中隊長とミライ中隊長では、元老院からの信頼度に大きな差があるという事だろう。


 そりゃ確かに、タリル中隊長の不幸で成りあがった身ではあるのだが、タリル中隊長だったとしても、ここまでの信頼は得てはいなかっただろう。

 トランは、ミライ中隊長を、マークしておかなければならない恐竜人兵士たちの筆頭と捉えておくことにした。


 後は、情報通のバームとかグレイなどだろうが、ミライ中隊の小隊長の中にも侮れないものは、少なからずいる事だろう。

 おいおい、その辺も調べて行かなければならないと心に決めた。


 第5分隊のモニターまで歩いたところで、トランはおもむろにメモ帳を取出し、何かメモを取る振りをしてペンを胸ポケットから取り出した。

 そうして、わざとペンを落として、コロコロと次元通路の奥へと転がす。


『ジュワッ』すると、奥の壁をペンが通り過ぎた瞬間、壁の向こうが透けて見えるほどの強烈な光が発せられた。

 近寄ってみると、壁の向こう側でペンが黒焦げになっていた。


「あちゃー・・・、やってしまいましたね。

 この、次元通路の奥は電磁波が張り巡らされているので、立ち入り禁止なんです。

 知らずに入ると危険なので、ホログラムで壁があるように見せて、奥へいかないようにしてあるようです。」


 光を確認したのか、すぐに警備兵がやってきて、ペンの様子を見ながら話しかけてくる。

 ホログラムの向こう側がかすかに透けて見えるので、黒焦げのペンが見えるのだが、取り出してくれるのかと思ったら、警備兵はそのまま元の席へ戻って行った。


「おおい、このままでいいのか?

 最早ペンではないから使う気はないが、ごみと化してしまっただろ?

 捨てたほうがいいと思うぞ。」

 トランは、警備兵の後姿に向かって叫ぶ。


「仕方がないですよ、この電磁波は我々からは切ることができませんから・・・、操作できるのは本隊だけです。

 このまま取り出そうとしたら、こちらが黒焦げになってしまいますからね。

 実際の所、こっちがメインですから、本隊の遠隔装置とこの次元通路からの操作切り替えスイッチも、この奥にあるそうなんですが、この状態では近寄ることも触ることも出来ません。


 あまりに危険なので、壁を設けようという話もあったようですが、緊急事態の対応が遅れると言う事で、本隊からの反対にあったと聞いています。

 その為、ホログラムで視覚的な制限を設けるだけに留まったという事です。」


 警備兵は元の席に着きながら告げる。

 どこまで自分本位なのだろう、本隊というところは。


 まるで、監視役の恐竜人部隊は、ただの操り人形かロボットのようにしか考えてはいないようにも聞こえる。

 いや、だからこそ反乱を恐れて、何もできないように全てを掌握しようとしているのか・・・。

 何にしても、簡単には次元金庫の操作盤に近づけないことが分った。



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