第36話
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「とりあえず、我々の手勢の増加と今後の訓練スケジュールを簡単にまとめて置いた。
トランさんたちとの連絡場所に埋めておくことにしよう。」
所長が封筒を手に、ハルを誘いに来た。
「それなら、僕が行って埋めておきますよ。
トン吉さんの描いた絵の上側に埋めておけばいいんですよね。
早速行ってきます。」
ハルは、所長から封筒を受け取ると、瞬時にその姿を消すように走って行った。
「悪いなあ・・・という暇も与えてはくれなんだな。
じゃあ、私はこれから来る兵士たちの為に、ボディスーツを一つでも多く作るよう頑張らねば。」
所長はそう言って、管理小屋へ戻って行った。
魔術者たちが黄泉の国へやってきてから数日後、ハルたち瞬間移動できるもの達は全員で西日本へ出向き、50人の兵士たちを連れて南極へやって来た。
また、その翌日には、今度はマイキーの国へ出向き、今度も50人の兵士を連れてやって来た。
これで、百人の兵士と30人余りの魔術者たちが、対恐竜人たちとの戦いの為に、新たに仲間に加わったのだ。
「では、ここでの特訓方法について説明して行きます。
まず、黄泉の国の各ダンジョンは、そこへ入った人間に対して恐怖心を与えたり、過酷な環境で先へ進むことをあきらめさせようとしています。
人それぞれの苦手や嫌いな物事を見つけ出して、それを解消するための訓練を地獄ステージで行って、魂の成長を図るというシステムですから、当然の事です。
そうして魂が成長していくのですが、当然のことながら肉体も鍛えあげることができます。
いずれ支給されますが、パワード・ボディスーツを使いこなすには、ある程度以上の体力や筋力が必要となります。
それを身に付けるために、繰り返し各ダンジョンで体を鍛え上げる訳です。
魔法力も全くない我々にとって、黄泉の国での特訓は大変つらいものでしょうが、頑張って耐えてください。」
日本から派遣された自衛隊には、ジミーが指揮をして特訓を始めることとなった。
同じく日本から来た米軍海兵隊には、スターツ王子が。
マイキーの国とS国から選抜された軍隊には、ミンティア王女とマイティ親衛隊長が、それぞれ担当することになった。
全員が、選抜された屈強の猛者達であり、初めて挑む黄泉の国のダンジョンもものともせず、順調にクリアーして行った。
そういったなか、中には素直に指示に従わない、はみ出し者も現れた。
規律の厳しい軍人たちではなく、また戒律を重んじる修行僧でもなく、国を守護する魔術者でもない、いわゆる自由人にとって、特訓などという、辛く厳しく地道な行為を続けることは無理なのだろうか。
「しかして、その実態は・・・。」
勢いよくマスクとカツラが舞い上がり、マイキーの素顔が露わになる。
「ふう・・・、ようやくタイミングがつかめて来たわ、あともう少しね。」
マイキーは1人地獄ステージ奥の空間で特訓を続けていた。
相変わらず、潜入捜査から正体を明かす時の口上の練習に、余念がないようだ。
『パチパチパチ』「いやあ、素晴らしい、流れるようなリズムに乗って、マスクが剥がされる光景など、本当に何度繰り返してみても、ほれぼれしてしまいます。」
そんなマイキーの元に、いつもの奴がやって来た。
「ふん、ヘタレがこんなところまで来て、何の用なの?」
ところが、またまたいつものように、マイキーの態度はそっけない。
「いやだなあ、僕は国王様直々のご命令で、はるばるここ黄泉の国まできて、恐竜人たちに対抗する力をつけるよう、特訓をしに来たのですよ。
いわば、国王様や国民たちのための戦い・・・、辛いなあ、でもそれもこれも、この神のような力を授かった、僕の役目なんだと思い直して、頑張ることにしました。
でも、僕にこの力を授けてくれた7聖人メンバーは、どうやらここでの特訓なんかとっくに終えているようで、だったらその力を引き継ぐ僕には、特訓など必要ないと言った訳ですよ。
ですから、こうやってマイキー姫のご機嫌伺いに・・・。」
ムーリーは卑屈な笑みを浮かべながら、マイキーに近寄ってくる。
「ふん、おおかた、特訓がつらすぎて逃げ出して来たんでしょう。
やる気がないなら、国へ帰りなさい。邪魔よ。」
マイキーはムーリーの体を押しのけて、タオルを手に流れ出る汗を拭った。
「邪魔ってことはないだろう・・・、折角こいつが会いに来てくれたっていうのに・・・。
今や、あんたの国の中でも、最高の魔術者なんだろう?
俺たちの協力がなきゃ、恐竜人たちと戦うことだって、出来ないんじゃないのかい?」
今度はナンバーフォーまでやって来たようだ。
どうやら、黄泉の国の中で知り合って、はみ出し者同士意気投合したのだろう。
ナンバーフォーも一緒になって、マイキーの元へゆっくりと詰め寄って来た。
「あーっ!あんた達、こんなところで何をやっているのよ。
特訓の最中に、2名ほど脱落したようだって言って、ミッテランおばさんが心配しているわよ。
早く、ダンジョンへ戻って!」
ちょうど、2人を探していたのか、ミリンダがやって来た。
「ほう、お嬢ちゃんかい。
俺たちは、今いいところなんだよ、邪魔をしないでくれるかな。」
ナンバーフォーは凄みを効かせた目で、ミリンダを睨みつける。
家族の元を離れたせいか、凶暴な性格が戻ってきた様子だ。
「何を血迷っているのよ、ここへは特訓をするために集まっているんだからね。
余計な事をしている暇があったら、魔法の一つでも磨きを掛けなさいよ!」
ところが、逆にミリンダに捲し立てられてしまった。
「まあまあ、ミリンダ、少し落ち着いてよ。
この二人だって、別に悪気があった訳じゃ・・・、ただ単に、マイキーさんに久しぶりって挨拶に来ただけだよ。
済んだらすぐに、ダンジョンへ戻っていくよ。
そうですよね?」
ハルも現れて、今度は二人の弁護にあたる。
「は・・・ハル君かあ・・・。
ありがとう、信じてくれて。
でも、僕たちはここでの特訓なんかしなくても、充分に強いからそのまま戦えるよ。
だから、みんなが特訓している間は、この辺で休んでいることにするよ。
みんなの目の前で休むと悪いからね。」
ムーリーは、ハルの姿を見て、少しほっとしたように笑顔を見せる。
「何言っているのよ、今のあんた達なんか、恐竜人どころか、手下の鬼にだって勝てやしないわよ。
そんなんじゃ、足手まといにしかならないから、いない方がましよ。」
尚もミリンダが捲し立てる。
「ほう・・・、足手まといか・・・、本当にそうかどうか、勝負してみるか?」
ナンバーフォーが挑発的な態度に出る。
「ちょ・・・ちょっとミリンダ・・・、まずいよ・・・。」
ハルがすぐに二人の間に割って入る。
「だめよ、こんなやつ、言って聞かせるだけじゃわからないのよ。
体に思い知らせてやらなくっちゃ、自分の立場すら分ってはいないのよ。」
ミリンダは、厳しい表情で構える。
「そうまで言われちゃあ、このまま納めるわけにはいかないなあ。
おい、丁度2対2だ、いっちょ大人の強さってやつを教えてやろうじゃないか。
なあに、手加減はしてやるさ。
(以前は助けてもらったが、あの時は家族を人質に取られていたし、新しい体に移ってからの日が浅かった。
ここでなら、百パーセントの力が出せるはずだ。
だから、5分の力でいいだろう、子供相手に全力を出すこともない。)」
そう言って、ナンバーフォーも身構える。
「ええー・・・、まあいいや、マイキー姫に僕の強さを見せつける絶好のチャンスだね。
大怪我をさせるつもりはないから、安心して。
(8割くらいの力なら、死んじゃうような事はないよね。ハル君たちだって鍛えているはずだから。)」
ムーリーも戦闘態勢に入った。
「ハル、あんたも参加しなさい。
本気になったら、大怪我か下手をすれば殺しちゃうから、あくまでも10%の力でね。
魔封じの紐を思い出すのよ。」
ミリンダが、身構えながらハルに流し目で告げる。
「まいったなあ・・・、あまり気乗りはしないけど・・・。」
「いくぜ、魔弾!!!」
「魔槍!!!」
ナンバーフォーもムーリーも先制攻撃とばかりに、魔法を唱える。
「モンブランタルトミルフィーユ・・・大爆発!!!」
すかさずミリンダも、防御無視の攻撃魔法を唱える。
ミリンダの魔法は、ナンバーフォーの魔弾を弾き返して、尚も彼の頭上に迫って行く。
「仕方がないなあ・・・、父さん、母さん、そしておじいさん、僕に力を貸してください・・・。
灼熱の炎、灰と化せ!!!」
ハルの唱えた魔法は超巨大だった。
ムーリーどころか、ミリンダの唱えた魔法効果までも全て消し去り、高温の白熱化した巨大な球体が、2人の頭上に迫って来た。
「破棄!!!・・・破断!!!破断!!!破断!!!」
「破断!!!破断!!!破断!!!」
2人とも、ハルの魔法効果を打ち消そうと、排他魔法の連呼を始める。
しかし、そんな魔法をものともせずに、巨大な炎の玉はゆっくりと落下を続ける。
「なっ!!!ちょ・・・ちょっと・・、参った参った・・・、ごめんなさい降参!」
すぐにナンバーフォーから泣きが入り、ハルはすぐに灼熱の玉を消した。
「な・・・なによ、ハルったら、やる気のないふりをして・・・、あたしだって50%くらいの力を出せばあのくらいの大きさ・・・。
(そりゃあたしだって・・・、15%・・・いや20%近くは力を込めたけど・・・、ハルのは、やりすぎ!)」
ミリンダは、ハルの魔法の威力に対して、不満たらたらの様子だ。
「えっ?ミリンダに言われた通り、10%どころか、5%も力を込めてはいないよ。
ほら、魔封じの紐だって、少しも絞まっていないしね。」
ハルはそう言いながら、自分の左手首を突き出して見せた。
「ま・・・魔封じの紐・・・してたんだ。」
「うん、オーラが枯渇して倒れた後で、ミッテランさんが無理して魔法を使わない様にって、当面は魔封じの紐を付けたまま生活するように言われたから、あれからずっとつけたままだよ。」
ハルは平然と答える。
「そうだったの・・・、だったら、あの大きさの灼熱の玉で、5%の力か・・・。」
ミリンダはしばし押し黙ってしまったが、すぐに笑顔を取り戻した。
「ふん、あんたたちの力なんて微々たるものだって、分ったでしょ!(あたしの力もそうだけど・・・)
これに懲りて、素直に特訓に参加しなさい。」
ミリンダが、ナンバーフォーたちに自慢げに振る舞う。
「わ・・・分った、でも、これは神級での特訓を終えた、嬢ちゃん達相手だからだろ?
嬢ちゃん達は特別だから仕方がない。
でも俺達だって、ある程度の特訓は終えているんだ。
初級から始める修行僧や魔術者たちなんかと一緒に、たらたらとやって行く必要性はないと思うだろ?
あいつらがある程度成長してから、それから参加したって十分に間に合うはずだ。」
ナンバーフォーは尚も、しぶとく特訓をさぼろうとする。
「ふん、あんた達なんか、ここでの特訓を終えた中でも一番弱いレオンにだって敵わないはずよ。
馬鹿なこと言っていないで、基礎から特訓をやり直しなさい。」
ミリンダは大きく首を横に振る。
「そ・・・そんなことないだろう、俺達は仮にもここでの特訓を終えて、鬼の力も身に付けたんだぜ。
それが、最弱の奴に負けるはずがない。」
ナンバーフォーは、そんなミリンダの態度に、納得できない様子だ。
「じゃあ、思い知らせてあげるわよ。」
ミリンダはそう言い残したかと思うと、一瞬で姿を消した。
「ちょ・・・ちょっと何をするんですか、レオンには機織りの仕事が・・・。」
そうしてすぐに、トカゲ系の魔物を連れて戻ってきた。
「いいから、ここに居る身の程知らずに、自分の程度を分らせてあげなさい。
あたしが許すから、殺さない程度に締め上げてもいいわよ。」
ミリンダが、レオンをナンバーフォーたちの目の前に突き出す。
「こ・・・、こんな弱そうな奴が俺たちの相手になるはずもないじゃないか。
でもいいだろう、こいつを軽くひねってやれば、晴れて俺たちは初級の特訓免除という訳だな。
よし、やってやろう。」
ナンバーフォーは不敵な笑みを浮かべながら身構えた。
「うーん、弱い者いじめは嫌いだけど、こいつを倒せばマイキー姫の近くに居られるっていうんなら、頑張るさ。」
そう言いながら、ムーリーも身構える。
「ええー・・・、気が乗らないけど・・・ミリンダお嬢さんの命令には逆らえないし・・・。
仕方がない。」
レオンも渋々位置に付いた。
「始め!」
ミリンダが号令をかける。
しかし、勝負は一瞬でついた。
レオンがすぐに周りと同化して姿を消す。
「ちっ・・・どこへかくれやがった?」
ナンバーフォーが周りをきょろきょろと見回す。
すぐに、薄く体を伸ばしてロープ状になったレオンが、音もなく忍び寄り首に巻き付いてきた。
ムーリーの首にも2人同時に巻き付いたようだ。
「く・・・くる・・し・い・・・。」
息も出来ず、魔法を発することも出来ず、また頸動脈も押さえつけられて、やがて二人は意識を失った。
「どう、如何に自分の力が足りないか、分った?
分ったら、みんなの元へ戻って特訓を続けなさい。」
気が付いたら、ミリンダとハルに治癒魔法をかけてもらっている所だった。
「は・・・はい・・・、申し訳ありませんでした。」
2人とも反省しきりで、魔術者たちが特訓をしているダンジョンへ急いで駆けて戻って行った。
「あ・・・あたしも・・・個別に特訓を続けようっと・・・。
ちょっと、ハル手伝って。」
ハルとの力の差を認識したミリンダも、もう一度特訓を再開するようだ。




