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もう平和とは言えない冒険の書  作者: 飛鳥 友
第2章 恐竜人編2
24/201

第24話

                        7

「次は、これを出してくれ。」

 所長が、ハルに対して欲しいものを鬼の能力で出現させるよう指示する。


 新兵器開発の為に、様々なものを要求するため、既に、ダロンボたちの管理小屋は満杯で、ジミーが持ち運んだテントを借りて、小屋の外にまで置き始めたようだ。

 所長の要求は、様々な試薬から金属類まで広範囲に及ぶ。


 オーラの成長がない所長は、黄泉の国を出るたびに記憶が消えるため、同じ材料を要求することもあるが、

今までに出現させた材料を覚えているハルがリストを作り、重複の煩わしさを排除した。

 ハルは、自分の科学の知識を伸ばすためとして、所長の手伝いを率先して行っているようだ。


「出来た、これでいいんですよね。」

 ハルが抱えるそれは、真っ黒く薄いフィルム状のもので、人の胴体の形をしている。

 ウエットスーツのように、首から下全身を包み込むタイプの服の様だ。


「ああ、そうだ。パワード・ボディスーツだ。

 身に付けるだけで、身体能力が3〜5倍に上がる。

 更に、マシンガンやショットガンの衝撃に耐える、いわゆる防弾処理が施されている。


 それでいて、重さはわずか1500グラムだ。

 1キロ以上もあると言ってしまえばそれまでだが、向上する性能を考えれば薄い紙で出来た服を着ているようなもののはずだ。」

 所長も、その出来栄えに満足そうに頷いている。


「いやあ、やっぱり最後の泳ぎはきついねえ。

 それでも、荷物をここへ置いて行っているから、なんとか岸まで辿りつけることができるようになったけど、スターツ王子たちは、重いリュックを背負ったままで、あの激流を泳ぎ切るんだから、大したものだ。」

 丁度その時、ジミーが各ダンジョンを終えて戻ってきた。


「いえいえ、王子たちは別格として、ジミーさんだってすごいですよ。

 私なんか、助けてもらわなければ、激流に飲み込まれて、今回も地獄ステージ送りになるところでした。」

 そう言いながら、マルニーも一緒にやって来た。


 2人とも、何度もダンジョンを通って特訓しているのだろう、逞しい体つきになってきている。

 どちらかというと、きゃしゃな体つきだったマルニーだが、二の腕など筋肉が付いて来ているようだが、相変わらず、その美貌と均整のとれたスタイルは健在だ。


「おお、丁度いい。二人とも、パワード・ボディスーツのモニターをやってくれないか?

 操作方法はこれと言ってないのだが、恐らく慣れるまではかえって動きにくくなるだろう。

 しかし、動きをコントロールすることができれば、力やスピードは3〜5倍だ。


 まだまだ、体に負担がかかるかもしれんし、直さなければいけない点も多々あるだろう。

 完成に近づけるためにも、少しでも早いモニターが必要だ。

 悪いが二人で頼む。」

 そう言って、所長は男性用と女性用1着ずつのボディスーツを手渡した。


「へえ、3〜5倍ですね、楽しみだなあ。」

 ジミーはそう言いながら、その場で着替える。


 マルニーは、テントの中へ入って行って、着替えて出て来た。

 勿論、薄いボディスーツの上には、普通通りに服を着ているので、外観上はほとんど変わらない。


「通気性はいいはずだから、汗などで蒸れることはないと思うが、着心地なども合わせて感想を聞かせてくれ。」


「分りました、じゃあ、このままダンジョンを逆走して、吊り橋からやり直して見ます。」

 そう言って、ジミーもマルニーも瞬く間にその姿を消した。


「へえ・・・、うまく動いているようですね。」

 その姿を追いながら、ハルはボディスーツの効果が出ていることに満足していた。


「ああ、その様だね。もっと動作に手間取るかとも思ったが、ジミーたちも訓練を相当積んだから、筋力も向上しているのだろう。

 パワード・ボディスーツの要求する筋力に達しているのであれば、すぐに使いこなせるという訳だ。


 なにせ、スーツの繊維はカーボンナノチューブといって、単位重量当たりの強度が現状では一番強い素材だ。

 駆動用のローラーやベルトも同様の素材で作っているし、現状で考えうる最高水準の技術によるものと自負しているよ。

 これは、スターツ王子たちの分も、すぐに追加で作り始めたほうがよさそうだね。」


 所長はそう言いながら、ボディスーツの核となる、筋力増幅エンジンの制作に掛かり始めた。

 傍らでは、レオンが大きな機械を動かして、真っ黒い布地を排出している。

 どうやら、カーボンナノチューブ繊維用の、編み機のようだ。


「そうですね。」

 ハルも、そう言いながら編み上がったスーツの生地を、裁縫し始めた。



「オーラで体全体を包み込んで、暑さ寒さを耐えるようにするのよ。

 だから、ゴラン君とホーリゥさん、いつもと違って悪いけど、障壁魔法は厳禁ね。

 障壁を使わないでも、平気でこのダンジョンをクリアーできるようになるよう、頑張りましょう。」


 ミッテランの号令の元、ミリンダ達は吊り橋の後の極寒ダンジョンへ差し掛かったところだ。

 何度も往復しているのだが、さすがに魔法以外の体力面では普通の中学生と大学生の彼ら、そのまま攻略できるほど、黄泉の国は甘くはない。


 仕方がないので、少しずつダンジョン攻略のための魔法効果を減らしてきて、ついに自力のみで攻略する段階にまで来たところのようだ。


「頑張るのよ、ハルはたった一人で頑張って攻略をして、すごい力を身に付けたんだもの、あたしにだってできるはずよ。」

 極寒のダンジョンに足を踏み入れたミリンダが、何とか自身を奮い立たせようと、ハルがここでしてきたことを思い起こしていた。


 それは、他のメンバーも同じ思いだっただろう。

 たった一人生き残ったと思い、みんなのかたき討ちの為に孤独な修行をしてきたハル、一体どれだけの思いでこの広い空間を一人だけで過ごしていたのか。


 しかも、現世では一瞬の時ではあるのだが、実際には数年・・いや十数年〜数十年分の特訓を経て、身に付けた能力なのだろうから・・・。

 その思いが、彼らが途中で挫けることを許さずにいた。

 吹雪の中を止まることなく、ひたすら歩き続けて行く。



「ふうむ・・・、わしら蜘蛛系の魔物に取っちゃ、吊り橋のダンジョンなどは、何の恐怖感もわかないし、渡りきったところで何の特訓にもなりゃしない。

 極寒や灼熱のダンジョンも、それほど厳しくは感じないし、わしはどの部分を伸ばせばいいのだろうな。」

 蜘蛛の魔物たちも、吊り橋のダンジョンを終え、極寒のダンジョンに差し掛かったところのようだ。


「それを言ったら、あっしらの方がもっとひどいですよ。

 だって、どのダンジョンだって、飛んで行けばそれほど時間もかからないから、極寒だって灼熱だって、更には針のむしろだって、あっしらの飛行能力のまえでは意味がないですからね。」


「でも、ミリンダちゃんたちは、それこそ飛行能力を持っているってぇのに、それを使わずにダンジョンを走破しています。

 更に、障壁魔法などもその効果を段々と減らして行っているようですぜ。


 あっしらだって、これらのダンジョンを歩いて攻略するようにして行った方がいいんでしょうかね。」

 飛び太郎・飛びの助たちも悩んでいる様子だ。


「いや、あたいはその逆だと思うね。

 ハルに聞いた話じゃ、トン吉たち魔物の魔法は、ここで修業を積んだところで、種類が増えることはないと言っていた。


 それよりも、使える魔法がより強力になったって。

 あの何の役にも立たなかった、レオンがいい例だよ。

 あんなに、伸縮自在になって、みんなを覆い隠すことができるようになったんだ。


 あたいたちだって、今持っている能力をさらに磨いて、みんなの役に立つことができる様に、ならなくちゃいけないと思うよ。」

 スパチュラが、そんな飛び太郎たちの考えに意見する。


「ふうん・・・、そうか、じゃあ、あっしらはこの飛行能力を更に高めればいいという訳だね。

 もっと速いスピードで飛べるとか、長距離飛べるとかかね・・・やってみましょう。」

 飛び太郎たちは、俄然やる気を見せてきた。


「じゃあ、わしはどうすればいいか・・・、もっとたくさんの人間たちを乗せることができるようになるとか、早く歩けるようになるとかかなあ・・・。」

 蜘蛛の魔物は、そう簡単には方針が決まりそうはなかった。



「吊り橋も含め、どのダンジョンも3時間もあれば走破できるようにはなって来た。

 しかし、ハル君に聞いた話では、彼は一瞬でダンジョンをクリアーするらしい。

 しかも、それは瞬間移動とは違うようだ、自分の足で駆け抜けるのだそうだが、それが一瞬という事らしい。


 角のリミットを外した鬼たちが、ダンジョンを逆走する時に、一瞬で到達しているのをこの目で見たが、あれと同じことなのだろう。

 人間業とは到底思えんが、オーラというもので体を包み込んで、それで体の動きを増幅するということだ。


 恐らく、魔法力から来ているのだろうが、我らだって吸血鬼マザーの血をひく末裔のはずだ。

 当面、そのオーラというものを意識して、訓練を続けようと考える。」

 ダンジョン間の休憩時間で、スターツ王子が、ミンティア王女とマイティ親衛隊長に告げる。


「ああ、オーラを知覚するための日本の特訓というものを、ゴランが提出した報告書で読んだが、それには両手両足を縛り付けて、動けない状態で体の周りの状態をコントロールする訓練がうってつけらしい。


 当然、身動き取れないわけだから、おむつをして最初のうちは過ごすわけだが、そんな特訓を受けられるかい?

 僕は嫌だな。」

 マイティ親衛隊長は、オーラを感じ取る特訓には否定的なようだ。


「そうね、おむつ使用が少し改善されたとその後の報告書に載っていたけど、それが全裸で両手足を縛り上げられて、その辺に放り出されることだなんて・・・、とても信じられないわ。


 私は、日本の忍者たちの魔法技術は尊敬しているけど、それらが、そんな恥ずかしい特訓で得たものだとは、信じたくない気持ちよ。」

 ミンティア王女も、特訓方法に疑問を感じている様子だ。


「しかし、そのような恥ずかしい思いをしながら、彼らは魔力を倍増させ、オーラを身にまとう感覚を取得した。

 我が国での魔法理論を覆す、ゴランやネスリー達の魔法力の飛躍的な向上が、その証拠だ。

 我らにだって、同じような効果を得る可能性は否定できないぞ。」

 特訓方法に関して否定的なミンティア達に対し、スターツ王子はあくまでも前向きだ。


「しかし・・・、あの方法では・・・。」

「私も、特訓の最中の破廉恥な姿を想像すると・・・。」

「うむ、確かにな・・・・。」


 さすがにいい大人の彼らには、日本での特訓内容は厳しすぎるのだろうか、次の段階へ踏み込みだせずにいるようだ。


「やあ、ここに居たのですか。特訓は進んでいますか?」

 丁度そこへ、パワード・ボディスーツを身に付けたジミーたちが、先のダンジョンから逆走してきた。

 その動きは、スターツ王子たちにも視認できないくらい素早いものだった。


「い・・・一体どうしたのです?

 さきほどまで、我々とさほど変わらない、動き方の様でしたが・・・、今はまるで見違えるようです。」

 スターツ王子は、ジミーやマルニーの軽快というより、目にも止まらぬ速さに舌を巻いていた。


「ああ、これですか・・・、所長が作った秘密兵器、パワード・ボディスーツというんだそうです。

 試作品のモニターなのですが、いいですよ、すごく軽いし、これで身体能力が3〜5倍に上がるのだそうです。」

 ジミーがシャツの下から、スーツの端を見せながら説明をした。


「すこし、身に付けた時に筋肉を圧迫するような怖さがあったのですが、慣れると、本当に軽快に体が動きます。

 それに、重さもほとんど感じないくらい軽いので、身に付けていることを忘れるくらいです。」

 マルニーも、嬉しそうにボディスーツを自慢する。


「そ・・それは・・・、我々にも、支給・・・頂けるのでしょうか・・・?」

 スターツ王子は、恐る恐る尋ねる。


「それは、勿論・・・と言いたいところですが、まだ試作段階ですから、スターツ王子たちには、きちんと僕らがモニターをして、スーツの効果確認と、なにより安全性が確保されてから制作になると思いますよ。」

 ジミーは明るく答えた。


「い・・・いや、そんなにいいものなら、我々にもその効果確認のモニターをさせていただきたい。

 それにより、性能がさらに向上するのなら、こちらとしても大変にありがたいです。

 こうしちゃいられない、すぐに所長さんの所へ行って、我々の分もすぐに制作いただくようお願いしよう。」


「うん、そうだね。」

「ええ、そうしましょう。」

 そう言って、3人はダッシュでダンジョンをクリアーして、所長の元へと駆けて行った。



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