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もう平和とは言えない冒険の書  作者: 飛鳥 友
第3章 恐竜人編3
32/201

第32話

                        1

「中隊長殿!」

 トランが乗り移ったザッハ小隊長を打ち倒したトルテ小隊長が駆け寄った時には、タリル中隊長は既に虫の息だった。

 トン吉の超高温の炎に焼かれ、更にナンバーファイブに首を深く切りつけられていて絶命寸前の状態だ。


「と・・・トルテか・・・、俺はもう駄目だ・・・。

 後の事はお前に任せる・・・。」


 そう言い残して、タリル中隊長はこと切れた。

 すぐに、次元通路の奥から駆け付けた兵士たちにレーザー銃を向けられ、ナンバーファイブ達は抵抗することもなく、両手を高く上げて降参のポーズだ。


「お前たちは何者だ。

 ザッハ小隊長とはどういった関係だ?

 奴が言っていた、すでに死んで体を操られていたというのは、本当の事か?」

 トルテ小隊長は、ナンバーファイブ達に矢継ぎ早に質問を浴びせる。


「あ・・・あたしはナンバーファイブというただのメイドよ。」

「ほう・・・、香水のような名前だな。」


 ナンバーファイブの答えに、トルテは意味深に微笑んだ。

 と同時に、ナンバーファイブの青ざめた顔に、ほんのりと赤みがさす。


「あっしはトン吉と申します。

 ただの豚系の魔物です。」

 トン吉はそう答えて、軽く会釈をする。


「えー・・・、ザッハ小隊長というのは・・・」

「あ・・・あたしたちも知らないのよ・・・、突然捕まって・・・、あたしたちが鬼語が分るものだから、便利だって言って連れてこられたの。」


 正直に話しだそうとするトン吉の言葉を遮って、ナンバーファイブが前に出て答え始める。


「ほう・・・、鬼語が分る人間や魔物がいたという訳だな。

 どうやってここへ連れてこられた?


 俺の部下が確認した限りでは、ここから地上へ出られるルートは、今のところ見つかってはいない。

 お前たちはどこから、この基地の中へ連れてこられたんだ?」

 トルテは威嚇するように、厳しい目つきで問いかける。


「鬼語っていうのは獣の言葉に近いそうよ。

 だから、魔物であるトン吉さんがなんとなく理解出来て、あたしはそれを教えてもらったのよ。


 どうやってここへ連れてこられたかは、分らないわ。

 なにせ、地上に居るところを大きな体の恐竜人たちに突然捕まえられて、言葉が分るってなったら、目隠しをしてずっと歩かされて、いつの間にかここへ来ていたのよ。


 だから、どうやって来たのかなんて、知らないわ。」

 ナンバーファイブは、如何にも無理やり連れてこられたかのように、少し震えながら答える。


「ふうむ、用心深いザッハならではの手口だな。

 いや・・・、奴は操られていると言っていた。

 お前たちが操っていたのではないのか?


 そうして、この基地の恐竜人たちを全滅させようと・・・、半年前に我々に戦いを挑んできた奴らの仲間ではないのか?」

 トルテは、更に居丈高に凄味の効いた目つきで睨みつける。


「こ・・・恐いわね・・・、操るって何の事よ。

 あたしたちも少しは魔法を使えるけど、あんたたち恐竜人を操るような力はないわ。

 そんな力があれば、今、この状況ならとっくに使っているわよ。


 それに、本当に操られている人が、自分は操られているんだって言うと思う?

 あたしたちこそが、そいつに操られていたようなものよ。

 なにせ、自分の言う事を聞けって、あたしたちに命じていたんだから・・・。


 こいつは、俺が恐竜人世界のナンバーワンになるんだって、それに協力しろって言って、あたしたちを今日ここへ連れて来たのよ。」

 ナンバーファイブは、床に臥しているザッハの死体を横目で見ながら答える。


「はっはっはっ・・・、面白い事を言うな、確かにその通りだ。

 そんな力があれば、とっくに使って逃げているという事か。


 大体、操られている奴は、自分がそうなっていることが、分らないはずだからな。

 自己申告は怪しいという訳か・・・、なるほどな。


 そうして、ここへきてタリル中隊長殿を仕留めようとして、お前たちに無理やり協力させたという訳か。

 他の恐竜人仲間を誘うことは、危険すぎるからな。

 だが、一体何のためだ?」


「そんなこと知らないわよ。・・・でも、ナンバーワンになるって言っていたから、上司である中隊長が邪魔だったんじゃないの?

 こいつを倒せば、自分が一番でしょ?


 それに、こいつは言っていたわ、操られているふりをしておけば、万一失敗して捕まっても、正気に戻ったと言えば、開放してくれるだろうって。

 操られていたんだから、俺自身は罪に問われないだろうって。」

 ナンバーファイブは、あらかじめそう言った設定が打ち合わされてでもいたかのように、すらすらと答える。


「ふうむ・・・、慎重派で用心深いザッハらしいと言えば、そう思えるな。

 そうすると、言葉遣いなども、操られていることを演出する為に、わざと変えていたという事か。


 しかし、ザッハはエリートであり、忠誠心の厚い男だったはずだ。

 そのままでも、出世は約束されていたはずなのに、どうしてまたこんなことを・・・。」

 トルテは残念そうに首を振る。


「そこまでは・・・本当に知らないのよ、でも、部下を死なせてしまって、自分はそれを恥じて閑職についた。

 このままでは出世は望めないんだって、何度も何度もつぶやいていたわね。」


「ふうむ・・・、エリートとしてずっと生きて来ただけに、少しでも路線から外れたことに、危機感を抱いたのだろうな。

 だからこそ、危険も顧みずに部下を地上へ送り、捕虜を連れ帰らせたりした訳だ。


 さらに、それだけでは不安がぬぐえずに、自分が中隊のトップに立つよう、直接の行動に出たという訳だ。

 こんなことをしても、中隊長の代わりになどなれるはずもないのに・・・、どこか、おかしくなってしまったのだろう・・・。」

 トルテは、ザッハの遺体を悲壮な目つきで眺めた。


「あ・・・あたしたちは、こいつに無理やり協力させられていただけだからね。

 そうしなければ、食っちまうって脅されて仕方なく・・・。


 今だってそうよ、タリル中隊長って人には申し訳なかったけど・・・。」

 ナンバーファイブは、そう言いながら命乞いをするかのように、両手を拝むように顔の前で合わせた。


「ふうむ・・・、まあ、お前たちが貴重な捕虜であることだけは確かだ。

 従順だとザッハの奴が言っていたが、今の話を聞く限り、これに関しては正しいだろう。

 情報源として使えそうだし、暫くは生かしておいてやろう。


 但し、我々に協力しなければ、お前たちの命はないものと思えよ。

 俺は、ザッハ程過激な事はしないが、気は長い方ではないからな。」

 トルテはそう言いながら、ナンバーファイブ達を睨みつけた。


「は・・・はい、分ったわ、あたしだって命は惜しいから、協力するわよ。

 今だって、怖かったけど、食べられるのが嫌だったから、恐竜人とも戦ったのよ。

 なにせ、あいつは強そうだったから・・・。」


「あ・・・、あっしも協力いたします。」

 トルテとナンバーファイブの話を聞いていて、なんとなく背景が理解出来てきたトン吉も同様に頭を下げる。


「じゃあ、お前たちは暫定的にだが、元居たザッハの家に預けることにする。

 家族とも仲良くやっていたという事だったからな。

 環境が変わらない方がいいだろう。


 ついて来い。」

 トルテはそう言いながら、歩き出した。


「い・・・いいのですか?

 捕虜を連れて行ってしまっても・・・、ましてや、タリル中隊長殿を殺めた奴らですよ。」


 ナンバーファイブとトン吉を拘束していた5名の恐竜人兵士たちは、不満そうな顔をする。

 なにせ、暫定とはいえ、自分たちの直属の上司だった者の仇であるのだ。


「まあ、そういうな。

 ザッハの奴に脅されて仕方なくやったと言っていたではないか。


 それに、止めを刺したような形にはなったが、弱い人間や魔物になど、タリル中隊長殿が後れをとるはずもなかろう。

 恐らく、ザッハの奴の一撃で致命傷を負っていたのだろう。


 こいつらは、単に手傷を増やしただけにすぎんのだ。

 勘弁してやれ。」

 トルテは、極力明るく話して、兵士たちを慰めた。


「は・・・はい・・・、トルテ小隊長殿が、そうおっしゃるのであれば・・・。」

 恐竜人兵士たちは、やや不満は残っていそうではあったが、それでも最後には頷いた。


「では、行こうか。」

 トルテを先頭にナンバーファイブとトン吉が続く。

 後に残された兵士たちは、惨劇の跡を片付け始めた。



「アカミちゃーん、いるかい?」

 トルテ小隊長は、ザッハの自宅前で大声で叫ぶ。

 すぐに家の中が騒がしくなり、やがて玄関のドアが開いた。


「と・・・トルテ君・・・、どうだった?」

 不安そうに、青ざめた顔色でザッハの妻はトルテ小隊長に尋ねてくる。


「ああ。やっぱりザッハの奴はおかしかったよ。

 こいつらに命じて、無理やりタリル中隊長殿を襲ったり、何者かに操られていると言っていたが、定かではない。

 次元通路内で騒動を起こしたものだから、仕方なく俺が奴を・・・。」

 トルテ小隊長も、俯き加減で申し訳なさそうに言葉を選びながらザッハの事を告げる。


「そ・・・そうだったの・・・、でも親友のあなたの手にかかって死んだのなら、あの人も本望だったと思うわ。

 私から見ても、おかしく思っていたけど、やっぱり何者かに操られていたというのね?」

 ザッハの妻は、涙目で小さく首を振りながら、ハンカチを手にした。


「いや、その辺のところはまだわかっていない。

 だから、あいつの部屋を調べさせてもらおうと、来て見たんだ。

 それと、こいつらの、今後の扱い方が微妙なものだから、一番安全なこの家に置いておきたいと思うのだが、大丈夫かい?」


 トルテは、そう言いながらナンバーファイブとトン吉の体を前に押し出す。

 ファイブもトン吉もバツが悪そうに、苦笑いを浮かべながら、軽く会釈をする。

 それはそうだろう、異常な行動を起こした夫の裏側を知るかもしれない者たちなのだから。


「い・・・いいわよ、この二人なら大歓迎だわ。

 すごく従順で、料理もうまいし働き者だし、多分あの人に脅かされて仕方なく協力していたのだと思うわ。

 彼らも、被害者と言っていいのだから、私のうちで良かったら、丁重に保護してあげるわよ。」


 意外にも、ザッハの妻は二つ返事でナンバーファイブ達を預かることを承知した。

 恐らく娘のチュートロが、彼らの事を気に入っているということが、大きく影響しているのだろう。

 最愛の父親を失った穴埋めとして、気をまぎわらせようと考えているのかも知れない。


「じゃあ、入って・・・、部屋を・・・調べるのでしょ?」

 そういって、彼女はトルテ小隊長たちを家の中へと導いた。



「ふあー、予定外の事態が発生してしまいましたが、なんとか中隊長を倒すことができたし、移り変わったトルテとかいう小隊長に、部隊を任されることになりましたし、うまい事転がったと言うべきでしょうかね。」


 ザッハの部屋へ案内され、ナンバーファイブとトン吉を残し、妻のアカミがお茶を用意すると部屋を出て行った後で、ようやく緊張が解けたのか、トルテ小隊長が大きな椅子に腰を下ろしながら、安堵の息をついた。


「と・・・トラちゃんだよ・・・・ね?」

 ナンバーファイブが恐る恐る尋ねる。


「はい、そうですよ。」

 トランは笑顔で答える。

 そう、あの時・・・・


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 トルテの一撃は、肩口から深々とザッハの心臓にまで達する勢いで、振り下ろされた。

『ガキッ』しかし、寸でのところでトランの水晶玉に阻まれ、止まる。


 おかげで即死は免れたが、肉体的には致命傷であり、トランの治癒能力でも直せそうもない。

 トランにも衝撃が伝わり、魂の連結がすぐにも切れそうなほどの重症だ。

 トランは、右手の軍刀で目にもとまらぬ速さでトルテの胸を突いて、引いた。


 恐らく、悲鳴を上げる暇もないほどの即死だったろう。

 すぐに、自分の胸の水晶玉を取り出して、その穴に押し当てて、ザッハはこと切れた。

 そうしてトランの水晶玉は、今度はトルテ小隊長に乗り移り、そのまま、ザッハの体を一刀両断にして、すぐに中隊長の元へと駆け寄って行ったのだった。



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