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もう平和とは言えない冒険の書  作者: 飛鳥 友
第3章 恐竜人編3
33/201

第33話

                      2

「ああ、よかった。

 死んじゃったのかと思って、心配しちゃったよ・・・。」

 ナンバーファイブが、ほっと胸をなでおろす。


「本当に危ないところでしたけど、何とかなりましたね。

 天は、我々を見捨ててはいないと言ったところでしょうか。

 乗り移った奴の生活環境など、ある程度は伝わってきますが、さすがに話し方までは、本人が意識しているものではないので、分りませんでしたからね。


 と言っても、最初の出会いの時に、2〜3会話していたはずですが、相手を倒す事のみに集中しすぎて、話しぶりなど分析している余裕もありませんでした。

 私としたことが・・・お恥ずかしい・・・。」

 トランは、恥ずかしそうにうつむく。


「仕方がないよ、恐竜人兵士たちは、すごく強いもの。

 特に、あのザッハっていうやつと、そのトルテというやつは、群を抜いて強かったからね。

 トラちゃんだって、ようやく勝ったといった感じだったよね。」

 ナンバーファイブが、すかさずフォローして慰める。


「実を言いますと、一旦敗れて起死回生の一撃で逆転した、と言ったところなんですがね。

 まあ、対恐竜人という戦法も段々と分って来ましたからね。

 それに、この体の主とは、ザッハの時に何回か会話していますから、話し方や人との接し方などもある程度分っているので、もう安心でしょう。


 でも、そう何度も幸運が続くとは限りませんから、今後はもう少し慎重に行動するとしましょう。

 あなたたちは、とりあえずこの家で、怪しまれないように、生活を続けていてください。

 ザッハ小隊長の妻とは、旧知の中の様ですから、これからもちょくちょく様子見に参りますよ。」


 そう言って、トランは部屋を出て行こうとする。

『ガチャ』その時、ティーセットを盆にのせた、ザッハの妻がやって来た。


「はい、お茶が入りましたよって・・・、なあに?もう帰っちゃうの?」

 部屋を出て行こうとしていたトランの姿を認めて、ザッハの妻は不満たらたらの口調で告げる。


「ああ、悪いが・・・、これを見てくれ。

 これはザッハの奴の筆跡か?」


 トランは、薄いノートをザッハの妻に見せる。

 開かれた面にはこう書かれていた。


『自分は、操られていることにする。

 そうすれば、失敗したとしても誰にも・・・、妻にも迷惑をかけないだろう。

 その芝居の為、数日前から話し方を変えて、丁寧な態度を取る。


 勿論、周りから指摘される潔癖症の性格は、極力我慢して普通の人のように振る舞う。

 運よく成功すればいいが、失敗して捕まったとしても、病院送りになるだろう。

 そうして、何日か治療して正気に戻ったと言えば、開放してくれるだろうという事を期待して。』


「こ・・・これは・・・、あの人の字だわ・・・。」

 ザッハの妻は、目に涙を浮かべながら、それ以上の言葉が続かなかった。


 長年連れ添った夫が、こんな大それた計画を持っていたとは・・・、相当なショックだろう。

 ザッハの体に乗り移って数日経過したトランが、彼の筆跡で先ほど急遽、部屋にあったノートに書き込んだ言葉である。


「そうか・・・、分った。

 このノートは証拠品として、部隊へ提出する。

 君たちには罪はない。それに、気がふれたとはいえ、ザッハは我らの部隊の功労者であったことには変わりがない。


 自爆した人間たちに部下の兵士たちが巻き込まれたという、不幸なことが生じたのが悪かったんだ。

 その功績より、年金は支給されるだろうし、君たち家族の生活は保障されるだろう。

 だから、決して、無茶な事はしないようにね。」

 トランは、残された家族が先行きをはかなんで、後を追うことが無いよう励ました後で、家を出た。



「グレイ小隊長、バーム小隊長、トルテだ。

 忙しいところ申し訳ないが、大至急 次元通路まで来てくれ。」

 ザッハの自宅にナンバーファイブ達を預けた後、トランはもう一度基地へ戻って行き、次元通路のマイクから呼び出しを掛けた。


「よう、大変だったようだな。」

「ザッハとやり合ったんだって?

 怪我などしていないのか?」


 すぐに、2名の体の大きな恐竜人兵士がやって来た。

 グレイ小隊長とバーム小隊長だ。

 彼らは血まみれの軍服姿のままのトルテの体を、心配そうにジロジロと眺め始めた。


「ああ、今朝の騒ぎの事は伝わっているだろう?

 ザッハの奴が、何者かに操られているふりをして、中隊長殿を手に掛け、この中隊を掌握しようと画策した。

 奴の妻から最近の不審な行動について聞いていた俺は、さりげなく奴を見張っていたから、いち早く異常事態に対応できた。


 それでも、不幸な事に5名の兵士たちと中隊長殿が犠牲になられた。」

 トランは、中隊長の死を悲しむかのように、俯き気味で告げる。


「ああ、その様だな。

 中隊長殿の事は残念だったが、それでもお前の対処が素早かったので、被害が最小限に抑えられたと、もっぱらの評判だよ。


 お手柄だったな。」

 バーム小隊長は、そんなトランの肩を叩いてほめたたえた。


「中隊長亡き後、暫定的だが部隊の今後は、俺に託された。

 と言っても、本隊から追って沙汰があるまでの、あくまでも数日間だけの期間だけだがね。

 でも、中隊長殿の最後のご命令だから、全うしたいと考えている。


 そこで、相談だが・・・。

 ザッハと俺は鬼たちの報告板を挟んだ黄泉の国及び、施設内の警備監視にあたっていた。

 ザッハの奴が昼間で俺が夜間と言った割り当てでね。


 中隊長殿は、寝込んだフレイジャーの代わりに、この次元通路の担当をしていた。

 幸いにも次元通路担当は、昼間の勤務しかない。

 それでも、本隊から連日送られてくる各指令は、フレイジャーを寝込ませるほど、大変な圧力だったと推測できる。


 俺は、中隊長殿の代わりというより、フレイジャーの代わりとして次元通路に詰めるつもりだが、そうなると、施設内の監視業務がおろそかになってしまう。

 忌々しい人間どもが固まった、人形に変化がないかも日々監視対象として、重要だからな。


 そこで相談だが、お前たちが交代で、施設警備を分担してはもらえないか?

 勿論、お前たちが地上との交渉を担当しているのは、重々承知している。

 しかし、次元通路の担当は激務だし、更に担当兵士も半分になってしまっている。


 恐らく、ここに詰めている最中は、他との兼務は無理だろう。

 施設警備は6時から18時までと18時から6時までの2交代制で、次元通路の担当は、8時から17時までと時間が短くなっている。


 だから、俺は次元通路の担当を終えたら、そのまま施設警備の指揮を24時まで執る事にする。

 お前たちに頼むのは、俺が次元通路担当をしている時間と、深夜24時以降の時間帯だ。

 つまり、0時から17時までの時間を二人で分担してはもらえないだろうか。」

 トランはそう言いながら、二人に対して頭を下げた。


「あ・・・、ああ。深夜の分は基地まで出てこなければならないが、人間たちとの会議は不定期開催だし、開催時間もあってないようなものだ。

 時差もあるから、深夜どころか明け方にまで延長する場合もある。


 会議開催日程から調整して、二人で分担するのは大きな負担にはならないだろう。

 なにせ、動くはずもない人形たちと、絶対に地上からアクセスでき様もない、地下施設の監視担当だからな。

 どうせ、兵士たちも退屈しのぎにカードゲームに興じているくらいだろう。


 俺たちにとっては、片手間仕事だぜ、任せてくれ。」

 意外にも、簡単に業務の振り分けが出来てしまった。


「ありがとう、さすが、持つべきものは同期の仲間だ。」

 トランは、嬉しそうに満面の笑みをたたえた。


「ま、同じ釜の飯を食った仲だものな。」

 グレイもバームも、同様に微笑みを返す。


 しかし、トランの笑みの理由は、彼らのものとは大きく異なる。

 なにせ、報告板裏から黄泉の国経由で地上からこの基地へ通じているということが、彼らには未だに分っていなことが愉快だった。


 何よりも、ミリンダ達が鋼鉄化から覚めて、既に脱出しているにもかかわらず、そのジオラマを保管しているガラスケースを監視することもなく、テーブルクロスで覆ってしまい、カードゲームのテーブルと化していることが、いかにもまぬけでおかしくてたまらなかった。


 彼らは、平和な時代を長く過ごしたために、戦いの緊張感に欠けているのだ。

 ザッハ小隊長の部下たち以外にも、戦いを好まない平和主義者はたくさんいるのだろう。

 トランは、何とかして彼ら恐竜人たちが、人間を対等な交渉相手と考えて、互いに譲り合いながら共存の道を探って行く、パートナーになれないものか、真剣に考えていた。


 それには、どれだけの人数が眠っているのか分からないが、本隊とやらの存在がカギとなってくるだろう。

 様々な武器を含め、圧倒的な戦力で優位に立たれてしまえば、交渉の余地などない。

 本隊を目覚めさせないようにするか、悪くてもいくばくかの損害を与えて、まともには戦えないような形にすることが、望ましい事と考えられる。


「じゃあ、本日は中隊長殿の代わりに、俺が次元通路の担当をこなした後、施設の監視の指揮を深夜まで行う。

 悪いが、日付が変わってからの深夜0時からの施設監視に関しては、お前たちに任せる。

 よろしく頼む。」

 トランはそう言って頭を下げる。


「ああ、任せておけ・・・、だが、お前は夜勤明けだろ?

 今日くらいなら俺が次元通路も見ていてやるぞ。」

 バーム小隊長は、トルテ小隊長の身を気づかったのか、勤務交代を名乗り出た。


「いや、問題ない。

 それに、多少おかしくなっていたとはいえ、親友のザッハの奴を手にかけてしまったんだ。

 帰って寝ようとしても、寝る事なんか出来そうもない。


 このまま勤務を続けていた方が、気がまぎれるというものさ。」

 トランは、厳しい表情で答えた。


「そうか・・・、それもそうだな。

 じゃあ、まずは順番を決めよう。

 いつもの勝負で行くか?」


「おお、望むところだ。」

 そう言って2人は次元通路を後にして行った。



「どうだ、本隊からの指令は来ているか?」

 2人が戻って行った後、トランは次元通路の奥で働く兵士たちの元へと歩いて行った。


「はい・・・、今日現在の指令は、以下のようなものです。」

 通信装置の調整をしていた兵士は、数枚の連絡用紙をトレイから取り出して、トルテ小隊長に手渡した。


「なになに?極東地区南洋の亜熱帯地域の島に、元老院議員用の別荘を10棟準備しろ。

 南極の氷は不純物や雑菌が少ない天然水だから、元老院用の宿舎の水道水は、全て南極氷を溶かして供給するような、施設を設置しろ。


 な・・・なんだ・・・これは?」

 用紙を持つトランの手が震える。


「住まいに関する要求だけではなく、連日、家畜である哺乳動物たちの食材としての肉の評価をするから、部位ごとのサンプルを1トンずつ準備しておけだの、恐竜人としての料理レシピには飽きたから、人間たちの料理人を募って、高級食材をふんだんに取り入れた料理レシピを、少なくとも1000種類は準備しておけだの、食料に関する要求が山ほど来ております。」

 部下の兵士は、棚から用紙を束ねたファイルを取り出して、トルテ小隊長に見せつけた。


「人間と魔物たちをどのように扱い管理していくかの指示や作戦などが、日夜送られてきているのだとばかり思っていたが、自分たちが地上世界へ戻った時の生活に関する要求ばかり送られてきているという事か。

 フレイジャーが寝込んだのも分かるというものだ。」

 トランは、あきれてものが言えなかった。


「はい、中隊長殿は、こんなものは地上の管理が落ち着いて、我々恐竜人たちが安心して地上を闊歩できるようになってから、実施すればいい項目だと言って、こういった要求は全てこのファイルにまとめて置くように指示されていました。」


 兵士は、深くため息をついたトルテ小隊長からファイルを受け取ると、棚へ戻した。

 そのような要望をまとめているのだろうと思われるファイルが、大きな棚を占有するように並べられている。


 今起きて活動しているこの基地の恐竜人たちは、少ない人数で地上の人間や魔物たちを管理監視することに危機感を感じ、日々努力して騒動が起きないように活動している。

 実際に管理しているのは鬼たちではあるが、その鬼たちをうまいこと使って、不満が募ら無いよう締めたり緩めたり、いろいろ工夫して納めていることだろう。


 多少平和ボケしているとはいえ、少なくとも、地上世界へ出てからの生活の心配よりも、今現実の脅威に対する思考で、頭の中は一杯のはずだ。

 トランは、実行部隊である監視役の彼らと、本隊との思考のギャップに付け込む方法はないかと、あれこれ思案を始めた。



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