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もう平和とは言えない冒険の書  作者: 飛鳥 友
第1章 恐竜人編
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第4話

                 4

「はい、所長さん。」

 そう言ってハルが差し出した物は、大きな木箱に布が巻きつけられ、その結び目に剣が括り付けられたものだった。


「悪いね、用事を言いつけちゃって・・・。

 さあ、乗って・・・。」

 所長がハルに手を差し伸べるが、船員に止められる。

 既にボートの定員に達しているようだ。


「だったら、私が降りるよ。」

 そう言って、所長が救命ボートから降りようとする。


「いえ、私が。」

 一緒に乗っていた、スターツ王子が所長を制して、ボートから降りようとする。


「駄目です、所長さんも王子さんも乗っていてください。

 僕は、瞬間移動できるから、心配ありません。」

 そう言って、ハルは笑顔で木箱を所長に手渡して、次のボートを待った。


 海面にボートが降ろされて、船員がオールをこぎ始める。

 所長が見上げると、フェリーの巨大な煙突部が突然割れて、そこには発射台のような鉄の枠に支えられた、巨大なミサイルが現れた。

 同時に、ゴランとホーリゥの障壁が破られ、球体と円盤が動き始める。


 次の瞬間、フェリーは真っ白な光の帯に包まれ、大爆発した。

 同時に、爆風が上空高くまで伸びあがったように見え、その先には火炎を噴出している筒が見えた。

 先ほどのミサイルは、爆発の寸前に発射されたようだ。


「は・・・、ハル君・・・。」


 燃え上がるフェリーを後方に見ながら、所長がつぶやく。

 すると、たなびく煙を背景に、1艘のボートが浮かんでいるのが見える。

 そこには数人の船員たちと、立ったまま右手を元気に振っているハルの姿があった。


「よ・・・、よかった・・・。」

 所長が、ほっと胸をなでおろす。


「いや、よくはない・・・、10キロ以内なら迎撃は不可能だが、まだ20キロはある。

 これでは、失敗する可能性が・・・。」

 同じボートに乗り合わせた、いかつい顔をした軍服姿の男が、遥か上空を見上げながら呟く。


「あ・・・あんたねえ・・・、そんなバカなこと考えているから、無理な突撃を敢行して、ここに居る全員の命を危険にさらしたんだ。

 子供たちもいるんだぞ、さっきもそう言っただろ!」


 所長は、そのいかつい顔を気にもせずに、その男の胸ぐらをつかみあげた。

 余程興奮しているのだろう、いつもの所長からは考えられない行動だ。


「いてててて。」

 ところがすぐに、その腕を逆に決められ、後ろ手にねじ上げられる。


「おい、止めるんだ。」

 すぐにスターツ王子と、マイティ親衛隊長がやってきて、いかつい顔をした男の手を離させる。


 丁度その時、発射されたロケットは、その先端を数個に分裂させ、地表に向けて落下を始める。

 しかし、すぐに大陸から何本もの光線が発せられ、それらは全て爆発することもなく消滅した。

 その光景を見ながら、スターツ王子とその男は、何か口論をしているようだ。


「・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・・・・」

「どうやら、彼の部隊があのミサイル攻撃担当だったようで、数人の部下が恐らく先ほどのフェリーに乗ったまま殉職したようです。


 無茶な事は重々承知の上で、軍人として上からの命令は絶対ですから、彼も辛かったのでしょう。

 許してやってください。」

 スターツは戻ってきてから、所長に告げる。


「しかし、さっきも見たように攻撃は全く無効でした。

 10キロ以内ならばと言っていましたが、先ほどの様子から察すると、近距離であっても結果は変わらなかったのではないかと推測されます。


 これでは、死んだ兵士たちは全くの無駄死にです。

 未知の敵なのですから、相手側の防御力も攻撃力も分かっていないわけです。

 我々の常識は通用しない相手なのです。


 兵力の分析などじっくりと観察してからでなければ、作戦もたてられなかったはずです。」

 所長は、尚も悔しそうにしている。


「お気持ちは判ります。

 しかし、今の言葉を彼にぶつけるのは、勘弁してやってください。」

 スターツは、そう言って頭を下げる。


 同じ軍人として、部下を持つ身として、あの男の辛さは判るという事だろうか。

 ボートは海原を進んで行くが、そういえば、先ほどフェリーについて飛んでいた球体は、救命ボートには寄って来てはいない。


 よく見ると、燃え盛るフェリーの周りを、今でも飛び回っている。

 どうやら、人ではなく、フェリーの方に監視の対象が向いているようだ。

 煙突に隠されていた、ミサイルを嗅ぎつけていたのか、あるいは動力など熱源を感じ取っているのか。


 どちらにしても、手漕ぎのボートには興味はなさそうだ。

 やがて、島を見つけてボートの進路を変える。

 島には砂浜があり、既にミリンダ達が上陸しているようで、着岸したボートが見える。


 もともとこの地にあったのか、あるいは新大陸と共に隆起してできたのか・・・、木々が生い茂っている所を見ると、元からこの地にあった島のようだ。


「ハルは?」

 ボートが砂浜に到着すると、すぐにミリンダがやってきて、ボートの中を覗きこむ。


「ああ、申し訳ない。ハル君が来る前に、定員になってしまった。

 すぐ後ろのボートに乗って来るよ。」

 ボートから降りながら、所長はそう言って後方を指さした。


「ハルー!」

 ミリンダが沖に向けて、大声で叫びながら手を振ると、ハルも手を振って来た。


『カチャカチャ』そんなミリンダの後方では、軍服姿の男女たちが、せわしげに何かを組み立てている。

 どうやら、ハンディタイプのロケットランチャーや、バズーカ砲のようだ。

 原稿を入れたスーツケースに見せていたのは、全て、こういった武器や弾薬のようだ。


 これでは、ジミーのようにマシンガンやバズーカ砲を、堂々と肩から下げていて、没収されたのが気の毒というものだ。


「こんなところで、武器を広げてどうするおつもりですか?

 向こうまでは、まだまだ20キロ近くはあるでしょう。

 とても射程圏内とは思えませんよ。」


 そんな彼らの背中に、所長は冷ややかな言葉を掛ける。

 いい加減冷静になって、ここは収めてもらいたいのだ。


「破壊兵器感知、破壊兵器感知。

 直ちに武器を捨てろ、繰り返す、直ちに武器を捨てろ!」

 先ほどの円盤が、瞬時に飛んできて、軍服姿の集団の周りを飛び回り始めた。


「大陸までは届かなくても、こいつらの相手は出来ると言っていますね。」

 何時の間に来たのか、スターツ王子がやってきて、叫んでいる男の言葉を通訳してくれた。


『ズゴーン!』爆音とともに、バズーカ砲が円盤に向けて発射されたが、円盤はほんの少し後方へ押された程度で、爆風をものともせず、傷一つついていない様子だ。


「いかん、すぐに武器を捨てるよう、言ってください!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」

 スターツが叫ぶより早く、円盤からきらめくような閃光が発せられた。


障壁(バリア)!!!」

 危うく間に合ったオレンジ色の障壁で、彼らは無事の様子だ。


「精神感応検知、精神感応検知。」

 すぐに、いくつもの球体が飛んでくる。


「モンブランタルトミルフィーユ・・・暴風(サンダ)雷撃(ストーム)!!!」

 一瞬で辺りが暗くなり、雷を伴った暴風が吹き荒れ、円盤と球体を巻き込み、相互に衝突させて砕いた。

 風が収まった後には、バチバチと火花を散らす、金属の破片が辺り一面に飛び散っていた。


「戦い始めたからには、もう収まらんぞ。

 いいんだね。」

 所長は、真剣な眼差しで、ミリンダ達を眺める。


「仕方がないじゃない、この人たちが勝手にどんどん武器を広げたり、攻撃を仕掛けたりしてしまうんだもの。

 だからと言って、知らないふりしてやられるのを見ている訳にはいかないでしょ?」

 ミリンダも、不満そうに頬を膨らませながら答える。


「ふうむ・・・、少しでも相手の事を調べてから、対処を決めたかったが、やむを得んか・・・。

 分った・・・、ジミー、バズーカとマシンガンは取り返してきたようだね?」

 所長は意を決したように、ジミーを呼びよせた。


「へっへぇー、分ってました?

 没収された保管室が甲板近くにあるのを知っていたから、避難する時のどさくさに紛れて、取り返してきました。」

 ジミーは両肩にマシンガンとバズーカを下げている。


「灼熱の弾の弾倉はいくつある?予備があったら、彼らに渡してやってくれ。

 どうせ、通常兵器では、役に立たんだろう。


 それと、灼熱のバズーカも、予備弾を持ってきたはずだね。

 どうせ、段ボールの筒じゃ1発しか発射できないから、予備弾をくれ。」

 所長は、いつになく真剣な表情でジミーに矢継ぎ早に指示を出す。


「はい、予備マガジンは10個持ってきましたから、8個は配りましょう。

 それと、はい灼熱のバズーカの予備弾。」

 ジミーはそう言いながら、銀色の大きな砲弾を所長に手渡した。


 そうして、灼熱の弾の予備弾倉を、周りの軍人たちに配り始めた。

 マイキーとマルニーが通訳して、弾の威力を説明しているようだ。

 これには、先ほどまで所長たちには目もくれず、おのが使命を全うするという感があった軍人たちも、感謝したようで深々と頭を下げた。


 ふと見ると、スターツ王子もミンティア王女もマイティ親衛隊長も、既に武装していて、灼熱のバズーカ砲と灼熱弾のマシンガンを携帯していた。

 彼らも軍服どころか、武器まで隠して持ち込んでいたという訳だ。


 そうして、ジミーに習い予備の弾倉を周りの兵士たちに、配り始めた。

 所長は、ロケットランチャーを抱える兵士の所へ行くと、ランチャーの弾を取出し先端を回しながら開けた。

 さらに、灼熱のバズーカの弾を2つに割ると、その中身をランチャーの弾に詰め始めた。

 それを8発の全ての弾に行い、そうして、再び兵士に手渡した。


「こんなことなら、蜘蛛の魔物さんや、飛び太郎・飛びの助さんたちも加えて、いつものメンバーで来るべきだったね。

 平和的交渉だから、物騒なメンバーは避けてくれと言われていて、素直に聞いたのが失敗だった。


 当事者の方が余程物騒なものを、隠して持ってきていたのだからね。

 まあ、今更なにを言っても遅い。

 さあ、戦闘開始だ。来るぞ。」


 所長が言うとおり、遠目に見えていた大陸の姿が、ぼやけて浮き沈みしている。

 よく見ると、大量の黒い影がうごめいているようだ。

 近づいてくると、それは先程の円盤と球体の無数の集団だった。

 まるで、ミツバチの集団のように、何百何千の群れとなって飛んでくる。


『ヒューン!』ロケットランチャーからロケットが発射され、先頭集団に命中すると、まばゆいばかりの光に包まれ、数固体巻き込んで海面に落ちた。

 灼熱仕様のロケットの破壊力だ。


『ガガガガガガ!』すると、他の兵士がマシンガンを乱射し始める。

「だめだ、マシンガンではもっと引きつけなければ、いかな灼熱の弾でも効果がない。

 もう少し待つように言ってもらえないか!」


 所長の言葉を待つまでもなく、スターツが大声で叫び、兵士はすぐに撃つのを取り止めた。

 なにせ、限られた武器弾薬なのだ。


『ドガーン!』『ヒューン!』ジミーや王子たちのバズーカやロケットランチャーが発射され、敵円盤や球体が次々と撃ち落とされていく。

 それでも、飛来してくる黒い影は、一向に減るようすが見られない。


 やがて、空を覆い尽くすほどの、円盤や球体が間近まで迫って来た。

『ガガガガガガ!』灼熱の高温を発する弾の威力は凄まじく、次々と球体や円盤を打ち落としていく。


斬首刀(ギロチン)!!!」

 飛び交う円盤が突然真っ二つに裂ける。

 ネスリーの魔法だ。


「○△■☆□!!!」

 ゆっくりと放たれた光の玉は、簡単に躱されるが、くるりと反転して円盤の軌跡を辿り、後方から打ち砕く。

 そうして、一撃で数個の球体を打ち落とした。


「フレン・ドアスカメッセ・・・大爆発(エクスプロージョン)!!!」

 ミッテランが発した高温の球体は、爆風を伴いながら球体たちの群れの中に突っ込んで行き、数十機を一度に海面へ撃ち落した。


「・・・完全障壁(シャッダウン)!!!」

 ゴランは障壁で所長やマイキーにマルニーを守っている。


「モンブランタルトミルフィーユ・・・暴風(サンダ)雷撃(ストーム)!!!」

 ミリンダの発した暴風で、球体たちが互いにぶつかり合って海面へ落ちて行く。


 しかし、それでも飛来してくる物体が収まる気配は見られなかった。

 弾薬もつきかけ、ミリンダ達も疲弊しかけてきた。


「こふぉー!」

 地の底から吐き出されたような息吹と共に、飛来してくる黒い雲のような一団を切り裂くようにして、衝撃波が走って行く。


 見上げると、竜神が召喚されていた。

 ハルだ、ハルが見かねて竜神を召喚したようだ。



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