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もう平和とは言えない冒険の書  作者: 飛鳥 友
第3章 恐竜人編3
39/201

第39話

                      8

「じゃあ、早速 地上を制圧しに出向くとしようか。」

 タイガ中隊長は、目覚めた翌日には地上へ出向くよう準備を始めた。


「ちょ・・・ちょっと待ってください。

 まだ引き継ぎも何も・・・。」

 その言葉を聞いたトランが、焦って引き留める。


「ふん!引継ぎなど無用だ。

 どうせ、地上には下等な生物しかおらん、一気に制圧してしまうのだ。」

 聞く耳持たんと言った様子で、タイガ中隊長はトランの制止を振り払おうとする。


「し・・・しかし、地上へ出るための円盤は、あと5日後の到着となります。

 それまでは、地上へ出る術がありません。」

 トランは、何とかタイガ中隊長をなだめて、指令室の席につかせながら、伝える。


「なんと、そんな重要な事、なぜもっと早くに言わない。

 既に俺の中隊には全軍出撃命令済みだぞ、どうしてくれるんだ。」

 重大な事実を聞いたタイガ中隊長は、顔を真っ赤にして怒り出した。


「ですから、昨日のお目覚めの時から、現況説明をいたしますと、何度も申し上げたではないですか。

 それを無視されて、やれ長期間の睡眠で体がなまったから、少し体をほぐす運動をするだの、食事をして胃を動かさなければいけないだの言われて、こちらの立てたスケジュールを全く無視されて、勝手に行動されていただけでしたよね。


 いいですか、これからはこちらが作ったスケジュールに従って、行動していただきますよ。

 医者からも冷凍睡眠から目覚めたら、1週間はリハビリが必要と言われていますから、リハビリのスケジュールと、その間に現況説明などさせていただきます。


 これは、元老院の許可も頂いていますし、タイガ中隊長殿だけではなく、中隊全員に従って頂きますよ。」

 トランは、居丈高に怒鳴りまくるタイガを無視するように、あくまでも冷静に伝えた後、タイガの目をじっと見つめた。


「お・・・おお・・・そうか、1週間だな、1週間だけは我慢してやる。

 どうせ、上陸用の円盤もないと言う事だからな。

 しかし、1週間後には必ず我が中隊が地上の制圧に向かうと言う事を忘れるなよ。」


 意外にも、タイガ中隊長はトランの言葉に素直に従うようすだ。

 どの道、移動手段がないので、1週間は足止めを食うことになるから、騒いでも仕方がないと考えたのか、あるいは、いつもいつも強気で要求するばかりで、反対に命じられることに慣れていないのか、これには、トランも拍子抜けした格好だ。


 何にしても、来週まではおとなしくしていてくれるだろう。

 それから4日間は、バームたちとタイガ中隊長に現況説明を繰り返し講義し、地上の状態を理解してもらおうと努めた。



「アカミ、いるかい?」

 それから1週間ぶりに、トランは元ザッハ小隊長の自宅を訪ねる。


「あら、トルテ君。また魔物の貸し出し?

 この頃、うちへ来る用事と言ったら、それだけだものね。」

 玄関へ出て来た元ザッハの妻は、不満そうに唇を尖らせる。


「わるいなあ、未だに地上へのルートが見つけ出せていないんだ。

 それで、今日は人間の方を借りたい。」


 そう言ってトランは、両手を顔の前に会わせる。

 この辺の仕草は、恐竜人も共通のようだ。


「はいはい、分りましたよ、基地の重要な情報ですものね。

 ちょっとー、ナンバーファイブちゃーん、ご指名よ。」

 アカミは玄関先から家の中へ大きめの声で呼びかける。


「はーい、なんですか?

 と・・・トルテ小隊長・・・。」

 奥から出て来たナンバーファイブが目を丸くする。


「まあまあ、なんですの、今は昇進なされて、中隊長なのよ。」

 すぐにアカミがナンバーファイブをたしなめる。


「そ・・・そうですか、すいません。」


「構わん、本日はお前と一緒に、この基地と地上と繋がるルートを探ろうと考えている。

 これでだめなら、次は魔物と人間2人を連れてルート探しだ。


 見つかるまで、いつまでも続けるから、今からでもなにかルートの当てになるような事柄があったら、言っておいた方がいいぞ。

 じゃあ、ついて来い。」


 トランはそう言いながら、振り返って歩き始めた。

 すぐにナンバーファイブも後を追う。


 いつものように基地へ着くと、監視カメラを切った後で、警備業務の3名を呼び出し、本部室で待機させる。

 そうして、ナンバーファイブと共に報告板裏へ行って、手紙を埋める。


「また、向こうからの手紙が入っていましたね。

 どうやら、特訓は順調に進んでいるようですね。

 向こうでも10小隊の編成で軍隊を整えた様ですよ。


 第9中隊の地上侵攻に関しては予想済みで、今の手勢だけで戦えるから、手助け無用とありますよ。

 大したものだ、さすがは所長さんだ。


 決戦も近づいてきたので、そろそろファイブには逃げられたことにして、地上へ帰そうかと思っていましたが、今しばらくこちらに居てもらう事にしましょう。

 その方が、敵の情報もつかみやすいですしね。


 それから・・・、ほう、少し面白い事が分りましたよ。

 では、こちらからの返事を追記して、手紙を埋めておきましょう。」


 トランは、封筒を開けて便箋に書き込むと、手紙を先ほど掘った穴に埋めた。

 基地へ戻ると、兵士を通常勤務に戻し、ナンバーファイブを家まで送って行き、先週同様、そのまま次元通路へ向かう。


 本日は、第10分隊が目覚める日だ。

 第9分隊と違い、トルテ小隊長には全く面識のない分隊であり、どのような中隊長が出て来るのか、緊張して出迎える。


「おはようございます、ミライ中隊長殿。

 私、つい先日第8分隊隊長に昇進しました、トルテと申します。」


「うん?ああ、おはようございます。

 タイガではないのか・・・第8分隊・・・というと、タリルの分隊だったはず。

 目覚めの時も予定とはずいぶんと違うようだが、何かがあるのかな?」

 背の高い恐竜人たちの中でも、ひときわ高い身長のミライ中隊長は、眠そうな目を擦りながら尋ねてきた。


「はい、実は・・・。」

 トランは、闇の存在が封印されて地上は安全となったことと、タリル中隊長の不幸の事を簡単に説明した。


「ほう・・・、そうか。それで、我らが目覚めの時が来たという訳だ。

 そいつはめでたいな・・・、しかし、先に目覚めているはずの、タイガの奴が出迎えに来ておらんではないか。

 何という無礼な・・・、次の分隊が目覚める時には、先の分隊の長が挨拶に訪れるのが礼儀のはず。」

 ミライ中隊長は、その温厚そうなやさしい顔立ちとは裏腹に、厳しい目つきで周囲を見渡す。


「い・・・いえ、タイガ中隊長殿は、前週目覚めたばかりでして、まだリハビリの最中です。

 その為、私が代わりに挨拶に・・・。」

 トランは、代わって弁明を述べる。


「うん?しかし、奴らの冷凍装置のタイマーを見る限り、目覚めは7日も前だろう。

 いくらリハビリ中でも、様子見に来るくらいは出来るはずだ。


 それに、事情はどうあれ、君はもう中隊長でタイガや私と同じ階級だ。

 殿を付けるようなへりくだった態度はやめた方がいい。

 部下が不安がるぞ。


 目覚め後1週間は、軍医の元でリハビリだったな。

 タイガの奴をついでにとっちめてやるか。

 じゃあな。」


「は・・・はい・・・、ミライ中隊長ど・・あっいえ・・・。」

 慌てて語尾がはっきりしないトランの態度を、笑顔で流し見ながら、ミライ中隊長は部下たちと共に医務室へ向かった。


 誰にでも苦手はあるという事か、あの恐ろしいタイガ中隊長を叱りつける立場の人がいたとは・・・。

 考えてみれば、タイガ中隊長が第8分隊に対して強気な発言をするのも、常に引き継ぐ立場であるからであり、引き継がせようとする方は、相手が了解しなければいつまでも現場を離れられないのだ。


 常に、後の順番の分隊の方が強い立場という事だろうか。

 なんにせよ、あの我儘なタイガ中隊長の手綱を引っ張れる存在は頼もしく思えた。



 翌日、案の定タイガ中隊長が泣きついて来た。


「あんな奴とは一緒にリハビリなんかやっていられねえ。

 俺たちは、すぐにでも地上制圧に出かけるぞ。

 いいだろう?もう地上航行用の円盤は届いているはずだよな?


 なっ?頼むよ・・・。」

 先週までの強気な態度はどこへやら、タイガ中隊長はトランに両手を合わせて拝み始めた。


「はい、上陸用の円盤の整備は終了して、待機中となってはいます。」

 トランは、仏頂面のまま答える。


 円盤は既に1昨日配備されていて、すぐにでも出航可能な状態ではあった。

 しかし、地上との連絡が出来るまではと、タイガには知らせずにいたのである。

 既に、こちらの状況を知らせる手紙は置いてきてはいるのだが、それにしても1日早い。


「グレイ小隊長が中心になって、過去一万年間の人間社会の文明の発達状況や、国家の変遷や都市の移り変わりなど、説明しているはずですが、どの程度まで進んでいますか?」

 トランとしては、人間社会の情報が不備では戦いに支障をきたすとして、何とかもう1日延期にしたかった。


「ああ、あんなの一万年分も突っ込まれたんではたまったもんじゃない。

 過去ははしょらせて、ごく最近の分を説明させたんだが、それでも長い。

 まあ、人間社会で言うところの西暦2千年の社会まではほぼ理解したから充分だ。

 じゃあ、これから地上へ向かうぞ。」


 タイガは、後ろ向きに手を振りながら、次元通路を後にした。

 その後ろを追いかけるようにして、部下の兵士たちがついて行く。

 どうやら、円盤の発着場へ向かうようだ。止めても無駄だろう。


 すぐに南極の空が暗くなり、巨大なスクリーンと化して、恐竜人の姿が映し出される。


「俺様は、タイガ中隊長だ。

 今までの恐竜人たちはずいぶんとやさしい奴らばかりだったが、俺様が目覚めたからには、今後は楽な生活は出来やしないぞ。


 まずは、俺様たち恐竜人の力を見せつけてやる。

 お前たち人間どもの大都市に行って、我らが力を披露してやるから、待っていろ。


 ただ単に、巨大円盤の破壊光線などで、破壊尽くすという事ではない。

 我らが兵士が、直に出向いて破壊の限りを尽くしてやる。

 止められるものなら止めようとしてみるがいい。


 地上のどんな武器も、我らが兵士の前には全て無効だ。

 何もできずに、ただ町が破壊されつくすのを眺めているだけの恐怖を味わうがいい。」


 空の画面は、おびただしい電光に囲まれた空洞の中を上昇する映像に切り替わった。

 タイガ中隊長が、威厳を見せつけるため、わざわざ宣戦布告とも言える宣言をしてから、円盤に乗り込んでその様子も放送し続けているのだ。


 恐らく地上の都市を破壊しつくして、その様子を見た人類に全ての希望を失わせるのが目的と考えられる。

 そうして海上を進むと、とある大陸の海岸沿いの都市跡に辿りついた。


「うん?ここがニューヨークという都市なのか?

 瓦礫とクレーターばかりではないか。

 今では人間社会も、地下に穴を掘って地底生活を続けているというのか?


 まあいい、第1小隊上陸開始。」

 タイガが命じると、円盤から光の輪が地上に向けて降ろされ、その光が地上へ達した時には、そこに10人ほどの恐竜人兵士が降り立っていた。


「次は、海を越えて東京という都市だ。」

 そう言って、円盤は西へ向けて出発した。



「小隊長殿、どうします?

 生体反応ゼロです。地下に潜んでいる様子もありません。


 こんなところ、破壊の限りを尽くして、人類に恐怖心を植え付けるって言ったって、既に破壊しつくされているようだし、なによりも肝心の人類がどこにも見えないんじゃ、どうしようもないですよ。」

 恐竜人兵士は、手に持ったハンディタイプの分析装置のモニターを眺めた後、辺りを見回し途方に暮れた。


「そ・・・そんなこと言ったって・・・、既に円盤は飛んで行ってしまったしな・・・。

 タイガ中隊長の事だから、何か手柄でも立てなければ、迎えに来てはくれないぞ。」

 少し体が大きめの恐竜人兵士も、困ったようにきょろきょろとあたりを見回す。


「全く人任せで自分たちは何もせず、そのくせ事態が収まると自分たちの主張を一方的に押し付けてくる。

 本当にどうしようもない人たちですよね、あなたたち恐竜人っていうのは。

 おとなしく捕まるならよし、そうでなければ、退治しますよ。」


 恐竜人の小隊長が声のする方に向き直ると、そこにはアイマスクで顔を隠した、14人の人間たちが立っていた。



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