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もう平和とは言えない冒険の書  作者: 飛鳥 友
第1章 恐竜人編
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第17話

                      17

「ハル君、封印を解くことできる?」

 地獄ステージの向こうの広い空間へ辿りついてから、ナンバーファイブはスーツケースを出現させ、その中から剣の付いた木箱を取り出した。


 ハルは、箱を包んでいる布を解いて、箱を開けた。

 中には、綺麗な水晶玉が一つ入っている。


「えーと、確か・・・こう・・・、なもはーじゃーらー・・・・・」

 ハルが記憶を辿りながら、以前所長が唱えていた、解除の経を唱える。

 やがて、淡い光と共に一人の中年男性が姿を現した。


「と・・・、トラちゃん・・・、久しぶり、会いたかったわ。」

 その姿を見た途端、ナンバーファイブは堪らず抱き付いて行った。


「ふぁ・・・ファイブじゃないですか・・・、一体どうしたっていうのです?」

 状況をまるで呑み込めていないトランは、辺りを見回して驚いたような顔で目を白黒させた。


 それはそうであろう、彼の記憶の中では、ナンバーファイブ達7聖人とハルたちは敵同士で戦っているはずなのだ。

 それも、闇の王子という存在を守護する側と、倒す側に分れて戦っていたはずで、彼らが共闘することなどあり得ないのだ。


「えーとね、話せば長いのだけど・・・、闇の王子は倒されてしまったんだけど、かえって人類存続の危機に・・・。」

 ナンバーファイブは、トランが封じられてからの事を、かいつまんで説明する。


「ふうん、そうですか、闇の子が恐竜人たちの脅威であって、それを倒したことにより、奴らが復活してきたと言う訳ですね。


 まあ、どうでもいいと言えばいい話ですが・・・、あまり知られていなかったとはいえ、地上世界に存在し続けていた闇の子ならまだしも、何千万年も地上から姿を消して眠っていたような奴らに、我が物顔で君臨させられるのは、少々癪に障りますね。


 いいでしょう、奴らに目に物見せてやりましょう。

 と言っても、私は、ここ黄泉の国以外では実体化出来ませんから、あまりお役に立てそうにありませんけど。」

 トランはそう言って、申し訳なさそうに笑顔を見せた。


「そんなことないわよ。

 あたしは、竜神に封印されたけど、現世で実体化出来ているんだよ。

 封印の効果も変わったんじゃないの?


 事情を説明する前に、魂として飛んで行ってしまわないように、一応、念のために最初だけはここで、封印を解除したんだけど。」

 ナンバーファイブは、得意満面に答える。

 策士であり、慎重派の彼女らしいコメントだ。


「いえ、ファイブは竜神に封印されたのでしょう?

 地上世界で行われている封印の儀式というのは、恐らく天上人が地上の人間を玉に封印するのを見て、まねた物でしょうから、あくまでも物まね。


 術を施した水晶玉に魂だけを封印するのですから、肉体はとっくに無くなっています。

 ですから、無理です。」

 トランは、ナンバーファイブの言い分をきっぱりと否定した。


「そういえば、竜神様が水晶玉への封印は、高みの存在がやっていたことを真似したもので、こっちが本家だと言っていました。」

 ハルも、納得の表情で頷く。


「えー・・・、だったら・・・、だったら、死んじゃった人の体に乗り移れば、トラちゃんなら強力な魔法の力で、恐竜人たちを退治する事なんか、訳もないわよ。

 なにせ、トラちゃんの魔法は、この星一番だものね。」

 そう言って、ナンバーファイブは胸を張った。


「そ・・・、ご・・・ごほ・・ん・・・。

 その呼び方は、しないようお願いしたではないですか・・・。

 私は、トランです。そう呼んでください。」

 トランは、恥ずかしそうに頬を赤く染めた。


「トラちゃんって・・・。」

 ハルは、不思議そうに首をかしげる。


 そう言えば、ナンバーファイブはトランの事を話す時に、名前を言いにくそうにしていたが、わざわざ言い換えていたせいなのだろうか。


「いいじゃない、トランなんだから、トラちゃんって親しみがあって、好きだな。」

 ナンバーファイブはトランが言う事を意に介してはいない。


「ですから・・・、その名前で呼ばれても、私は返事をしませんと言っておいたはずです。

 そう約束しましたよね?」

 トランは強い口調でナンバーファイブに迫る。


「ふーん・・・、約束と言えば、トラちゃんは私の親代わりで、ずっとそばにいて見守ってやるって約束していたわよね。

 それが、ハル君たちに簡単に封印されてしまって・・・、きれいなお姫様に見とれて鼻の下を伸ばしていて、あろうことか簡単に封印されてしまったんだものね。


 それでもその後に封印を解いてくれたのに、封印されたことが恥ずかしくって、あたしたちの元へ帰りたくなくて、また封印してもらったんだったわよね。

 あれも約束違反なんじゃないのかな?


 どう?違う?ねっ、ハル君はどう思う?」

 ナンバーファイブは、トランを流し目で見ながら、ハルに視線を移してきた。


「は・・・はい・・・、そ、そうですね・・・。

 僕たちは7聖人の中で、トランさんは悪い人ではないと感じていました。

 だから、開放しても構わなかったのですが、断られてしまって・・・。」

 ハルも、小さく頷く。


「わかりました、分りました・・・、呼び方はどうでもいいですよ・・・。」

 トランは、完全に白旗をあげた。


「じゃあ、病気で死にそうな人を探して・・・。」

 ナンバーファイブが、がぜん色めきだす。


「いや・・・・、いくら死んだとはいえ、全くの他人を巻き込むわけには参りません。

 その方の家族などに迷惑が及ぶ可能性も、否めない訳ですからね。


 でも、私に考えがあります。

 少し、あなたたちに協力していただく必要性がありますが、その時はお願いしますね。


 まあ、まずは、鬼たちの言っていた報告板ですか?

 それを見に行ってみましょうかね。」


 トランはそう言いながら、ロッジのような丸太小屋に向かって歩き出した。

 ハルたちも後に続く。

 そうして、小屋の中へ入って行くと、カウンターを越えて奥へ進んで行く。


 奥の壁のドアを開けて中へ入ると、そこはロッカールームだった。

 トランはそのまま進み、更に部屋の奥にあるドアを抜けて行く。

 その先は、広い空間だった。


「へえ・・・、管理小屋の向こう側は岩壁があったから、奥には何もないと思っていたけど、こんな広い空間があったんですね。

 岩に穴でも掘って作ったのかな?」

 ハルが、辺りを見回しながら、驚いたように話す。


 それもそのはず、洞窟と言っても天井は高く、目の前には長く続く道があり、その両脇には大きな洋風建築の家がずらっと並んで建っているのだった。

 恐らく数十軒は建っているだろう。


「この家は、リーダー格の鬼たちの住まいですね。

 家族で暮らしているようですよ。

 奥に行くと、手下の鬼たちが共同で住んでいる、寮のような大きな建物もあります。


 黄泉の国というのは、洞窟の中に穴を掘って作られた空間ではなく、どこかの異空間と繋げて出入りしている訳ですから、岩壁など関係ないのですよ。

 と言っても、我々もこの居住空間までしか、確認していませんでした。

 果たして、奥に何があるというのでしょうかね。」


 トランはそう言いながら、まっすぐな道を歩いて行く。

 しばらく歩くと、トランが言っていた通り、4階建ての大きな建物が見えてきた。

 鬼たちの寮なのだろう。


 しかし、どの建物からも人のいる(いや、鬼の居る)気配は感じられなかった。

 一人残らず、現世の管理に駆り出されているのだろう。


「そう言えば、ナンバーファイブさんは、どうしてナンバーファイブさんなのですか?

 7聖人の中で、最初に仲間になった人なんですよね。

 それがどうして5だったんでしょう?」

 ハルは、この間彼女に聞いて、ずっと疑問に感じていたことをトランに聞いてみた。


「ああ・・・、この子が確かに7聖人の最初のメンバーと言えます。

 まあ、本当に小さな子供でしたがね。

 でも、幼かったからという訳ではありませんね。


 年齢順に付けたわけではなくて、他のメンバーを見つける前から、この子はナンバーファイブでしたから。」

 トランは、頷きながら答えた。


「そうよ、そうよ、あたしも不思議に感じていたのよ。

 と言っても、ナンバーファイブって名前は気に入っているのよ。


 だから、決して名前に対して文句を言っている訳じゃなくて、最初のメンバーなのにどうして1じゃないのか。

 トラちゃんを入れたとしても、せめて2じゃないのかなあと感じていたのよね。」

 ナンバーファイブも興味があるように、会話に入って来た。


「大昔の事のようですが・・・、最終戦争になる何十年も前の事です。

 とある国に、絶世の美女がいたわけですよ。


 彼女は当時の映画スターで、私も彼女が出演した映画を見て・・・と言っても当たり前の事ですが、若い時に自宅のビデオで見たのですがね。

 すっかり虜になってしまいまして、その彼女が私生活では香水を身にまとって眠ると言っていたのですよ。


 名の無いと言うか、名が分らなかったこの子の名前を付けようと思った時に、その大スターの名前を直接つけても良かったのですが、少々捻って彼女が付けていた香水の名前というか、そのブランドの型番である、ナンバーファイブと付けたのです。


 ちょっとした遊び心だったのですが、その後仲間を集め始めたもので、丁度いいからナンバーワンから順で付けて行ったわけです。

 聞いてみると、意外とつまらない理由で、少しがっかりしましたか?」

 そう言って、トランは微笑む。


「いえ・・・、そんな事ありません。

 うーん・・・だから、ナンバーファイブさんは、美しく成長したのですね。

 多分、その大スターさんに負けないくらい・・・。」


 ハルとしては、思った通りの事を口にしただけのつもりだった。

 そりゃあ、多少は世話になりっぱなしのナンバーファイブの事を、持ち上げようと考えなかったとは言えないのだが・・・。


「まあ・・・美しいだなんて・・・、しかも、そんな大スターに負けないなんて・・・。

 まだ若いのに、女心をわしづかみにする技を持っているわね。このこの・・・。


 そう言えばハル君は、おむつをはいてするプレイが好きだったものね。

 随分と大人な趣味を持っている、いわゆるおませさんなのよね。」

 ナンバーファイブは、少し照れながらも、ハルの顔を見つめて微笑んだ。


「お・・・おむつ・・・ですか。

 見た目は子供というより、成長して大人の仲間入りし始めた頃と感じていたのですが・・・、いえ、そうですか、大人の仲間入りしたからこそ・・・とも言えるのですかね?


 まあ、個人の趣味の範疇を越えることが無く、周りに迷惑を掛けさえしなければ、それぞれの好みですからね。

 そんな事よりも、つきましたよ、これが報告板というものでしょうね。」

 大きな建物を通り過ぎた向こうの岩壁に、巨大な板が掛けられていた。


「い・・・、いえ・・・、あれは魔法の力を高めるための特訓で仕方なく・・・。」

 ハルは必死でおむつの誤解を解こうとする。


「ううん・・・、いいのよ・・・、あたしは大人だから、人の色々な趣味を許せるわ。

 だから、ハル君も胸を張って生きて行けばいいんだよ。

 その、幼馴染のミリンダちゃんだって、きっとその趣味を分ってくれているよ。


 いや・・・、やっぱり、そのミリンダちゃんと一緒に楽しんでいたんじゃないの?

 バブーって言って甘えながら・・・。」

 そういって、ナンバーファイブは正面の報告板を眺めながら、にたりと笑った。


「いや、ち・・・ちちち、違いますよ。

 だから、本当に特訓で・・・。」


 必死に叫ぶハルだが、トランの目線もナンバーファイブの目線も、更にはトン吉たちの目線も、目の前の報告板に注がれていて、ハルの言うことなど気にする様子も見られない。

 報告板には、3本のレーンが縦に書かれていて、それぞれ見たことのない文字が書かれている。

 その上には、○△×の記号がある。


「ふうむ・・・、鬼たちの文字のようですね。

 闇の存在について・・・と書かれています。


 ×の列には、闇の存在の事を知っている、または見たことがある。居る、存在を確認した。

 △の列には、闇の存在の事は知らない、または聞いたことがない。居るかいないか分らない。

 ○の列には、闇の存在の事を知ったが、消した、または死んだ。封印した、退治した、消滅した。


 となっていて、毎日欠かさず報告しようとなっていますね。」

 トランが、大きな報告板に書かれている内容を説明してくれた。


「あ・・・・あの・・・、おむつは本当に・・・。

 そ・・・、そうだ、トン吉さんだって知っているよね。昨年夏のみんなでやった魔法の特訓の事を・・・。」

 ハルは、堪らずにトン吉に助けを求めた。


(ハル坊ちゃん・・・、そんな趣味がおありだったとは・・・、トン吉は聞かなかったことにしておきます。)

「この上の穴に、ここにある玉を入れていくような仕組みですかね。」

 トン吉は、まるでハルの事が目に入らないかのように、手に小さな玉を持ちながら、報告板の下にある穴を指さした。


「そ・・・そうだ、レオンだったら・・・。」

 ハルは、仕方なく今度はレオンの姿を探した。


「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 しかし、どこにも、その姿は見つけることができなかった。

 レオンは、ハルに見つから無いよう、壁に同化して姿を消したのだ。


「穴のサイズから言って、どうやらそう言った仕組みのようですね。

 恐らく、闇の存在というのが闇の子の事で、存在を知っているとか知らないとかいう段階では、奴が生きている可能性があるので、恐竜人たちは地上へ出てこられなかったのでしょう。


 ところが、その存在を鬼たちがはっきりと認識し、更に消滅というか封印されたとの報告を受けて、ようやく彼らが地上に浮上してきたという訳ですね。

 恐ろしく、気の長い連中のようですね。」


 トランは、呆れた様に、報告板の前に並べられていた玉を自分でも持って、適当に穴に入れて見た。

『カーン!コーン!』すると、しばらく時間を置いて、遠くで響いているような音が返ってきた。


「どうやら、この向こう側は、空洞のようですね。」

 トン吉が、板の向こう側の様子を探るかのように、聞き耳を立てる。


「だから、おむつは、僕の趣味では・・・。

 そ・・・そう、ミリンダだって、ホースゥさんだって一緒に・・・。

 い・・・いや、決して一緒に楽しんだとかじゃなくって・・・。」

 ハルの言葉は、もはや、誰の耳にも届いてはいなかった。


          続く



さあ、ハルはおむつへの誤解をどうやって解いていくのか・・・、否

恐竜人たちとの戦いがどうなっていくのか・・・。

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