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もう平和とは言えない冒険の書  作者: 飛鳥 友
第3章 恐竜人編3
35/201

第35話

                     4

「ああっと・・・、この先はいかな小隊長殿でも・・・。」

 トランがせわしなく動き回っている部下の兵士たちの間を通って、次元通路の奥へと進もうとした時に、警備の兵士に止められてしまった。


「おお、そうだったな・・・、ここから先はA区画だから、小隊長の私では立ち入れないという訳だ。

 しかし、フレイジャーの奴は通れていたのだろ?


 ここを担当するにあたって、奥へ進めないのでは不便というものだ。」

 トランは、警備の兵士に振り向いて、そ知らぬふりをしながら確認する。


「はい、A区画に立ち入るには、本来であれば中隊長以上の権限が必要ですが、フレイジャー小隊長殿は、ここ次元通路の担当組長でしたから、A区画への立ち入りも許可されていました。


 しかし、今拝見したところ、トルテ小隊長殿のIDにはA区画への立ち入り許可が無いようです。

 申し訳ありませんが、ここから先へはお進み頂けません。」

 警備兵は、トルテ小隊長の胸に留められたIDカードを眺めながら、申し訳なさそうに話す。


「まあ、仕方がないな、俺がここの担当をするようになったのも、タリル中隊長殿が亡くなる寸前に、口頭で告げられただけの事だ。

 正式な辞令が下った訳ではない。


 まあ、今日の今日じゃ無理でも、明日か明後日、遅くても数日中には正式なお達しが来るだろう。

 それが俺なのかどうかはわからんが、引継ぎを兼ねた部署の見回りは、それからにするか。」


 トランはそう告げて、この場は引き下がることにした。

 あまり、怪しげな行動は慎まなければならない。

 どこで、誰が見ているか分らないのだ。


 2度と不信感を抱かせるような行動はとるまいと、一層慎重に行動するよう、気持ちを引き締めた。

 とりあえず、今朝の騒動とタリル中隊長が亡くなったこと及び、バームとグレイ小隊長に暫定的に勤務追加をお願いしたこと、最後にトルテの暫定勤務範囲を報告書にまとめて、提出しておいた。


 ザッハのノートも証拠品として提出し、何者かに操られていたということが、ザッハの自作自演によるものなのか、あるいは本当にそうだったのか、今となっては追及できないとし、彼をあまり悪くは書かないように気を付けて、報告書をまとめた。


 トラン達の手にかからなければ、部下が不幸な事態に巻き込まれて閑職に一時的には回されたとしても、忠誠心の厚いエリートとして、恐竜人社会の中でも中心として活動して行ったはずの人物なのだろうから。


 この日はそのまま勤務を終えたあと、深夜まで施設警備の通常業務も終え、バーム小隊長と引継ぎをしてからようやく家路についた。


 トルテ小隊長としては12時間の深夜勤務を終えた後、バーム小隊長と戦い、その後深夜まで実に30時間もの長時間ぶっ続けで働いたことになるが、トラン自体はザッハ小隊長に乗り移っていたので、実質的には早朝6時からの18時間勤務だ。


 それでも、死闘とも言える戦いもあり、疲れがないとは言えない状態だった。

 彼は、独身兵士用の宿舎へ向かうと、自分の部屋で死んだように眠った。

 3日間はそのまま暫定シフトで勤務を続け、4日目の朝になってようやく本隊から正式な辞令が通達された。


「トルテ小隊長を、第8分中隊の中隊長に任ずる。」

 上官がいないため、バーム小隊長が代わりに辞令を読み上げ、トルテ小隊長の襟章を中隊長のものと取り換える。


「己を殺し、中隊の発展の為を第一に尽くすように。」

「承りました。」

 バームが軍刀の腹でトルテの肩を、軽くポンポンと叩く。

 そうして、受領の儀式の終了だ。


「やったなあ、トルテが我々同期の出世頭だ。」

 バームやグレイから祝福の言葉が告げられる。


「ああ、運が良かっただけだよ。

 俺も、ザッハ同様に、捕えた人間たちの自決の際に部下が巻き添えを食ってしまった。

 おかげで、施設警備の仕事に回されてしまった訳だからな。


 そのザッハが、何を血迷ったのか中隊長殿を手にかけて、この中隊を掌握しようなどと企てた。

 俺は、ザッハの妻であるアカミとも知り合いだったから、最近の奴の変貌ぶりを聞いて注意していたんだ。

 だから、奴が異常行動をとった時にもすぐに対処できた。


 我らが国技でもあるケンドーの達人で、軍の中でもエリートだったザッハが、閑職に付かせられたことを不満に思い上官に反旗を翻し、たまたま奴の監視をしていた俺が、何とか奴を仕留めたという訳だ。

 本当に、人生というやつはどこでどうなるか分らないものだな。」


 トランは、いかにも予期せぬ出来事を何とか切り抜けただけだと、同僚には説明しておいた。

 彼らは、事情を知らない間は、多少の無理は聞いてくれる、良き仲間のようだ。

 出来るだけ心証を良くしておきたい。


「ああ・・・、本当にザッハの奴があんなことをするなんて、今でも信じられないよ。

 そういえば、あの前日に食堂で俺の所へ来て、色々と聞いて行ったんだ。

 今思えば、本隊の状況など気にかけていた様子だったし、確かに話し方もおかしかった。


 でも、俺はあいつの監視をしようなどとは考えなかったし、やはりトルテの手柄だよ。

 何にしても、もう終わったことだ。」

 バームは勉めて明るく振る舞っているようだ。


「ああ、事態を聞いたフレイジャーも入院などしてはいられないと、今日から勤務に戻ってくるようだ。

 次元通路勤務は無理だろうから、施設の監視業務の夜勤をしてもらうことにした。


 ここ数日間、深夜の施設管理をお願いしていたが、それも今日までだ。

 本当にありがとう、世話になった。」

 トランは、そう言って、二人に頭を下げた。


「いや、大したことをしたわけでもないし、同じ所属部隊の問題だったのだから、トルテが一人で抱え込む問題ではなかったのさ。

 いや、トルテ中隊長殿か、失礼いたしました。」

 バームはそう言って、笑顔で敬礼した。


「おいおい・・・、友達だろ?

 これからもトルテでいいよ、その方が他人行儀じゃなくって、こっちもありがたい。」

 トランも笑顔で答える。


「まあ、俺達にできる事なら協力するから、頑張ってくれ中隊長殿!」

 そう言いながら、バームはトルテに対して笑顔でもう一度敬礼して見せた。

 次いで、グレイもしたがう。


 式典を終え、各自担当部署へと戻って行く。

 トランは勿論、次元通路へ向かう。

 そうして、既に勤務についている部下たちを横目に、通路の奥へと歩いて行く。


「俺も、ようやくA区画へ立ち入ることができるようだな。」

 トランは受け取ったばかりの新IDカードを警備の兵士に見せつけながら、更に奥へ進もうとする。


「どうぞ」

 警備兵はそう言って、ゲートを開けてくれた。


 ゲートの奥は、機械室さながらだった。

 各種メーターが並び、状態表示をしている。


 同じような計器の並び方をしたブロックが10並んでいて、更に奥にはより複雑な色とりどりのライトが点滅表示している電光パネルや、高周波の波形を表示しているようなモニターが多数並んでいる。

 しばし見とれていたが、トランには大体の様子が分って来た。


 恐らく、10個並んでいる計器ブロックは、個々がトルテたちと同じく監視業務を担当している、恐竜人中隊たちの冷凍睡眠モニターだろう。

 丁度、8つ目のモニター表示が全て消えている。


 第8分隊と言っていたからトラン達の分隊は、今目覚めているから、計器は停止しているのだ。

 そうして、奥にあるひときわ複雑な装置は、本隊の状態表示モニターなのだろう。


 時間の流れが1万分の一の深い次元に居るのかどうか、真相は定かではないが、それでもシンクロ状況などをモニターに表示しているのだと見える。

 何より問題なのは、休まず動き続けているカウンターだ。


「89100、89099、89098・・・どうやら、秒単位のタイマーのようですね。

 9つある監視業務中隊の冷凍睡眠モニターは、全て同じタイマー設定の様です。

 ふうむ・・・。」

 トランは、腕を組みながら奥へと進んで行く。


「本隊の状態表示の部分のタイマーは、6295万4869、8、7・・・と、ふうむ・・・。

 そうか、これは部隊が目覚めるまでの時間のタイマーですね。

 先日、本隊が目覚めるのは2年後と言っていましたから、今から728日後・・・おおよそ2年後のようですね。


 とすると、まずい、明日にも残りの9中隊が目覚めてしまう。

 これは大変だ。」

 トランは急いで通路を引き返すと、部下の兵士たちに向かって怒鳴り始めた。


「おい、一体どういう事だ!

 残りの9中隊が目覚めるのは、明日だぞ。

 今から、現状をまとめて引き継ぐなんてやっている時間などあると思うのか?


 ましてや、ただでさえ人数の減っているこの中隊で、9中隊の目覚めの処置を一度に行うなんて、出来るはずもないだろう。

 どうして、そんな重要な事を俺に報告していなかったんだ?」


 大声で捲し立てるトランの姿を見て、手を止めた5名の兵士たちは、みな怯えたようにして首を横に振った。

 恐らく、彼らにも知らされてはいなかったのだろう。


「お前はどうなんだ、先日、俺がA区域には立ち入りできないと言って拒否をしなければ、少なくともあの時点から準備を進められたはずだ。」

 トランは警備兵に食って掛かって見せた。


「そんなことをおっしゃられても・・・、規則は規則ですし・・・。」

 警備兵も逃げ腰のようだ。

 恐らく、タリル中隊長のみが、9中隊の目覚めの日程を把握していたのだろう。


「仕方がない、緊急通信だ。

 お前、ついて来い。」


 トランはそう言って、2名の警備兵のうちの1名を連れて、先ほどまでいた次元通路の奥へとまた入って行った。

 そうして、本隊の監視装置の更に奥にある大きなモニター画面の前の席に座る。


「おい、頼むぞ・・・、いち、にい、さん。」

『カチャ』トランと警備兵がモニター前の鍵穴にキーを差し込み、同時に回す。

 緊急通信は、警備担当の兵士と2名以上でなければ、通信を開始できないよう設定されているのだ。


「ご苦労だった、戻っていいぞ。」

 モニター画面が明るくなって、通信が始まったことを確認すると、トランは警備兵を元の場所へ戻らせた。

 すぐに当番の兵士が応答に出て、お偉いさんを呼びに行く。


「どうした。」

 暫く時を置いて、いかつい顔をした恐竜人がモニターの向こう側から話しかけてきた。


「は・・・はい、本日付で第8分隊中隊長に任ぜられました、トルテです。

 タリル中隊長殿の突然の不幸により、何の引継ぎもなく担当となった訳ですが、地上の制圧の為の応援として、残りの監視部隊9中隊を増援していただけること、ありがたく感じております。


 しかし、本日9中隊の目覚めの日程を知り、愕然と致しました。

 明日では到底準備が間に合いません。

 せめて、もう1日余裕を下さい。


 また、我が中隊は兵士も減っております、9中隊を一度に扱うことは難しいと考えます。

 1週間間隔で、1中隊ずつ順番に目覚めさせて行くと言う訳にはいかないでしょうか?

 どの道、基地から地上へ出る手段は、今現状はありませんですし。」


 トランは一方的に矢継ぎ早に要求をした。

 モニター画面は固まったかのように、全く動かない。

 暫くして、向こうのモニターに動きが見えた。


「だめだ・・・、と言いたいところだが、新米中隊長だ、慣れるまでは我儘を聞いてやるとしよう。

 9中隊の明日の目覚めは中止して、明後日に1中隊だけ目覚めさせて状況説明を行うように。

 更に、もう1週間後にもう1中隊を目覚めさせる。


 そのまた1週間後は、残り7中隊全部だ。

 先の2中隊もいるのだから、充分な対応や状況説明は実施できるだろう?


 それに、地上へ出撃するための円盤だが、1週間後に1機だけは送り込んでやる。

 それを使って、地上の制圧を進めるがいい、以上だ。」

 今度は、向こうから一方的に指示が出て、そのまま通信は途切れてしまった。


 やはり時間の流れ方が違うので、双方向通信は無理があるのだろうか。

 何にしても、少しは時間が稼げたのだ。


 トランは、中隊の冷凍睡眠監視用のそれぞれのブロックのタイマー設定を切り替えて行った。

 本当なら、全てのタイマーを何十年も先の設定にしたいところだが、今はまずい。

 とりあえず、後で問題にならないように、先ほどの指示通りに設定をしておいた。


 次元通路に続き、施設監視業務を終えた後、ザッハ元小隊長の家へ立ち寄る。

 トランは、なるべく物音をたてないように、寝静まった家の庭の片隅に建てられた物置小屋へ向かう。

『コンコン!』物置小屋のドアを軽くノックすると、音もなくドアが開いた。

 トランは、すぐにその中へ入ると、ドアを用心深くあたりに注意しながら閉じた。


「どうですか、ここでの待遇に変化はありましたか?」

 トランは、尚も注意深くあたりの様子を警戒しているトン吉に、明るく尋ねる。


「はい、ここでは昨日と変わりなく、やさしく対応していただいております。

 我々が、ザッハ小隊長に無理やり従わされていたという事を信じて疑わず、気の毒だったと慰めても頂きました。」


 トン吉は、トランに木製の椅子を勧め、自分は古ぼけたベッドに腰掛けながら答えた。

 人間の女性であるナンバーファイブは、家族の評判が良い事もあり、母屋の空き部屋を与えられているが、トン吉は外の物置小屋で寝起きしているのだ。

 それでも、こちらの方が彼にとっては気楽な様子だ。


「色々と、こちらでの動きが分って来ました。

 明日の早朝に迎えに来ますから、準備をしておいてください。

 地上との連絡を取りに向かいますよ。」

 トランはそう告げて、物置小屋を後にした。



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