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もう平和とは言えない冒険の書  作者: 飛鳥 友
第3章 恐竜人編3
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第42話

                     11

「ふうむ・・・、タイガ中隊は冷凍睡眠から目覚めた後のリハビリも早々に攻撃に出たものだから、返り討ちにあったと言ったところかね。

 それにしても、別になめてかかったからという事でもないのだろうが、人間たちの強さは予想を大きく超える。


 我々の手に負えなかった闇の存在を封印したというのも、あながち運が良かったなどとかでは片付けられないようだ。

 原始哺乳類には遺伝子操作をしたと伝えられているが、それでも進化の過程で、我らをしのぐ強さを身に付ける可能性は持っていたのか・・・、どちらにしても地上の制圧は簡単にはいかないと言うことが判明した訳だ。


 君達、現状の監視役たちが、何度も本隊に簡単には制圧が出来ないと報告していた訳が、ようやく呑み込めたよ。」

 ミライ中隊長は、タイガ中隊たちの戦いの様子をじっと見続けた後、そう言い残して指令室を出て行った。


 リハビリの途中だったのだが、気になって見に来ていたのだ。

 人間たちの強さが、恐竜人たちにも伝わったことは、果たしていい事なのか。

 逆に警戒されて、恐竜人たちも兵力を整えてから攻め込まれるということになってしまうのか。

 トランとしても複雑な心境だった。



「人間たちの強さというものも、認識できましたし、簡単に地上へ攻め込むことも、今後は躊躇われます。

 なにせ、普段は従順な振りをして表面上は逆らう様子を見せませんが、我らが地上へ攻め込む姿勢を見せた途端、それに対抗する部隊がどこからともなく出現したのです。


 我らが監視映像では、彼らが出現した場所も、更に捕虜として我が軍兵士たちを連れ去った場所も特定できてはおりません。

 なにせ、猛スピードでどこからともなくやってきて、猛スピードでどこからともなく去って行ったのです。


 乗り物などの動力を用いていませんでしたから、熱源センサーなどの追跡も出来ませんでした。

 この状態では地上侵攻を継続することは、戸惑われますし、食糧事情も鑑み、残りの7中隊の目覚めを少し遅らせて、人間たちの兵力を分析してから目覚めさせた方が、よろしいのではないかと考えます。」


 翌日、リハビリの空き時間に指令室へやって来たミライ中隊長に、トランが残りの中隊の目覚めを遅らせるよう進言する。

 なにせ、ミライ中隊長の了解を得ておけば、元老院も了承する可能性が高いのだ。


「だから・・・、同じ中隊長なのだから、敬語は無用・・・。

 まあ、でも、年齢的な差はあるのだから、丁寧語として受け止めておくとしよう。


 確かに、昨日の結果から見て、地上の兵力を調べずに攻め込むことは無謀と言えるだろう。

 そうなると、2年後までに地上を制圧できるのかという疑問もわいて来てしまう。

 元老院が納得するしないに関わらず、我々が全員倒されてしまっては、彼らも目覚めることができなくなってしまう事は明白だ。


 全兵力を投入してまでも、地上を制圧しておけとは言わないだろう。

 そうなると、ここで籠城するには食料の問題も出てくるという訳だ。


 なにせ、今までは少人数だったから、海底基地に寄ってくる深海魚を吸い込んで捕まえる位でも生活できていたが、9中隊も同時に存在すると、それこそ沖へ出て漁でも始めなければ、すぐに食料が枯渇してしまう。

 なにせ、我らの食欲といえば・・・、目覚めてから落ち着くまでは、自らの体重と同じ量だけ、毎日食すからな。


 鬼たちを呼んで、奴らの能力で食料を出させてもいいが、その能力は有限だし、何より人間たちの管理が甘くなるのは危険だ。

 かといって、人間たちから今すぐに食料を調達するのは、いかがなものか・・・という事だな。


 今現在、人間たちから調達している食料は、本隊が到着してからの式典用として備蓄されているもので、これに手を付けることは、本隊も承知しないだろう。

 そうなると・・・、残りの7中隊に関しては、俺が元老院に掛け合って、少し目覚めを遅らせよう。


 ついでに、我が中隊を鍛え上げる必要性があるが、どこか適当な訓練施設はあるか?

 リハビリ施設では、凝り固まったからだをほぐす程度にしかならない。

 やはり、本格的なトレーニングができなくては・・・。


 そうだ、鬼たちに管理させていた、黄泉の国というところはどうなんだ?」

 ミライの問いかけに、トランはドキリとした。


「そ・・・そこは・・・、我々には未知の場所でして・・・、鬼たちに直接聞いてみるしかないかと・・・。」

 トランは、少しどもりながら何とか答えた。

 ダロンボたちの答えいかんでは、一気に黄泉の国で決戦になるかもしれないので、心臓が高鳴る。


「そうか、そうだよな・・・、俺が知らないことなんだから、おまえが知っているはずもない。

 分った、鬼たちの責任者と連絡を取ってくれ。」

 そう言って、ミライは指令室を出て行った。



「はあ・・・、黄泉の国ですか・・・?

 あれは、皆様からのご指示で、閉鎖せよっていうから、閉鎖しただけですがねェ・・・。」

 その日の午後、テレビ画面の向こう側で、呼びつけられたダロンボがミライの問いかけに答える。


「ああ、その閉鎖を解いて、我々恐竜人兵士たちの訓練施設として使いたいのだが、どうだ?」

 ミライが、画面に向かって更に問いかける。


「いやぁ、あの施設は、力の弱い人間など哺乳類の為に作られた施設でして、あまり丈夫には作られておりませんし、大きさもそれほどではないですから、恐竜人様たちの訓練には向いて居ないと思いますよぅ。


 間違って次元の壁をぶち破ってしまったら、どんなことが起きるか・・・、おやめになった方がいいと思います。」

 ダロンボはそう言いながら首を振った。

 その言葉の真意はどうなのか分らないが、やはり鬼たちは恐竜人より人間側に意識があると、トランは確信した。


「わかった、ご苦労だった、職場に戻っていいぞ。」

 そう言って、ダロンボを帰して、通信を終了する。


「ふうむ・・・、確かに黄泉の国というところは、進化してくるであろう哺乳生物たちの、精神的な成長を推し量る施設として作られたと聞いている。

 力の弱い哺乳生物の為に作られているのだから、我々には不適という訳か。


 しかし困ったぞ・・・、専用訓練施設は本隊が持っているし・・・、結局監視役である我ら部隊には、これといったアイテムは持たされてはいないのだ。


 まるで、我らだけで地上を制圧してしまったら、本隊を目覚めさせなくなってしまうことを、恐れているかのように、勝手な行動が出来ないようにされている。

 そんな事あるはずもないのだが、本隊はあらゆるものを自分たちで囲ってしまい、我らには何も持たせてくれていない。


 ただ、地上と鬼たちからの報告板を監視するだけの役目であった時には、この事に何の疑問も感じることはなかったのだが、こんな状態で、地上を制圧しておけと言われても・・・出来る訳ないよな。」

 ミライは、椅子に座ったまま反り返って、大きなため息をついた。


「まあ、本隊には本隊なりの考えがあるのでしょう。

 哺乳生物が進化して、我々恐竜人に対抗しうる力を得ることなど、当時は想像することも出来なかったのでしょうから、仕方がありませんよ。」

 トランは、ふてくされるミライをなだめる様に、やさしく話しかける。


「まあ、仕方がない、リハビリの途中ではあるが、我が中隊の訓練を開始するとしよう。

 上陸用円盤は戻ってきているな?」

 ミライは体を起こして、トルテ中隊長に尋ねる。


「は・・・はい・・・、昨日の操縦は、我が中隊の兵士でしたので、戦闘には参加せず基地へ円盤と共に戻ってきております。」

 トランは、少し驚いた表情でミライの問いかけに答える。


「で・・・でも・・・、黄泉の国は使用に適さないと先ほど鬼が、答えておりましたが?」

 折角ダロンボがうまく言い繕ったというのに、これでは台無しだ。


「いや、黄泉の国を使うつもりはない。

 ただ単に、地上へ出るだけだ。

 こんな狭い基地の中では、訓練などと言っても制約が多すぎるが、外でなら多少激しい運動も可能だろ?


 ドームテントなどの野営道具を持って行って、明日からでも地上で訓練を続けるよ。

 お前の中隊には引き続き監視業務と地上との交渉業務、すべてを任せることになってしまうが、許してくれ。」


 ミライは、恐竜人大陸の上空に監視用球体を飛び立たせて、平地を探させるよう指示をしてから部屋を出て行った。

 数千万年間も海中に沈んでいたとはいえ、彼らの大陸上であれば、訓練に適した土地は豊富にあるはずだ。


 浮上してから半年以上経過しているので、海底の泥などもある程度は乾いているだろう。

 トランは今度こそ、本当に時間が稼げたと感じていた。

 なにせ、黄泉の国とは違い、修業した時間がほぼ0になったり10分の1になったりすることはないのだ。

 なまった体を鍛え直すには、少なくとも、数ヶ月間・・・どれだけ早くても1ヶ月以上は、攻撃を仕掛けることはないだろう。


 タイガとミライの動きが心配で、次元通路の業務ばかりでなく、指令室にも極力立ち回るようにして、彼らの動きを素早く察知しようと、この10日間ほどは、気を抜く暇もなく動いていた。

 これでようやく、自分にも自由な時間が出来、その隙にやっておかなければならないことがあった。


--------------

前回、所長からの手紙を受け取った時・・・

「闇の王子の封印の玉?」

 報告板裏の洞窟の中で、ナンバーファイブが素っ頓狂な声を上げる。


「はい、どうやら、所長さんは半年前の恐竜人たちとの交渉の時に、切り札として闇の子を封印した玉を持っていこうとしていたようですね。

 ところが、交渉どころか、上陸すらも叶わなくて、はるか手前の小島で捕まってしまった。


 その時に持っていた玉の入った箱を、恐らく恐竜人が保管しているはずだと書いてありますよ。

 しかも、自分達の身が危うくなった時に、嵩張る剣を取り外して箱だけを持って逃げようと、鬼封じの剣を取り外した時に、捕獲光線で捕えられたというのです。


 つまり、闇の子を封印した玉は、鬼封じがない状態で敵の手に渡ったはずだと。」

 トランは、所長からの手紙の内容をかいつまんで、ナンバーファイブに告げる。


「ふうん・・・、でも封印の玉が封印されていないんじゃ、とっくに闇の王子が出てきているんじゃないの?

 それとも、恐竜人たちの基地はやっぱり現世だから実体化出来なくて、さまよっているとでもいうの?」

 ナンバーファイブは不思議そうに首をひねる。


「そうではありません、現世で実体化出来なくても、私のように死んだ者の体に乗り移ることで、現世に影響を与えられる存在になることは出来ます。


 人間であった私が、恐竜人の体に乗り移っている訳ですから、同じ種族でなければ乗り移ることができないといった制約はなさそうですし、封印が解かれているのであれば、とっくに恐竜人なりに乗り移っていてもよさそうなものです。


 そのような気配が感じられないと言う事は、やはり闇の子は今でも継続して封印されているのだと思いますよ。

 方法は分りませんが、闇の子の魂が逃げ出さないような方法で、閉じ込めてあるのでしょうね。」


「で?それをどうするの?

 封印を解いて自由にさせて、もう一度恐竜人たちには、海底へ戻って行ってもらうの?」


「いえ、闇の子は人類にとっても脅威でしたし、あの時は取り込んだ人たちの優しい気持ちに触れて、自分という存在の影響を憂えたのか、素直に封印されてくれたと聞きましたが、次もうまく行くとは限りません。

 なにせ、恐竜人たちの時はどれだけ吸収して行っても、賢く狂暴になっていくだけだったと、言っていたそうですよね。


 それが、恐竜人たちと人類との根本的な違いと言えるのかも知れませんが、だからと言って闇の子を自由にする理由にはなり得ません。

 しかし、恐竜人たちとの交渉材料としては、使えるかもしれませんからね。


 なにせ、ハル君は今でも鬼封じの剣を持っていますしね。」

 トランはやさしく答えた。


「ふうん・・・。」

「それともう一つ・・・。」

「もう一つ・・・?」


「はい、ハル君が見たという、人間と魔物たちを監督している鬼たちの周囲を飛び回っている、小球体と小円盤、恐らく、常に監視の目を光らせていることにより、鬼たちの自由を削いで言う事を聞かせているのでしょう。


 妻や子供とも引き離して、それぞれの地域を監視させるとともに、その鬼たちを恐竜人側の小円盤や小球体が監視すると言う、2重の体勢なのですね。」

 トランは、もう一つの提案についても説明を始めた。


「ああ、あたしも見た。日本の食堂で監視役の鬼たちの頭の周りを飛び回っている円盤と球体。

 音もなく飛び回っていたから、不気味だったわ。」

 ナンバーファイブも、思い出したように相槌を打つ。


「小さくても攻撃力はあるのではないのでしょうか。

 至近距離を飛び回っている様ですから、ダロンボさんはじめリーダー格の鬼たちならともかく、子供の鬼などは瞬く間にやられてしまう可能性が高い。


 なにせ、黄泉の国の中では不死身の鬼たちも、現世では限りある命なのですからね。

 だから、このコントロール装置を見つけて破壊して、まずはダロンボさんたち鬼を自由にする必要があります。」


「ふうん・・・、面白くなってきたわね。

 恐竜人基地に潜り込んだ甲斐があったという訳ね。」

 ナンバーファイブは、俄然やる気を出した様子だ。


「まあ、そうですね。

 でも、ファイブやトン吉さんには、この2つは無理でしょう。

 なにせ、基地内を自由には歩けませんから。


 あなたたち二人は、ザッハ小隊長の家で、家族に気に入られるようにして、安全に過ごしていてください。

 地上との手紙のやり取りをするために、監視カメラを切ってこんなところまで来る理由として、捕虜と同行すると言うのは格好の言い訳になりますからね。」


「はーい・・・、うまくやってますよぅーだ。」

 そう言って、ナンバーファイブは頬を膨らませた。



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