第41話
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「首に巻いてもらったネックレスや紐は、魔力を感知して絞まって行く仕様です。
ちょっとでも魔力を行使しようとすれば、すぐに紐が絞まって頭と胴体が泣き別れなんて事になるから、使わないようにしてください。」
ハルは、慎重に恐竜人たちの目を見つめながら注意を促す。
「ふん、こんなネックレスなんか・・・所詮、人間どもが作ったものだ、竜だ・・・」
『プシュー』噴水の様な血しぶきを上げて、恐竜人兵士の首が飛び跳ねる。
魔封じのネックレスが反応したのだ。
「な・・・なんてことを・・・」
思いもかけない行動に、ハルも言葉が出ない。
「い・・・今のは、奴の鍛え方が足りなかったのだ。
鍛え上げていれば、人間が作った幼稚な装置になど、我々恐竜人を押さえられるはずなどない。」
ひときわ体の大きな小隊長は、そう言って息を大きく吸い込んだ。
「竜・・・」
「ばかっ!なんてことするんですか、あなたたちは命を粗末にしても、平気なのですか?
そりゃ、この戦いで何人かの恐竜人が犠牲になりましたけど・・・。
でも、その後を追うような事、何で平気でしようとするのですか?
僕だって、最初の戦いのときに、僕の仲間が全て恐竜人たちの手にかかって死んでしまったと思いました。
でも、僕はその後を追って死のうなんて少しも考えませんでした。
それよりも、たった一人だけ残った責任を感じて、何とか一人だけででも恐竜人たちに抵抗して行こうと心に決めて、特訓に励んだのです。
その後、僕をサポートしてくれるありがたい存在や、死んだと思っていた仲間たちとも再会できました。
あなたたちだって、いずれは仲間たちと一同に再会できる時が来るはずです。
その時まで、絶対命を粗末にしてはいけません。」
魔封じのネックレスにも屈せずに、魔法を唱えようとする小隊長に対して、ハルが涙ながらに訴える。
「そ・・・それもそうだな・・・、変な意地を張って、ここで命を落とすよりも、挽回のチャンスを伺って、その時に命を張れと言う事か・・・、まさか、敵の小僧から教えられるとはな・・・。
しかし、いいのか?我らはお前たち人類の事を、家畜としか見てはいないぞ。
そんな我らを生かしておくと言う事は、それだけ自らを危険にさらすという事なのだぞ。
それとも、ここで捕えておけば、やがて分かり合える時が来るとでも考えているのか?
そうであるとしたら、それは大きな間違いだ。
我らは家畜は食肉を得るために育てるが、文化的交流をしようとはつゆほども考えることはない。」
小隊長はそう言ってハルの顔を見つめた。
「いいです、最初のうちはお互いに心を通じ合わせることができなくても、努力して行けばやがて通じる時が来ます。」
ハルは自信ありげにそう答えながら、先ほど拾ってきた恐竜人兵士の遺灰が入った袋を手渡した。
「ふうん・・・、まあいいだろう、当面はおとなしくしておくとするか。」
そう言って、小隊長は受け取った袋を懐に入れた。
今また犠牲となった恐竜人兵士の遺体は、ハルの火炎で燃やしてその遺灰を集めた。
恐竜人兵士たちも落ち着いたので、所長の指示通り、ハルたちは出て来た黄泉の穴へ向かう。
恐竜人たちは、行く方向も分からないので、自衛隊員がそれぞれ一人ずつ抱えて走る。
そうして、意味も分からずに、黄泉の穴へ入って行く。
「あれ・・・?所長さん?」
黄泉の穴の奥の岩壁から、白衣の袖に包まれた腕だけが飛び出していた。
そうして、その手にはメモが・・・
(みんな手を繋いで一列になってから、この手に掴まりなさい)と書かれている。
メモの通りに、ハルたちは各自の両手を繋いで繋がって行き、先頭のハルが岩壁に突き出た手を握った。
すると、勢いよくその手を引っ張られる。
すぐに、ハルの視界の先に、白衣姿の所長が姿を現した。
「所長さん?一体どうして・・・。」
そこには所長と一緒に、巨大化してその体を支えるレオンの姿があった。
「話はいいから、まずは皆を中へ引き込まなくてはいけない。
一緒に引っ張ってくれ。」
そう言われて、ハルも自分の左手に力を込めて、後方へ引っぱる。
すると、芋づる式に次々と自衛隊員と恐竜人たちがぞろぞろ姿を現す。
ハルが辺りをきょろきょろと見回すと、そこは既に黄泉の国の中の様だった。
「黄泉の国への出入りは、一方通行のように感じるが、実は双方向なんだ。
なぜなら、黄泉の国の出口・・・実はここ入口でもある訳だが、ここを逆戻りして出ようとした場合、中で過ごした時間の1/10に短縮されて出てくるが、その際、出口の狭間の所で思い直して中へ戻ろうとした場合や、そうでなくてもうっかりバランスを崩して、後ろに体重がかかった場合など、ちょっとした体の動きは、普通に歩いていても度々起こりうるものだ。
ところが、ここが一方通行だった場合、出るだけで戻れないから、そうなるとその人の体は真っ二つに裂けてしまうことになる。
それでは、折角の魂の修業の場が、一瞬にして惨劇の舞台と化してしまう訳だ。
現世への扉自体は、扉という逆戻りを禁じているアイテムがあるからいいのだが、ここではそう言ったものがないので、双方向へ行き来できうるはずなのだ。
勿論、この出口というか入口の狭間に接している間だけだがね。
でも、これは非常に危険な事だとも言える。
つまり、ここから出ようとした同じときに、向こうの黄泉の穴から入って来ようとした場合、この狭間の中でお互いの体が交錯してしまうのだ。
我々は、そんなことを考えもせずに、既に何度かこの入口を出口として使っていたのだが、実は結構恐ろしい事をやっていたのだね。
まあ、世界大戦後の少数の人類の生き残りで、黄泉の穴の利用者が激減したということもあったのだろうが、運も良かったとは言えるよ。
だから、ダロンボさんたちも、基本的に黄泉の国を出る時には、現世への扉を勧めていたとも言えるだろう。
万一の事故を起こさないためにね。
そこで、この原理を利用して、黄泉の穴の出入り口の狭間に体を置いて、手を伸ばせば、その先の人間を引き込むことが可能だろうと言う考えに達したのだ。
少々乱暴なやり方ではあるのだが、生体同士で繋がり合ってさえいれば、一緒に引ずり込むことが可能な訳だ。
既に、レオン相手に何度か試して、成功していたから安心していたが、これだけ大人数となるとやはり大変だったね。」
所長は、前かがみでハルだけに小声で説明すると、腰を伸ばして恐竜人兵士たちの方に向き直った。
「恐竜兵士たちよ、済まないがしばらくはこの牢屋で過ごしてくれ。
いずれ、自由に生活できる場を与えるつもりだが、大勢が決するまでは我慢してくれ。」
所長はそう言って、恐竜人たちには太い金属パイプで出来た檻の中へ入るよう指示をした。
「ここは一体どう言った場所なんだ?」
恐竜人兵士の小隊長は、檻の中で周囲を見渡しながら尋ねてきた。
「あなたたちにそれを教える義務はない。
とりあえず、暫定的な捕虜収容所とだけ言っておこう。
おとなしくさえしていてくれれば、別に恐竜軍の事を聞き出そうとしたりはしない。」
所長はそう答えて、恐竜兵士たちを順に眺めて行った。
トランから得た情報から推察すると、監視役の恐竜人兵士たちは、代替わりしているはずだ。
恐らく、黄泉の国と言ったところで、彼らは中身を知らない可能性が高い。
しかし、自分たちの施設が逆に利用されていることが、ばれた時の反動も恐ろしいので、知らせずにいるつもりだ。
『チュドーン!』『ガガガガガガ』
灼熱のバズーカやマシンガンが撃ちだされ、障壁を張り遅れた恐竜人兵士の体が吹き飛ぶ。
「竜槍!!!」
「竜槍!!!」
「竜砲弾!!!」
すぐに報復の攻撃魔法が雨のように振りかかる。
『障壁!!!』
3人の魔術者が作り上げる障壁で、それらは全て防がれる。
「モンブランタルトミルフィーユ・・・大爆発!!!」
ミリンダの唱える魔法で、空を覆い尽くさんばかりの巨大な高温の玉が発せられ、恐竜人たちの頭上に浮かぶ。
「竜槍!!!竜弾!!!竜砲弾!!!消去!!!・・・・降参・・・、まいった降伏する。」
恐竜人兵士たちは、すぐに武装を解いて降伏した。
ミリンダが、魔封じの紐とネックレスを恐竜人たちの首に巻き付けるよう指示をする。
東京での戦いでは、恐竜人兵士は3名死亡し、自衛隊からも1人の犠牲者が出た。
そうなのだ、これは戦争とも言える戦いであり、一方的に相手に攻撃できるものではない。
こちらも、犠牲者が出るのは避けられないことだ。
ミッテランも巨大な大爆発の玉を、ホーリゥ、ゴラン、ネスリー達は巨大な光の玉を、ナンバーフォーとムーリーは巨大な暗黒の玉を駆使し、恐竜人兵士たちの攻撃を無効化し、退路を塞いで降伏させた。
『ガガガガガガガ・・・・』
「竜弾!!!」
「障壁!!!」
「光弾!!!」
「消去!!!」
双方から攻撃魔法や障壁魔法に排他魔法が飛び交う中、こっそりと敵の後方へ回り込んだスパチュラは・・・
『プシュー』虹色の糸を恐竜兵士たちに吐き掛け、一網打尽にした。
勿論、身動きの取れなくなった恐竜人兵士たちは、直ちに降伏した。
初の無血終戦だ。
「ちいっ・・・どいつもこいつも・・・。」
上空に映し出される、恐竜人兵士と覆面部隊たちとの戦いの様子を見ながら、タイガ中隊長は怒り心頭に達していた。
なにせ、自分たちが人間たちの主要都市に襲い掛かかり、少数で大勢の人間たちを蹂躙し、圧倒的な力の差を見せつけて、抵抗する気を削ぐ算段であったのだ。
それが、派遣した兵士たちとさほど変わらない人数の人間と魔物の集団に、いとも簡単に倒され降伏していく。
どういうことだ、人間などという哺乳類が進化しただけの生物など、恐竜人の足元にも及ばない存在のはずではなかったのか?
このままでは、侵略の様子を大々的にアピールしようとしたことが裏目に出てしまう。
それどころか、このまま帰ってはミライ中隊長にどやしつけられるばかりか、元老院からもきつい処罰をくらうことは必至なのだ。
何としても一矢を報いなければ。
本隊でもある自分の小隊は、小隊長も含めて12名いる。
少しは有利に戦うことができるだろう。
そう思っていると、やって来た覆面部隊は、黒い乗り物に各自が乗ってやって来た。
その乗り物には、数本の細長い足があり、素早く動くことができた。
しかし、体の小さな人間が乗り物に立ったまま乗っても、3メートル近い恐竜人と同等の高さという訳ではない。
接近戦であれば、未だ優位で展開できるはずだ。
「どうやら、魔法攻撃は分が悪い、全軍白兵戦だ。」
タイガ中隊長は、全員に突撃を命じ、自らも勢いよく突進して行った。
『プシュー』すぐに真っ白い無数の糸状のものが、敵から発せられて飛んでくる。
その攻撃を振り払いながら駆けこんで行き、黒い乗り物の上に乗っている相手に切りつけようとした途端、下から足元をすくわれた。
乗り物の足から攻撃を受けたのだ。
そうして、白い粘着質の糸を全身に浴びせられる。
それでもめげずに飛び上がると、黒い乗り物の上に乗っている敵兵に軍刀で斬り付けた。
「ほほう・・・、さすがはひときわ体の大きな恐竜人兵士だ。
おいらの所までやって来るとはね。
でも、そんなに糸が絡み付いた状態では、まともに戦えないだろ?
ホイっと・・・」
ジミーは簡単にタイガ中隊長の軍刀を跳ね上げると、遥か遠くへ飛ばした。
「さあて・・・、どうするかな?
他の兵士たちは全て、戦闘不能のようだけど・・・?」
ジミーはタイガ中隊長ののど元に軍用ナイフを突きつけながら、背後を見るように促す。
そこには、それぞれ蜘蛛の魔物の足に、押さえつけられて動くこともできない恐竜人兵士たちがいた。
「わ・・・分った・・・、仕方がない、降伏する。」
タイガ中隊長は、あきらめたように両手を高く上げた。
ジミーが連れて来た恐竜人兵士たちで、この中隊は収容を終える。
総勢111名いた恐竜人中隊も、80名そこそこに総数を減らした。
対する人類+魔物の連合軍も、5名ほどの犠牲者が出てしまった。
彼らの遺体は、手厚く弔われて、所属の部隊へ帰される予定だ。
ハルたちも改めて、戦争というものの厳しさを再認識した。
しかし、これで、まずは人類側の1勝だ。




