第21話
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「トラちゃん・・・本部って、どこか分っているの?」
一方こちらは、恐竜人たちの本部に向かっているトラン達。
トランが乗り移った恐竜人を先頭に、ナンバーファイブが続き、恐竜人の死体を乗せた台車をトン吉が押しながら、その後ろをついて行く。
こちら側の通路は、何本も左右に分岐する通路が交差しているのだが、トランはそのまままっすぐに進んでいく。
「ええまあ・・・、なんとなくですが、この体の持ち主の生前のわずかな記憶が残っているようで、大体の事は分りそうです。
しかし、根本的に我々人間とは体の構造が違うことと、恐竜の中には脳みそが2つあるものもいた様で、そのせいかもしれませんが、記憶の中身は分断されていて、靄がかかったように鮮明ではありません。
もしかすると、この体に慣れていないせいかもしれませんが、私も死んだ者の体に乗り移るのは、初めての経験ですから、何とも申し上げられませんね。
とりあえず、本部というところへ向かっているのは、間違いはないと思っています。」
トランは、何の迷いもなく、ひたすら長い長い通路を真っ直ぐに進んで行き、途中の角を曲がって尚も進んで行く。
「どうやら、ここのようですね。」
『コンコン』トランは、通路の突き当たりに差し掛かる少し手前の右側のドアをノックした。
「はいれ。」
ドアの向こう側から声がして、トランはドアを開けて中へ入って行く。
続いて、ナンバーファイブとトン吉も入って来た。
「おお、そいつらが新しい捕虜という訳か。
おや?数が少ないようだが、残りはどうした?
人間が2体と魔物が2体いたはずだが?」
広い部屋の奥から声が聞こえてくる。
目の前には会議用だろうか、長いテーブルの両脇に、いくつもの椅子が並んでいる。
声の主は、部屋の一番奥にある巨大な机の向こう側で、背もたれが大きな椅子に腰かけていた。
「は・・・はい、人間1体と魔物1体を倒したのですが、なにせジル2等兵の仇でもあるし、それにうまそうに見えたもので、人間の方はすぐに食っちまいました。
それが、ガリガリに痩せた子供で、予想に反してあまりうまいものではありませんでしたね。
魔物の方は、魂の寄せ集めですから、死んだあとは魂が分離して消滅してしまいました。
すいません。」
トランは後頭部を掻きながら、何度も小刻みに頭を下げる。
「ふむ、そうか・・・、どうやら、ごちそうは上官である私の為に残しておいてくれたようだな。
うむ、感心だ。」
席から立ち上がった恐竜人は、トランが乗り移った恐竜人より更に一回りは体が大きく、役職も上なのか、マントのようなものを羽織っているようだ。
そいつは、いやらしい流し目でナンバーファイブの体を頭のてっぺんからつま先まで、舐める様に眺めた後、長い舌で舌舐めずりをしてから、右手の甲で唇から滴り落ちる涎を拭った。
「まあ、まずは尋問が先だな。
なにせ、先に捕まえた奴らは、こちらが尋問する前に固まってしまったからな。
別のグループの奴らは、小型爆弾で自爆してしまうし、有益な情報を得ることができなかった。
それどころか、我が小隊から5人の犠牲者が出てしまった。
こんな下等生物である人間どもの自決に巻き込まれるなんて、ほんとうに残念でならんよ。
占領した各国の代表者たちを呼び出ししても、どんな要求でも呑むから、種として存続させてくれだの、充分な食物は供給するから、我々の安全は確保してくれだの、命乞いしかしやしない。
まあ、奴らは狸だから、腹の中で何を考えているのか分からんのだがね。
いずれにしろ、我々に反旗を翻す、反乱組織に関しては全く情報がない状態だ。
このままでは、本隊がこちらの世界へ到着した時に、管理状態を疑われかねん。
かといって、監視役の我ら小隊では、人数が少なすぎて、奴らの所へ直接出向いて内情を調査することも出来やしない。
我らの手足となって働くはずの、鬼たちの動きも悪いしな。
だから、ジル2等兵には申し訳ないが、多少の犠牲は払ったとしても、我らに害をなす人間どもの一味を捕まえることができたのは、大変うれしい事だ。
これから、たっぷりと楽しみながら訊問して、最後には食っちまうんだが・・、少しでも情報が得られれば、本隊に対しても言い訳が効くというものだ。」
恐竜人は後ろ手に組んだまま、ナンバーファイブの体を何度も眺めながら、品定めでもするかのように、ゆっくりとその周りを回った。
対するナンバーファイブは、その様子に動じずに、ツンと顔をあげて胸を張っている。
「小隊長・・・、お言葉ですが、最後には食っちまうなんて言ってしまっては・・・、折角捕まえた捕虜だって、びびって何も話さなくなってしまいますよ。」
そんな小隊長に、トランがダメ出しをする。
「うん?こいつら下等生物に、我らの言葉を理解する知恵などあるはずもなかろう?
にっこり笑って、“安心しなさい”なんて奴らの言語で話しかけながら近づいてやれば、嬉しそうに何でも話してくれるだろう。
まあ、何も話さなければ、様々な拷問道具もあるし、少しは頑張ってくれた方が、ありがたいんだがね。」
そう言って、小隊長は少し目を細めた。
「何言っているのよ、あんたたちの言語なんて、黄泉の国の鬼たちの言葉と同じじゃない・・・。
どちらかというと、獣の言葉に近いとも聞いたわよ。
どっちが下等生物か、思い知らせてあげるわ。
魔弾!!!」
ナンバーファイブの両手の平から、一筋の閃光が放たれる。
「な・・・、フン!」
小隊長は、突然自分たちの言語で話し始めたナンバーファイブに戸惑いを見せたが、それでも瞬時に冷静さを取り戻し、攻撃を弾き飛ばした。
「ブワォ!」
トン吉が、飛び掛かりながら巨大な火炎を吐きかける。
「こんなもの!」
小隊長がマントを翻すと、トン吉は、その体ごと吹き飛んでいき、壁に激突した。
「魔刃!!!」
すかさずナンバーファイブが唱える。
『カキン!』しかし、鍛え上げた小隊長の体には、傷一つつかずに、そのまま弾かれてしまう。
「な・・・なんなんだ、こいつらは・・・、おい、ドボ上等兵、何をやっている。
こうなったら殺しても構わん、こいつらをおとなしくさせなさい。」
小隊長は、上から目線でトランが乗り移った恐竜人に命じる。
「そうは参りませんねえ・・・、大体私は、あなたが知っているドボ上等兵とかではないのですよ。
ちょっと体を借りているだけです。
でも、もういいです、次に乗り移るべく体も見つかりましたしね。
ナンバーファイブ、よく見ておきなさい。あなたの場合は、魔法の威力の問題はないのですが、踏み込みが甘いのですよ。
こうするのです。魔刃!!!」
トランが唱えると、空気が切り裂かれた瞬間が垣間見えたような感じがした。
小隊長の首のあたりが、2重3重にダブって見え、『ボットン』次の瞬間、小隊長の長い首のちょうど真ん中あたりから、鋭利な刃物で切り取られた様に、首が床に落ちた。
「では、次の体に乗り移るとしましょう。
こいつは、とりあえず、ここに居る中では一番偉いようですから、多くの情報を持っていることでしょう。」
トランはそう言いながら、自分の体の胸の辺りをまさぐると、大きな玉を取出し、床に転がっている小隊長の胸に当てた。
すると、玉はみるみるその体の中に吸い込まれて行く。
すぐにジル上等兵の体は動かなくなってしまい、代わりに首から上がない小隊長が動きだし、床をまさぐるようにすると、ようやく頭を見つけだし、自分の体の上に乗せた。
「トラちゃん・・・、どうやってるの?
乗り移ったって・・・、首が無くても生きていけるものなの?」
その不気味な光景を見ながら、ナンバーファイブが体を震わせながら、尋ねる。
「まあ、息を大きく吸ってから、水中深くに潜るようなものですよ。
その間に、首を付けて体の治癒が間に合えば、復活できます。
死んで間もない体ですから、無事な組織は生きていますからね。
乗り移った後で、致命傷を与えられれば、私の魂も傷ついて肉体との連携が途切れてしまうのでしょうが、乗り移る前の傷であれば、私側には何のダメージも伝わって来ませんからね。」
トランは、切り取られた首筋に治癒魔法を当てながら、答える。
見る見るうちに傷口は塞がって行き、やがて首と胴体が正常につながった。
「なにか、気になることを言っていましたよね、本隊がどうとか、こちらの世界へつながった時とか・・・。
そういえば、占領下の国々を回った時に、恐竜人たちには一度もお目にかからなかったと、言っていましたよね。
代わりに、黄泉の国の鬼たちが出向いて管理しているって。
どうやら、奴らは全員が目覚めたわけではなくて、主要な本隊は未だ冷凍中とかで眠っているのでしょう。
数千万年もの長い間眠っていたのだから、簡単には目が覚めないのでしょうね。
こいつらは、現世の様子を交代で監視していた、監視役の小隊という事のようですね。
うまくすれば、恐竜人たちの侵攻を防ぐことができるかもしれませんよ。」
トランが、先ほどまで乗り移っていた恐竜人の体を抱えて、ジル2等兵の死体が乗っている台車の上に乗せた。
「どうするんです?」
トン吉が尋ねる。
「うーん、どうしましょうかねえ。
まずは、先ほど言っていた、黄泉の国から続く通路の監視映像ですね。
これでしょうか・・・。」
トランは、部屋の片隅に置いてあるモニター画面下の装置のスイッチを動かしてみる。
すると、先ほど見ていた映像が再生された。
ハルたちが、何も知らずに通路を歩いている姿だ。
「これを残すとまずいことになりそうですから、消してしまいましょう。
えーと、こうやって・・・。」
そう言いながら、トランは別のスイッチを操作する。
すると、先ほどの映像は途切れて、何もない、ただの通路の画面が映し出された。
「これが、モニターしている現状の監視画面なのでしょうね。
これは、このままにしておきましょう。
この場所の画像だけ消したのでは怪しまれるでしょうから、同じ時間帯の他の監視画像もみんな消しておきましょう。
そうすれば、どこがおかしかったのか、誰にも分りません。
少しは時間が稼げるでしょう。
それで、この死体をどうするかですね・・・。」
トランは腕組みをして考え込んだ。
「さっき来た時の、広い洞窟の中のどこかに埋めちゃえばいいんじゃない?
そうすれば、気づかれないでしょ。」
ナンバーファイブが、さも名案のように頷く。
「だめですよ、死体を運び出した映像が残ってしまいますよ。
通路はモニターされているのですから。
姿を見えなくする魔物は、もう行ってしまいましたからね。
何度も監視映像を消したりしていては、怪しまれてしまいますしね。
鬼の能力で仕舞うにしても、黄泉の国ではないですし・・・、弱りましたね。」
「そうねえ、食べちゃうわけにもいかないし・・・、第一おいしくなさそうだし・・・。」
ナンバーファイブも同様に腕を組んで考え込む。
「あっしが焼いて灰にしてしまいましょうか?」
トン吉が提案する。
「それは名案ですが・・・、焼いた時の臭いが、この部屋中どころか、通路中に充満してしまうでしょう。
仕方がない、ビニール袋を出して・・・。」
トランは半透明の大きなビニール袋を取り出すと、1体ずつかぶせて口を結んだ。
「このロッカーの中に隠しておきましょう。」
大きな小隊長用の机の隣にある、これまた大きなロッカーを開けた。
中には、着替え用だろうか、制服が何着も吊るされている。
「ここならば、誰も開けないでしょうから、簡単には見つからないでしょう。
彼らは、現世への監視役として派遣したとでも言っておきましょう。
ついでに、私も血の付いた制服を着替えなければなりませんしね。」
そう言いながら、トン吉に手伝ってもらって、2つの死体をロッカーに入れ、自身は血まみれの制服を脱ぎ、真新しいものと着替えてから扉を閉じた。
トン吉が思いついたように、掃除用具入れからモップを取出し、床に散ったおびただしい血をふき取る。
ナンバーファイブは、気を利かせて消臭剤を出現させると、部屋中に撒いた。
これで、大まかな証拠隠しは完了だ。




