第19話
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「燃えろ!!!燃えろ!!!燃えろ!!!」
「おりゃー、おりゃー、おりゃーっ・・・と、き、切りがねえ・・・」
ハルの攻撃は初級魔法だが威力が大きく、間断なく攻撃が続いているために、恐竜人も対処に窮している様子だ。
「魔刃!!!」
その背後からトランが唱えると、恐竜人の首が血しぶきと共に、ポトリと落ちた。
「う・・・、ちょっとかわいそうだったけど、仕方がないわね。
一撃で苦しまさずに仕留めてあげるのも、思いやりなんだよね・・・、トラちゃん。
と言っても、今のはハル君の攻撃の対処に夢中だったから、不意打ち気味に簡単に倒せたわけだけどね。」
ナンバーファイブが、倒された恐竜人の体を気の毒そうに見つめる。
「はぁはぁ・・・すみません。なかなか倒せなくって。」
そう言って、ハルも汗をぬぐった。
「まあ、生き物の命を奪う訳ですから、それなりの覚悟が要りますよ。
ましてや、相手も知的生命体ですからね。
しかし、その相手と地球という星をかけて戦っているのですから、追い追い慣れて行かなければなりませんね。」
そう言いいながらトランは、トン吉と共に倒れた恐竜人の血をふき取って、荒れた部屋の中を片付け始めた始めた。
「あれっ・・・?」
ハルが、ふと恐竜人たちがゲームをしていたテーブルのようなものに目をやると、それは、あの忘れもしない恐竜人たちとの最初の戦いが再現されたジオラマのようだった。
ミリンダやミッテランに所長たちが並んで、球体や円盤たちと対峙している・・・。
小さく縮小された模型が、綺麗にガラスケースに陳列されているのだ。
「こ・・・これって・・・。」
ハルが興奮のあまり、思わずつばを飲み込む。
「ああ・・・、あっしらも空に映った映像で見たことがあります。
あまりにもむごいので、ジオラマで再現したとかで、戦いが終わった数日後に放映されました。
それで、皆さん全滅したと、思っていたものです。」
トン吉も、そのジオラマをしげしげと眺める。
「どうしたのですか?」
ハルたちがじっと下の方を見ている姿を不思議に感じたのか、トランが近づいてきた。
「どうした、何かあったのか?
お前たちのいる部屋から、大きな精神感応が検出されて、警報が鳴ったと思ったら、2人とも生命反応が途絶えたぞ。
ドボ上等兵の分は復活したが、ジル2等兵の生命反応は絶えたままだ。
今・・・、モニターを確認して・・・、おっ・・・、一体どうしたと言うんだ。
闇の存在の報告板のある扉から、数匹の人間や魔物どもが入り込んだではないか。
そのまままっすぐ進んで、お前たちの部屋へ侵入したようだな。
どうなったんだ?」
丁度その時、モニター画面の脇にあるスピーカーから、大きな声で確認の無線が入ってきた。
「は・・・、はい、ドボ上等兵です。
侵入した人間たちに突然襲われ、ジル2等兵は戦死。
自分も負傷しましたが、何とか侵入した人間と魔物は捕えることができました。」
トランは、すかさず発信のボタンを押しながら、マイクに向かって答える。
「うむ、そうか・・・、ジル2等兵には気の毒な事をしたな。
しかし、恐竜人である我々を害することができるとは、やはり、人間たちの一部には強力な力を持った者たちが存在すると言うのは、本当の事のようだな。
もしかしたら、闇の存在を封じ込めた奴らの仲間かも知れない。
あいつらはどうなっている?
今でも全く動かず、また、どんな刺激も受け付けない状態のままなのか?」
尚も、スピーカーから問いかけの無線が続く。
どうやら、この部屋の中まではカメラの監視はない模様だ。
それはそうだろう、カメラで監視されていたのであれば、彼らがモニターの監視もせずに、のんびりとゲームに興じているはずもなかっただろうから。
「・・・・・・・・・・・・。
自分たちの足元にあるジオラマの事ですか?
これと言って変化は見られません。」
トランは、少し考え込んだが、意を決して答えた。
「ああそうか、まだ安心という訳だ。
とりあえず、捕えたという人間と魔物を連れて、本部まで来い。
申し訳ないが、ジル2等兵の遺体も運んできてくれ。
家族には気の毒だが、遺体を帰してやらねばなるまい。」
「はい、分りました。
台車に乗せて、捕えた魔物にでも運ばせましょう。」
トランはそう言って、無線を切った。
「ようやく、先ほどゲームをしながら話していた会話の意味が分かりました。
ここにあるジオラマは、ハル君のお仲間たちが最初に恐竜人たちと戦った舞台を再現したものではなく、彼らそのものだと言う事のようですね。
理由は判りませんが、ハル君のお仲間たちは、全ての攻撃を寄せ付けない状態で固まってしまったようです。
仕方がないので、先ほど言っていたように大きさを変えて、ケースに入れて監視しているという事のようですね。
どういう事か、ハル君、分りますか?」
トランは、じっとケースの中を凝視しているハルに視線を向けた。
「はい・・・、恐らく鋼鉄化の魔法だと思います。
ミリンダが得意としていましたから。
でも、鋼鉄化の魔法の場合は、かけた本人が解かない限り魔法効果が消えることはありません。
しかし、この状態では呼びかけても聞こえないでしょうし、触ることも出来ません。
ケースを外したいけど、どうやればいいのか。」
ハルの言うとおり、ガラスのようなケースは、がっしりとしていて、取り外すためのつなぎ目さえも見つからない状態だ。
「そうですね、ちょっと待ってくださいよ。」
トランはそう言いながら、床との境目当たりに指先を当てた。
すると、その部分の透明なガラスのような材質が、みるみる白く輝き、やがて指先ほどの小さな穴が開いた。
「どうやら、短時間ではこんな小さな穴をあけるのが、精一杯の様ですね。
まあ、彼らの体のサイズであれば、この大きさの穴でも通って出られそうではありますが、問題はどうやって中の人たちに、復活する様伝えるかですね。」
トランは困ったように腕を組む。
本部へ呼ばれているので、いつまでもここに居るわけにはいかないのだ。
しかし、ようやく仲間を見つけたのだ、ハルがこの場を動こうとはしないだろう。
「うーん、ミリンダの事だから、知り合いが行って触れば魔法が解けるようにしていると思うのですが・・・、こんな小さな穴では、いくら僕でも・・・。」
ハルも弱ったように、小さな穴から指を入れてみるが、届くわけもない。
「これがあるじゃない、それこそ鬼たちの能力というか、専売特許の力よ。」
そう言って、ナンバーファイブは古びた小槌を出現させた。
「小さくなあれ、小さくなあれ・・・。」
そう言いながら小槌を振ると、ハルの体がみるみる小さくなって行く。
そうして、ジオラマの中の人間サイズにまで縮まった。
「そうでしたね、鬼たちの小槌であれば、体の大きさは自由に変えられましたね。
恐らく、その力を使って、ジオラマサイズにしたのでしょうから。」
トランも、納得の笑顔を見せた。
「ハル君は、鬼の力を取得したから自分でも小槌を出せるでしょ?
よく見て覚えておいてね。
大きくするには、大きくなあれって唱えながら小槌を振るうんだよ。
いいわね、あたしたちは、怪しまれてはいけないから、これから本部へ行くから、ハル君一人にさせちゃうけど、頑張ってね。」
ナンバーファイブは、しゃがみこんで小さくなったハルに、やさしく手を振った。
「はい、ありがとうございます。
みんなを解放したら、すぐに追いつきます。」
ハルも、小さな体で、大きな声で叫んで手を振った。
「いや、まずは皆さんを安全なところまで運んでください。
私と戦った時もそうでしたが、中には非戦闘員の方も、いたではないですか。
戦闘員の方にしても、修業が足りないでしょうから、一旦は、黄泉の国へ戻って修業を積むなり、自国へ避難させるなりした方がいいでしょうね。
ハル君の事は、伏せておきますから、大丈夫ですよ。
おっと、それから、通路はモニターで監視されているのですよね。じゃあ、この魔物も置いて行きましょう。」
トランは、そう言いながらレオンに残るよう命じた。
「彼が一緒なら、カメラに見つからずに黄泉の国へ抜けることができるのでしょうからね。
なあに、魔物と人間も一人ずつは倒したとか言っておけば、大丈夫でしょう。
では、頑張ってくださいね。」
そう言いながら、トランはナンバーファイブ達と共に、台車を押しながら奥側のドアから部屋を出て行った。
「じゃあ、中へ入って、みんなを起こそう。」
ハルは、先ほどトランが開けた穴から、ケースの中へ入って行った。
ケースの中では、2列になって、それぞれミリンダとミッテランを中心に両脇に数人ずつが、ブロンズ像のように固まっている。
ハルが近づいて行って、ミリンダとミッテランの体に手を触れて行く。
すると、見る見るうちに手の振れた部分から、色づいて行く。
やがて、列の両端にまで鮮やかな色が蘇った時、全員が息を吹き返した。
「ハル・・・、ハルじゃない。
またまた、助けに来てくれたの?」
真っ先に息を吹き返したミリンダが、懐かしい姿を見つけて歓喜の叫び声をあげる。
「うん・・・、ナンバーファイブさんと出会って、黄泉の国で特訓して、トン吉さんやレオンも特訓したんだよ。
そうして、トランさんの玉を見つけて蘇ってもらって・・・。」
ハルは、これまでのいきさつを、半泣きしながら皆に説明する。
うれしいのだ、一度はあきらめた仲間たちと再会できたことが、うれしくてたまらないのだ。
それはハルだけではなく、助けられた側のミリンダやミッテラン、ホーリゥ達も同様だった。
幸いなことに、スターツ王子たちやマイキー達も一緒に鋼鉄化されていたようだ。
しかし、一緒に船で島へ向かった、各国の代表団に化けていた軍人たちは、ここにはいなかった。
「あの時、大きな円盤が飛んできて、光に包まれたから、これは死んだなって思っていたんだけど、どうやら捕まってここへ連れてこられたのね。
気が付いたら、部屋の中でみんな1ヶ所にまとめられて、これから尋問するって恐竜人がやってきて、あたしたちに色々と聞こうとし始めたのよ。
だから、あたしとミッテランおばさんが中心になって、みんなを鋼鉄化したんだけど・・・、他の人たちは、どうなっちゃったの?」
ミリンダも、涙を流しながら心配そうに辺りを見回す。
「うん、でもどこかで捕まったままかも知れないから、うまく行けば助け出せるよ。
それよりも、いつまでもここには居られないから、脱出しよう。
見つかったら、もう鋼鉄化は出来ないでしょ?」
そう言いながら、ハルはケースの中から皆に出るよう誘導する。
サイズを縮小されたことを知らないみんなは、自分たちの状況を飲み込むのに時間がかかった様だが、それでも、何とかケースの穴から外へ出た。
そうして、ハルが小槌を出して一人一人を大きくしていく。
最後に、ミリンダが人差し指と親指の先で小さな小槌をつまみながら、ハルの体を大きくする。
それで、全員が元のサイズに戻った。
「ここは、恐竜人たちの基地の中なのかい?
トランさんたちが先に行っているんだったら、彼らに追いつかなければいけないね。」
所長が、部屋の中の様子を確認しながら、ハルに告げる。
「それなんですが、トランさんが一旦は皆さんを黄泉の国へ戻すようにって。
マイキーさんやマルニーさんは、危ないから国へ戻った方がいいでしょうし・・・。」
ハルが、申し訳なさそうに、トランの言葉を伝える。
「うーん、そうか、我々の力では、かえって足手まといという事なんだろうね。
分った、ハル君が言ったように、黄泉の国で特訓ができると言うのであれば、私も特訓をやって力をつけるとしよう。
と言っても、こんな老人では体の力では役に立たないだろうから、もっぱら頭を鍛えることになるがね。
久々に、各基礎学問からやり直して、戦いに役立つ技術を作り出すとしよう。」
所長が、瞳をキラキラと輝かせながら頷く。
「おいらも、魔法力はないかもしれないけど、体を鍛えることは出来そうだ。
せめて、戦闘力をあげないと、恐竜人には立ち向かえないだろうからね。」
ジミーも、黄泉の国での特訓に興味を示した。
「我々も、その特訓に参加したいと考えます。
一緒に戦闘に参加した、他国の軍人の方たちを救い出すためにも、絶対にこの戦いは勝たねばなりません。」
スターツ王子たちも、決意したように真剣な眼差しだ。
「分りました、特訓の方法などは向こうへ着いたら詳しく説明します。
まずは、ここから脱出しましょう。
レオン、お願い。」
「はい。」
ハルがそう言うと、レオンは体を大きく伸ばして、みんなをひとまとめに包み込んだ。
「これも、黄泉の国の特訓の成果ですけど、レオンは体を伸縮させて、みんなの体を包み込んで回りと同化することができます。
ここから先の通路は、カメラで監視しているのですが、気づかれずに進むことができるでしょう。」
「まって・・・、だったら、少しでも気づかれるのを遅らせるために・・・。」
ミリンダはそう言いながら、先ほどまで自分たちが入っていた、透明なケースに向かってしゃがみこんだ。
「現身の術よ。ケースの中に突風を作って土埃を舞いあがらせ、その土を使って、あたしたちがいた時のように人形を作っておいたわ。
見た目では簡単には判らないから、暫くは大丈夫でしょ。
じゃあ、行きましょう。」
そう言いながら、レオンが変化したベールの中に戻ってきた。
ハルたちはレオンに包まれたまま、ゆっくりと息をそろえながら歩き出した。




