第40話
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今日の早朝-----------
「また、手紙が来ていましたよ。」
元7聖人たちの南極基地へ移っても、日課として報告板の裏を確認に通っているハルが、基地内の司令室に詰めている所長に封筒を持ってきた。
「どれどれ・・・、ほう、やはり恐竜人は目覚め始めていて、更に1中隊が近々にでも地上制圧に向かうだろうという連絡だ。
それは、早くても明日になるだろうと書いてある。
どうやら我々の対応は、ぎりぎりではあるが間に合ったと言えるだろう。
恐竜人たちの地上進出を、待ち受けることができる。
しかし、困ったことに、上陸先は今のところ見当がついていないと言う事のようだ。
まあ、今現在で人間たちが固まって暮らすような、都市として機能している個所は、世界に何か所もあるわけではない。
ましてや、国家と言えるようなところは、マイキーの国やS国など、かつての永世中立国が残っているだけだ。
恐らく、これらを目標に兵を送り込んでくると考えるが、相手方の兵力の配分が分らないから、待ち伏せは難しいだろう。
各地に分散して待ち構えていて、どこか1ヶ所を集中的に攻め込まれたら、恐らくその都市は守りきれないだろう。
仕方がないから、奴らが襲ってくるまでここで待っていて、上陸した兵力を見ながら、こちらも対応することにするしかない。
なにせ、こちらには秘密兵器・・・というより秘密台帳・・・だがね、がある。」
所長は、自信ありげに微笑んだ。
ところが、予想より1日早く、それからすぐに上空にタイガ中隊長の姿が映し出された。
「どうやら、アメリカのニューヨーク跡の廃墟に、1小隊が上陸したようです。」
空のスクリーンに映し出される映像を確認して、ハルが指令室に駆け込んでくる。
「ふうむ、敵の目的はなんだ?
全く見当もつかないが、ほっておくわけにもいくまい。
ハル君、悪いが第1班はニューヨークに上陸した恐竜人の元へ向かってくれ。
幸いにも、ニューヨークからおおよそ百キロ地点に黄泉の穴があるようだ。
このくらいの距離なら、今のハル君たちの脚力なら何分もかからんだろう。
ここに出る札は、薄緑色だね。」
所長は、そう言いながら札のサンプルが印刷されたページをハルに見せる。
「はい、分りました、すぐに向かいます。」
そう言って、ハルたちの第1班はニューヨークへ向かうために、南極の黄泉の穴へと入って行ったのだった。
「ちっ・・・、ここもか・・・、人間どもは自分たちが住んでいる都市を、こんな瓦礫の山にしちまって、一体全体何を考えているのだ?」
東京はハルたちも知っている通り、戦火の影響で、荒廃しきっていた。
「こんなところが人間どもの生息場所とはな。
ジャングルの木立の陰に潜む野生動物と変わらんではないか。
まあいい、知的生命体とはとても思えんし、制圧して家畜同然として扱う方針というのも頷けるというものだ。
次の班、行って来い。」
『はっ!』
またも、円盤からビームが発せられ、恐竜人兵士たちが降り立った。
「次は、東京だ。
ミリンダちゃんは行ったことがあるだろうが、他のメンバーは初めてだ。
ちょっと遠いが、富士の風穴から出て、そこから走って行ってくれ。」
所長から、ミリンダに指示が飛ぶ。
「分ったわ、方角もおおよそわかるから、ちょっとくらい遠くても大丈夫よ。」
ミリンダは、真っ赤な木の札を手に持って、黄泉の穴へ向かった。
その後も、恐竜人兵の乗った円盤から兵士たちが上陸する度に、近くにある黄泉の穴へ向けて、各班が対処に向かって行った。
「最後は、デリーだ。
どうやら、21世紀当初の世界中の大都市圏上位から上陸先を選択したようだね。
その後の世界大戦で、どこも荒廃してしまったとも知らずに。
20キロほど離れた場所に、黄泉の穴があるようだ。
ジミー、向かってくれ。」
所長が、鬼の能力を身に付けた修行僧に出口の木の札サンプルを見せると、その札を人数分だけ出してもらい、ジミーたちも出発した。
「さあ、頑張ってくれよ。」
所長は、ジミーたちの姿を見送りながらも、自分も黄泉の穴へと歩いて行った。
場面変わってニューヨークの戦闘場所・・・・
「ほう、人影が全くないので、途方に暮れていたところだが、お前たちが現れてくれて助かった。
子供もいるし、少数過ぎて腹ごなしの運動にもならんが、それでもお前たちを駆逐する姿を見せつけておけば、残りの人間どもも少しは従順になることだろう。
隠れていて、俺達をやり過ごせばよかっただろうに、わざわざ姿を現してくれたことを、後悔させてやるぞ。」
体の大きな小隊長は、ハルたちの出現により、少しほっとしたような様子で、数歩前へ歩き出した。
「突風!!!」
ハルが唱えると、無防備な小隊長の体は強風に吹き飛ばされ、背後の瓦礫の壁に勢いよく衝突した。
ハルが、黄泉の国での特訓で取得した、風系の魔法である。
「大丈夫ですか?小隊長殿。」
「いたたたたた・・・、油断した。」
衝撃でさらに崩れたがれきの中から、恐竜人兵士の手を借りて起き上がる。
「ふう、人間の小僧は、生意気に精神感応を使えるようだな。
そう言えば、精神感応検知の球体はどうした?
球体がいれば、あのような魔法小僧も容易に検知できていたはずだ。
それに、攻撃用の円盤はどこにも見えないがどうなっている?
あんな雑魚ども、我らが直接手を下すこともない、円盤に処理させておけばいいだろう。」
小隊長は、上空を見渡しながら、兵士たちに尋ねる。
「そんなもの、こんな瓦礫ばかりの廃墟に配備されているはずありませんよ。
あれは、奴隷たちを掌握するためのものですからね。
人間や魔物の生息地に限られているはずです。」
先ほどまで、分析用モニターを操作していた兵士が、小隊長の体の土埃を払いながら答える。
『ガガガガガ!』すぐに、兵士たちのマシンガンから灼熱の弾が撃ちだされる。
「ウギャーッ!」
「障壁!!!」
小隊長以下、数名は障壁を張るが、2名の恐竜人は、その体を白熱化させて燃え尽きた。
「くそう、竜弾!!!」
真っ赤に燃えた溶岩のような球体が、ハルたちに襲い掛かる。
「障壁!!!」
魔術者の1人が唱えると、オレンジ色の障壁がハルたちを包み込んで、敵の攻撃を防ぐ。
「ええい、一斉攻撃だ。」
小隊長は、そう叫ぶとハルたちの方へ一気に駆けだした。
「竜砲弾!!!」
「竜砲弾!!!」
「竜弾!!!」
「竜弾!!!」
「・・・・・」
小隊長の援護とばかりに、様々な大きさの真っ赤に燃えた球体が、恐竜人の兵士たちから発せられる。
「父さん、母さん、そしておじいさん、僕に力を貸してください・・・。
灼熱の炎、灰と化せ!!!」
空を覆い尽くさんばかりの巨大な灼熱の玉は、恐竜人兵士たちの攻撃を次々と飲み込みながら、彼らの方へゆっくりと進んで行く。
「どぉりゃー」
恐竜人兵士の小隊長は、ハルたちの輪の中に飛び込むと軍刀を抜き、目にもとまらぬ速さで斬り付けた。
『ジャキーン!』甲高い金属音と共に、その攻撃は簡単に受け止められ、小隊長は日本刀を抜いた自衛官たちに囲まれてしまった。
「さあ、どうする?
お前の部下たちの命も風前の灯だ。
あきらめて降伏するんだな。」
小隊長の軍刀を受け止めている松茂中尉が、つばぜり合いの向こう側から囁く。
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「鬼語というのは、獣の言葉に近い言葉の様で・・・。」
黄泉の国での特訓の合間に、ジミーが鬼語講座を開催した。
新規に加入した兵士や魔術者には、特訓の合間の休憩時間が有効に使えるため、口移しではなく、授業で言葉を覚えさせることにしたものだ。
このため、ダンジョンでの特訓をしないために、オーラの発達がほとんどない、所長やマイキーも鬼語を取得出来た。
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「なっ!」
小隊長が振り向くと、ハルの発した灼熱の弾がすぐ頭上に迫ってきて、逃げ場を失った恐竜人兵士たちは、何もできずに茫然自失の状態だ。
「く・・・っくそう・・・、分った、降伏する。」
小隊長は、そのまま軍刀を鞘に納めると、鞘ごと松茂中尉に手渡した。
それを見ていた、恐竜人兵士たちも武装を解除して、地面に放り投げる。
「では、これを皆さんの首につけてください。」
そう言ってハルは、金属製チェーンのネックレスと、色とりどりに装飾された太い紐を、それぞれ手渡した。
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「これは、カーボンナノチューブ製のワイヤーで出来た、魔封じのネックレスと、同じくそのワイヤーで補強された、魔封じの紐だ。
ミッテランさんにも頼んで、共同で製作しておいた。
恐竜人兵士たちの捕虜の、首に巻くようにしてくれ。
彼らは魔力が強いようだから、1%以上の魔力を発したら、絞まるように調節してある。
知的生命体である恐竜人たちに対して、このような事をしたくはないのだが、大勢が決するまでおとなしくしていてもらうためには、仕方がない事だろう。
合わせて300本ほど制作したから、みんなにも配っておいてくれ。」
魔封じのネックレスと魔封じの紐を、所長は各班に30本ずつ手渡した。
「でも、恐竜人たちが出現する度に、黄泉の国を通ってその近くにある黄泉の穴へ向かう事は分りましたけど、帰るときはどうするのですか?
僕たちも、さすがに始めて行った土地では、大体の方角が分ると言っても、ほぼ瞬間移動は無理ですよ。
そりゃ、自分だけなら途中海に落ちたりしながら何度か方向や距離を修正して、戻ってくることは可能ではありますが、他の人を連れては・・・、ましてや恐竜人の捕虜を連れてなんて、絶対に無理ですよ。」
ハルは、戦いが終わった後のことを心配していた。
勿論、必ず勝てると思いあがっている訳ではない、しかし、あらかじめその後の事も考慮しておくのは重要な事だ。
戦いの前後含めて、全てが準備と言えるのだ。
決死の覚悟の玉砕戦ではあるまいに、片道切符とはいかないということだ。
ハルたちが、瞬間移動で行ける場所は限られている。
マイキーの国と西日本と仙台市に九州の町、それとハルたちの村である旧釧路だ。
チベットの寺院も行けるが、こちらは恐竜人たちに場所を知られてはいないから、襲撃される心配はないだろう。
しかし、それ以外にも、人々が生活している土地はたくさん存在している。
なにせ、S国は戦争の被害をほとんど受けてはいないので、いくつもの大都市があるのだ。
その周辺の国や現在開拓中の土地も考えると、旧ヨーロッパだけでも相当数に上るだろう。
更に、ハルたちがまだ知らない場所に生存している人々たちだって、多数いるはずだ。
その為、黄泉の国を通じて襲撃場所近くの黄泉の穴へ向かうと言う案には賛成だが、帰るときには疑問符がついてしまう。
旧ヨーロッパは、S国軍に頼むとして、他の地域には自衛隊や米軍に協力してもらって、世界各地へ迎えに来てもらうとでもいうのだろうか。
それでは、1ヶ所へ迎えに行くだけでも、何週間もかかってしまう場合だってあるだろう。
その間の食糧とか、恐竜人捕虜たちの処置なども決めておかなければならなくなる。
それとも、まさか、自分たちが瞬間移動できる土地以外には、救援に向かわないとでもいうのだろうか?
ただ単に、行く時の瞬間移動時の魔力を感知されないためだけに、黄泉の国を経由するだけなのか?
「ああ、帰る方法に関しては、既に考えてある。
簡単な実験も終えているから、恐らくは大丈夫だろう。
君たちは、戦いのときに出た黄泉の穴へ戻ってくればいい、そこから帰る方法を用意しておく。」
所長は意味深な笑みを浮かべるのみだった。




