表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう平和とは言えない冒険の書  作者: 飛鳥 友
第1章 恐竜人編
3/201

第3話

                      3

 折角張り切っていたジミーがかわいそうに思えて、ハルがミリンダを睨みつける。


「い・・・いいじゃない・・・、夏休みぐらい、遊ばせてよ・・・。

 ゴロー、行くわよ。」


 そう言うが早いか、ミリンダはワンピースを脱ぐと、いつの間に着込んだのか、セパレートの水着を付けていた。

 マイキーに頼んで、S国で買ってきてもらった水着のようだ。

 ゴローも言われていたのか、すぐに服を脱いで海水パンツ姿でミリンダの後を追って行く。


 フェリーに乗り込んだすぐ後に、二人だけで何やらごそごそとやっていたのは、こういった訳のようだ。

 プールが付いていることを確認して、すぐに着替えたのだろう。

 今回の冒険の目的は、娯楽要素はなかったはずなのだが、よほど前回のフェリーでの移動の際に、補習授業の為にプールで遊べなかったのが悔しかったのだろう。


 勿論、マイキーやマルニー達も負けずに、その見事なスタイルを披露しながら、プールで水遊びを始めた。

 負けじと参加するスターツ王子たちの姿を眺めていて、ハルも我慢できずにいた。

 所長がプール付きフェリーでの移動を知っていたのか、ハルやジミー、ゴランにネスリーたちの海パンとホーリゥの水着も手配しておいてくれたようだ。


「ミリンダちゃんの分もあったのだが、こんなおとなしい水着では、彼女は満足しなかったかな。」

 所長はそう言いながら、1枚取り残されたスクール水着を、さびしそうに眺める。

 ハルたちは、すぐに着替えて、外へ飛び出した。


「あっ・・・」

『ドボーン!』勢いよくプールに飛び込んだ後に、ハルが気づく。


「そう言えば、生まれてから一度も泳いだことありません。ぷはぁー・・・

 海水浴どころか、プールだってなかったし・・・。ぶくぶく・・・」

 ハルが、苦しそうに水面から顔を出して、もがく。


「それは・・・、私も同じです・・・あっぷ・・・。

 ホースゥと2人分になったから、泳げるのではないかと思ったのですが・・、金槌二人では浮きそうも・・・あっぷ・・・ありません。」


 すぐにハルをジミーが、ホーリゥをゴランが救い上げる。

 そうして、二人にはミリンダ同様、大きな浮き輪が貸し与えられた。


 あまりにミリンダ達が楽しそうにプールで遊んでいるため、難しい顔で原稿を何度も繰り返し確認していた各国の代表者たちも、船員にお願いして水着を手配したということだ。

 全員が束の間の平和を満喫するかのように、日が落ちるまで水遊びに興じた。



「海中へ没した大陸というと、有名な所ではアトランティス大陸とか、ムー大陸などがあるね。

 他にも、大きな島が沈んだなど世界各地に言い伝えがあるようだが、今回は北大西洋のど真ん中という事で、アトランティス大陸のあったとされるいくつかの説の中には、当てはまる部分もあるようだね。」


「じゃあ、あの恐竜みたいなのが、アトランティス人という訳?」


 所長が、夕食後の時間を利用して特別授業を開いてくれた。

 遊び疲れた後の頭の体操に加え、今回の目的地に関係がある項目の為、ミリンダも文句を言わずに参加しているようだ。


「いや、何とも言えないね。

 彼らの言葉を借りると、大陸が沈んだのは恐竜たちが絶滅したと思われる頃だから、6千万年以上も昔という事になる。


 実際にアトランティス大陸が沈んだのは、勿論伝説的な伝えられ方から、どうにも時期があやふやなのだが、それでもある程度人類文化が発達していた頃でなければ、史実として伝わってこなかっただろう。

 そう考えると、古くてもせいぜい1〜2万年前程度ではないかと私は考えている。


 だから、時期が合わないんだ。」

 所長は、そう言って首を振る。


「ふーん、ダロンボさんたちのような鬼たちは、長生き・・・実際どれほど長生きかすらわからない・・・、だから、彼らがそれとなく人間社会に紛れ込んで、伝えたのかも知れませんけどね。」

 珍しくジミーも生徒役で授業に参加しているようだ。


「あいつらに聞いてみればいいじゃない、あなたたちはアトランティス?・・・人ですかって。」

 ミリンダが直球勝負のような結論を出してきた。


「まあ、何とも言えんね。

 アトランティスには数々の伝説があるが、2億年以上も続いた恐竜たちの発達した文明であるとするならば、そういった進んだ科学文明があったとしても不思議ではない気もするのだが・・・。


 恐らく、彼ら自身にも事実関係は判らないだろうね。

 なにせ、これらの伝説は人類社会に伝わる伝説であって、海に沈んでいた彼らには何の関係もない事だからね。」

 所長は、そう言って授業を締めくくった。



 フェリーが3日ほどかけて、新大陸まで百キロ地点へ到達したとき、事態は一変した。

 直径1メートルほどの大きさの丸い球体が、いくつも飛んできて、フェリーの周囲を回りだしたのだ。


「どうやら、これ以上彼らの土地へ近づくなと言っているようよ。

 何か国語かで、連続して同じ内容の警告を発しているわ。」

 マイキーが、球体から発せられている言葉を通訳する。


「どういうことだい?

 我々は、平和使節団だろ?

 いわば、彼らと共存していくための提案に行く訳だ。


 それを、近づくなって・・・、どうなっているんだ?」

 それを聞いたジミーが、訝しげにまじまじと浮かんでいる球体を眺める。


 銀色で半光沢の金属に覆われているようだが、ステンレスとか鉄やアルミなどと言った、車や飛行機などの外装に使われる金属とは、見た目が異なっている。

 かといって、塗装などのコーティングがされているような、感じではない。

 特殊な材質で出来ているようだ。


 丸い球体の表面には、カメラやアンテナなどの突起物は見られず、また、推力を得るための噴射口すらも見当たらず、ネジや鋲などの留め具もない。

 半光沢の、ただの球体だ。


 いくつもの球体がやって来たが、番号らしき表示すらない、無機質な外観が冷たい印象を与えている。

 とりあえずフェリーは、一旦はその場に停船したようだ。

 甲板では、各国の使節団同士が激論を交わしているようだ。


 恐らく、危険を冒してでも大陸へ向かうか、あるいはこのまま帰国するのかでもめているのだろう。

 更に、各国から無線で指令が来るのか、船員が数枚のレポート用紙を持ってきては、各国の大使たちがそれを読みふけっている。


「ここは、一旦引いて、無線などで平和会談を呼びかけてから、改めて出直すのがいいように感じる。

 どうやら、交渉の連絡はついていると考えていたのだが、何の連絡もなしに直接訪問しようとしていたようだ。

 あくまでも、敵意はないことを示しながら、直接交渉を望んでいたのだろう。


 その為の、護衛艦なしの民間フェリー利用だったのだろうが、果たして相手側に通じているだろうか。

 我々の社会では、この船は観光船だが、彼らにとってもそう映るかどうか、疑問を感じる。


 まあ、相手が周囲を油断なく監視していたとして、ミリンダちゃんが一番乗りで、プールでの水遊びに興じていた為に、武装船ではないことが相手にも伝わり、警告で済んだと言えるのかも知れないね。


 そうでなければ、領海侵犯とかで、いきなり攻撃されていた可能性だってある。

 なにせ、相手は我々の文明の遥か何千万年もの過去の時代の人たちだ。

 考え方に違いがあっても仕方がない事だね。


 幸いにも、彼らは我々の言語を理解しているようだから、交渉の余地は残されている。

 出直したにしても、無駄な時間を使った事にはならないだろう。」

 所長は、そう言い残して各国の使節団の所へ、スターツ王子らと向かった。


 恐らく、進路変更を提案するのだろう。

 しかし予想に反して、フェリーは進路を変えずにそのまま進みだした。

 そうして、小さく首を振りながら、所長たちが戻ってくる。


「どうにもこうにも、話が通じない。

 何が何でも新大陸へ向かうの一点張りだ。

 どうやら、既に無線などでの交渉は行われていて、全く相手にされていないらしい。


 だからこその、強硬交渉団なのだろうが、いかんせんどんな武器を持っているのかも判らない相手だ。

 玉砕戦になりかねん。

 こちらには、子供がいることを告げたんだが、意に介さずと言った態度だった。


 船の上からでも瞬間移動できるね?

 ハル君たちは、このまま瞬間移動で出港地までなら帰れないのかい?」

 所長が急いでハルたちを招集して尋ねる。


「はい、船のスピードはそんなに早くはないし、まだそんなに長距離ではないから、港までなら1回の瞬間移動で帰れますよ。

 でも、帰るんなら全員一緒の方がいいと思いますけど・・・。


 一度で連れて行ける人数は、限られています。

 船は動いているから、何度も往復でという訳にはいかないので・・・。」

 ハルが、不満そうに漏らす。


「警告!警告!これ以上の領海侵入は、敵対行動とみなす。

 直ちに進路を変更せよ。」

 フェリーの周りを飛び回っている球体が、あらゆる言語で警告を発してくる。


 先ほどより相当強い口調だ。

 その時、スーツ姿でいた各国の代表団の出で立ちが変わった。

 全員が軍服姿に着替えたのだ。


「な・・・、あなたたちは政府の交渉団ではなく、各国の軍人ですか?」

 所長が焦って彼らに確認する。


「どうやら、軍部の人間のようですね。

 交渉団ではなかったのかと追求したら、お前たちも軍人だろうと逆に怒られました。

 最初から、平和的な交渉など、期待してはいなかったのでしょう。


 どうやら強行突破するようです。

 このフェリーは、高速艇の様で、普通の船の倍は速度が上げられるそうです。」


 軍人たちと話し合いを続けていた、珍しくスーツ姿のスターツ王子たちが、頭を掻きながら戻ってきた。

 彼らは王族で、国を代表しているとはいえ、確かに所属上は軍人なのだ。


「理由は判らんが、陸地から十キロ地点までさえ到達できれば、何とかなると言っている。

 どうやら、戦略核兵器をこの船に積んでいるようだ。

 どうにも、人類というのは反省という事が出来んらしい。


 先の世界大戦で、地上から大半の生き物を死滅させた兵器を、また使用しようとしているのだからね。

 これでは、我々が正当なこの星の住人と、主張してもいいものかどうか・・・。

 そんなことしなくても、交渉の材料なら、私が準備してきたと言ってはおいたんだが・・・。」


 所長も、頭を抱えながら戻ってきた。

 そうしている最中にも船は進み、やがて新大陸が視界に入って来た。


 高い山々が連なる陸地が、遥か彼方に望める。

 すると、またもや空が暗くなり、映像が投影される。

 それは、誰あろうダロンボの姿だった。


「えー、黄泉の国の番人のダロンボと言います。

 全世界に182カ所ある黄泉の穴への接続は全て停止されて、時期が来ても繋がることはありません。

 そうして、それぞれの黄泉の穴から、わしら鬼たちが派遣されて、その土地土地の管理を受け持ちます。

 その為、黄泉の国は閉鎖されます。


 人類及び魔物の方たちには申し訳ねぇけど、指示に従ってもらいたい。

 悪いようにはしねぇ、ちょっと制限はされるかも知れねぇが、今現在の生活の場は確保されます。

 だから、逆らわねぇでほしい、わしらの力を使わせねぇで欲しい。」


 そう言って、画面の中で瞬時に移動して見せたり、どこから運んできたのか、乗用車のボンネットを指でつまんで捻じ曲げて見せた。

 ダロンボは角を外していて、青鬼の姿ではなく、解放されたパワーであれば、そのようなパフォーマンスも造作もない事であろう。


「どうやら、降伏しろと言っている様子だね。

 今の生活は、最低限確保されるとのことのようだが、それもいつまで保証されているのかも判りかねるね。


 第一、今の放送は日本語で放送されていて、字幕で各国語に翻訳されていたようだ。

 つまり、我々に向けてのメッセージと受け取ってもいいような気がする。

 魔法で対抗しようとせず、従えと言う事のようだね。


 しかし、管理されて檻の中で生活するようなものだ、それが果たして幸せな生活と言えるのかどうか・・・。

 と言っても、確かに、リミッターである角を外したダロンボさんたち相手では、人数からいっても分が悪い。

 勝ち目はないだろう。


 対抗手段を持たないのだから、今の時点では選択肢がないとも言える。」

 所長は、映像が消えて元の青空になった上空を眺めたまま、あきらめたように告げる。


「さあ、各国の強硬使節団も、今の映像を見てあきらめただろう。

 フェリーも引き返すはず・・・。」


 と所長の言葉が終わるよりも早く、フェリーは斜めに傾いて加速を始めた。

 どうやら、切先付近から2本の足が出て、船の先端をフローが付いた足で持ち上げて、航行を始めたのだ。

 高速艇に変形したようだ。


「最終通告、我らの領海を侵犯している。

 直ちに引き返さなければ、攻撃を開始する。」


 先ほどからフェリーの周りを旋回している球体の警告がより厳しいものとなった。

 そうして、円盤状の飛行物体が新たにやってきた。


「ま・・・まずい・・・。」

 所長のつぶやきと、ほぼ同時に、円盤下部から光線が発せられる。


障壁(バリア)!!!」

 ゴランが唱えたオレンジ色の障壁が、何とか間に合った。


「精神感応検知!精神感応検知!

 直ちに無効化する。」

 先程まで、周囲を飛び回るだけだった球体が、突然オレンジの障壁目がけて突進してきた。


『ジュッ!』という音がして、ゴランの障壁の一部が突き破られる。

「○△□※!!!」

 すかさず、ホーリゥが内側に障壁を張る。


 しかし、周りを飛び交っていた球体が、その一点に集中して集まってくる。

 更に、円盤も加わり、障壁を突破しようと押しつけてくる。

 障壁を破られるのも時間の問題かと思われた時、ゴランがホーリゥに流し目をする。


 すると、ホーリゥもその合図に気づき、小さく頷いた。

 次の瞬間、二人は同時に両手を高くつきあげたかと思うと、すぐに手前へ引いた。

 すると、二人の障壁はくるりと反転し、円盤ごと球体の群れを包み込んだ。

 なんと、障壁を裏返してしまったのだ。


「さっ、今のうちです。」

 ゴランが、所長に合図を送る。


「皆さん、フェリーは危険です。

 攻撃されて沈められるでしょう。

 すぐに救命ボートで逃げましょう。」


 所長はそう叫んだあと、船員に指示して救命ボートを下ろさせる。

 いの一番に、ミリンダ達やマイキーたちを乗せる。


「ハルは・・・、ハルはどこ行っちゃったの?」

 ミリンダが、心配そうに辺りを見回す。


「ハル君には、申し訳ないが大事な荷物を取りに船室へ戻ってもらった。

 次の救命ボートに必ず乗せるから、先に行きなさい。」


 定員まで詰め込み、ボートは海面へ降ろされ、漕ぎ始める。

 次の救命ボートには、各国の使節団の格好をしていた、軍人たちが詰め込まれた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ