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もう平和とは言えない冒険の書  作者: 飛鳥 友
第3章 恐竜人編3
37/201

第37話

                      6

「おはようございます。」

 夜が開ける前の薄暗い時間にもかかわらず、トランは、ザッハの自宅前で少し大きめに声を掛ける。


「あら、トルテ君。どうしたの、こんな朝早くに。」

 すぐに玄関から、ザッハの妻のアカミが出てきて、驚いた表情でトルテを迎える。


「ああ、ザッハが本当におかしくなったのかどうかは不明だが、人間と魔物の捕虜を地上から連れ帰ったことは、まぎれもない事実だ。

 俺の方でも何度か部下たちに探らせては見たのだが、地上へのアクセス方法は皆目見当がつかなかった。


 こちらからアクセスできるということは、向こうからこちらへもアクセスできるということで、これは警備上重大な欠陥ということになる。

 本隊が合流する前に、このような欠陥は何としてでも潰しておかなければならない。


 だから、本日は捕虜を連れて行って、どこをどうやって通ってこの基地まで辿りついたのか、検証しようと考えている。

 悪いが、魔物の捕虜を貸してくれ。


 1日はいらない、ほんの2時間ほどだけ借りるだけだ。」

 トルテは、真剣な表情でアカミに告げる。


「ああ、そうなの・・・、今日はチュートロちゃんにシーソーとかいう遊具を作ってくれるっていう約束をしていたんだけど・・・、まあ2時間くらいなら平気ね。

 いいわよ、連れて行っても。」

 アカミは少しためらったが、すぐに笑顔になって了承した。


「人間の方の捕虜はいいのね。

 ほんとのこと言うと、今朝食の準備をさせているから、連れて行かれると困るのよ。」

 アカミはそう言って、はにかむように微笑んだ。


「ああ、今日魔物を連れて行って色々調べて、それでもわからなければ、来週にでも今度は人間を連れて行って試そうと考えている。

 だから、その時はまた頼むよ。」

 そう答えて、トランは物置小屋からトン吉を連れ出して、基地へ一緒に向かう。



「ゾリ2等兵、ズブ2等兵、ブビ2等兵、至急本部室まで来てくれ。」

 フレイジャー小隊長と施設警備の引継ぎを終えた後、トランは3人の恐竜人兵士を呼び寄せた。


 元はザッハ小隊の兵士たちである。

 勤務の関係上、トルテ小隊の兵士はフレイジャー小隊長の指揮のもとで、夜勤での施設警備の業務についている。


 かわりに、フレイジャー小隊だった次元通路担当兵士と、ザッハ小隊だった3名の兵士がトルテ中隊長の部下となり、次元通路担当と昼勤務の施設警備を担当することになった。

 少々ややこしいのだが、勤務の割り当て上仕方がない事らしい。


「ゾリ2等兵以下、施設警備担当3名、揃いました。」

 すぐに3名の恐竜人兵士がやってきて、直立不動の姿勢で敬礼する。


「ご苦労、本日は早朝に時間を使って、ザッハの奴がどのようにしてこいつら魔物と人間の捕虜を地上から連れ帰って来たのか、検証をする。

 地上から、この基地へ通じているルートがあるということで、恐らく、このルートは最高機密になるだろう。


 君たちには申し訳ないが、監視カメラを全て切った状態で、俺が直々に捕虜の魔物を連れて歩いて検証する。

 その間、君たちはこの本部で待機してくれ。」

 そう言い残して、トランは部屋を出て行こうとする。


「はい・・・、それは構いませんが、中隊長殿もザッハ小隊長殿と同じような事を始めましたね。」

 ゾリ2等兵が、何気ない言葉を口にする。


「うん?ザッハも捕虜を連れ歩いていたというのか?」

 勿論トランは覚えているのだが、ここは知らないふりをしておく。


「はい・・・、捕虜たちを連れ帰ったのは、ドボ上等兵たちであって、ザッハ小隊長殿もどうやって連れ帰ったのか知らないと言って、自分で魔物を連れてルートを探し回っていました。」


 ゾリ2等兵は、ザッハ小隊長がトルテ中隊長の命を奪った罪人であるという事を、未だに信じる気がないのか、ザッハの名前に殿を付けて話している。

 上官として、よほど信頼していたのだろう。


「ほう・・・、こいつらを連れ帰ったのはドボ上等兵たちで、ザッハはルートさえも知らなかったというのだな。

 ふうむ・・・そうなると、トボ上等兵たちが怪しいということになるか・・・。

 彼らが今どこにいるか、知っているか?」

 トン吉たちがザッハの家の庭に埋めたことはもちろん知っているのだが、知らないふりを通す。


「いえ・・・、ドボ上等兵殿たちも、愛国心の強い軍人でしたから、仲間を裏切るようなことをするはずもありません。

 自分は、ザッハ小隊長殿がおっしゃっていたというように、何者かに操られていたのだと考えております。」

 ゾリは直立の姿勢を崩さず、敬礼したまま答える。


「そうか・・・、信頼できる仲間という訳だな・・・。

 俺もザッハの事は信じたいと考えている。

 いずれ、あいつの名誉が晴れる日が来ると信じている者の1人だ。」

 トランはそう言い残して、3名の兵士を部屋に残したままトン吉と共に通路を急ぎ足で進んで行った。


「恐竜人兵士というのは、随分と仲間意識の強い種族のようですね。

 かなり厚い信頼関係で結ばれている・・・。」

 トン吉が、ぽつりとつぶやくように話す。


「そうですね、お互いに信頼しあい助け合って生きて行く、まさに、我々人間や魔物たちの社会と同様と言えるでしょう。

 それなのに、どうして我々と共存の道を探ろうとしないのか、不思議に思えてきてしまいますよね。


 何にしても、これからは変な行動はとれませんね。

 意外と部下たちはこちらがすることを、覚えているものですね。

 信頼しているからこそ、その行動の真意を探ろうと、深く詮索してしまう。


 ザッハであった私と、トルテになった私・・・、別箇であるはずなのに同じ行動をとってしまっては、怪しまれてしまいますね。

 たまたま、ドボ上等兵たちの事を勘違いしていたようですから、うまいこと誤魔化せましたけど、そう何度もうまく行くとは限りませんね。


 気を付けなければならないのは、話し方だけではないと言う事ですよ・・・、いつまで騙しとおせるものか。

 まあでも、とりあえず秘密ルートを探るという名目が出来ましたから、地上との連絡のやり取りは継続できそうですね。」


 そう言いながら、いつものジオラマ監視部屋を通り、長い通路へ出る。

 未だに、ミリンダ達が捕えられていたジオラマのケースにテーブルクロスが掛けられたままなのを見て、安心する。

 そうして広い洞窟を、レールを頼りに延々と歩いて行って、報告板の裏手へ辿りつく。


「では、近況の手紙を埋めましょう・・・、おや?」

 トランが豚の絵の上側を掘ってみると、そこには封筒が入っていた。


「前に置いておいたのが残っているのかと思いましたが、違うようですね。

 なになに・・・、ほう、我が国の魔術者やチベットの修行僧に加え、S国や日本の自衛隊・米軍などに協力を得て、一挙に130名も増員される予定とありますよ。


 急いで黄泉の国で特訓を開始するようです。

 なんとか、恐竜人たちと戦える軍隊が出来上がりつつあるようですね。


 それでもこの人数で対抗するには、なるべく分断して少数ずつ当たらせる必要があるでしょうが、2中隊までは分断に成功しましたが、残りの7中隊は一気に目覚めさせるよう指令が来てしまいましたからね。

 その分を何とかしなければなりませんね。


 いいでしょう、わずかですが望みが出てきました、こちらも働き甲斐があるというものです。

 戻りましょう。」

 トランは持ってきた手紙を埋め直して、その場を後にした。


 基地へ戻ると、いつものように周囲に気を付けながら本部室まで辿りつき、監視役の兵士たちを戻す。

 監視カメラのスイッチを入れた後、トランはトン吉を家まで送って行った。


「道は分っていますから、自分一人でも帰れますよ。」

 前を歩くトン吉は、トランが送ってくれることを、申し訳ないと思ったのか振り返る。


「あなたは、ここ恐竜人基地の貴重な捕虜なんですよ。

 一人で自由に出歩かせられるわけが、ないではないですか。


 きちんと家まで送って行きます。

 その方が、怪しまれないで済みますから。」

 トランの返事に、それはそうだと、トン吉も苦笑いを返した。



 トン吉をアカミの元へ帰したあと、トランは今度は次元通路へ向かう。

 間もなく、こちらの勤務時間となるからだ。


「おはよう、どうだ、明日目覚める予定の中隊の様子は。」

 通路へ着くなり、トランは足しげく動いている兵士を捕まえて尋ねる。


「は・・・はい、おはようございます、中隊長殿。

 本日目覚める予定を、24時間延長いたしましたが、その影響は全く感じられず、111名全員の健康状態は良好です。」


 尋ねられた兵士は、少し戸惑いながらも、敬礼を交えながら答える。

 今までは、性格が優しいタリル中隊長だったから、いきなり捕まえられて質問を浴びせられるなどと言ったことは、なかったのだろう。


「そうか、では中隊の受け入れ準備を進める様に。」


「はっ、了解いたしました。」

 トランの言葉に、兵士は踵を合わせて直立不動の姿勢で敬礼したまま返事をした。


 この日トランは、目覚める中隊の為に、現状の基地内の様子と、地上の状態など、各小隊からのレポートをまとめる仕事に追われた。



 翌日、基地内は騒然としていた。


「ああ緊張するなあ・・・。

 なにせ、タイガ中隊長と言えば、強面で厳しい方だったからなあ。

 引継ぎ報告が不完全だ、なんて言って、俺なんか毎回怒られていたよ。」

 バーム小隊長は、緊張の面持ちを隠せない様子だ。


「お前なんかまだいい方だよ。

 俺なんか、前回の引継ぎの時に原始文明の言語の把握が出来ていないって指摘されて、冷凍睡眠を3年も遅らされて、現地語の解読をやらされたんだぞ。


 おかげで寝不足になったぞ。」

 グレイ小隊長が、不満気味に漏らす。


「引き継ぐ方は、一方的にあれが足りないだの、調査が不十分だの文句を並べるだけだったからなあ。

 俺たちは地上の監視を業務にはしていたが、実際には地上世界へ接することは全くなく、深い海底でただじっと監視用に送られてくる映像を眺めて、文明の程度など察するだけだったからな。


 闇の存在の確認に関しては、地上の生物と接点がある鬼たちにまかせっきりで、実際の俺たちの役割と言えば、鬼たちからの報告板の内容を把握するだけで、それ以外は何もしちゃいなかったんだ。

 それを、地上文明の把握も重要な業務だなんて言いだされて、本当に大変だったよなあ。


 我らがタリル中隊長は性格がやさしかったから、第7分隊との引継ぎでは、一切注文を付けたことがなかったというのにな。」

 トルテ中隊長も、グレイたちの言葉にうんうんと頷く。


 この日ばかりは、グレイ小隊長に加え、その他の日勤の小隊長たち全員が次元通路へやってきている。

 なにせ、ほぼ千年ぶりに、別中隊を目覚めさせるのだ。

 目覚めさせるのは、第9分隊。


 トルテたちの中隊である、第8分隊の次に目覚めて監視を引き継いでいた部隊だ。

 おおよそ、1万年ぶりに目覚める事になる。

 トランは次元通路の奥へと進み、タイマー残を読み上げる。


「9、8、7、6・・・・」

『ゴゴゴゴゴッ』10個ある監視装置のブロックのうち、9番目が上下に割れ、中から真っ白い棚のようなものが現れ、通路を塞いだ。


 棚はいくつもの6角形の区画に分けられ、縦に4段横に5列あって全部で20個の区画がある。

 いわゆるハニカム構造になっているようだ。

 その区画が先頭側から順に開き、中から恐竜人が起き出してきた。


 いうなればカプセルホテル式の、冷凍睡眠装置のようだ。

 1列目覚めるたびに、反対側の壁に吸収されるように進んで行き、奥から新しいカプセルの列が現れてくる。

 中でもひときわ大柄な恐竜人を先頭に、目覚めた者たちがゆっくりと歩いてくる。


「おはようございます。

 お目覚めはいかがですがな、タイガ中隊長殿。

 つい先日、第8分隊隊長に昇格いたしました、トルテです。


 至らないところが多いかと存じますが、どうぞよろしくお願いいたします。」

 トランはそう言いながら、先頭の大柄な恐竜人に対し、手を差し伸べた。


「おう・・・、タリルではないのか・・・、こいつは驚いた。

 まさか、奴が寿命をまっとうしたとかいうのではないだろうな。

 そんな歳では、なかったはずだからな。


 睡眠時間を見たところ、我らが目覚める予定時間より、まだ50年は早いようだ。

 という事は、タリルとお前が入れ替わったことと何か関係するのか?


 それとも、闇の存在の片がついたという事か?・・・まさかそんなはずはないだろう。

 なにせ、我らが眠る前ですら、奴の存在は全く不明だったのだからな。


 たかが数万年間所在不明であったからと言って、闇の存在が消えたなんて報告をして、地上制圧の為にわれらをめざめさせたのだとしたら、承知せんぞ!」

 タイガ中隊長は、そのいかつい顔を尚もゆがませて、凄みを効かせながらトランに詰め寄って来た。


「その辺のご説明は、追い追いさせていただきますが・・・、ご安心ください、闇の存在は所在確認の上、封印されたことが判明いたしました。」


「ほう、そうだったのか・・・、そいつはご苦労だったな。」

 トランの報告にタイガ中隊長は、不気味な笑みを見せた。



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