第38話
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「また、トランさんから手紙が来ていましたよ。」
ハルは所長に土がついた封筒を手渡す。
トランとの約束は1週間に一度なのだが、近いせいもあり、ハルはこのところ時間軸を合わせる調整で、黄泉の国と南極の黄泉の穴を行き来する度に、報告板の裏側の様子を見に行っているのだった。
レオンと一緒に所長の手伝いを続け、配布用のパワード・ボディスーツも、相当数出来てきている。
今週末には、マイキーの国と西日本へカーボンナノチューブ素材の繊維を受け取りに行く予定だ。
これにより、全兵士用のボディスーツが完成することになる。
「ふうむ・・・、残りの9中隊の目覚めに関しては、少しは遅らせることができたようだが、それでも今週と来週には1中隊ずつ目覚めてくると言う事のようだ。
更に、その後は一度に7中隊が目覚める。
しかも、最初の中隊が目覚めてから数日後に、地上へ向かうための円盤も与えられるようだ。
いよいよ決戦の時が近づいたという事のようだね。
1中隊ずつなら新しい戦力で対抗できないこともないだろうが、9中隊相手では勝ち目は薄いだろう。
勝つというより、我らの力を知らしめて、対等の交渉ができるよう持っていくのか、あるいはゲリラ戦で敵の戦力を少しずつでも削いで行くのか、作戦を練らなければならないね。
とりあえず、敵にとっても待ちに待った地上に出られるチャンスだ。
最初の中隊は恐らく地上へ侵攻してくるだろう。
まずは、この部隊を迎え撃とう。
相手の本当の実力も図れるしね。」
所長は、トランからの手紙を手に、ゆっくりと頷いた。
「悪いが、この手紙をもう一度報告板の裏へ埋めておいてくれないか。」
所長は、書きかけの手紙に言葉を足して、急いでハルに手渡した。
「はい、分りました。」
瞬時にハルの姿が目の前から消える。
それから1週間後。
「えー厳しかった特訓も、ようやく終わりとなります。
マイキーの国の魔術者たちも、チベットから来てくれた修行僧たちも、魔力を向上させ、今や神級のダンジョンを一人で攻略できるまでになりました。
それは、魔力を持たない軍人たちも同様で、パワード・ボディスーツを装着すれば、同じく神級のダンジョンを攻略可能です。
恐らく、今現在で地上最強の部隊と言っても過言ではないでしょう。
もう少し特訓を続けて、更なる飛躍を目指すということも出来ますが、いかんせん時間的な制約というものがありまして、恐らく近々に恐竜人たちの地上侵攻が始まるはずです。
それにいち早く対応するため、我々はここ黄泉の国を引き上げ、南極の基地で待ち構える予定です。
それに先立ち、チーム編成を行います。
恐竜人たちは、100名の兵士と10名の小隊長に加え、中隊長1名で、1中隊を10の小隊で編成しているという情報が入って来ています。
我々の現状の戦闘員は、147名(魔物含む)ですが、これで、14〜15名編成の10チームに分けます。
チーム分けと配置は以下の通りです。」
所長が、10のグループに分けられた配置表を、管理小屋の前に貼りだした。
「へえ、ハルのいるチームが1班で、あたしのチームが2班か・・・。」
真っ先に駆け寄ってきたミリンダが、表を眺めながら呟く。
以下、配置表
第1班 ハル、魔術者2名、修行僧1名、自衛隊10名 リーダー:松茂中尉(自衛隊)
第2班 ミリンダ、魔術者2名、修行僧1名、自衛隊10名 リーダー:徳井中尉(自衛隊)
第3班 ミッテラン、魔術者2名、修行僧1名、米軍10名 リーダー:ブル中尉(米軍)
第4班 ホーリゥ、飛び太郎、魔術者2名、修行僧1名、米軍10名 リーダー:ホーナー少尉(米軍)
第5班 ゴラン、ミンティア、魔術者2名、修行僧1名、S国軍10名 リーダー:ミンティア
第6班 ネスリー、マイティ、魔術者2名、修行僧1名、S国軍10名 リーダー:マイティ
第7班 ナンバーフォー、スターツ、魔術者3名、S国軍10名 リーダー:スターツ
第8班 ムーリー、マルニー、魔術者2名、修行僧1名、S国軍10名 リーダー:トング中尉(S国)
第9班 スパチュラ、飛びの助、魔術者1名、修行僧2名、S国軍10名リーダー:フォーク中尉(S国)
第10班 ジミー、蜘蛛の魔物、魔術者2名、修行僧1名、米軍10名 リーダー:ホッパー少尉(米軍)
※S国軍=S国+マイキーの国の軍隊の混成軍
総指揮:ジミー(日本)
「戦闘経験の豊富な者を、なるべく各班に公平に振り分けたつもりだ。
また、軍人に関しては集合戦闘が中心になるだろうから、各班のリーダーは軍を統括できるものを選んだ。
魔法部隊は、兵士たちとうまい事連携を取りながら、なるべく単独行動はせずに、動くようにしてくれ。
それと灼熱の弾は、パワーアップさせておいた。
到達温度は以前と同じ6000度だが、燃焼時間が約2倍だ。
つまり、威力は倍増という訳だ。
ジミーたちが持っている銃は、マシンガンでも単発発射が可能なタイプだから、ライフルのように1発ずつ撃っても十分な威力を発揮するだろう。
では、一旦パワード・ボディスーツを脱いで、預けてから現世への扉を使って出る様に。」
所長の指示で、全員軍服を脱いで、ボディスーツを外してから、現世への扉へ向かう。
「一体どうしたっていうんですか?
ボディスーツの調整でも、またやるつもりですか?」
ジミーが不思議そうに尋ねてくる。
「いや、ここ黄泉の国の中で生産したボディスーツは、実をいうと実体のないものなんだ。
だから、これを着たまま現世へ出ても、現世では実体化しない。
なにせ、ここは魂の姿で修業する場なのだから、物質を製造できる場所ではないのだ。
とは言っても、中で材料を出してもらって、それで製造しているので、現実世界の製品製造と同じ過程を通している。
だから、一度ハル君たちに鬼の能力で収納してもらい、現世に戻って実体化するのだ。
今までも、こうして現世へ運んでいたのだよ。」
所長は何気ない表情で答える。
「へえー、そうでしたか。ちっとも知りませんでした。
そうと分れば、はいこれ、おいらの分。」
ジミーは急いで装着していたボディスーツを箱の中に入れた。
そうして、現世への扉を使って出て行く。
「うわっぷ・・・、パワード・ボディスーツを着ていれば、神級の極寒のダンジョンも全く平気なのに、脱いだ途端寒さが身に染みるなあ。」
そう言いながら、駆け足で元7聖人の基地へ向かう。
スーツが無くても、常人離れした速さだ。
「はい、パワード・ボディスーツとアイマスク。」
暫くすると、ミリンダが一人一人にボディスーツを配布しにやって来た。
何やら、余計なものも一緒に・・・。
「これは?」
ジミーがその細長い布きれを持ち上げる。
「だから、アイマスクよ、変装用の。」
「変装用?」
「そうよ、あたしたちと闇の王子との戦いも、映像に収められていたでしょ。
恐らく、これからの恐竜人たちとの戦いは、もっと鮮明に映されて記録として残ると思うのよ。
恐竜人たちと戦う、正義のヒーロー・・・みたいなね。
正義のヒーローと言えば、その正体を隠して仮面をつけて戦うでしょ。
これは、ボディスーツを作った時の端切れで、仮面を作るほど多くはなかったから、アイマスクにしたのよ。
正体を明かさずに、日夜悪と戦う美女マスクなーんて、素敵でしょ?」
ミリンダはそう言って、ボディスーツと黒のアイマスクを手渡して廻る。
「ふうん・・・、変装なんて、マイキーじゃあるまいし・・・、でもまあいいか、折角作ってくれたんだし、無駄にしては悪い。」
ジミーはそう言いながら、アイマスクを胸のポケットに入れ、いつでも装着可能な状態とした。
魔術者たちにも、アイマスクは標準装備として配布するそうだ。
更に、女性用として、赤く染めたアイマスクも作ってあるという事だった。
「わ・・・わし用にも、こんなに大きなアイマスクを作ってくれたという訳か・・・、ありがたいのう。
でも、わしがアイマスクをしたところで、正体はバレバレなんじゃ・・・。」
蜘蛛の魔物が、十メートル近く長さがありそうな巨大なアイマスクをつまんで持ち上げる。
「そんなことないわよ、アイマスクをすれば、どこのだれか分らずに、正体不明の蜘蛛の魔物現る・・・なんて報道されるわよ。」
ミリンダは、自慢げにその巨大な傑作を見上げる。
「ほう・・・、そんなものかな、まあいいや、つけることにしよう。」
そう言って、蜘蛛の魔物はすぐにアイマスクを顔に取りつけた。
「そんな事よりも、こんな南極でまで外に居るなんて、寒くないの?
兄弟達に分割すれば、中に入れるでしょ、遠慮せずに入ってきたらどうなの?」
ミリンダには、蜘蛛の魔物やスパチュラ、飛び太郎に飛びの助たちが、吹雪いている外に居ることが、許せないようだ。
「いや、前は十人ほどしかいなかったから、わしも分割して基地の中へ入ったが、今は150名ほどの大所帯だ。
わしが入っちまったら、みんな身動きすらできないようになっちまう。
それに、神級のダンジョンで特訓したせいか、寒さなんかまったく感じはしないさ。」
蜘蛛の魔物は平然と答える。
スパチュラや飛び太郎たちも、震える様子も見せずに平然としている。
黄泉の国での特訓では、使える魔法が増えることはなかったが、それでもオーラの成長はあったという事だろうか。
「そう言えば、蜘蛛の魔物さんは、黄泉の国の特訓で、どんな力を身に付けたの?
確か、魔物の場合は、魔法が増えるんじゃなくて、威力が増大するって言ってたわよね。
まさか、吐き出す糸がすごく太いとか・・・、なの?」
ミリンダが突然思いついたように尋ねる。
そう言えば、蜘蛛の魔物達とは黄泉の国に入った時期も異なるし、中でも出会うことはなかったから、どのような力を身に付けたのか、全く分かっていないのだ。
「わしか・・・わしの力は・・・、こうだ。」
そう言うと、蜘蛛の魔物は一瞬で10匹程に分割して見せた。
「へえ、分割能力?確か、前は2つに分割したりしていたわよね。」
「ああ、今や、10〜20に分割できるぞ。
更に、分割後の大きさも調整可能だ。ほれこの通り。」
蜘蛛の魔物は、分割した状態で、十数メートルほどの大きさに巨大化して見せた。
「これなら、百や2百の人間を背中に乗せて移動できるし、しかもスピードも車なんかにゃ負けないほどの速さで移動できるぞ。
と言っても、おまえさんたち黄泉の国で特訓した人間ほど早くは移動できんがね。
それでも、1体に戻れば、おまえさんたちにも負けない速さで走れるさ。」
蜘蛛の魔物は、自慢げに前足を高く上げた。
「へえ、背中に乗っていれば、敵の攻撃は糸で防御してもらえるし、結構便利よね。
スパチュラちゃんは、どうなの?」
「あたいかい?あたいは・・・これさ。」
スパチュラは、金色に輝く糸を吐きだした。
「この糸は特殊で、簡単には切れない。
パワード・ボディスーツを作った、カーボンナノチューブにも負けない素材だって言って、所長が驚いていたよ。
この糸で相手の物理攻撃を全て防ぐのと・・・・、後はこれだな。」
今度は、虹色に輝く糸を吐きだした。
「この糸も丈夫なんだが、その上粘着力が強い。
だから、この糸を絡めてどんな奴でも捕まえることができる。
後は、体がいっそう軽くなって、黄泉の国の各ダンジョンを一瞬でクリアできるようになったくらいか。
この辺は、ミリンダ達と変わらないな。」
スパチュラも自慢げに胸を張る。
「あっしらは、一瞬で空を飛ぶと言うか・・・、どこまでも飛んで行けるようになりました。
もう、飛び跳ねているのとは違います。
また、水中でも瞬時の移動が可能です。
力も格段に向上しましたので、恐竜人位なら片手で持ち上げられるでしょう。」
ミリンダが尋ねる前に飛び太郎、飛びの助たちが答える。
どちらも、自信満々の様子だ。
「ふうん・・・、みんな頑張ったのね。」
ミリンダは、常に人間の味方として一緒に行動してくれる彼らの存在を、改めてありがたいと再認識した。
この日はミリンダも気を使ったのか、基地の中へは入らずに、スパチュラ達と外で一緒に過ごした。
オーラが発達しているので、ミリンダにとっても、南極の寒さが気になることはなかった。




