第30話
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「じゃあ、特訓の成果も現れてきていまして、現状ではミリンダ達のみならず、ジミー先生やスターツ王子たちのグループも、神レベルのダンジョンを瞬時にクリアーできるようになってきました。
ここでの特訓は、これで終了となります。」
『パチパチパチパチ!』
ハルの言葉に、みんな、一斉に拍手する。
厳しかった特訓もようやく終了だ。
現世への扉を使っているために、地上での時間としては数日ほどしか経過していないが、実際には数十年の歳月を特訓に費やしていただろう。
「じゃあ、次は鬼の能力について説明します。
僕が教わったのは、体を包み込んでいるオーラを意識して、そのオーラが出現させたい物質に変化するイメージを持つようにと言われました。
実際にはオーラが物に変化するのではないそうですが、そのようなイメージを持つことが必要だそうです。
各自、個別に練習してください。
それと、もう一つ、鬼の言葉です。
これは、恐竜人の言葉と共通点があるので、覚えておいた方が有利です。
ちょっときて、ミリンダ。」
ハルがミリンダを呼び寄せる。
「チュッ!」
『おおー!大胆な・・・・。』
一斉に歓声が沸き起こる。
「まあ、ハルったら・・・、こう言うことは、こんな人前ではなくて、陰に女の子を呼びつけて、それからきちんとことわってからするものよ。
突然っていうのも、うれしくないことはないけど・・・、やっぱりお互いの気持ちが重なり合って・・・」
「ええー、これが、簡単に言葉を覚えさせることができる、口移しという方法です。」
ハルの大胆な行動に、顔を赤らめるミリンダの態度を気にすることもなく、ハルは淡々と説明を始める。
「へっ・・・?、口移し・・・?」
「うん、そうだよ。僕もナンバーファイブさんにしてもらったの。
これも、オーラの力がある程度備わっていないとできないんだって。
こうすると、1時間くらいすると鬼の言葉が分るようになるよ。」
ミリンダの驚いた表情も、超天然のハルには通じてはいないようだ。
なにせ、ナンバーファイブの時とは違い、ミリンダはハルにとっての身内・・・姉弟のようなものでしかないのだろう。
「そ・・・そうだったのか・・、だったら、僕はミリンダちゃんから、その口移しを・・・。」
真っ先にゴローが手を挙げる。
「ぼ・・・僕は・・・、その・・・、瑞葉さんがいるから・・・、ミリンダちゃんとは・・・。」
「ぼ・・・、僕だって、桔梗さんが居るから・・・。」
ゴランもネスリーも、ミリンダの唇に目を奪われながらも、下を向いて顔を赤くする。
「おばかっ!
大体他のメンバーは、体つきもがっしりして、オーラもみなぎっているように見えるけど、ゴローは見た目からして何にも変わらないじゃない。
一体、ここで何を修行していたの?」
「そんなことはないよ・・・、僕だって、凍りつかずに神仕様の極寒のダンジョンとか、燃え尽きずに灼熱のダンジョンとかを越えられるようにまで成長したよ。」
ミリンダの問いかけに、ゴローは自慢げに胸を張った。
「でも、それだけでしょ?
それ以外に何か魔法が使えるようになったとか、巨大化出来るとか、成長したの?」
「い・・・いや・・・、それはその・・・。」
ゴローは恥ずかしそうに顔を赤らめて俯く。
千数百年もの長い間生きているゴローにとって、ここ黄泉の国での数十年間の特訓など、成長促進にはならないのだろう。
それでも、神仕様のダンジョンのおかげか、多少の変化は認められたようだ。
「大体、なんであたしが、あんたたちに口移しのチュウをして言葉を覚えさせなければならないのよ。
こんなの、決まっているでしょ!」
ミリンダの提案により、ミッテランはじめマルニーやミンティアなど女性たちにはミリンダが、ゴランやネスリー、ジミーなど男性陣にはハルが口移しで言葉を伝えることになった。
おかげで、男性人たちの間に微妙な空気が流れたのは、言うまでもない。
「それでは、いよいよ、恐竜人たちの基地へ向かうとしましょう。
トランさんたちが待っているはずです。」
ハルの号令の元、ダロンボたちの管理小屋の奥から、鬼たちの居住区へと入って行く。
リーダー格の鬼たちの家並みを抜け、手下の鬼たちの寮を越えると、そこには大きな木製の看板が立っていた。
「レオンの記憶を頼りに、僕が材木を出して、それを加工して作った報告板です。
ただし、報告する目的ではありませんから、このようにドアを付けました。」
ハルが、報告板の左中央にあるフックを外して引っ張ると、なんとドアのように開いた。
「向こう側からは崖の壁の手前側にあるフックが見えないので、気づかれることはなかったと思います。
じゃあ、行きましょう。」
ハルを先頭にドアから向こう側に入って行く。
そこは、広い洞窟の中だった。
ここへ来た時にはレオンをかぶっていて、周りの様子が見えなかったため、みなその広さに度肝を抜かれた様に、しばし辺りを見回していた。
「あれ?ぷっ・・・へったくそな絵ねえ。」
ミリンダが、まっすぐに伸びる金属製のレールのちょうど反対側にある、豚の絵を見つけてふき出した。
「うん・・・、でも、トン吉さんじゃないかな・・・、なにかのメッセージのようにも思えるんだけど・・・。」
ハルもその絵を見て、何かを感じた様子だ。
「待って・・・、豚の絵の上下左右に矢印が伸びているわね。
これは、何かのサインよ・・・、そうね、トン吉は右利きだから、右の矢印の先を掘ると・・・・。」
「あっ・・・、ちょっとま・・・。」
ハルが言うより先に、ミリンダは右矢印の先をほじくりかえす。
「鏡だわ・・・、世話になったあたしへの贈りものかしら・・・。」
ミリンダは、真新しい鏡を手にしながら呟いた。
「違うと思うよ。その絵はトン吉さんであり、豚の絵でもあるのだから・・・。」
ハルが、絵にこめられた秘密を解こうと、思案にふける。
「ああ、豚足なんだから、下側ね。」
ミリンダは、すぐに下向きの矢印の先を掘り返す。
「あれ?ガラスの小瓶だわ。きれいだけど・・・、化粧水でも詰めろって言うのかしらね。」
ミリンダが首をかしげる。
「だから・・・、豚ってことは・・・あれ?そうか、トン吉は右利きだったけど、トン吉から見て右側だから、あたしから見たら左側よね、間違い間違い・・・、こっち側を掘ると・・・。」
ミリンダは、今度は絵の左の矢印の先を掘る。
「あれー・・・、またもやガラス瓶・・・、そんなにあたしに気を使って・・・。」
「そうじゃないよ、ブタなんだから、・・・」
「待って、あたしに任せて・・・といっても、残るは一つよ。」
ミリンダはようやく、絵の上側の矢印の先を掘り始めた。
「あれー・・・?なんだ紙きれかあ・・・。」
ミリンダは残念そうにその紙きれを丸めて捨てた。
「おおっと・・・、どうやら、トランさんからの手紙のようだね。
なになに・・・。」
その紙くずを拾った所長が、封筒を開けて中の便箋を取り出す。
「ああ、手紙だったの・・・、あたしへの感謝の気持ちと贈り物の説明が書いてあるのね?」
結局、トン吉の配慮もむなしく、すべての方向を開けてしまったのだった。
「ふうむ・・・、ちょっと驚くべき事実が書かれているね。
一旦、恐竜人たちの基地へ全員で潜入するのは、中止にしよう。
私とハル君とレオンだけで行ってくる。
まずは、トランさんたちと打ち合わせをして、作戦を練る必要がありそうだ。
もし、私たちが戻らない場合は、この手紙の内容を日本とマイキーの国の国王に伝えてほしい。
攻略の手掛かりになるようなことが書かれているようだ。
とりあえず、私たちが戻るまで、7聖人たちの南極基地で待っていて欲しい。
1日か2日で戻るつもりだが、1週間たっても戻らなければ、次の行動へ移ってくれ。」
所長は、手紙をジミーに託すと、ハルとレオンを呼び寄せた。
誰もいないはずの通路のドアがひとりでに開き、そうしてひとりでに閉じて行く。
その様子を、1台のカメラが監視しているのだが、そのモニターがある部屋に居る兵士たちは別の事に夢中だった。
「はい、あがり・・・。
これで、俺の11連勝だな。」
ズブ2等兵は、余裕の笑みを浮かべながら、テーブルに並べられた札を集め出した。
「あちゃー・・・、また負けちまったか・・・。
これじゃ、今月の給料のほとんどを持っていかれそうだな・・・。」
ゾリ2等兵は、悔しさを隠しきれない様子だ。
「まあまあ・・・、勝負は時の運というからね。
それに、帰って寝るところは家賃無料の寮だし、食事だって寮で摂れば給料天引きだ。
使い道のない金を、どれだけ溜めても意味はないさ。
もう一勝負行くかい?」
「ええい・・・、よーし、いっちょ倍付で勝負だ。」
ズブの挑発に、ゾリは乗った格好だ。
2人とも、モニターなどには目もくれていない。
これだったら、前回同様レオンをかぶっていなくても、気づかれることはなかっただろう。
そうして、モニターのある監視部屋の、後方の扉が音もなく開く。
更に部屋を横切って、反対側のドアが開いて、ゆっくりと閉じる。
その間、ズブ達は大きな勝負に夢中になり、周りなど全く気にも留めてはいなかった。
「ここから先は、レオンは来たことがないから、分らないですよ。」
「ああ、まっすぐに進んで、広い通路と交差したところを右へ行くとある。
わかるかね?」
所長は前が見えないので、とりあえず、手紙に書かれていた内容をレオンに告げる。
「はい・・、この通路でしょうか・・・。」
「曲がって・・・、7つ目のドアに監視部隊本部と書かれているらしい。」
「ひーふーみー・・・、ここですかね、何とか本部と書いてあります。」
「そこへ入ってくれ・・・。」
『ガチャ!』ゆっくりとドアが開き、またゆっくりとドアが閉じた。
「ようこそ、恐竜人たちの基地へ・・・。」
そこに居たのは、ハルの見知らぬ、体の大きな恐竜人だった。
「大丈夫ですよ、わけあって、別の体に移りましたが、私はトランです。」
「そ・・・そうですか。」
ハルの言葉がどこかからか聞こえたかと思うと、すぐに2人と1体の魔物が姿を現した。
「お久しぶりですトランさん、ナンバーファイブさんとトン吉さんはどこですか?」
部屋の中を見回しながら、ハルが尋ねる。
「彼らは、この体の主の家に召使として住んでいますよ。
基地の中に居るよりも、一般家庭に居る方が安全ですからね。」
トランがやさしく答える。
「そうですか、トランさんからの手紙を読ませていただいて、こちらへ来たのですが、彼らの主力というか本隊が地上に出てくるのが、2年先というのは本当なのですか?
更に、今の恐竜人たちの兵力は100名ほどだなんて、これだったら黄泉の国の鬼たちを足しても、300はいきませんよ。」
所長が前に出て来た。やはり手紙の内容が気になっているのだろう。
「本当ですよ。とは言っても、リミッターである角を外した鬼の強さはご存じのとおりです。
私はそれを知っていたので、鬼たちを直接刺激することは避けていたくらいですから。
その鬼たちの生みの親とも言える恐竜人たちの強さは、更にその上を行きます。
実際に、この体に乗り移って実感しました、鬼たちの数倍の力を持っているでしょう。」
「でも、今ならハル君やミリンダちゃんたちの特訓も終了しました。
うまくすれば、マイキーの国の魔術者たちを募って、更に黄泉の国で特訓をしていただくことも出来るでしょう。
さらに、魔法力は持たなくても体術に自信がある者達用に、私がパワード・ボディスーツを開発いたしました。
軽量ですが、マシンガンなどの銃弾も通さず、更に身体能力は3〜5倍に上がります。
これを量産化して、素質のある軍人たちに着せて鍛えれば、1年もしないうちに強力な軍隊が出来上がるでしょう。
十分に対抗できますよ。」
所長は、自信満々の様子だ。
「そうですね、私のシナリオも、そのようなものでした。
ところが事態は変わってきてしまいました。
実を言いますと、現在監視役として目覚めている恐竜人たちは交代制で、千年ずつ10班に分かれているようです。
残りの9班を、今目覚めさせようとしているようです。
それもこれも、現状の100名では手が足りなくて、地上の制圧がうまく出来ないからなのですがね。
皮肉な事ですが、地上の人間が恐竜人たちに対して従順でないというか、恐竜人たちがうまく地上を管理できていないがために、更に管理の手を増やそうとしているのです。」
トランは、そんな所長の姿に対して、申し訳なさそうにうつむき気味だ。
「そうだったのですか・・・、300余りの敵が、一気に1200に増えたという訳ですか・・・。
世界中を巻き込む・・・、いや、そんなことをしたところで、難しいでしょうね。
やはり、特殊な訓練を積んだ者たちでなければ・・・、しかし、数が多すぎる・・・・かといって、時間がかかり過ぎると、本隊が地上へ出てしまう・・・、うーむ・・・、困りましたね。」
所長はあごを手の上に乗せて、思案中のポーズだ。
「とりあえず、私が、9班の目覚めを妨害してみます。
皆さんは、地上の人たちと、一人でも多く戦える人を増やす算段をお願いします。」
トランはそう言って頭を下げる。
「だったら、僕も残ってトランさんに協力します。」
ハルが、作戦への参加に名乗りを上げる。
「いえ、こちらにはファイブもいるし、更にはトン吉さんもいます。
手勢としては十分です。
多ければいいと言うのではなく、少人数の方が動きやすいのですからね。
更に、私は正体を知られてはいませんから、充分に有利に立ち回れます。
それなのでご心配なく。
どちらにしても、すぐには動けないでしょう。
一旦戦闘状態に入ってしまったら、突き進むしかなくなりますからね。
まずは、充分な兵力の確保を目指してください。
それほど時間的な余裕があるとは思えませんので、急いでくださいね。
無線連絡は、例え暗号化したところで、発信源を辿られると見つかる恐れがあります。
地上との連絡方法は、原始的ですが、今回のように報告板裏に手紙を埋めることでやり取りをしましょう。
1週間に一度くらいの割合で、確認に行くようにします。」
トランは、そういってハルたちに回れ右をさせた。
レオンが薄く伸びて、2人の体を包み込んで姿が見えなくなる。
そうして、ゆっくりとドアが開いた。
「ズブ2等兵と、ゾリ2等兵は本部室まで来てください。」
トランは、念のために監視室の2人を呼び寄せた。




